『真説・宇宙世紀・タルカス・サイレン共通重心超巨大連惑星系世界冒険記』

トーマス・ライカー

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外宇宙へ・・大進出時代・・奇妙な惑星系

‥船団集結・1・

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ミレーナは伏し目がちに頷くと、静かに立ち上がる。

シンクを食洗機モードに設定してスタートさせようとしたところで、ミレーナが私の前に素早く廻り込んで抱き付いて来た。

体重を掛けて抱き付いて来たので、2歩押される。

「・!!・ミレーナ!? ・・マズいよ!? これは記録されている・・」

「・・すみません。でも30秒だけこのままで。お願い・・・」

私は彼女の両肩を持って立ち続けた。彼女は私の背に両腕を回している。

「・・これ以上の事はできないよ、ミレーナ・・少なくとも今はね・・」

「・・分かっています・・あと20秒・・・」

「・・一体どうしたんだい・・?・・君らしくもない・・」

「・・ずっと我慢していたんです・・でも、溢れちゃいました。あと10秒・・」
 
「・・私はこの記録シーンを削除しないよ、ミレーナ・・削除する方が後で却って怪しまれるからね・・でも君の気持を今まで思い遣れていなかったのは、私の反省点だ・・今後はこう言う事の無いように・・お互いにお互いの感情をケアし合えるセルフ・メンタル・エクササイズ・プログラムを組んで置くよ・・」

「・・それも、お手伝いさせて下さい、トマク船長・・もう少し・・」

「・・ああ、それは当然だな・・お互いの事だからね・・それとね、ミレーナ・・」

「・・はい・・?・・」

「・・僕は今・・君にキスはしない・・」

その言葉で副長は、僕の背に廻した両手に込めていた力を緩めて離れる。

「・・ありがとうございました、トマク船長・・それと、突然の失礼を心からお詫びします・・それでは、これで失礼します・・」

そう言うとミレーナ・ファルチ副長は、一礼して素早く退室する。

1人残された私は、やれやれと言った感じで一息吐くと、食器洗浄のプログラムをスタートさせる・・。

HSSS 218・・・その約30分後のブリッジ・・・

「・・HSSS 214・・到達予定時刻まで、5分です・・」

と、モーレイ・カラムが言う。

「・・オレンジアラート・・第2級警戒態勢・・サブスペース・マーカーは所定の出力で出ていますか・・?・・」

と、ミレーナ・ファルチ副長が訊く。

「・・サブスペース・マーカーは所定の出力で正常に発信中・・ディフレクター・シールド、出力70%で展開・・」

と、セバット・ボスカ機関部長・・。

・・HSSS 214・・ブリッジ・・

「・・オレンジアラート・・全船、総員第2級警戒態勢・・サブスペース・マーカーは視えているな?! あまり近付き過ぎるなよ! 」

カーステン・リントハート船長が言う。

「・・視えています。 あまり近くにまでは突っ込みません・・」

メイン・パイロットのシエラ・ベッシュが応える。

「・・全乗員に通達・・こちらはチーフ・エンジニア・・間も無く予定時刻です・・全員着席してベルトを着用・・減速スタンバイ・・・」

ラミラ・ハリス機関部長が全船に通達する。

「・・ディフレクター・シールド、出力70%で展開! 」  

「・・了解・・」

副長のラリーサ・ソリナが命じた。

「・・30秒前です・・こちらのサブスペース・マーカーを5秒間発信! 」

・・HSSS 218・・・ブリッジ・・・

「・・HSSS 214のサブスペース・マーカーを確認! 20秒前です! 」

「・・よし! スタンバイ! 」

・・HSSS 214・・ブリッジ・・・

「・・10秒前です・・モーター回転数を4へ・・サブスペースアウト・・・更に回転数を1へ・・・ハイパー・スペースアウト・・・慣性重力場消失・・・通常空間に復帰しました・・・」

「・・よくやってくれた、機関部長・・じゃ全員で全船・全システムの状態を確認・・」

「・・船郭、船体の構造、反物質貯蔵システム、人口重力場システムに異常ありません・・」

 と、ラウール・バルデム保安部長。

「・・マイクロブラックホールモーター、対消滅反応炉、対消滅エンジンと噴射システム、流体プラズマインパルス融合炉、プラズマインパルス・フェイズパワードライヴ、サポート・インパルスドライヴ、船体各部補助エンジン、姿勢制御噴射システム、全推進システムに異常ありません・・」

と、ラミラ・ハリス機関部長。

「・・メインパワー、補助パワー、全船動力系に異常ありません・・」と、ラリーサ・ソリナ副長。

「・・メイン・コンピューター、全分析システム、全センサーシステム、総ての表示システムに異常ありません・・」

と、ファンウ・ジョンウムメイン・センサーオペレーター。

「・・循環系、全リサイクルシステム、生命維持システム、環境制御システムに異常ありません・・」

と、ドクター・フアン・デル・マーソ・・。

「・・操舵システムに異常ありません・・」と、シエラ・ベッシュメインパイロット。

「・・航行ナビゲーションシステムに異常ありません・・」

と、ネルサン・エリスファースト・ナビゲーションコーディネーター・・。

「・・貯留物資、保存物質、各種原材料、搭載・積載装備、装置に異常ありません・・」

と、ラリーサ・ソリナ副長。

「・・よし、ご苦労さん。了解したよ・・それじゃHSSS 218の位置と、こちらの位置も全天座標で確認してくれ・・」

「・・・HSSS218の位置を確認しました・・本船左舷上方仰角・42.126°・・方位・10:12・・距離・487万8200キロ・・全天座標でも確認・・アルファ・クアドラント・・357AJ269セクター・・・698マーク215・・目標とされる恒星系は、方位221マーク138、距離は、5億670万キロです・・・」

と、ファンウ・ジョンウムが報告した。

「・・よし、了解・・シエラ・・218との距離を100万キロまで詰めてくれ・・副長・・通信回線とデータリンクの接続を要請してくれ・・繋がったらメイン・ビューワへ・・」

