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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
607:村の変化
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「どっちでも、好きな方でいいよ?」
「ならば……、こちらを頂くとしよう」
ティカはそう言って、紫色の宝石がついた絆の耳飾りを指で摘んだ。
……うん、紫色を選んでくれて良かった。
どっちでもって言っちゃったけど、 ティカの赤い鱗に緑色の耳飾りを着けちゃうと、クリスマスカラーになっちゃうからね。
「しかし、ティカ殿には耳がないのぉ。どうやって着けるんじゃ?」
心配するテッチャを他所に、ティカが顔の側面にある耳の穴に絆の耳飾りを近付けると、耳飾りの装着部分である金属がスーッと消えて無くなって、まるで磁石のように、絆の耳飾りはティカの耳の穴の真横にピタリと張り付いた。
「おぉっ!? すご……、さすが神様道具」
「こりゃ~、たまげたのぉ~!? どういう仕組みなんじゃ??」
驚く俺とテッチャを見て、ティカは何故だかニヤリと笑っていた。
クロノス山の聖域からテトーンの樹の村へと戻った俺は、テッチャが荷造りをしている間に、ティカと一緒に村の様子を見て回る事にした。
ピグモルのみんなは、そのとてつもなく高い適応能力故に、ティカの姿を目にしても、もう怖がる様子はなかった。
村は、また一段と発展を遂げたらしく、なんだかキラキラと輝いていた。
それは、雰囲気がとかそういう事ではなくて、本当に至る所に、燦々と降り注ぐ太陽の光を反射する何かがあるのだ。
目を細めて光の出所を探ると、それは木の上にあるピグモルの家からのものだった。
なんと、家々の窓には、これまで村にはなかった、ガラスがはめ込まれていた。
そういやテッチャのやつ、以前オーベリー村のマッサの資材屋を訪れた時に、小さなガラスを大量に購入していたっけか……?
まさか、窓にはめる為だとは思わなかったな。
これまでのピグモルの家の窓は、網戸もガラスもない、木の板を削っただけの、観音開きの簡素な窓ばかりだった。
つまり、窓を閉めている間は、外の景色を見る事が出来なかったのである。
だけど今、その窓にガラスがはめ込まれたという事は、これからは窓を開けずとも、ガラス越しに外の様子を見る事が出来るのだ。
これは、とても大きな発展ではなかろうか。
機能性もさながら、見た目も随分と違っているのだ。
同じ木造の家でも、窓にガラスがはめられているだけで、かなり近代的な印象となっていた。
畑のわきを通り抜けて、広場へと向かう俺とティカ。
広場の端には何やら、人集りならぬピグモル集りが出来上がっている。
そこは、俺の幼馴染みであるソアラとロアラの双子姉妹が始めた、村で唯一の飲食店で、その名も満月屋。
お昼時という事もあって、畑仕事をひと段落させたピグモルやバーバー族達が集まっているのだ。
店の中では、楽しそうに働くソアラとロアラの姿が見えた。
声を掛けに行こうかとも思ったが、忙しそうなのでやめておいた。
村を抜けた先にある小川の近くには、以前建設初めを手伝った露天風呂が、見事に出来上がっていた。
男湯と女湯に分けられた入り口の先には、板間に茣蓙を敷いただけの簡易的な脱衣スペースが設けられている。
その先に続く浴場には、あのガディスでも入る事が出来そうな、巨大なザザレ石の浴槽が広がっていた。
そこにはたっぷりと湯が張られ、モクモクと暖かな湯気を立たせている。
