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初めての外出
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「いらっしゃいませ~ツルコマへようこそ~」
今、俺は、道内のみで展開している、地元人御用達コンビニ、『ツルコマ』に来ている。
田舎のほうとか、オーナー権限で、とか、『ツルコマ』の営業時間は、通常6:00~0:00までとなってるが、都会の中でも繁華街に近いと、24時間営業していたりする。
そんなコンビニに、夜中の2時過ぎだと言うのに、2人組が手を繋ぎ仲良くやって来た。
「ふぅ。着いたのね。タクマさん、フード外して良いかしら」
店内には店員以外誰も居ない。普段は2,3人ほど居るのだが、その日の夜は-20℃を軽く超えてたので、外出する人が居なかったのだ。
店員は、「この寒空で外出なんて、彼女さんガッツが有りますね」と、声を掛けた。そして女のほうを見て硬直した。
入店時はフードを被っていたため、線の細さから「女性かな?」と、思っていたが、「タクマさん、もう外して良いかしら」と、鈴の鳴るような声が聞こえたため、「やっぱり女性だった」と確証を得たので、「彼女さん」と言ったのだ。
今の世の中、男女関係なく手を繋いで店を訪れる人達が多いから、『手繋ぎ』だけでは『男女』だと判断できないのだ。
そうして確証を得たところで声を掛け、商品の陳列棚から視線を客に向けて吃驚し硬直した。
拓磨「ははっ。全くです。寒いって言ってんのに行くって駄々捏ねるもんで。
外しても良いよ。あ、店ん中すべるから気を付けろよ。手離すぞ」
「まぁ!失礼しちゃうわ。駄々っ子じゃなくってよ?
またすべるのはイヤだわ。さっきも転んでしまって、お尻が痛いのよ。手は繋いでて下さいません事?」
「タクマ」と呼ばれた男性のほうは見た事があると思った。「長身のイケメン学生」バイトの女の子がそう言って「キャーキャー」言ってたから。
ただ、女の子の方。こんな子は知らない、見た事ない。それは、「店で」では無く、人生においてだ。
銀糸の髪に、ピンクに金が混じったような眼、透き通るような白い肌、表情がないからパッと見『人形』みたいだ。
アイドルにもこんな造形美をした人なんていない。まるで漫画やアニメの世界から抜け出してきたような女の子。
だから、吃驚して硬直した。男性の方が、「未成年の夜中の外出、大目に見てください。すみません」と、言っていたが、未成年だから驚いてるわけじゃない。
「あ、ああ。親御さんが心配するから早めに帰りなさい」と、一応返事はしたが、口から出る言葉は無意識だった。長年染み付いた店員としての言葉だ。本当は思考停止していた。
拓磨「ジュリエッタ、こっち。ここが菓子パンコーナー。向こうがサンドイッチな。どれにする?」
「凄いわ!食べ物が何かに包まれて売ってるのね!パンだけで何種類あるの!もぅ、もぅ、決められないわ……
タクマさんが「コレ」というのを選んで下さいませんか?わたくしじゃ目移りしちゃって、時間が掛かるもの……」
拓磨「くくく。目がキラッキラしてんな。「コレ」っていうのか……面倒くせぇから適当に買うか。あ、俺ホット調理のスパイシー唐揚げ買おう。ジュリエッタもいる?」
「まぁ、これはお肉?タクマさんのを貰うわ。良いでしょ?一杯は食べられないもの。あ!手は離しちゃダメよ」
拓磨「いや、両手使わんと取れないだろ。一瞬だけ待て。な?」
商品を取ろうと、繋いでる手を離そうとしたら、ガシッと掴まれた。(離しちゃダメって…はぁ…)
手を離さなきゃ商品取れないからと、離してもらった。ホットケースを開け、唐揚げを手に取り、カゴに入れてから、「ほら手」とまた手を繋ぎ、次の商品棚へ。
拓磨「あとは飲み物は家にあるから、洗顔フォームとジュリエッタの下着な」
「洗顔用の石鹸ね!下着がこのような場所で購入出来るんですのね……ニホンというのは素晴らしいわ!」
拓磨「素晴らしい……そうだな。日本は先進国だからな。そして、安全だし住みやすい。
あ、明日さ、街に出て服とか、ちゃんとした下着とか買おうな。寝間着も必要だろ?