「・・了解しました・・」

「・・ノーマル・インパルスドライヴ始動・・ファーストスピードで発進・・取舵37°アップトリム42°・・」

・・HSSS 218・・・ブリッジ・・・

「・・214がノーマルドライヴを始動・・こちらに舵を切って接近中です・・」

と、モーレイ・カラム。

「・・船長、214から通信回線とデータリンクの接続が要請されています・・」

と、ミレーナ・ファルチ副長が報告する・・。

「・・接続を許可する・・繋がったらメイン・ビューワへ・・」 「・・はい・・」

ビューワは直ぐに起動して、HSSS 214のカーステン・リントハート船長の顔が映し出される。

「・・やあ、カーステン船長・・久し振りだな・・元気そうだ・・推進本部『B』で会ったのが2年前だったかな・・?・・」

「・・2年2ヶ月前だ・・君も元気そうだなトマク船長・・体型はお互いに変わらないようだな・?(笑)」

「・・随分飛ばして来たな、船長・・8まで上げたか・・?・・」

「・・いや、6までだ・・折角近くに居たからな・・二番乗りをキメようってさ・(笑)しかし、ここからじゃまだ遠くてよく判らんが・・調べ甲斐のありそうな恒星系だな・・」

「・・ああ・・接近すれば、もっと良く判るよ・・当然だがな・・」

「・・三番手に着くのは209か・・?・・」

「・・だとは思うが、あまり差は無いと思うな・・210も結構飛ばして来ているから・・」

「・・あと160分から180分の間のレベルで、両船ともここに到達するようかな・?・」

「・・そんなところだろうな・・」

「・・4隻が揃ったら、オンラインでブリーフィングをやるのか・・?・・」

「・・いや、全船が揃うまでは、データリンクの共有だけで良いだろ・・揃えば一度はやるだろうと思うけどな・・」

「・・分かったよ・・それじゃ、4隻が揃って落ち着いたら、そっちで久し振りに一杯呑ろう・・」

「・・OK・・連絡を待ってる・・」  「・・了解・・カーステンより以上・・」

通信回線は214から切れた。

それから250分後、直径70万キロ程の空間範囲の中に4隻のHSSSが集結していた。

200以降のHSSSには、ドッキングポートが10ヶ所に設定されている。

HSSS 218もそれは変わらない。

今、その内の3ヶ所に3隻のシャトル・ランチがドッキングしている。

それらは勿論、209、210、214から発進したシャトル・ランチである。

私(トマク・ラオ・シン船長)の発案により、集結した3隻のHSSSからそれぞれ船長と副長を本船(218)に招いて夕食会を開催しようとの提案を連絡し、それに快く応えて頂けたと言う事で、3隻からの船長と副長の来艦が実現している。

食堂から大きい丸テーブルを船長室に運び込み、8人がゆったりと座れる宴席を設定した。

勿論、この会合は正式なものではない。特に必要性の高いものでもないだろう。

だがHSSSが同じ恒星系の現場に4隻揃うと言うのは、空前の事だ。

そしておそらくは絶後の事にもなるだろう。

加えて待っていれば、太陽系からHSSLSが補給船を3隻連れて来る。

同じ恒星系に8隻が集結する訳だ。間違いなく空前絶後だろう。

出来得る限り交流の機会を持ち、意思の疎通を比較的密に保ち、意見の交換や意志の統一を行い易く出来るよう素地を作る事は、良い事だろうと思う。

この先、一般の乗員がお互いの船を行き来すると言うのも充分に有り得るのだろうから、この食事会の意義も低いものではないだろうと思うし、意味のあるものでもあるだろう。

どの様な摂食スタイルを採り支持している人であっても、必ず1程度には食べ、飲む事が出来るように、考え得る限りの料理を取り揃えるようにした。

船長・副長のペアで8名が円卓に着いているが、自分で料理を自分の取り皿に取り分けても良いし、別に欲しい料理の傍に居る誰かに頼んでも構わない。

この時だけのウエイター役として、本船のクルーの中から私が直に頼んで手伝いに来て貰っている者も8名いた。

勿論、食べたい料理があれば、自由に食べて貰っても構わないとは言ってある。

ただ、酒は遠慮しておいて欲しいとは言い添えた。

「・・それで二つの超巨大惑星はともに、その一番外側に反物質の衛星を廻らせているんですね・・?・・」

「・・そうです・・」

チャープラン・オープラサート船長が私に訊いた。

「・・反物質の破片がその衛星から離脱して近い軌道を周回する衛星に落ちる可能性についてはどうでしょう・・?・・」

「・・まだその可能性については調べていませんでした・・」

「・・再接近したら、早目に調べる必要がありますね・・」

「・・同感です・・」

「・・HSSLS 037には、自力で反物質を積み込める機能があるんでしょう・・?・・」

と、カーステン・リントハート船長。

「・・うん・・あるね・・」

「・・ここを反物質資源地としたい・・と言う意思が推進本部にあるのは確実だろうな・・」

と、スニール・ラーマ・ラオ船長。

「・・うん・・そうだろうね・・まあ、上手くやって欲しいもんだが・・」

と、私が応えた。

「・・ひとつ間違えば吹き飛ぶからな・・」と、カーステン・リントハート船長。

「・・それにしても、あの惑星が何故あの大きさにまでなれたのか、と言う点については・・未だにどのような推測も立ちませんね・・?・・」

と、チャープラン・オープラサート船長。

「・・全くですね・・その点については・・せっかく今はこれだけ船が集まっていますから、是非とも多角的で多面的な観測を集中して行って、シミュレートをしてみたいですね・・」

