624 / 796
★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
611:マーレ・ヴァンデアン
しおりを挟む
------+-----+-----
マーレ・ヴァンデアン…… 別名、海を征く者。巷で魚人と呼ばれる種族である。人魚族が半人半魚の姿である事に対し、こちらは顔も体も魚そのもので、さながら魚が二本の足を得て立って歩いている様である。主には、海洋に生息する魚類や魔魚達が人化した者達である為に、陸でも海でも呼吸が可能である。しかしながら、水と完全に切り離した生活は難しく、海辺で暮らす種族が多い。また、マーレ・ヴァンデアンという名で一括りにされてはいるが、確認されているだけでも数百の部族に分かれている為に、その種の多さは計り知れない。
-----+-----+-----
「彼らはソーム族。アーレイク島近海に生息する、青髭なまずを祖先に持つ魚人だよ。彼らが言うには、数百年ほど前からこの島で暮らしているらしい」
そう説明してくれたのは、航海士のライラだ。
ライラは、船の手摺りをギュッと握り締めて、桟橋で話し込むザサーク達を心配そうに見守っていた。
俺は、自慢のよく聞こえる耳を澄ませて、彼らの会話の内容を探る。
「そうは言うがガレッタ、ボナークが森に入ったのは五日も前らしいじゃねぇか。あの錯乱状態のハーピーが潜む森に五日間も……、本気で無事だと思ってんのか?」
ザサークが問い掛ける。
足を怪我して両脇を支えられている、あのピンク色の鱗の魚人が、ガレッタという者らしい。
他種族だから確証はないけれど、声の高さからして、なんとなく女の子っぽい。
「当たり前だ! ボナークさんは強い!! ボナークさんを馬鹿にするなっ!!!」
強い口調で言い返すガレッタ。
彼女に同調する様に、周りの魚人達も「そうだそうだ!」と手を上げる。
「そうは言ってもお前、いつ帰って来るのかも分からねぇんだろ? 町はこの有り様だし、お前だって……、足がその様じゃなぁ」
ザサークの言葉通り、ガレッタの足は地についてはいるものの、自力で歩く事は愚か立っている事すら難しい様子なのだ。
ガレッタだけじゃない、周りの魚人達もみな、多かれ少なかれ手傷を負っている。
また今夜、ハーピー達の夜襲があれば、今度こそ全員命を落としてしまうかも知れない。
「うるさいっ! こんなもの、昼には治すっ!!」
……ガレッタは、これまで根性論で生きてきたのだろうか?
そんな、見るからに使いものにならないその足が、昼には治るなんて到底思えない。
「ガレッタ、考え直しておくれよ。なにも、この島を捨てろと言っているわけじゃないんだ。一度避難して、島の状況が改善すれば戻れば良いんじゃないかい?」
ダーラが優しく声を掛けるも……
「ダーラまで何を言い出すんだっ!? ここはうちらの島だ、うちらの故郷だ! ちょいとやられたくらいで、おいそれと離れるわけにはいかないんだよっ!! 島の状況が改善すればだって? それはいったいいつの話だい?? 祖先が見つけてくれたこの島を、これまで作ってきた町を、捨てるわけにはいかないんだ……。ザサーク、ダーラ、付き合いの長いあんたらなら、うちらの気持ちが分かるだろう??? なのに、うちらの意思を尊重してくれないのかいっ!??」
怪我人とは思えない気迫で、ガレッタは叫ぶ。
これまで、魚の目ってこう、死んだ目って感じがあったんだけど……、それってきっと、料理に並ぶ魚を見ていたからそう思ってたんだろうな。
ガレッタや他の魚人達もそうなのだが、みな一様に大きな水晶の様なパッチリお目目をしていて、めちゃくちゃ目力が強いのだ。
あれだけ沢山の、目力ギンギンの目に睨まれちゃ、さすがのザサークも折れるしか無いんじゃ……?
「てめぇらは馬鹿かっ!? 命あってこそのものだろうがっ!?? 町を捨てるとか、島を捨てるとか、そんな事はなぁ、明日までてめぇが生き延びてから考えやがれっ!!!」
ひぃいっ!? ザサークが怒鳴ったぁあっ!!?