湯船の脇にある火を焚く為の大釜の側には、交代で火の管理をしているのだろう、薪をくべているおっちゃんピグモルの姿があった。
まだ真っ昼間だというのに、露天風呂は大盛況で、沢山のピグモル達が気持ち良さそうに湯に浸かっていた。
俺も入りたかったけど……、ティカもいるので、とりあえず我慢した。
偶然出会った幼馴染みのルールーに案内されて、俺達が次に向かった先は、村があるテトーンの樹の群生を南に抜けた先に広がる花畑。
そこには、大きな木造の建物が一つ存在していた。
まだ土台と骨組みしか出来上がってないけれど、明らかにそれはピグモルサイズではない。
扉の一つをとっても、身長が約2トールあるティカにぴったりな大きさなのである。
「これは、グレコさんやギンロさんの為の宿泊所だよ。お二人共これまで、村に滞在する間は、ほとんど野宿のような状態だったからね。モッモがお世話になっているというのに、さすがにその扱いは失礼だろう? テッチャさんが自宅の改装を優先したから、まだこっちは完成してないけれど……。でも、設計図は預かっているから、今度モッモが帰ってくる時までには必ず完成させておくよ! 勿論、ティカさんの為の部屋も用意しておくので、安心してくださいね」
ルールーは、イケメンな顔で爽やかに笑ってそう言った。
なんだかまぁ……、おれが外の世界でワチャワチャしている間に、こんなにも村が立派になってしまって……
嬉しいような、寂しいような、不思議な気持ちですね、はい。
複雑な思いを抱いたまま、村に戻った俺は、一度家に寄って、久しぶりに会う母ちゃんと雑談。
ふにゃふにゃの赤ん坊だった双子の妹達は、順調に成長しているようで、既にハイハイしていた。
その後、備蓄してある食料を分けてもらって、神様鞄にそれらを押し込んだ。
ついでにティカは、先ほどの馬鹿げたお手並み拝見とやらで壊れてしまった武器の代わりにと、バーバー族から少し短めの槍を受け取っていた。
そしてみんなに別れを告げて、俺とティカは、テッチャの家へと向かった。
テッチャの家に戻る道すがら、ティカに……
「本当に良い村だな。争い事もなく、穏やかで……、皆が素直だ。モッモ、君がそんな風に育った理由が、この村を見てよく理解出来た。良い村に生まれたな」
微笑みながらそう言われた。
……うん、まぁね。
このテトーンの樹の村は、俺にとって自慢の故郷だ。
さっきまでは、知らない間に進んでいた村の変化に頭がついていけず、なんだか俺だけ蚊帳の外って感じで、気持ちが沈んでいたんだけど……、ティカの言葉を聞くと、なんだかちょっぴり元気になった。
そして、この故郷を守る為にも、みんなの笑顔を守る為にも、頑張らねばなるまいと、俺は決意を新たにしたのだった。
「……ねぇ、それ本当に全部必要なの?」
テッチャが背負っている荷物を見て、俺は怪訝な顔になる。
「あぁ? そりゃおめぇ、全部必要に決まっとるじゃろう。なんせ、稀代の奇術師と呼ばれた男が建てたやも知れん塔を見に行くんじゃからな。ふざけた装備で行って、後悔はしたくないでの。なぁ~に、わしは見た目より力持ちじゃて、これくらい平気じゃ!」
ガッハッハと笑うテッチャの背には、ピグモルが5匹は入っていそうなほどパンパンに膨らんだ馬鹿でかいリュックが。
何が入っているのかは知らないが、冒険にはかなり不向きだろう。
「はぁ~……。分かったよ。持てるのはいいけど、それだと船内の通路を歩く時に邪魔だろうから、必要な時までは僕の神様鞄の中にしまっておくよ」
「おっ!? なるほどその手があったかっ!!? いやぁ~、実は重くて一歩も動けんかったんじゃよ! 助かったわい!!」
おいっ! 平気で嘘をつくんじゃねぇよっ!?
そしてあっさりバラすんじゃねぇよテッチャこの野郎めっ!!!