と、応えた。

「・・でも、反物質資源だけに限らなくても・・この恒星系には木星型や火星型の天体が、衛星として複数あるようですね・・?・・」

と、HSSS 214の副長・ラリーサ・ソリナが発言した。

「・・そう・・その意味でもここは、巨大で多様な資源地として大いに期待できると思います・・」

「・・あと、残る懸念で大きなものがあるとすれば・・やはり、ファーストコンタクトについてだろうな・・」

と、スニール・ラーマ・ラオ船長。

「・・同感ですね・・」と、私。

「・・基本的に、私達と同じヒューマノイドタイプなのですか・・?・・」

と、HSSS 209の副長、ポーリン・イーバートが訊いた。

「・・一番外側の、知性体居住衛星を調べた限りではそうだ・・他にも知性体が居住していると思しき衛星はあるが、確認はしていない・・」

「・・結構、技術文明も進んでいるようだね・・」

と、カーステン・リントハート船長。

「・・ああ、接近するなら、細心の注意が要るね・・」

「・・当面・・おそらくですが、接触せよとの指示は出ないでしょう・・その前に、可能な限り・・考え得る限りの調探査が指示されるでしょう・・それで得られたデータを分析して検討を加えて・・いずれは連邦政府が決めるでしょう・・ここを外国と観るのか・・資源地と観るのか・・入植地と観るのか・・・」

と、チャープラン・オープラサート船長。

「・・同感ですね・・我々は彼等には介入せず・・調べ廻るだけで良い・・可能な限り・・考え得る限りにね・・」

「・・BP1と、2だっけ・・?・・もしも可能なら、降りてみたいね・・」

と、カーステン・リントハート船長。

「・・ああ・・ウチのメインパイロットが、大気圏の中を飛び廻ってみたいってさ・・」

「・・そんな事が出来るんですか・?!・」

と、HSSS 210のアーンスト・バーロウ副長が左の眉を上げる。

「・・出来るだろ・・フォースフィールドの出力を上げて、展開形態と展開範囲を変調すれば、船の左右両舷に主翼を形成できる筈だって言っていた・・フィールドの形態調整と操縦系をリンクさせれば、自由な飛行が可能になる筈・・だそうだよ・・」

「・・フフッ・・まあ気持ちは分かるけどね・・その前に大気圏外から徹底的に探査して巨大惑星の謎を解明しないと、私は怖くて降りられないな・・」

と、チャープラン・オープラサート船長がグラスを空けてそう言った。

「・・それはそうだよ・・私だってその謎を解明しない内に降りるなんて事は絶対にしない・・」

「・・ところでHSSLS 037と3隻の補給船がここに着くのは、いつ頃になるのかな・?・」

と、スニール・ラーマ・ラオ船長がウエイターからグラスを受け取って言う。

「・・40分程前に推進本部と話をしたんですが、補給船の準備があと2時間で終わるそうで・・150分後を目処に発進させる予定にしている、との事でした・・」

「・・太陽系からここまで来るのは、結構掛かるだろうな・・」

と、カーステン・リントハート船長がそう言って、切ったステーキの一切れを口に入れる。

「・・ああ・・船団航行で来るから、4で来るだろ・・?・・3日は観た方が良いだろうな・・着いても集結するには、半日は掛かるか・・?・・」

「・・そう・・4日分の物資をただ待ちながら消費するのね・・」

と、チャープラン・オープラサート船長がナプキンで口を拭って言う。

「・・まあ、仕方がないね・・その代わり集結したら、先ずしっかりと補給を受けよう・・今だってもうあれが無い、これが欲しいと突き上げられているんだからな・・」

「・・確認しておきたいんだが、アンドレア・コアー船長から新しい通達は無いんだな・・?・・」

と、カーステン・リントハート船長はそう言い、ウエイターから新しいお絞りを2つ貰って、1つで顔を拭き、1つで手を丹念に拭いた。

「・・無いな・・船団が到着するまでデータリンクを共有して待機・・それだけだ・・」

「・・まあ別に・・アンドレア・コアー船長の指揮下に入って動くと言う事に異存がある訳じゃないんだが・・船団司令なんて職務はこれまでに無かったし彼女自身、昨日までは俺達と同じHSSSの船長だったんだ・・勿論、人の風下に立ちたくないなんてケチな考えからじゃないし、彼女が今ここでの仕事の段取りを真剣に考えていると言う事に疑いは無いが、今後のここでの段取りについてこちらから彼女に提案しても良い筈だ・・特に反物質の取り扱いとか、ファーストコンタクトについてとか、BP1.2へのアプローチについてとかも、な・・それぞれの船長ごとに提案や要望を出しても良いだろうし・・この4隻で提案や要望をある程度統一して出すのも良いだろう・・どうだろうかな・・?・・」

と、カーステン・リントハート船長がコーヒーを飲みながら言う。

「・・そうね・・反物質の取り扱いで最悪の事態と言えば・・何かのミスか不測の状況変化を原因として、反物質の一部が他の衛星に落ちる事ね・・これが知性体の居住する衛星ならそれこそクライシスインパクトになるだろうし・・ガス状衛星に落ちたとしても引き起こされる対消滅爆発が及ぼす影響は測り知れないだろうし、先住知性体にも気付かれるわね・・」

と、そう言ってチャープラン・オープラサート船長がデザートのパフェを食べ始める。

「・・万が一、先住知性体に観られたらどうするのか・?・原則的な対応手順を決めるべきだな・・コンタクトの手順がいまだに何も無いにしても、これだけは決めておかないと不測の事態からパニックになりかねない・・」

スニール・ラーマ・ラオ船長がそう言って自分のグラスに水を注いで飲んだ。

「・・OK・・船団の集結までには4日ある・・2日間考えて貰って、3日目の夕食時間にまた集まろう・・その時に、反物質の取り扱いについて・・コンタクトについて・・巨大惑星へのアプローチについて・・この3点での統一提案を取りまとめる・・それで良いかな・・?・・」

私のこの提案に、3人とも賛成の意向を示した。

「・・それじゃ、今日はこれでお開きにしようか・・?・・久し振りに皆と話せたのは有意義で良かったよ・・3日後のディナーでまた会おう・・」

そう言って立ち上がった。

「・・このパフェ、美味しいわね・・まだ残っていたら貰って帰っても良いかしら・・?・・ウチにパフェ好きの娘がいるから、食べさせてやりたいのよ・・レシピも教えて貰える・・?・・」