やっべ、こっわ……、おっかねぇぇぇぇ~。
ザサークは、獰猛なワニの口をこれでもかと大きく開いて、魚人達を威嚇する。
よく考えてみたら、ワニと魚とじゃ、どう考えてもワニに軍配が上がるはず……、と思ったのだが……
「何をぉっ!? うちらは三日前から襲撃を受けてるが、こうして生き延びてるじゃないかっ!?? 今日だって、明日だって、明後日も明々後日も、生き延びてやるさっ!!!」
ツルンツルンの魚類の目を見開いて、叫ぶガレッタ。
同調するように、「そうだそうだ!」と手を上げる魚人達。
なんていうか、話が全然前に進みそうにないな,
親切心で島から避難させたいザサーク達と、島を出たくない魚人達……、終着地点がまるで見つからない。
うん、面倒臭い構図だね。
「あそこまで言うなら、放っておけば良いのにね。生きるも死ぬも、彼らの好きにすればいいと思うわ」
彼らの会話が聞こえていたらしいグレコが、俺の言いたい事を俺より先に口走った。
全く同じ事を思っていた手前、批判するのは良くないだろうけど……、その言い方、めっちゃ冷たいね。
「そういうわけにもいかんじゃろうて。あの魚共は、この船の取引相手じゃろう? あいつらが死にゃあ、この島で得ていた利益が無くなっちまうわけじゃからのう。そうなりゃ儲けが減るでのぉ」
相変わらず思考回路が守銭奴なテッチャ。
その考えも一理あるとは思うけど、説得するザサークのあの必死具合から見て、お金云々なんかより、仲間を助けたいって気持ちの方が断然強いと思うけどな。
「……何故、カービィはあそこにおるのだ?」
え? ギンロ、何言って……、えぇっ!?
ギンロの言葉に船の真下を見下ろすと、そこには桟橋に降り立つカービィの姿があるではないか。
どうやら、船のへりから垂れ下がっていたロープを伝って降りたらしいが……
「もう、あの馬鹿……、何考えてるのかしら?」
額に手を当てて苦笑し、項垂れるグレコ。
何やってんだよカービィ!?
どこ行くんだよっ!!?
何するつもりっ!?!?
テクテクと、ザサークや魚人達に近付いていくカービィ。
「ポポ? 何か騒がしいと思ったら……、何があったポか??」
ナイスタイミング(?)で登場するノリリア。
出発の準備を終えたらしい騎士団のみんなも、順番に甲板へと姿を現している。
「ノリリア、それが……」
俺が事の経緯を説明しようとした、その時だった。
「なぁ、ボナークは五日前に森に入ったんだよな? その時に何か言ってなかったか??」
挨拶も無しに、ザサークと魚人達の会話に横やりを入れるカービィの声が耳に届いた。
緊張感のない、ヘラヘラとしたいつもの調子で。
「誰だいあんたっ!?」
すぐさまガレッタに睨まれるカービィ。
「おいらはボナークの仲間さ。正直、おまいらが島を出るとか出ないとか……、そんな事、おいら達はどうでもいいんだ。けどボナークは必要だ。あいつがおいら達の到着を待たずに、単身で森に入った理由が知りてぇ。何しに行ったのか、知らねぇか?」
……まるで、これまでの説得が無意味だったかのようなカービィの言葉に、ザサークもダーラも、まだ一言も発していないビッチェでさえも、額に青筋を立てている事だろう。
けれどもまぁ、カービィの言葉はあながち間違っちゃいない。
俺達の目的は、この町に住む魚人達を救う事じゃなく、この島の現地調査員であるボナークと合流して、アーレイク・ピタラスの墓塔を目指す事なのである。
ハルピュイア達の襲撃の理由とか、それを止める事とかは、二の次三の次というか……、極論、俺達には何ら関係ない事だろう。
……と、思ったのだが。
「ボナークは、ハーピー達の異変にいち早く気付いてたんだ。だから森に入った。入る直前に聞いたんだ、何が起きているのかって。そしたら、額に角を持つ黒い翼の見慣れない鳥が、ハーピー達を狂わせてる、そいつをどうにかしなきゃいけないって……、ボナークはそう言ってたよ」
ガレッタの言葉に、俺は沈黙した。
額に角をもつ、黒い翼の、見慣れない鳥……、だと……?