テッチャの馬鹿でかいリュックを、ギュッギュと神様鞄に詰め込む俺。
神様鞄の用途をまだ知らなかったティカは、目を見開いて驚いていた。
「よし、オーケー。じゃ、行くよっ!」
来た時と同じように、俺の肩に手を置くティカ。
それを真似して、反対の肩に手を置くテッチャ。
導きの腕輪の青い宝石に手をかざし、俺は声高々に叫んだ。
「テレポォーーーートッ!!!」
瞬きする程の一瞬の間で、俺とティカはテッチャを連れて、商船タイニック号の甲板へと戻ったのだった。
「ならば……、こちらを頂くとしよう」
ティカはそう言って、紫色の宝石がついた絆の耳飾りを指で摘んだ。
……うん、紫色を選んでくれて良かった。
どっちでもって言っちゃったけど、 ティカの赤い鱗に緑色の耳飾りを着けちゃうと、クリスマスカラーになっちゃうからね。
「しかし、ティカ殿には耳がないのぉ。どうやって着けるんじゃ?」
心配するテッチャを他所に、ティカが顔の側面にある耳の穴に絆の耳飾りを近付けると、耳飾りの装着部分である金属がスーッと消えて無くなって、まるで磁石のように、絆の耳飾りはティカの耳の穴の真横にピタリと張り付いた。
「おぉっ!? すご……、さすが神様道具」
「こりゃ~、たまげたのぉ~!? どういう仕組みなんじゃ??」
驚く俺とテッチャを見て、ティカは何故だかニヤリと笑っていた。
クロノス山の聖域からテトーンの樹の村へと戻った俺は、テッチャが荷造りをしている間に、ティカと一緒に村の様子を見て回る事にした。
ピグモルのみんなは、そのとてつもなく高い適応能力故に、ティカの姿を目にしても、もう怖がる様子はなかった。
村は、また一段と発展を遂げたらしく、なんだかキラキラと輝いていた。
それは、雰囲気がとかそういう事ではなくて、本当に至る所に、燦々と降り注ぐ太陽の光を反射する何かがあるのだ。
目を細めて光の出所を探ると、それは木の上にあるピグモルの家からのものだった。
なんと、家々の窓には、これまで村にはなかった、ガラスがはめ込まれていた。
そういやテッチャのやつ、以前オーベリー村のマッサの資材屋を訪れた時に、小さなガラスを大量に購入していたっけか……?
まさか、窓にはめる為だとは思わなかったな。
これまでのピグモルの家の窓は、網戸もガラスもない、木の板を削っただけの、観音開きの簡素な窓ばかりだった。
つまり、窓を閉めている間は、外の景色を見る事が出来なかったのである。
だけど今、その窓にガラスがはめ込まれたという事は、これからは窓を開けずとも、ガラス越しに外の様子を見る事が出来るのだ。
これは、とても大きな発展ではなかろうか。
機能性もさながら、見た目も随分と違っているのだ。
同じ木造の家でも、窓にガラスがはめられているだけで、かなり近代的な印象となっていた。
畑のわきを通り抜けて、広場へと向かう俺とティカ。
広場の端には何やら、人集りならぬピグモル集りが出来上がっている。
そこは、俺の幼馴染みであるソアラとロアラの双子姉妹が始めた、村で唯一の飲食店で、その名も満月屋。
お昼時という事もあって、畑仕事をひと段落させたピグモルやバーバー族達が集まっているのだ。
店の中では、楽しそうに働くソアラとロアラの姿が見えた。
声を掛けに行こうかとも思ったが、忙しそうなのでやめておいた。
村を抜けた先にある小川の近くには、以前建設初めを手伝った露天風呂が、見事に出来上がっていた。
男湯と女湯に分けられた入り口の先には、板間に茣蓙を敷いただけの簡易的な脱衣スペースが設けられている。
その先に続く浴場には、あのガディスでも入る事が出来そうな、巨大なザザレ石の浴槽が広がっていた。
そこにはたっぷりと湯が張られ、モクモクと暖かな湯気を立たせている。
湯船の脇にある火を焚く為の大釜の側には、交代で火の管理をしているのだろう、薪をくべているおっちゃんピグモルの姿があった。
まだ真っ昼間だというのに、露天風呂は大盛況で、沢山のピグモル達が気持ち良さそうに湯に浸かっていた。
俺も入りたかったけど……、ティカもいるので、とりあえず我慢した。