「・・どうぞ、マダム・・テイクアウトは自由に頼んでくれ・・レシピもデータリンクで共有してくれ・・俺達はキャラバンだ・・キャラバンでは総てが共有財産だからな・・」

「・・このサラダが旨かったから、貰って帰るよ・・」

「・・どうぞ、船長・・全部持って帰ってくれ・・そうだ・・2年前にお薦めのお茶をご馳走になったな・?・あれがまた飲みたいね・・」

「・・2年半前だ・・次のディナーの時に持って来るよ・・」

「・・宜しく頼む・・」

皆、立ち上がって握手を交わす・・試みに開催した船長・副長の食事会だったが、概ね好評を博したようだ・・有意義な雰囲気のままで終えられたのは良かった・・。

「・・ちょっとここの食堂で呑まないか・・?・・珍しい一本を持って来たから、久し振りにさ・・」

と、最後にカーステン・リントハート船長と握手した時に誘われた。

「・・ラウンジと言ってくれ(笑)・・OK、先に行って待っていてくれ・・私は4人を見送ってから行くから・・」

「・・分かった・・」

ラウンジへと向かう2人を見遣ってから、4人を促がしてドッキングポートへと向かう。

15分後、私は副長を伴ってラウンジに入った。

カーステン・リントハート船長とラリーサ・ソリナ副長は、カウンターに並んで座っていたが歩み寄る私達を認めるとリントハート船長は右手を挙げ、ソリナ副長は降り立って略式の敬礼を施した上で自分の飲み物を持ってボックス席に移る。

私はそのままリントハート船長の右隣に座り、ファルチ副長はソリナ副長の対面に座った。

「・・帰ったのか・・4人は・・?・・」

「・・ああ、無事に離脱したよ・・」

「・・そうか・・それじゃ、久し振りの再会を祝して一杯呑ろう・・ああ、ウイスキーグラスを頼むよ! 酒はこっちにあるから! 」

「・・珍しい一本って、何を持って来たんだ・・?・・」

「・・これだよ・・」そう言って一本のフルボトルをカウンターに置く。

「・・おっ・・タイタン・モルトの30年物・・それもアズトラン・ディスティラリィか・・よく手に入ったな・・余程の伝手が無いと無理だろう・・?・・」

「・・ああ・・実は俺の従弟がここの蒸留所にいてな・・時折掘り出し物を送ってくれるんだ・・お前に会えたら呑ませてやろうと思って、持ってたんだよ・・」

「・・へえ・・そいつは嬉しいね・・じゃあ、有難く頂くとするか・・」

「・・ロックで呑るか・・?・・」

「・・いや・・取り敢えずは、ツーフィンガーだな・・」

バーテンダーが持って来たウイスキーグラスに、指2本分で注いで貰う。

グラスを傾けると、先ずは芳醇で馥郁足る香気を嗜む・・さすがに違う・・。

口に含んで濃厚なアルコール飲料の刺激・・芳醇で奥深い味わい・・拡がる馥郁足る香気を改めて確認する。

呑み下して咽喉越しで感じる味わいを楽しむ。

「・・さすがに旨いな・・」一息吐いて感嘆し、もう一口含む。

久し振りに旨い酒を呑むと心身共に緩んでいくのが判る。

後12時間は非番だから別に酔っても良いんだが、コイツの前であまり正体を崩したくはない。

「・・お前・・この酒、あと何本持っているんだ・・?・・」

「・・これを除いて、手付かずのボトルが2本あるよ・・」

「・へえ・・お前の従弟って良い奴なんだな・・一本くれって言ったら怒るか・?・」

「・・良いよ・・一本やるよ・・俺達この恒星系で、どんなに短くても半年は過ごすだろうからな・・俺一人で呑んでいてもつまらん・・今度来る時に一本持って来るから・・この船のメインスタッフ達にも呑ませてやれ・・」

「・・ああ、そうだな・・」

7m程離れたボックス席で、ミレーナ・ファルチ副長とラリーサ・ソリナ副長が対面に座っている。

バーテンダーが注文を取りに来る。

「・・レモン・サワーをお願いします・・」と、ミレーナ・ファルチ副長が告げる・・。

ラリーサ・ソリナ副長の前には、既にスパークリング・ピーチワインの注がれた細長いシャンパングラスがある。

「・・相変らず、弱いお酒を飲んでいるんですね、先輩・・?・・」

と、ラリーサ・ソリナ副長。

「・・あなたのだって、似たようなものじゃない・・?・・それに私はあと8時間でシフトが始まるから・・」

と、ミレーナ・ファルチ副長。

「・・どうやら告白したみたいですね・・でも、そんなに嬉しそうじゃない・・振られたようには観えませんけど・・?・・」

そう言って脚を組み直すと、スパークリング・ピーチワインに口を付ける。

「・フッ・相変らずずけずけとものを言うわね・・船長はずっと前から私の気持ちに気が付いていたわ・・はっきりと断られた訳じゃないけど、止めた方が良いとは言われたわよ・・どうせ私が船長になったら、一緒には居られなくなるからってね・・それよりあなたはどうなのよ・?・214に副長として乗っているのは、私より長いでしょ・?・」

話している間にお絞りとレモン・サワーが来たので、手を拭いてからグラスに口を付けた。

「・・長いって言っても1ヶ月と少しくらいですよ・・ウチの船長はトマク船長より軽いですから・・余程煮詰めてから告白しないと、真剣にこっちを見てくれないでしょうからね・・キスしたんですか・・?・・」

「・・何よいきなり・・私から抱き付いただけよ・・あなた、船長になりたいの・・?・・」

「・・そう言う先輩はどうなんですか・・?・・トマク船長の傍にいたいのなら、副長で居続けるしかありませんけど・・来年にはある推進本部の人事考課で、船長に推薦されたらどうするんですか・・?・・」

「・・それはあなただって同じでしょ・・?・・」

そう言ってミレーナ・ファルチ副長はレモン・サワーを飲み干してグラスを置いた。

「・・それじゃ、そろそろ失礼するわ・・あそこの2人、盛り上がっているみたいだけど、そろそろ連れて帰った方が良いわよ・・どうせこれから半年は、同じ現場で仕事をする事になるんでしょうからね・・じゃあ、お休みなさい・・」