すると、カービィはくるりとこちらに向き直り、そして……
「お~い! やっぱり、この島にも悪魔がいそうだぞぉ~!?」
両手をブンブンと振りながら、大声で、カービィは俺達に向かってそう告げた。
ニヤニヤと、締まりのない笑顔で。
甲板に上がってきていた騎士団メンバーの全員が、カービィの言葉を耳にして、ピタリと動きを止める。
きっとみんな、心の中でこう思っているに違いない……
マジかぁっ!? って。
マーレ・ヴァンデアン…… 別名、海を征く者。巷で魚人と呼ばれる種族である。人魚族が半人半魚の姿である事に対し、こちらは顔も体も魚そのもので、さながら魚が二本の足を得て立って歩いている様である。主には、海洋に生息する魚類や魔魚達が人化した者達である為に、陸でも海でも呼吸が可能である。しかしながら、水と完全に切り離した生活は難しく、海辺で暮らす種族が多い。また、マーレ・ヴァンデアンという名で一括りにされてはいるが、確認されているだけでも数百の部族に分かれている為に、その種の多さは計り知れない。
-----+-----+-----
「彼らはソーム族。アーレイク島近海に生息する、青髭なまずを祖先に持つ魚人だよ。彼らが言うには、数百年ほど前からこの島で暮らしているらしい」
そう説明してくれたのは、航海士のライラだ。
ライラは、船の手摺りをギュッと握り締めて、桟橋で話し込むザサーク達を心配そうに見守っていた。
俺は、自慢のよく聞こえる耳を澄ませて、彼らの会話の内容を探る。
「そうは言うがガレッタ、ボナークが森に入ったのは五日も前らしいじゃねぇか。あの錯乱状態のハーピーが潜む森に五日間も……、本気で無事だと思ってんのか?」
ザサークが問い掛ける。
足を怪我して両脇を支えられている、あのピンク色の鱗の魚人が、ガレッタという者らしい。
他種族だから確証はないけれど、声の高さからして、なんとなく女の子っぽい。
「当たり前だ! ボナークさんは強い!! ボナークさんを馬鹿にするなっ!!!」
強い口調で言い返すガレッタ。
彼女に同調する様に、周りの魚人達も「そうだそうだ!」と手を上げる。
「そうは言ってもお前、いつ帰って来るのかも分からねぇんだろ? 町はこの有り様だし、お前だって……、足がその様じゃなぁ」
ザサークの言葉通り、ガレッタの足は地についてはいるものの、自力で歩く事は愚か立っている事すら難しい様子なのだ。
ガレッタだけじゃない、周りの魚人達もみな、多かれ少なかれ手傷を負っている。
また今夜、ハーピー達の夜襲があれば、今度こそ全員命を落としてしまうかも知れない。
「うるさいっ! こんなもの、昼には治すっ!!」
……ガレッタは、これまで根性論で生きてきたのだろうか?
そんな、見るからに使いものにならないその足が、昼には治るなんて到底思えない。
「ガレッタ、考え直しておくれよ。なにも、この島を捨てろと言っているわけじゃないんだ。一度避難して、島の状況が改善すれば戻れば良いんじゃないかい?」
ダーラが優しく声を掛けるも……
「ダーラまで何を言い出すんだっ!? ここはうちらの島だ、うちらの故郷だ! ちょいとやられたくらいで、おいそれと離れるわけにはいかないんだよっ!! 島の状況が改善すればだって? それはいったいいつの話だい?? 祖先が見つけてくれたこの島を、これまで作ってきた町を、捨てるわけにはいかないんだ……。ザサーク、ダーラ、付き合いの長いあんたらなら、うちらの気持ちが分かるだろう??? なのに、うちらの意思を尊重してくれないのかいっ!??」
怪我人とは思えない気迫で、ガレッタは叫ぶ。
これまで、魚の目ってこう、死んだ目って感じがあったんだけど……、それってきっと、料理に並ぶ魚を見ていたからそう思ってたんだろうな。
ガレッタや他の魚人達もそうなのだが、みな一様に大きな水晶の様なパッチリお目目をしていて、めちゃくちゃ目力が強いのだ。
あれだけ沢山の、目力ギンギンの目に睨まれちゃ、さすがのザサークも折れるしか無いんじゃ……?
「てめぇらは馬鹿かっ!? 命あってこそのものだろうがっ!?? 町を捨てるとか、島を捨てるとか、そんな事はなぁ、明日までてめぇが生き延びてから考えやがれっ!!!」
ひぃいっ!? ザサークが怒鳴ったぁあっ!!?