で、時間あったらジュリエッタの国籍とか戸籍を作るのに父さんの所に行くから」
「え……でも、わたくしお金が……あと、コクセキトカコセキってなんですの?」
拓磨「金の心配はするな。大丈夫だから、な?俺に任せとけ。国籍と戸籍は、ん~。この国の人間です、身元はハッキリしてます、というのを証明する物。で、それがあれば学校行ったり、バイトしたり、家を借りたり出来るってこと。逆に無いと密入国とかの罪に問われて拘留されたりするんだ。学校にも通えないしな」
「貴族籍みたいな物かしら。学校……学園かしら?バイトは分からないわ……家を借りる?わたくしタクマさんと離れるのはイヤよ。一緒に居たいわ……」
拓磨「は!?え、あー、その。そっか、一緒に……(マジか。俺のこと好きなの?いや、不安なんだな)ジュリエッタ、その話は後でしよう。まずは買い物終わらせよう」
「……はい」
(あー!落ち込んでる。もう泣きそうじゃん!ちょ、急げ急げ!)
そしてレジで買い物を済ませ、ボーッとしてる店員にイライラしながら、購入した袋を抱え、ジュリエッタの手を取り急いで店を出た。
そんなボーッとしてた店員は、彼らがいつ店を出たのか覚えていなかった。それだけ衝撃を受けていた。
我に返ったのは暫く経ってからだった。「なんだあの人形ぉぉお!!!」と、夜中のコンビニ内で叫んだ声は、寒空の下でよく響いた。
外に出たタクマは焦ってた。ジュリエッタの目から、今にも涙が零れ落ちそうになってる。
コンビニから家まで30分。雪が積もってるから更に時間が掛かる。雪道に慣れていないジュリエッタが居るから更に掛かる。
(どっか入れる店あったかな。いや、未成年だからネカフェも無理だし……ラブホが近くにあるけど……18禁だっけ?身分証提示義務とかあんのか?無いなら年齢誤魔化して入れる……いや、法律違反はダメだ)
拓磨「あ、タクシー呼ぶか!」
店舗の壁に身を預け、ジュリエッタを自分のコートで包み込み、スマホを操作してタクシーを呼んだ。
たまたま近くに居たらしく、一台がすぐ来てくれた。ジュリエッタを乗せるのに、コートから出そうと前を開いたんだけど、抱きついて離れない。
「おやおやお熱いねぇ」とか運ちゃんに揶揄われながら、「ジュリエッタ一旦離れてくれ。車に乗るから」そう言ってベリっと無理やり剥がし、漸く2人で乗り込んだ。
行き先を告げ、発進したのを確認してから「はぁぁぁ」と長い息を吐き出した。
隣をチラッと見たら、さっきまでの泣きそうな表情から一変し、目をキラキラさせて車内や窓の外を見て興奮していた。
「現金なヤツ……」そう呟き目を閉じた。暖かい車内にホッとし、身体の力を抜いたのがいけなかった。眠気に襲われ、家まで数キロの距離を寝てしまった。
気付けば家の前で、運ちゃんとジュリエッタに揺すられていた。「あ、すいません。寝てたわ。支払いはカードで……」
支払いを済ませ車外に出たら、そこは極寒の地だった。去って行くタクシーに背を向け家に入ろうとしたら、ジュリエッタがコートの前を開け入って来て抱きついた。
もう……なんなのこの可愛い生き物……これ、もう、俺のこと好きじゃね?って、勘違いするって……
ジュリエッタもコート着てるのに、胸の主張が凄い!めっちゃ腹に当たってる!油断したら息子がぁぁ……
「無になろう」そう呟き、ジュリエッタを抱きつけたまま家へと入った。
靴を脱ごうと、「ジュリエッタ、家に着いたから」と、声を掛け前を開いたら、顔を赤くし俺を見上げてる美少女が、「あ、あの、お腹に硬いのが……」ってさぁぁあ!!