そう言って立ち上がるとミレーナ・ファルチ副長は、カウンターで呑んでいる2人の船長に挨拶をして、ラウンジから出て行く。

私はストレート・ツーフィンガーでの2杯目を飲み干してグラスを置いた。

「・なあ、カーステン船長・・そろそろ帰った方が良い・・珍しい酒をご馳走してくれてありがとう・・食事会でも盛り上げてくれて感謝してるよ・・明日も早いだろ・・?・・お前、酒好きな割には俺より弱いからな・・二日酔いでブリッジに出るのはマズイぜ・・」

「・・ああ、分かってるよ・・そろそろ失礼しよう・・こいつは、ここのバックバーに置いてくれ・・後でお前のフルボトルを持って来るから・・」

「・・良いのかよ・?・それじゃ、お前の手許に残るのは一本だけになるけど・・?・」

「・・俺は良いよ・・太陽系に戻れば、また貰えるからさ・・」

「・・そうか、悪いな・・それじゃ、3日後にな・・無理するなよ・・」

「・・お前もな・・それじゃ・・」

そう応えてカーステン船長が降り立つ。

私も立つとラリーサ・ソリナ副長も立ってこちらに歩み寄った。

「・・ラリーサ副長、船長を引き留めて申し訳ない・・」

「・・とんでもありません、トマク船長・・」

「・・気を付けて、帰還して下さい・・ドッキングポートまで、送らせよう・・」

そう言いながらコミュニケーターに触れて保安部を呼び、近くの保安部員を寄越してもらう。

「・・お気遣いに感謝します・・トマク船長・・」

「・・それじゃあな・・」

そう言って左手を軽く挙げるとポケットに手を突っ込んで歩き始める。

ラウンジのドアが開くと、外で待っていた保安部員に付き添われてドッキングポートに向かって行った。

「・・あいつをどう思う・?・ラリーサ・・?・・」

「・・はい・・?・・」

「・・トマク・ラオ・シンだよ・・あいつはアカデミー時代から不思議な男でさ・・目立たないように見えて、終わってみればしっかり皆から意識されていたとか・・飄々としてやる気の無いよう見えて、終わってみれば一番成果を出していたとか・・そんな事の多い男だったな・・実は俺、密かに思っているんだよ・・」

「・・何をですか・・?・・」

「・・次の故郷を発見するとしたら・・それは多分あいつだってね・・」

そう言った時、ドッキングポートに着いた。

エアロックを開けて貰って減圧パイプを潜り抜けて、シャトルランチに乗り込む。

「・・それじゃ、帰ろうか・・」

ラリーサ・ソリナは頷いて、操舵席に座った。

私はトマク・ラオ・シン・・船長と副長を招いて開催した交流食事会から10時間後・・私はメインスタッフをブリーフィングルームに招集した。

「・・総ての船がここに集結すれば、アンドレア・コアー船長が初の船団司令として着任する・・彼女には船長として、船団司令として考えている事が勿論あるだろう・・だが昨夜開催した交流食事会の席上で、4隻の略式司令部は非公式ながらこれから言う点で合意した・・全船団が集結して船団司令部が結成されるまでに、4隻が独自に取り纏めた統一提案を準備する・・提案項目は3点・・一つ目は、この恒星系内に於いて存在が確認されている反物質を今後、どのように取り扱うのかについて・・2つ目は、既に存在が確認されている先住知的生命体とのファーストコンタクトについて・・3点目は、BP1と2に対してのアプローチについて・・この3点に於いて、各船でそれぞれ具体的な提案内容を準備し、今から約60時間後にもう一度開催する略式司令部による交流食事会に於いて持ち寄り、論議の上で統一提案として取り纏める・・そして船団司令部の結成後に、私から船団司令に提案する・・雑駁だがこのような流れだ・・質問が無ければ一つ目に入りたいが・・?・・」

「・・それは、意見具申と言うか・・あくまでも提案であって、権限の逸脱には当たらないんだな・・?・・」

と、ドクターが手を挙げて訊く。

「・・勿論、命令や指示系統からの逸脱には当たらない・・意見具申・提言・提案の範囲内であると認識しているし、そう捉えて欲しいと考えています・・」

「・・了解したよ・・」

「・・他に無ければ一つ目に入りたいが良いかな・・?・・思い付いたら遮っても良いから手を挙げてくれ・・じゃあ続けよう・・船団司令船ともなるHSSLS 037には自力で反物質を船内に積み込める機能を備えている・・これは各船長共に共通の認識であり予測でもあるのだが、037は反物質衛星に接近して自力で反物質を船内に積み込む実践テストを敢行するものと観ている・・正式には何も聞いていないが、その可能性は高いだろう・・その場合に我々に付与される任務としては、徹底した安全確認の上での警備・警護になるのだろう・・何せ危険な物質だ・・一欠片の反物質に接触するだけでも総て吹き飛ぶ・・もしかしたら今回実際にはやらないかも知れない・・だが最低限、反物質衛星は詳細に探査するだろう・・実際の積み込み作業の手順を段取りから確定させるための、実証実験ぐらいは開始するかも知れない・・これは大方の見方と言うか予想だが、これから最短でも半年間はこの恒星系に留まるだろう・・逆に言えばそのぐらいの期間はここで仕事をしなければ、目立った成果は挙げられないだろうと言う認識だ・・最短でも半年なら、幾つかの実証実験はやるだろうかな・・?・・まあ現状では、その程度の予測だ・・論議して貰いたいのは仮定の話で申し訳ないんだが、起きるとしたらどのような事故が起きるか・・?・・その事故が起きた場合の対処についてだ・・幾つ出して貰っても構わない・・また、今日だけの話でもない・・自由に討論しながら、3項目ぐらいにまで収斂させていこうと思う・・じゃあ、先ず何が考えられる・・?・・」

