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第一章

死刑から追放へ

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「ルーファス様! どうしてここへ?出る、とはどういうことでしょう?」

 私が驚いていると、ルーファス様は優しく笑いながら私の頭に手を置いた。

「助けに来たんだ。いいかい? 君は表向きは死刑となる。だが、実際は国外追放処分だ。これは父から秘密裏に許可を得た」

「国王が?でもなぜ……?」

「僕とシャーロットで父に願い出たんだ。僕たちは君が犯人ではないと知っている。だが真犯人が分からない以上、君を無罪には出来ない。それでこんな形に……僕が不甲斐ないばかりに、リディアを辛い目に遭わせてしまった。本当にすまない。こんなことしか出来ない僕を許してくれ!」

「謝らないでください。助けてくれたじゃないですか。もうお身体は大丈夫ですか?」

「あぁ、もう回復したよ。心配してくれてありがとう。……さぁ、早くここから出よう」

 そっと手を引いてくれるルーファス様に連れられるまま、私は牢屋から抜け出した。日付を聞くと、死刑執行予定日の前日だったようだ。本当にギリギリだったけれど、私は助かったのだ。

 こうしてルーファス様とシャーロット様のおかげで私は死刑を免れた。死刑に比べたら国外追放なんてありがたい限りだ。

 ただ、こうしてルーファス様やシャーロット様に会えなくなるのは、やはりひどく寂しい。家族同然に育ってきたのに、こんな風にお別れしなければならないなんて。

 (でも生きていれば、いつかまた会えるはず。死んだらそこで終わりだもの)




 ルーファス様に連れられて国境近くの森まで向かうと、そこにはシャーロット様が待っていた。旅に必要な物や資金を準備してくれたようだった。

「リディア様……間に合って良かった。この荷物を持って行ってください。それから、これも……私が作ったお守りです。どうかご無事で」

 シャーロット様は泣きそうになるのを堪えながら、私に小さなお守り袋を渡してくれた。少し不格好だったが、シャーロット様の気持ちが伝わってきて私まで泣きそうだった。

「ありがとうございます、大切にしますね。シャーロット様もどうかお元気で」

 そう言った途端、シャーロット様にぎゅっと抱きしめられた。
 そうして彼女は私の耳元である言葉を囁いた。

「え?」

 私の小さな声は、風にかき消されてしまったようだ。

「リディア、僕からもこれを。これを僕だと思って着けていてくれ」

 ルーファス様の声にそちらを向くと、彼はネックレスを私に差し出してきた。

「まあ、綺麗……ありがとうございます。お二人に最後まで気にかけてもらえて、私は幸せです」

「この森を抜ければ隣国に着く。比較的安全な森だから、魔獣なんかは出ないだろう。でも気をつけて。落ち着いたら連絡をくれ」

 ルーファス様にぎゅっと手を握られて、私の心臓はどきりと跳ねた。
 もうお別れなのだわ。

「……はい。それでは、さようなら」

 お二人に背を向けて歩き出す。振り返ると名残惜しくなってしまうから、振り返れなかった。
 
 長い時間歩いて森の奥深くまで来た時、私はようやく歩みを止めた。
 これからは一人で生きていかなくてはいかない。その事実がようやく現実のものとして感じられた。

 大丈夫。聖女の力も使えるし、きっとやっていけるわ。
 ……それにしても、シャーロット様の言葉はどういう意味かしら?

『絶対に戻って来てはいけません。お兄様のことも忘れてください。お願いします』
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