もう、理性プッツン。耐えられませんでした。
玄関で、小さいプルプルな唇を奪った。それはもう獣のように。最初は吃驚して藻掻いていたが、段々と力を抜き身を預けてきた。
どのくらいそうしていたのか、気付いたら肩で息をしていた。
「俺は謝らねぇぞ。お前が可愛いのが悪い」そう言って、へたり込んだジュリエッタを横抱きにして風呂へと直行した。
拓磨「身体冷えたろ。風呂入って温まっといで。上がったらТシャツ着て俺の部屋来いな」
呆然としているジュリエッタを風呂へと促し、「ちょっとやり過ぎた悪い」と告げ、拓磨は2階のシャワー室へ。
「謝らない」とか言ったが、激しい自己嫌悪に陥っていた。「やっちまったぁー!」と、熱いシャワーを頭から被り、一度スッキリしてから全身くまなく洗った。
そしてまた自己嫌悪。シャワー室の中では、「はぁぁ」という長い溜め息と、水音が暫く響いていた。
一方、脱衣場にポイッとされたジュリエッタは、呆然としたまま服を脱ぎ、タクマの説明通りにシャワーを出したり、シャンプーで髪を洗ったりしていた。
一通り終わったところで、先に温めておいた湯船に浸かった。冷えた身体に適温の湯が気持ち良い。
漸くホッと息を吐いたところで、唇を指でなぞり、タクマにされた口付けを思い出していた。
激しくて、そのまま食べられると思った。「凄かった…」呟いた途端、自分の顔が赤くなっていくのが分かった。ポッポする。
「口付けは、婚姻する男女が愛を確かめ合う時にする行為……そう授業で習ったわ。
それと、婚姻を結んだ男女は、閨の前に湯浴みをするとも…そして初夜を迎えるのよね…
タクマさんは、わたくしと閨をしようとしてる?どうしましょう…」
湯船で一人呟きながら、ジュリエッタは悶々としていた。「婚約者ではないのに口付け…」とか、「いま湯浴み中だからこのあと閨…」と、ブツブツと呟いていた。
でもその常識は、自分の世界でのことであって、ニホンは違うのでは?と考えた。
クラウン王国では、貴族の婚約や婚姻、男女の接吻や閨事には決まりがあるが、平民は違うのだと聞いた事がある。
ニホンには貴族制度が無い。全員が一般市民だとタクマは言っていた。ようは、平民しか居ない国。
なら、自分の知る男女の常識は、この国では当てはまらないのでは?と考えた。
だから、タクマが口付けをしたのも、婚約や婚姻の前行為ではないのでは?と。なら何故したのか?