「・・やはり・・反物質に接触してしまうと言う事でしょうね・・100gの反物質に触れただけでも、037は粉々に吹き飛ぶでしょう・・10gでも爆発四散は避けられませんね・・周辺にいる我々も相当の被害を被るでしょう・・それらの爆発を生き延びる事が出来たとしても、相当量のガンマ線による被爆がある筈ですから・・太陽系から救援が来るまでの間に生存者がどれだけ生き延びられるか・・甚だ疑問ですね・・」

セバット・ボスカ機関部長がそう語り、私も頷いて後に続ける。

「・・対消滅反応による爆発事故が発生した場合、我々に出来る事は速やかに脱出して安全を確保し、サバイバルモードに入って太陽系に連絡して救援を待つ事・・だけだな・・」

「・・次に考えられるのは、反物質の一欠片をサーキットコイルに入れようとしてしくじり、あらぬ方向に流出させてしまうと言う可能性ですね・・その場合、最後までロストしないでその欠片を追跡できるかどうかに総てが掛かって来ると思います・・」

チーフ・サイエンスオフィサーのシーモン・アヤラが挙げたので、私も後に続ける。

「・・BP1の反物質衛星の軌道とGS1の軌道との間には、ガス状天体の衛星軌道が二つある・・だが当該の二つのガス状衛星は、今丁度BP1の向う側を周回している・・今後数ヶ月の間に反物質の欠片が流れ出たとしたら・・GS1の重力圏に捕まる可能性が高い・・大気圏の上層部で対消滅爆発を起こして・・欠片の大きさにも因るだろうが、場合によっては先住民の半数が死に至るかも知れない・・我々のしくじりでそのような事態を引き起こさせる訳にはいかないな・・寝覚めが悪過ぎる・・」

「・・考えられる事態は、この2つぐらいで良いでしょうか・・?・・」

と、ミレーナ・ファルチ副長が問う。皆、口を開かなかった。

「・・OKだ・・この件については実証実験を始めるかどうか?ぐらいまでの予測しか今のところは立たないだろうと思うが、太陽系を遠く離れた場所で反物質を取り扱う可能性について、考察する必要性を提起すると言う趣旨での提言になるだろう・・その立場で、太陽系を遠く離れた場所での、反物質の取り扱いに於ける新しい優先遵守条項と、新しい取り扱いガイドラインを作成する必要がある、との提言を行おうと思う・・今はこれで良いだろうと思うが、どうかな・・?・・」

「・・良いだろうと思いますね・・今は・・」と、そう機関部長が応じた。

他のメンバーを見渡すと、皆無言で頷いている。

私はグラスのジンジャーエールを一口飲んだ。氷が融けて味が薄い。

「・・よし、それでは次の点に移ろう・・GS1.2.3に於いては、既に先住知性体の存在が確認されている・・まだBP1は多くの衛星を従えているし、且つての地球型と観られる環境を持つ衛星の存在も確認されている・・BP1でもこの状況にあるのだから、BP2も推して知るべしと観て良いだろう・・今後我々が相当の長期間に渡ってこの2つの惑星圏に留まり、調探査活動を続行するならここの先住知性体と接触してしまう可能性は、どうしても考慮せざるを得ない重大な懸念であると言わなければならないだろう・・だが知っての通り、我々にはファーストコンタクトの経験が無い・・037のアンドレア・コアー船長も勿論この懸念は持っているだろうとは思うが、既に先立って今ここにいる我々にはまだ何も伝えられてはいない・・全船団が合流して活動が開始される前に、この懸念に対応する具体的な提言・提案をまとめるべきだろうと思う・・自由に発言して欲しい・・」

「・・やはり原則的に、先住知性体の存在が確認される衛星の大気圏には降下しない事・・調探査の為に接近する場合には、総ての遮蔽機能を最大限に使用する事・・これを前提原則とするべきでしょうね・・」

と、保安部長のアレジ・ダ・ナシが言いながら腕を組む。

「・・賛成だな・・我々の任務とその目的は、人類の移住候補地となり得る天体の捜索・探査・調査であり、判定は推進本部と太陽系連邦政府の役割だ・・例え第三次の判定で地球型と出た天体であっても・・先住知性体が存在する場所に接近するのは、如何なる理由があろうとも論外としなければならない、と、思うね・・」

と言ってドクターは紅茶のカップに口を付ける。

「・・逆に、地球型であるとは言え、先住知性体が存在する天体に接近しようとする理由って・・何かあります・・?・・」と、副長が問う。

「・・好奇心で調査したい・?・探査したい・?・またはレアな資源があるとか・・その可能性の調査・探査で・・?・・」

そう言ってモーレイ・カラムが脚を組む。

「・・あまり具体的な想定も出来ないみたいだね・・」

そう言ってイアン・サラッドがダイエット・コークを飲み干す。

「・・そうだな・・現状では保安部長の意見を我々からの提言の骨子とするしかないようだな・・只、これは非常に特殊な仮定のケースになるが・・我々のミスで反物質の欠片がその衛星に接近し始めた場合には、総てを一時取り払って初めから考え始める必要があるだろう・・それが我々のミスを原因とするものでないなら・・静観と言う事になるだろう・・」

その後3分程、誰も発言しなかった。

「・・よし・・ではこの先住知性体に対する基本姿勢としての提言としては、先程の保安部長とドクターの発言を骨子とし、もしも我々のミスによって事態が急変した場合には、総てを一時的に取り払って最初から考える、と言う前提も容れて・・提言として取り纏める、と言う事にしよう・・」

そう言ってジンジャーエールを飲み干して、脚を組み替える。

ジンジャーエールの味が殆どしない程に薄い。

「・・それでは最後の1点だ・・BP1.2に対してのアプローチをどうするのか・?・」

「・・あの巨大惑星については、解らない事が多過ぎます・・充分に距離を採っての長距離探査で出来得る限りのデータを採る・・今のところはそれ以外に無いのでは・・?・・」