偶然出会った幼馴染みのルールーに案内されて、俺達が次に向かった先は、村があるテトーンの樹の群生を南に抜けた先に広がる花畑。
そこには、大きな木造の建物が一つ存在していた。
まだ土台と骨組みしか出来上がってないけれど、明らかにそれはピグモルサイズではない。
扉の一つをとっても、身長が約2トールあるティカにぴったりな大きさなのである。
「これは、グレコさんやギンロさんの為の宿泊所だよ。お二人共これまで、村に滞在する間は、ほとんど野宿のような状態だったからね。モッモがお世話になっているというのに、さすがにその扱いは失礼だろう? テッチャさんが自宅の改装を優先したから、まだこっちは完成してないけれど……。でも、設計図は預かっているから、今度モッモが帰ってくる時までには必ず完成させておくよ! 勿論、ティカさんの為の部屋も用意しておくので、安心してくださいね」
ルールーは、イケメンな顔で爽やかに笑ってそう言った。
なんだかまぁ……、おれが外の世界でワチャワチャしている間に、こんなにも村が立派になってしまって……
嬉しいような、寂しいような、不思議な気持ちですね、はい。
複雑な思いを抱いたまま、村に戻った俺は、一度家に寄って、久しぶりに会う母ちゃんと雑談。
ふにゃふにゃの赤ん坊だった双子の妹達は、順調に成長しているようで、既にハイハイしていた。
その後、備蓄してある食料を分けてもらって、神様鞄にそれらを押し込んだ。
ついでにティカは、先ほどの馬鹿げたお手並み拝見とやらで壊れてしまった武器の代わりにと、バーバー族から少し短めの槍を受け取っていた。
そしてみんなに別れを告げて、俺とティカは、テッチャの家へと向かった。
テッチャの家に戻る道すがら、ティカに……
「本当に良い村だな。争い事もなく、穏やかで……、皆が素直だ。モッモ、君がそんな風に育った理由が、この村を見てよく理解出来た。良い村に生まれたな」
微笑みながらそう言われた。
……うん、まぁね。
このテトーンの樹の村は、俺にとって自慢の故郷だ。
さっきまでは、知らない間に進んでいた村の変化に頭がついていけず、なんだか俺だけ蚊帳の外って感じで、気持ちが沈んでいたんだけど……、ティカの言葉を聞くと、なんだかちょっぴり元気になった。
そして、この故郷を守る為にも、みんなの笑顔を守る為にも、頑張らねばなるまいと、俺は決意を新たにしたのだった。
「……ねぇ、それ本当に全部必要なの?」
テッチャが背負っている荷物を見て、俺は怪訝な顔になる。
「あぁ? そりゃおめぇ、全部必要に決まっとるじゃろう。なんせ、稀代の奇術師と呼ばれた男が建てたやも知れん塔を見に行くんじゃからな。ふざけた装備で行って、後悔はしたくないでの。なぁ~に、わしは見た目より力持ちじゃて、これくらい平気じゃ!」
ガッハッハと笑うテッチャの背には、ピグモルが5匹は入っていそうなほどパンパンに膨らんだ馬鹿でかいリュックが。
何が入っているのかは知らないが、冒険にはかなり不向きだろう。
「はぁ~……。分かったよ。持てるのはいいけど、それだと船内の通路を歩く時に邪魔だろうから、必要な時までは僕の神様鞄の中にしまっておくよ」
「おっ!? なるほどその手があったかっ!!? いやぁ~、実は重くて一歩も動けんかったんじゃよ! 助かったわい!!」
おいっ! 平気で嘘をつくんじゃねぇよっ!?
そしてあっさりバラすんじゃねぇよテッチャこの野郎めっ!!!
テッチャの馬鹿でかいリュックを、ギュッギュと神様鞄に詰め込む俺。
神様鞄の用途をまだ知らなかったティカは、目を見開いて驚いていた。
「よし、オーケー。じゃ、行くよっ!」
来た時と同じように、俺の肩に手を置くティカ。
それを真似して、反対の肩に手を置くテッチャ。
導きの腕輪の青い宝石に手をかざし、俺は声高々に叫んだ。
「テレポォーーーートッ!!!」
瞬きする程の一瞬の間で、俺とティカはテッチャを連れて、商船タイニック号の甲板へと戻ったのだった。
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