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★ピタラス諸島第五、アーレイク島編★
621:裏話
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ユッサユッサ、ユッサユッサユッサ
うむ、大変に心地良い揺れである。
少々獣臭いのはさておき、痛め付けられた体を労るには十分だ。
ギンロの背中は、かくも快適なものであったのか。
よし、今度から、疲れた時は遠慮なくおぶってもらう事にしよう。
ギンロの背の上で、顎をその肩に乗せた超絶リラックス体勢の俺は、正しい位置には戻ったもののまだ随分と痛む両肩の力を抜いて、ダラーンと腕を下に垂らしたまま、土臭くて暗い通路を進んでいた。
「それじゃあ、捕獲師っていうのは、その《非言語魔族》と呼ばれる言葉を持たない種族と、絆と呼ばれる契約を結ぶ事で捕獲を可能にして……、つまり、魔物を仲間にする事の出来る者って事ね?」
グレコが尋ねる。
「んだ。大事なのはぁ、仲間にするっちゅ~とこだっけ。捕獲は狩猟とは違うだ、魔物を傷付けちゃならねぇだど。非言語魔族故に勿論言葉は通じねぇだが、あの手この手で対話を試みるっけよ。わしゃこれまで、たっっっくさん! の、いろぉ~~~んな! 魔物を捕獲してきただど~。この島に連れて来たのは一匹だども、国のわしゃの家にゃ~、ザッと千体は暮らしとるだどぉ~♪」
なっ!? 千体もっ!??
「そっ!? そんなにっ!?? 凄いわねぇ……」
グレコの驚き方は、どちらかと言うと、感心したというよりも引いているな。
千体って……、小規模な村よりも密度高いんじゃないか?
「なははっ! おまい、なんだかんだ金持ちだもんなぁ~!? あんだけ広い屋敷がありゃ、千体でも二千体でも飼育可能だよなぁ~!!!」
ほほう? ボナークはお金持ちなのかね??
身なりが小汚い……、いや、冒険慣れしてる格好だから、お金持ちには到底見えないな。
「んまぁ~片田舎だけぇ、土地が安かったんだど。だどもカービィ、今の言葉は聞き捨てならねぇっけ。あいつらはわしゃの家族だど。飼育とかいうなっけ、一緒に暮らしているっで言え~」
「おお、そっかそっか! 悪かった!!」
やんわり怒るボナークと、ヘラヘラと謝るカービィ。
すると、前方を行くアイビーが……
「ボナークさん! 次はどっちですか!?」
立ち止まり、先端に光を灯らせた杖を手に、こちらを振り返った。
見ると、アイビーの前では通路が左右二手に分かれている。
「右だどぉ~。その次は左に二回曲がってっけぇ~」
「了解しました」
ボナークの言葉通り、アイビーは右側の通路を選んで進み始める。
みんなもその後に続いた。
……てかさ、ボナークが先頭行けば良くない?
こんな最後尾に近い場所で、俺達と談笑しながら歩いていていいわけ??
仮にもこの島の現地調査員なんでしょ???
と、心の中で思ったが、体が本調子じゃないから会話に参加するのが面倒なのと、ボナークの訛り全開の言葉を聞き取るのも面倒なので、俺は沈黙を貫く。
先頭にアイビー、その後ろを騎士団のメンバー、更にその後ろをザサークとビッチェ、更に更にその後ろをボナークとグレコとカービィと、そして俺を背負ったギンロが歩く。
ボナークが五日間ぶっ通しで掘り続けたという、ユーザネイジアの木まで続くこの長く長~い地下通路は、クネクネとした迷路のような作りになっていた。
何故にこんなに複雑に作ったんだ?
真っ直ぐに掘った方が最短距離なのでは??
迷路にしたその意図は???
と、俺は不思議に思ったが、誰もその点については疑問を呈さなかったので、俺はやはり黙っていた。
「確認だが、本当に悪魔なのか? ユーザネイジアの木にいる黒い鳥ってのは」
カービィが尋ねる。
「んだ、あいつは悪魔に違いねぇだど。あんなに邪悪な魅力に溢れた魔物なんでぇ、わしゃ見た事も聞いた事もねぇっけ。ゾクゾクするだぁ~♪」
……よく分からないけど、なんだか楽しそうなボナーク。
「その……、どうして悪魔を捕獲しようと? 正直、私達はみんな、ここに至るまでに色々と危険な目に遭って来たから、悪魔なんて恐ろしい存在を仲間にしようだなんて……。とてもじゃないけれど、理解出来ないわ」
グレコにしては言葉を選んだ方だろう。
さすがに、初対面の相手に対して、頭がおかしいんですか? と問い掛けられるほど、グレコは不躾では無いのだ。
「さっきも言うたよぉ~に、元を辿れば、悪魔だて普通の魔物と変わりねぇだど。同じ魔族だっけ、解り合えねぇはずがねぇ!」
……めっちゃ良い事言ってるような顔してるけど、周りの誰も首を縦に振らないのは、君が間違っているからだよボナーク君。
そもそも、生まれた世界が違うだけ~とか、そこが大問題なのではないのかね?
しかも、悪魔と呼ばれるだけあって、これまで会ってきた奴らは尽く卑劣で残忍な輩だったんだぞ??
そんな奴らを仲間にしようだなんて……、理解出来るわけないじゃないか。
「前から気になってたんだが、おまいのそのめちゃくちゃな理論は何の影響なんだ? おいらがフーガにいた頃、何人かの捕獲師に聞いてみたんだけど、悪魔を捕獲しようだなんて阿呆な事を考えている奴は、おまいを除いて誰一人としていなかったぞ?? 何を根拠にそうなってんだ???」
うむ、カービィにしては至極まともな事を言っていると思う。
だけど、ボナークに対しては余りに失礼な物言いだ。
阿呆な事って……、まぁ俺もそう思うけどさ。
けど本人を目の前にして言う事じゃ無いと思うんだ、うん。
ボナークが怒るんじゃないかと心配したが……
意外にもボナークは、余裕綽綽な様子でフフンと笑ってみせた。
「これだっけぇ~、最近の若造はなっとらんだど。たかだか十数年生きただけでぇ、世の中の全てを知った気になっとるとは、浅はかだっけ。この世に存在する者がみんなぁ~、全てがきっちりと、正義と悪に分けられるわけがねぇだっけ。例え、悪魔と呼ばれる種族に生まれたとしてもだ、行いが正しい奴もいるだど。正しい事をしておるに、そいつを悪魔だと決め付けてぇ~、そいつ自身の本質を見ねぇのは実に勿体ねぇだどぉ~。それにだ……、カービィ、おめぇさ今、根拠がどうとか言ってたっけ?」
「んだ、言った」
「んまぁ、ずぅ~っと昔の事だっけ、知らねぇ~でも無理はねぇが……。お国の歴史ぐらいはぁ~、ちゃ~んと勉強した方がいいだど」
「国の歴史? どこの国だ??」
「フーガだっけ。フーガ建国の逸話は知ってるっけ?」
「フーガ建国の話? 建国って言えば……、あれだろ?? 銀竜フーガが国を興したってあれだよな??? その時代に、迫害されていた種族達をかき集めて、逃げ場となる国を作ったのが、魔法王国フーガの始まりだろ????」
ほほう、フーガはそういう国だったのか。
つまり、他国で迫害を受けていた者達が亡命してきて出来た国、って事かな?
それをまとめたのが銀竜フーガ。
……なんか、カッコイイ響きだな、銀竜フーガって。
二つ名なのか、それとも本当に竜だったのかな??
「そうだど。しかしだ、それは表向きの逸話だっけ、学校なんぞはその程度の事しか教えてくれねぇだど。実はなぁ、その逸話にはちょいと裏話があるっけよ。銀竜フーガの生まれと、その育ての親の話だど」
「裏話? そいつは知らねぇな」
興味津々な表情になるカービィと、得意げに笑うボナーク。
そして彼はこう言った。
「フーガ建国の父、銀竜フーガ、その育ての親はだ……。なんと、悪魔だったんだっけぇ」
にんまりと笑うボナーク。
「えぇえっ!? それ本当かっ!!?」
驚くカービィ。
訝しげに、眉間にシワを寄せるグレコ。
残念ながらギンロの表情は見えません。
そして、俺はと言うと……
はぁあっ!? 建国の父の育ての親が悪魔だと!??
つまり、フーガは悪魔の国だって事っ!?!?
(いや、そうではないだろっ!?)
到底理解出来ないボナークの話、予想だにしなかったその真実に、背筋に悪寒が走るのを感じていた。
うむ、大変に心地良い揺れである。
少々獣臭いのはさておき、痛め付けられた体を労るには十分だ。
ギンロの背中は、かくも快適なものであったのか。
よし、今度から、疲れた時は遠慮なくおぶってもらう事にしよう。
ギンロの背の上で、顎をその肩に乗せた超絶リラックス体勢の俺は、正しい位置には戻ったもののまだ随分と痛む両肩の力を抜いて、ダラーンと腕を下に垂らしたまま、土臭くて暗い通路を進んでいた。
「それじゃあ、捕獲師っていうのは、その《非言語魔族》と呼ばれる言葉を持たない種族と、絆と呼ばれる契約を結ぶ事で捕獲を可能にして……、つまり、魔物を仲間にする事の出来る者って事ね?」
グレコが尋ねる。
「んだ。大事なのはぁ、仲間にするっちゅ~とこだっけ。捕獲は狩猟とは違うだ、魔物を傷付けちゃならねぇだど。非言語魔族故に勿論言葉は通じねぇだが、あの手この手で対話を試みるっけよ。わしゃこれまで、たっっっくさん! の、いろぉ~~~んな! 魔物を捕獲してきただど~。この島に連れて来たのは一匹だども、国のわしゃの家にゃ~、ザッと千体は暮らしとるだどぉ~♪」
なっ!? 千体もっ!??
「そっ!? そんなにっ!?? 凄いわねぇ……」
グレコの驚き方は、どちらかと言うと、感心したというよりも引いているな。
千体って……、小規模な村よりも密度高いんじゃないか?
「なははっ! おまい、なんだかんだ金持ちだもんなぁ~!? あんだけ広い屋敷がありゃ、千体でも二千体でも飼育可能だよなぁ~!!!」
ほほう? ボナークはお金持ちなのかね??
身なりが小汚い……、いや、冒険慣れしてる格好だから、お金持ちには到底見えないな。
「んまぁ~片田舎だけぇ、土地が安かったんだど。だどもカービィ、今の言葉は聞き捨てならねぇっけ。あいつらはわしゃの家族だど。飼育とかいうなっけ、一緒に暮らしているっで言え~」
「おお、そっかそっか! 悪かった!!」
やんわり怒るボナークと、ヘラヘラと謝るカービィ。
すると、前方を行くアイビーが……
「ボナークさん! 次はどっちですか!?」
立ち止まり、先端に光を灯らせた杖を手に、こちらを振り返った。
見ると、アイビーの前では通路が左右二手に分かれている。
「右だどぉ~。その次は左に二回曲がってっけぇ~」
「了解しました」
ボナークの言葉通り、アイビーは右側の通路を選んで進み始める。
みんなもその後に続いた。
……てかさ、ボナークが先頭行けば良くない?
こんな最後尾に近い場所で、俺達と談笑しながら歩いていていいわけ??
仮にもこの島の現地調査員なんでしょ???
と、心の中で思ったが、体が本調子じゃないから会話に参加するのが面倒なのと、ボナークの訛り全開の言葉を聞き取るのも面倒なので、俺は沈黙を貫く。
先頭にアイビー、その後ろを騎士団のメンバー、更にその後ろをザサークとビッチェ、更に更にその後ろをボナークとグレコとカービィと、そして俺を背負ったギンロが歩く。
ボナークが五日間ぶっ通しで掘り続けたという、ユーザネイジアの木まで続くこの長く長~い地下通路は、クネクネとした迷路のような作りになっていた。
何故にこんなに複雑に作ったんだ?
真っ直ぐに掘った方が最短距離なのでは??
迷路にしたその意図は???
と、俺は不思議に思ったが、誰もその点については疑問を呈さなかったので、俺はやはり黙っていた。
「確認だが、本当に悪魔なのか? ユーザネイジアの木にいる黒い鳥ってのは」
カービィが尋ねる。
「んだ、あいつは悪魔に違いねぇだど。あんなに邪悪な魅力に溢れた魔物なんでぇ、わしゃ見た事も聞いた事もねぇっけ。ゾクゾクするだぁ~♪」
……よく分からないけど、なんだか楽しそうなボナーク。
「その……、どうして悪魔を捕獲しようと? 正直、私達はみんな、ここに至るまでに色々と危険な目に遭って来たから、悪魔なんて恐ろしい存在を仲間にしようだなんて……。とてもじゃないけれど、理解出来ないわ」
グレコにしては言葉を選んだ方だろう。
さすがに、初対面の相手に対して、頭がおかしいんですか? と問い掛けられるほど、グレコは不躾では無いのだ。
「さっきも言うたよぉ~に、元を辿れば、悪魔だて普通の魔物と変わりねぇだど。同じ魔族だっけ、解り合えねぇはずがねぇ!」
……めっちゃ良い事言ってるような顔してるけど、周りの誰も首を縦に振らないのは、君が間違っているからだよボナーク君。
そもそも、生まれた世界が違うだけ~とか、そこが大問題なのではないのかね?
しかも、悪魔と呼ばれるだけあって、これまで会ってきた奴らは尽く卑劣で残忍な輩だったんだぞ??
そんな奴らを仲間にしようだなんて……、理解出来るわけないじゃないか。
「前から気になってたんだが、おまいのそのめちゃくちゃな理論は何の影響なんだ? おいらがフーガにいた頃、何人かの捕獲師に聞いてみたんだけど、悪魔を捕獲しようだなんて阿呆な事を考えている奴は、おまいを除いて誰一人としていなかったぞ?? 何を根拠にそうなってんだ???」
うむ、カービィにしては至極まともな事を言っていると思う。
だけど、ボナークに対しては余りに失礼な物言いだ。
阿呆な事って……、まぁ俺もそう思うけどさ。
けど本人を目の前にして言う事じゃ無いと思うんだ、うん。
ボナークが怒るんじゃないかと心配したが……
意外にもボナークは、余裕綽綽な様子でフフンと笑ってみせた。
「これだっけぇ~、最近の若造はなっとらんだど。たかだか十数年生きただけでぇ、世の中の全てを知った気になっとるとは、浅はかだっけ。この世に存在する者がみんなぁ~、全てがきっちりと、正義と悪に分けられるわけがねぇだっけ。例え、悪魔と呼ばれる種族に生まれたとしてもだ、行いが正しい奴もいるだど。正しい事をしておるに、そいつを悪魔だと決め付けてぇ~、そいつ自身の本質を見ねぇのは実に勿体ねぇだどぉ~。それにだ……、カービィ、おめぇさ今、根拠がどうとか言ってたっけ?」
「んだ、言った」
「んまぁ、ずぅ~っと昔の事だっけ、知らねぇ~でも無理はねぇが……。お国の歴史ぐらいはぁ~、ちゃ~んと勉強した方がいいだど」
「国の歴史? どこの国だ??」
「フーガだっけ。フーガ建国の逸話は知ってるっけ?」
「フーガ建国の話? 建国って言えば……、あれだろ?? 銀竜フーガが国を興したってあれだよな??? その時代に、迫害されていた種族達をかき集めて、逃げ場となる国を作ったのが、魔法王国フーガの始まりだろ????」
ほほう、フーガはそういう国だったのか。
つまり、他国で迫害を受けていた者達が亡命してきて出来た国、って事かな?
それをまとめたのが銀竜フーガ。
……なんか、カッコイイ響きだな、銀竜フーガって。
二つ名なのか、それとも本当に竜だったのかな??
「そうだど。しかしだ、それは表向きの逸話だっけ、学校なんぞはその程度の事しか教えてくれねぇだど。実はなぁ、その逸話にはちょいと裏話があるっけよ。銀竜フーガの生まれと、その育ての親の話だど」
「裏話? そいつは知らねぇな」
興味津々な表情になるカービィと、得意げに笑うボナーク。
そして彼はこう言った。
「フーガ建国の父、銀竜フーガ、その育ての親はだ……。なんと、悪魔だったんだっけぇ」
にんまりと笑うボナーク。
「えぇえっ!? それ本当かっ!!?」
驚くカービィ。
訝しげに、眉間にシワを寄せるグレコ。
残念ながらギンロの表情は見えません。
そして、俺はと言うと……
はぁあっ!? 建国の父の育ての親が悪魔だと!??
つまり、フーガは悪魔の国だって事っ!?!?
(いや、そうではないだろっ!?)
到底理解出来ないボナークの話、予想だにしなかったその真実に、背筋に悪寒が走るのを感じていた。
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