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一話

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「君より守りたい人が出来たんだ……すまないレイチェル。でも大丈夫!君は魔法も使えるし、一人でも生きているよ。だから婚約は白紙にしよう!」

久しぶりに会えたというのに挨拶もなしに爆弾発言をかましたマークを見て、レイチェルは頭がクラクラした。

どうして?私より守りたい人って誰よ!……大丈夫って何??私たちの結婚はどうなるの?

困惑と怒りの感情が溢れ出し、レイチェルは意識を手放した。



――――――

レイチェルは眠っている間、過去の出来事を走馬灯のように思い返していた。

レイチェル達の住む村では、歳の一番近い者同士が結婚するという風習があった。その風習に従って、レイチェルはマークと婚約したのだった。

マークの事は特別好きな訳ではなかったが、婚約者としてそれなりに仲良くやってきたつもりだ。幼い頃、友達も少なく弱虫で臆病だったマークは、レイチェルの手助けによってそこそこの好青年に成長していった。

レイチェルはいつもマークのサポート役として、尽力することを求められてきた。この村では妻となる人間が、将来の夫に尽くすのは当然の事だから仕方ないけれど。

成人してからも、騎士団に入りたいと言うマークのために彼の親を説得し、試験勉強を手伝ったりした。入団試験の時には、魔石から切り出したお守りまで渡したというのに!製作期間三ヶ月の自信作だったのよ。

……考えたらムカついてきたわ。誰のおかげで騎士団の副団長にまでなれたと思っているのかしら。しっかりと話しておいたのに、あのお守りにどんな効力があるか忘れてしまったのでしょうね。

婚約が破棄されるのならマークとはもう無関係だし、お守りは返してもらいましょう。彼には必要ないわ。……彼がどういう反応するか楽しみね。


ふわふわとした意識の中でそう決意すると、レイチェルは魔石のお守りに魔法を飛ばした。



――――――

「あぁレイチェル!目が覚めたのね。あなた、来てちょうだい!レイチェルがっ……!」

驚いた顔の母さんを見て、レイチェルは不思議そうに首を傾げた。私、確かマークから婚約破棄を言い渡されて、それで……眠っていたのかしら?

「三年間も眠り続けていたのよ。もう目覚めないかと思ったわ」

三年間?!そんなにも時間が経っていたの?……確かに身体に力が入りにくいけれど、自分では眠っていただけだから実感がない。

念のため医者を呼んで診察してもらったが、体力以外は健康そのものという事だった。安堵で涙を流す父さんと母さんを見て、ようやく三年間も眠り続けていたのだと実感した。そうだ、私は眠っている間に……

「父さん母さん、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫よ」

もう大丈夫……だって眠っている間の事、全て思い出したもの。



この三年間どんな事があったかを両親に聞いたら、私が眠っている間に良い事があったと嬉しそうに教えてくれた。家業である薬草屋が大繁盛したのだ。薬草を栽培している畑に新しい薬草が自生し、それが魔力回復に大変効果があるとかで冒険者や魔導師に大人気となったらしい。

「だから家計の事は心配しなくて良いのよ。しばらくゆっくりしなさい。まずは体力回復に専念してね」

本来一番の働き手になるべき年齢になっていたが、働くのは止められてしまった。また倒れたら元も子もないから仕方ないわね。

それにしても、お守りがこんな効果をもたらすなんてね。レイチェルは魔法でマークから取り返したお守りを手に握りしめて、にっこりと微笑んだ。
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