シーモン・アヤラが、それ以外に何があるという感じで言う。

「・・あんな巨大な岩石惑星がどうして存続できるのか・?・それが解明されるまで、私がこの船を惑星の周回軌道に乗せる事は無いだろう・・」私もそう応じた。

「・・それではこの最後の1点に於いても、サイエンス・オフィサーの発言を骨子として纏めると言う事で、宜しいのではないでしょうか・・?・・」

そうミレーナ・ファルチ副長が言って、自分のお茶に口を付ける。

「・・それが良いと思いますね・・賛成です・・」

セバット・ボスカ機関部長がそう応じて、眼の前の小皿に盛っていたチョコレートを一粒、口に入れる。

「・・よし、この最後の1点に於いても、サイエンス・オフィサーの意見を骨子として、私と副長とで提言に纏めようと思う・・皆、忙しい所を集まってくれてご苦労だった・・解散しよう・・」

それから1分・・残っているのは私と副長だけだ・・。

「・・思ったほど、活発な討議にはならなかったな・・」

「・・まだ少し、時期が早かったのかも知れませんね・・」

「・・そうだな・・もう少し事態が進んでからの方が・・想定もし易くなって、意見の発想もし易くなるのかも知れないね・・ところで副長・・今日は急ぎの業務があるのかな・・?・・」

「・・今日中に終わらせなければならない業務はありませんが・・」

「・・そうかあ・じゃあちょっと・・レジャープログラムに付き合ってくれるか・・?・」

「・・はい・・お付き合いします・・」

HSSLS 037・・・

「・・HSSD(ハイパー・サブ・スペース・ドライヴ)に突入して80分です・・」

エイドリアンヌ・パリッギ副長がpadの表示内容を確認して報告する。

「・・そう・・現状のフォーメーションについて報告して・・?・・」

アンドレア・コアー船長がシートから立ち上がって訊く。

「・・はい・・ようやく判明しましたが、HSSTS 024は4.7秒の遅れで突入しました・・距離にして、約8763万キロです・・HSSTS 148は3.8秒の遅れで突入しました・・距離にして、約7324万キロです・・HSSTS 089は5.4秒の遅れで突入しました・・距離にして、約9896万キロです・・コースは正常に同調しています・・速度は4で統一しています・・現在、お互いに僚船の位置を確認し、把握しています・・」

「・・了解したわ・・3日ぐらいで到着の予定ね・・?・・」

「・・はい・・概ね3日から3日半の間ですが・・通常空間への復帰でまたタイミングがずれれば、また距離が開きます・・当該恒星系内で全船が集結するまでにどれ程の時間が掛かるか、全く予想できません・・通常空間でお互いの位置を確認して把握するまで、早くて5時間・・掛かれば半日ですね・・」

「・・そう・・ハイパー・サブ・スペース・ドライヴでの船団航行を初めて敢行したにしては、まずまず上々ね・・位置と距離は大体把握できているから、お互いの加速と減速で距離を詰められないかしら・・?・・」

「・・それはお勧めできません・・先程船長も仰られましたが、初めてハイパー・サブ・スペースで船団航行をしているのです・・理論的には可能でしょうが、経験も無くお互いの位置関係を常にリアルタイムで把握確認しながらこの空間の中で距離を詰めるのは、無謀とも言える難しさで、加減が全く判りません・・少しでもタイミングがずれたり、加速減速をやり過ぎれば・・同一のタイムラインから弾かれて脱落してしまいます・・今は自重して下さい・・」

「・・了解したわ・・今回はとにかく、当該恒星系内での通常空間に無事に復帰する事を目指しましょう・・冒険はこの先幾らでも出来るでしょうから・・我が船団の現状と方針を推進本部とHSSS 218に送信して頂戴・・」

「・・分かりました・・」

それから30分後のHSSS 218・・第3ホログラムデッキ・・

雲一つ無い青空・・ライトエメラルドグリーンとライトエメラルドブルーの海・・真っ白でとても細かい砂粒のビーチ・・太陽の光と熱は適度に制御されている・・寄せる波は白く細かい飛沫を交えて、とても爽やかに観える・・。

私とミレーナ・ファルチは、5時間の休暇を取得してこのレジャープログラムを起動させた。

かつて地球の太平洋上にあったハワイとか言う火山性諸島の海岸地帯の記録映像から作製された、レジャー・3D・ホロ・プログラムだ。

2人とも船内で通常に着用するジャンプスーツ姿だが、裸足で上着の前は開けている。

私は右手で彼女の左手を握り、ゆっくりと歩いて行く。

「・・037から連絡があったって・・?・・」

「・・はい・・ハイパー・サブ・スペースには突入しましたが、タイミングがずれたのでフォーメーションは崩れたそうです・・」

「・・ふん・・ハイパー・サブ・スペースでの船団航行ってのを初めてやったんだから無理も無いが・・通常空間に復帰する時にもタイミングがずれるから、また距離が離れるな・・そうなると、船団集結には1週間観といた方が良いかも知れん・・まあ、こっちは待つだけだがね・・」

「・・そうですね・・」      「・・訊いても良いかな・・?・・」

「・・はい・・?・・」

「・君が僕への好意を自覚したのは・・この船に乗り組んでからどのくらいだった・?・」

「・・はい・・はっきりと自覚したのは・・乗り組んでから10ヶ月目くらいでしたが・・初めてお会いした時から船長は魅力的でしたから・・・」

「・・ありがとう・・僕も君には惹かれていたよ・・最初からね・・」

握り合う手に込められる力加減の変化が、彼女の驚きを伝える。

「・・さっきのミーティングで大体決めた提言に、もう一つ加えようと思うんだ・・」

そう言いながら私は離した手を彼女の腰に廻した。

「・!?・どう言う・・ものでしょう・・?・・」

「・・恒久的に運用する観測や研究や補給や整備のためのステーションの設置さ・・」

「・・!はい・・?・・」

「・・いくら数隻の船を集めて調べ廻ったとしても・・半年も過ぎれば俺達は太陽系に帰らなければならない・・次に10数隻を集めて1年かけて調べたとしても、総て調べ尽くせはしない・・船団は補給にいつも悩まされるだろうし、整備や修理の問題も持ち上がるだろう・・この恒星系を充分に調べるには、足掛かりを造ってじっくり取組む事が必要だと思うんだ・・それを今度のディナーで提案してみるつもりだよ・・」