やっべ、こっわ……、おっかねぇぇぇぇ~。
ザサークは、獰猛なワニの口をこれでもかと大きく開いて、魚人達を威嚇する。
よく考えてみたら、ワニと魚とじゃ、どう考えてもワニに軍配が上がるはず……、と思ったのだが……
「何をぉっ!? うちらは三日前から襲撃を受けてるが、こうして生き延びてるじゃないかっ!?? 今日だって、明日だって、明後日も明々後日も、生き延びてやるさっ!!!」
ツルンツルンの魚類の目を見開いて、叫ぶガレッタ。
同調するように、「そうだそうだ!」と手を上げる魚人達。
なんていうか、話が全然前に進みそうにないな,
親切心で島から避難させたいザサーク達と、島を出たくない魚人達……、終着地点がまるで見つからない。
うん、面倒臭い構図だね。
「あそこまで言うなら、放っておけば良いのにね。生きるも死ぬも、彼らの好きにすればいいと思うわ」
彼らの会話が聞こえていたらしいグレコが、俺の言いたい事を俺より先に口走った。
全く同じ事を思っていた手前、批判するのは良くないだろうけど……、その言い方、めっちゃ冷たいね。
「そういうわけにもいかんじゃろうて。あの魚共は、この船の取引相手じゃろう? あいつらが死にゃあ、この島で得ていた利益が無くなっちまうわけじゃからのう。そうなりゃ儲けが減るでのぉ」
相変わらず思考回路が守銭奴なテッチャ。
その考えも一理あるとは思うけど、説得するザサークのあの必死具合から見て、お金云々なんかより、仲間を助けたいって気持ちの方が断然強いと思うけどな。
「……何故、カービィはあそこにおるのだ?」
え? ギンロ、何言って……、えぇっ!?
ギンロの言葉に船の真下を見下ろすと、そこには桟橋に降り立つカービィの姿があるではないか。
どうやら、船のへりから垂れ下がっていたロープを伝って降りたらしいが……
「もう、あの馬鹿……、何考えてるのかしら?」
額に手を当てて苦笑し、項垂れるグレコ。
何やってんだよカービィ!?
どこ行くんだよっ!!?
何するつもりっ!?!?
テクテクと、ザサークや魚人達に近付いていくカービィ。
「ポポ? 何か騒がしいと思ったら……、何があったポか??」
ナイスタイミング(?)で登場するノリリア。
出発の準備を終えたらしい騎士団のみんなも、順番に甲板へと姿を現している。
「ノリリア、それが……」
俺が事の経緯を説明しようとした、その時だった。
「なぁ、ボナークは五日前に森に入ったんだよな? その時に何か言ってなかったか??」
挨拶も無しに、ザサークと魚人達の会話に横やりを入れるカービィの声が耳に届いた。
緊張感のない、ヘラヘラとしたいつもの調子で。
「誰だいあんたっ!?」
すぐさまガレッタに睨まれるカービィ。
「おいらはボナークの仲間さ。正直、おまいらが島を出るとか出ないとか……、そんな事、おいら達はどうでもいいんだ。けどボナークは必要だ。あいつがおいら達の到着を待たずに、単身で森に入った理由が知りてぇ。何しに行ったのか、知らねぇか?」
……まるで、これまでの説得が無意味だったかのようなカービィの言葉に、ザサークもダーラも、まだ一言も発していないビッチェでさえも、額に青筋を立てている事だろう。
けれどもまぁ、カービィの言葉はあながち間違っちゃいない。
俺達の目的は、この町に住む魚人達を救う事じゃなく、この島の現地調査員であるボナークと合流して、アーレイク・ピタラスの墓塔を目指す事なのである。
ハルピュイア達の襲撃の理由とか、それを止める事とかは、二の次三の次というか……、極論、俺達には何ら関係ない事だろう。
……と、思ったのだが。
「ボナークは、ハーピー達の異変にいち早く気付いてたんだ。だから森に入った。入る直前に聞いたんだ、何が起きているのかって。そしたら、額に角を持つ黒い翼の見慣れない鳥が、ハーピー達を狂わせてる、そいつをどうにかしなきゃいけないって……、ボナークはそう言ってたよ」
ガレッタの言葉に、俺は沈黙した。
額に角をもつ、黒い翼の、見慣れない鳥……、だと……?
すると、カービィはくるりとこちらに向き直り、そして……
「お~い! やっぱり、この島にも悪魔がいそうだぞぉ~!?」
両手をブンブンと振りながら、大声で、カービィは俺達に向かってそう告げた。
ニヤニヤと、締まりのない笑顔で。
甲板に上がってきていた騎士団メンバーの全員が、カービィの言葉を耳にして、ピタリと動きを止める。
きっとみんな、心の中でこう思っているに違いない……
マジかぁっ!? って。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
482
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる