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第85話 アンデッド

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 もう一度言うが、俺はアンデットというか、お化けとか幽霊の類は苦手だ。

 こういうゾンビなんか特に苦手である。

 だから、びっくりしすぎて、声も上げる間もなく腰を抜かしても、おかしくはないのだ。

「マスター!」
「ゼンジ様!」

 俺が腰を抜かしている間、レヴィとベルフェが前に出てきて、ゾンビどもを退治していく。

 物凄くあっさりと倒していった。強さ自体はゴブリンとあんまり変わらないようだ。こんなにビビる必要なかったようだな……

「ふん、腰を抜かすとは。情けないな」

 後ろからシューシュが俺を罵倒する。

 確かに今の俺は情けないが……

 シューシュも俺と同じく腰を抜かして、ブルブル震えながらへたりこんでいた。

「シューシュさんには言われたくないのですが」
「こ、これはリビングデッドどもにビビったのではない。貴様の情けなさに驚いて、腰を抜かしたのだ」
「あまりにも無理がある言い訳だ!」

 そのあと、何とか立ち上がる。
 シューシュは立ち上がるのに、少し時間がかかった。

 改めてゾンビを見てみると、正直グロい。
 ベルフェとレヴィが再起不能にしたことで、よりグロい姿になっている。

 てか、よく考えたらこれ人間の死体なんじゃないか?
 ゴブリンの死体なら平気になってきたが、人間は……

 か、考えないようにしよう。
 このゾンビは人間の死体が動いているのではなく、単にこういう生物なんだ。きっとそうだ。

 先ほどまで腰を抜かしていたシューシュが、ゾンビの死体……残骸と言った方がいいか、に近付いていった。

 そして、興味深そうに観察を始める。

「リビングデッド……やはり話は本当だったか。ゼンジ、リビングデッドが出来る要因を知っているか?」

 リビングデッドって確かゾンビと似たような、動く死体のことを言うんだったよな。

「知りませんけど。あの怖いんじゃないんですか?」
「動かないなら怯える必要は……我は最初から怯えてなどいない」

 めちゃくちゃ強がっている。

「リビングデッドが発生する要因は、主に二つだ。闇魔法による魔法、それか屍術師という、錬金術師から派生した、屍を弄り動かす術を使う連中の仕業だ。自然発生は絶対にしない」
「アナホムが作ったんですか?」
「だろうな。このリビングデッドを見る限り、魔法を使った痕跡はない。となれば、屍術によるものと考えて間違いないだろう。アナホムは屍術を研究して、人間を生き返らせようとしたのだろうな」
「となると、ここの遺跡にある知識は屍術に関するものなのでしょうか?」

 屍術の知識ってのが、どのくらい価値があるものだろうか? 一般人にはあんまり役に立ちそうにないが。

「屍術の知識でも必要と言えば必要だ。屍術師のように後ろ暗い研究をしている奴らは、外部に情報を漏らさんからな。ただ出来ればほかの知識も欲しいな。最終的に屍術に到達しただけで、しれ以前に色んな研究をしていたかもしれんし、屍術に関する研究結果だけがあるとは限らんだろう」

 シューシュは冷静に分析した。

「あの、ところでこの死体は、元は生きていた人間だったのでしょうか?」
「何を当たり前のこと聞いてる」

 やっぱそうなんだな……
 なるべく視界には入れないようにしておこう。直視したら吐いてしまうかもしれん。
 しかし、シューシュは平然と見てるが、よく見れるな。
 平穏な日本と、異世界ではグロに対する耐性が、全く違うのだろうか。それとも、死体の解剖をしたことがあったりするのだろうか。

 すると突然、動かなくなったと思われたリビングデッドの残骸が、がたがたと動き始めた。

「ひゃあああ!!」

 可愛い悲鳴を上げて、シューシュは後退して、俺にしがみついてきた。

 リビングデッドの残骸は震えただけで、再び立ち上がって襲ってくるようなことはなかった。

「大丈夫のようですよ。しかし、意外と可愛い悲鳴を……」
「今のは我の悲鳴ではない! あとしがみついたのも、腰抜けの貴様が怯えていないか心配になったからだからな!」

 相変わらず強がりまくっているが、なんか可愛く見えてきた。

「マスターにしがみつくな。しがみつくなら、ボケ女にしろ」
「は、はい……」

 レヴィの迫力に押されて、シューシュは俺から離れてベルフェにしがみつきにいった。どうも、レヴィの事怖がってるみたいだな。

 それから遺跡の中の探索を続ける。

 リビングデッドは結構出てきた。
 俺は何回か出てきたら、多少は慣れてきた。
 それでも、出てくるときは心臓が飛び跳ねるくらい早く動くが、天使のマリオネットを使って戦闘に参加するくらいは出来る。

 ちなみにシューシュは、まだ腰が抜けるようだ。
 この人を守りながら進むのは、少々難易度が高いかもしれない。

 遺跡を探索すると、ベッドがたくさんある部屋にたどり着いた。

「いったん休憩しよう……」

 グロッキーな様子のシューシュがそう言った。
 こんなところで寝れるのか気になるが、まあ、疲れているし休憩は必要だろう。

「そうしますか」
「決まりだ……」

 シューシュは何の躊躇もなくベッドに寝ころがった。
 抵抗感とかないようだな。

 いつの間にかベルフェもベッドに寝ていびきをかきだした。こいつはベッドを見たら寝なきゃ気が済まないようだ。

 俺は寝るのは抵抗があったので、座るだけにした。ベッドに腰を掛ける。

 カラン。

 座った瞬間、変な音が鳴り響いた。

 何かを確認する。

 骨だった。

 たぶん人間の骨。

 速攻で立ち上がって、別のベッドを探す。

 今度は念入りに骨が無いと確認して、座った。

 俺の隣にレヴィが当たり前のように腰を掛ける。

 びっくりした……骸骨があるなんて……

 ここどういう場所なんだろ。死体を置くところとか?
 仮にそうなら、骸骨がなくともとんでもない場所に、座っていることになるが。

 あまり深く考えないでおこう。

「何でしょうか? ゼンジ様に御用でしょうか」

 いきなり中級ホムンクルスの声が聞こえた。

「私とお話ですか? 残念ながら私はホムンクルスですので、大したお話は出来ません。ご容赦ください」

 ……会話相手の声が聞こえないというか……え? てかまじで誰と話してんの?

 シューシュとベルフェは寝てるし、レヴィは隣だよね。

 嫌な予感を感じて、中級ホムンクルスのいる場所を見る。

 そこには透けている、足のない女性の姿があった。
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