それをグルグルと考えていた。風呂で。暑くなってきた、頭がボーッとする。「のぼせたわね」
まずいと思い、風呂から上がった。一瞬クラっと立ちくらみをしてしまったが、
「また倒れてタクマさんに迷惑を掛けるわけにはいかない!」と叱咤して、ゆっくりと脱衣場に行き、
フワフワのタオルに感動しながらテーシャツに袖を通した。ズボンを履こうとしたが辞めた。冷えてたから。
「喉が渇いたわ。お水を頂いて良いかしら…」
厨房へ行き、グラスを探し、水を一杯だけ飲んで喉を潤し、「使用済のグラス…置いとけないわね」と、使ったグラスを持ち、若干フラフラするので、ゆっくりとタクマの部屋へ向かった。
部屋までの通路でタクマと鉢合わせしてしまった。顔を合わせた瞬間、口付けを思い出してしまい、恥ずかしくなって頬を手で抑えた。
「ははっ、可愛い」と言われてしまったわ。嬉しかったけど、いたたまれなくて、無意識に抱きついてしまったわ。
「は?え?」と戸惑った声が上から聞こえたけど、顔が上げれなかったの。
「はぁぁ。全く、誘ってんのか?」と言いながら横抱きにされ、部屋のベッドに降ろされた。
(や、やっぱり閨を?)と、ドギマギしてたら頭を撫でられ、「怖がらせて悪い。襲わないから大丈夫だ」と言われた。(タクマさんは紳士ね。とても優しいわ)
ちょっぴり残念?に思いながら、『コンビニ』で購入してきた物を一緒に食べた。
パンが柔らかくてとても美味しかった。ミルクも雑味が無くて飲みやすかった。『からあげ』というのは油っこくて口に合わなかったわ。
食べ終わったあと、『ハミガキ』というのをして、口の中がサッパリしたところで、「寝るか」と言われた。
拓磨「この部屋で寝て。俺は父さんの部屋で寝るから」
そう言って出て行こうとしたので引き止めた。だって心細いんだもの。『同衾』はダメだと分かってるけど、一緒に居て欲しかったの。
そのまま伝えたら、(マジか…一緒に寝る…不安、不安だよな…うっ…耐えろ俺。今度こそ無になれ拓磨)ブツブツと顔を上に向け何か呟いてたけど、パンッ!と頬を叩いてから、「分かった」と言ってくれた。
嬉しくて、タクマさんの腕を引き布団の中に潜り込んだ。「ん」と腕を出され、???と思いながら頭を乗せた。『腕まくら』というらしい。
ちょっとゴツゴツした枕だったけど、タクマさんの体温が気持ち良くて、数秒後には深い眠りに落ちていた。
今、俺は、道内のみで展開している、地元人御用達コンビニ、『ツルコマ』に来ている。
田舎のほうとか、オーナー権限で、とか、『ツルコマ』の営業時間は、通常6:00~0:00までとなってるが、都会の中でも繁華街に近いと、24時間営業していたりする。
そんなコンビニに、夜中の2時過ぎだと言うのに、2人組が手を繋ぎ仲良くやって来た。
「ふぅ。着いたのね。タクマさん、フード外して良いかしら」
店内には店員以外誰も居ない。普段は2,3人ほど居るのだが、その日の夜は-20℃を軽く超えてたので、外出する人が居なかったのだ。
店員は、「この寒空で外出なんて、彼女さんガッツが有りますね」と、声を掛けた。そして女のほうを見て硬直した。
入店時はフードを被っていたため、線の細さから「女性かな?」と、思っていたが、「タクマさん、もう外して良いかしら」と、鈴の鳴るような声が聞こえたため、「やっぱり女性だった」と確証を得たので、「彼女さん」と言ったのだ。
今の世の中、男女関係なく手を繋いで店を訪れる人達が多いから、『手繋ぎ』だけでは『男女』だと判断できないのだ。
そうして確証を得たところで声を掛け、商品の陳列棚から視線を客に向けて吃驚し硬直した。
拓磨「ははっ。全くです。寒いって言ってんのに行くって駄々捏ねるもんで。
外しても良いよ。あ、店ん中すべるから気を付けろよ。手離すぞ」
「まぁ!失礼しちゃうわ。駄々っ子じゃなくってよ?