「・・良いですね・・賛成です・・」

「・・この前進ステーションの設置案が好い形で採り上げられたら、僕と君の将来のステージも考え易くなってくると思うよ・・」

そう言いながら私は立ち止まってミレーナ・ファルチを眼の前に立たせ、両手で髪を後ろに流してキスした・・時間は6秒ほど・・。

「・・?!?・・どう言う事なんですか・・?!・・」

突然の事で息を喘がせていたが、彼女も私の背中に腕を廻している。

「・・もう少し後で話すよ・・君は先に部屋に戻っていてくれ・・僕は暫く時間と人目を見計って行くから・・船長室は、例え僕が休暇中でもセンサー・レコードは止まらないからね・・」

「・・分かりました・・」

美しい副長はそれだけ応えると、今度は自分から私にキスした。

・・それから3時間後・・・。

副長の個室のベッドルームに、私達はいる。

私は仰向けに寝て両手を頭の下で重ね、シーツは下半身に掛けている。

彼女は私の左側で右横向きに寝ていて、シーツは胸の上まで掛けているが、左手は私の胸に置いていた。

「・・さっきのお話ですけど・・?・・」

「・・ああ・・ステーションの建設案が採用されたとして・・計画が具体的に動き始めて・・実際に完成するまでには何年も掛かるだろう・・まだまだ仮定の上に仮定を積み重ねているだけの話だがね・・だがもし具体的に動き出すなら・・私はステーションの常駐クルーとして志願しようと思う・・・」

これにはかなり驚いたようで、上体を起こして顔を覗き込んで来たから抱き寄せてキスをし、そのまま胸の上で抱き止める。

「・・建設されるステーションの規模によっては、駐留船団が編成される可能性もあるだろうから・・その可能性が具体的に明確になるようなら・・この船ごと、その船団への編入を志願する、と言う事も考える・・どちらにせよ採用されるにしても実現するまでには何年も掛かる話だから、君は一度船長になれ・・・」

「・・!えっ!・・」また驚いて私の顔を真っ直ぐに観る・・・。

「・・私がもしも今船長職から降りた場合・・言わば予備役船長と言う立場と言うか肩書になって・・また再び船長職を希望するなら、勿論審査の上でだがごく短期間の研修を経て・・船長に復職できる・・まあ、違う船でだがね・・だが君がもしも今副長のままで降職したら、予備役副長と言う立場になり・・再び復帰を希望して審査を通り研修を経ても・・副長としての復職になって、君の今迄の副長としてのキャリアはリセットされてしまう・・そうなれば船長に昇進するまで、また時間を費やさなければならなくなる・・俺達は船乗りとしてアカデミーの頃から船長を目指してやってきている・・それは皆同じだからよく解る・・だから君は先ず船長になれ・・君ほどに優秀な者が船長にならないのは、色々な面でマズい・・俺はその後で・・君との結婚を具体的に考えていくよ・・勿論、君が良ければだけどね・・?・・」

彼女は話を聴きながら私の顔を見詰めていたが、その眼に涙が盛り上がると上から勢いよく覆い被さって私を抱き締め、強くキスを求めて来た。

「・・私と君が2人とも船長を降りてステーションの常駐クルーになるのも良いし、私が常駐クルーになって君は船長として君が率いる船を駐留船団に編入させるのも良い・・私も君も船長のままで、お互いの船を駐留船団に編入させると言うのも、アリかも知れないな・・」

ひとしきり熱く激しいキスを交わし合った後で、彼女の頭を胸の上に置いて両手の指で髪をすいてやりながら、そう言った。

彼女は私の胸に顔を伏せて低く嗚咽を漏らし始めたので、両手で顔を持ち上げて涙を吸い取り、そのまま頭と背中をずっと撫でていた。

それから30分後に私達は一緒にシャワーを浴び、自動でクリーニングさせていた服を着て、抱き合って3秒程キスを交わして、私は副長の個室を出て船長室に向かった。

彼女が空間に鏡面を呼び出して髪型を整え終り、ナチュラルメイクを施し始めたところで外からの通話要請が届く。

空間にタッチパネルを呼び出して見ると、214のラリーサ・ソリナ副長からだったので接続を許可する。

「・・今は勤務時間じゃないんですか・?・先輩・・?・・」

「・・休暇を取ったのよ・・5時間のね・・貴女こそ勤務時間と知っていて、どうして個人通話を要請したのよ・・?・・暇なの・・?・・」

「・・少し時間が空いたので様子伺いのつもりだったんですけど・・何だか明るいですね・・良い事でもありましたか・・?・・」

「・・そう観える・・?・・」そう言って悪戯っぽく微笑む。

「・・5時間の休暇って・・まさか・・?・・」

そう言うラリーサの表情を横目にメイクの仕上げに掛かる。

「・・トマク船長としたんですか・!?・・」

「・・アナタ・・その話し方はいつになったら治るの・・?・・そんな調子じゃリントハート船長とロマンチックな話なんかできないわよ・!?・」

「・・大丈夫です・!・この口調で話すのは先輩だけですから・・そう言えば思い出しましたよ・・先輩のその様子・・アカデミー時代に1度だけ視ましたね・・あれは確か・・?・・」

「・・私が3年で貴女が2年の時よ・!・」

「・・そうそう、そうでした・・結局4年に進級するまでには破局しましたけどね・・」

「・・今の私には、どんな嫌味も皮肉も効かないわよ、ラリーサ・・私をイジる暇があるなら、もっとリントハート船長にモーション・アプローチしたら・・?・・」

「・・先輩・・どうしたらそんなに関係が進展するのか、是非教えて下さい・・?・・」

「・・簡単よ・・告白するの・・ストレートにね・・その反応を観て次のアプローチを決めれば良いの・・総てはトライ・アンド・エラーでしょ・・?・・」

「・・分かりました・・やってみます・・」

「・・頑張ってね・・じゃ、私はブリッジに上がるから・・ディナーミーティングで会いましょう・・」

そう言って通話を終える。
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