またすべるのはイヤだわ。さっきも転んでしまって、お尻が痛いのよ。手は繋いでて下さいません事?」
「タクマ」と呼ばれた男性のほうは見た事があると思った。「長身のイケメン学生」バイトの女の子がそう言って「キャーキャー」言ってたから。
ただ、女の子の方。こんな子は知らない、見た事ない。それは、「店で」では無く、人生においてだ。
銀糸の髪に、ピンクに金が混じったような眼、透き通るような白い肌、表情がないからパッと見『人形』みたいだ。
アイドルにもこんな造形美をした人なんていない。まるで漫画やアニメの世界から抜け出してきたような女の子。
だから、吃驚して硬直した。男性の方が、「未成年の夜中の外出、大目に見てください。すみません」と、言っていたが、未成年だから驚いてるわけじゃない。
「あ、ああ。親御さんが心配するから早めに帰りなさい」と、一応返事はしたが、口から出る言葉は無意識だった。長年染み付いた店員としての言葉だ。本当は思考停止していた。
拓磨「ジュリエッタ、こっち。ここが菓子パンコーナー。向こうがサンドイッチな。どれにする?」
「凄いわ!食べ物が何かに包まれて売ってるのね!パンだけで何種類あるの!もぅ、もぅ、決められないわ……
タクマさんが「コレ」というのを選んで下さいませんか?わたくしじゃ目移りしちゃって、時間が掛かるもの……」
拓磨「くくく。目がキラッキラしてんな。「コレ」っていうのか……面倒くせぇから適当に買うか。あ、俺ホット調理のスパイシー唐揚げ買おう。ジュリエッタもいる?」
「まぁ、これはお肉?タクマさんのを貰うわ。良いでしょ?一杯は食べられないもの。あ!手は離しちゃダメよ」
拓磨「いや、両手使わんと取れないだろ。一瞬だけ待て。な?」
商品を取ろうと、繋いでる手を離そうとしたら、ガシッと掴まれた。(離しちゃダメって…はぁ…)
手を離さなきゃ商品取れないからと、離してもらった。ホットケースを開け、唐揚げを手に取り、カゴに入れてから、「ほら手」とまた手を繋ぎ、次の商品棚へ。
拓磨「あとは飲み物は家にあるから、洗顔フォームとジュリエッタの下着な」
「洗顔用の石鹸ね!下着がこのような場所で購入出来るんですのね……ニホンというのは素晴らしいわ!」
拓磨「素晴らしい……そうだな。日本は先進国だからな。そして、安全だし住みやすい。
あ、明日さ、街に出て服とか、ちゃんとした下着とか買おうな。寝間着も必要だろ?
で、時間あったらジュリエッタの国籍とか戸籍を作るのに父さんの所に行くから」
「え……でも、わたくしお金が……あと、コクセキトカコセキってなんですの?」
拓磨「金の心配はするな。大丈夫だから、な?俺に任せとけ。国籍と戸籍は、ん~。この国の人間です、身元はハッキリしてます、というのを証明する物。で、それがあれば学校行ったり、バイトしたり、家を借りたり出来るってこと。逆に無いと密入国とかの罪に問われて拘留されたりするんだ。学校にも通えないしな」
「貴族籍みたいな物かしら。学校……学園かしら?バイトは分からないわ……家を借りる?わたくしタクマさんと離れるのはイヤよ。一緒に居たいわ……」
拓磨「は!?え、あー、その。そっか、一緒に……(マジか。俺のこと好きなの?いや、不安なんだな)ジュリエッタ、その話は後でしよう。まずは買い物終わらせよう」
「……はい」
(あー!落ち込んでる。もう泣きそうじゃん!ちょ、急げ急げ!)
そしてレジで買い物を済ませ、ボーッとしてる店員にイライラしながら、購入した袋を抱え、ジュリエッタの手を取り急いで店を出た。
そんなボーッとしてた店員は、彼らがいつ店を出たのか覚えていなかった。それだけ衝撃を受けていた。
我に返ったのは暫く経ってからだった。「なんだあの人形ぉぉお!!!」と、夜中のコンビニ内で叫んだ声は、寒空の下でよく響いた。
外に出たタクマは焦ってた。ジュリエッタの目から、今にも涙が零れ落ちそうになってる。
コンビニから家まで30分。雪が積もってるから更に時間が掛かる。雪道に慣れていないジュリエッタが居るから更に掛かる。
(どっか入れる店あったかな。いや、未成年だからネカフェも無理だし……ラブホが近くにあるけど……18禁だっけ?身分証提示義務とかあんのか?無いなら年齢誤魔化して入れる……いや、法律違反はダメだ)
拓磨「あ、タクシー呼ぶか!」
店舗の壁に身を預け、ジュリエッタを自分のコートで包み込み、スマホを操作してタクシーを呼んだ。
たまたま近くに居たらしく、一台がすぐ来てくれた。ジュリエッタを乗せるのに、コートから出そうと前を開いたんだけど、抱きついて離れない。
「おやおやお熱いねぇ」とか運ちゃんに揶揄われながら、「ジュリエッタ一旦離れてくれ。車に乗るから」そう言ってベリっと無理やり剥がし、漸く2人で乗り込んだ。
行き先を告げ、発進したのを確認してから「はぁぁぁ」と長い息を吐き出した。
隣をチラッと見たら、さっきまでの泣きそうな表情から一変し、目をキラキラさせて車内や窓の外を見て興奮していた。
「現金なヤツ……」そう呟き目を閉じた。暖かい車内にホッとし、身体の力を抜いたのがいけなかった。眠気に襲われ、家まで数キロの距離を寝てしまった。
気付けば家の前で、運ちゃんとジュリエッタに揺すられていた。「あ、すいません。寝てたわ。支払いはカードで……」
支払いを済ませ車外に出たら、そこは極寒の地だった。去って行くタクシーに背を向け家に入ろうとしたら、ジュリエッタがコートの前を開け入って来て抱きついた。
もう……なんなのこの可愛い生き物……これ、もう、俺のこと好きじゃね?って、勘違いするって……
ジュリエッタもコート着てるのに、胸の主張が凄い!めっちゃ腹に当たってる!油断したら息子がぁぁ……
「無になろう」そう呟き、ジュリエッタを抱きつけたまま家へと入った。
靴を脱ごうと、「ジュリエッタ、家に着いたから」と、声を掛け前を開いたら、顔を赤くし俺を見上げてる美少女が、「あ、あの、お腹に硬いのが……」ってさぁぁあ!!
もう、理性プッツン。耐えられませんでした。
玄関で、小さいプルプルな唇を奪った。それはもう獣のように。最初は吃驚して藻掻いていたが、段々と力を抜き身を預けてきた。
どのくらいそうしていたのか、気付いたら肩で息をしていた。
「俺は謝らねぇぞ。お前が可愛いのが悪い」そう言って、へたり込んだジュリエッタを横抱きにして風呂へと直行した。
拓磨「身体冷えたろ。風呂入って温まっといで。上がったらТシャツ着て俺の部屋来いな」
呆然としているジュリエッタを風呂へと促し、「ちょっとやり過ぎた悪い」と告げ、拓磨は2階のシャワー室へ。
「謝らない」とか言ったが、激しい自己嫌悪に陥っていた。「やっちまったぁー!」と、熱いシャワーを頭から被り、一度スッキリしてから全身くまなく洗った。
そしてまた自己嫌悪。シャワー室の中では、「はぁぁ」という長い溜め息と、水音が暫く響いていた。
一方、脱衣場にポイッとされたジュリエッタは、呆然としたまま服を脱ぎ、タクマの説明通りにシャワーを出したり、シャンプーで髪を洗ったりしていた。
一通り終わったところで、先に温めておいた湯船に浸かった。冷えた身体に適温の湯が気持ち良い。
漸くホッと息を吐いたところで、唇を指でなぞり、タクマにされた口付けを思い出していた。
激しくて、そのまま食べられると思った。「凄かった…」呟いた途端、自分の顔が赤くなっていくのが分かった。ポッポする。
「口付けは、婚姻する男女が愛を確かめ合う時にする行為……そう授業で習ったわ。
それと、婚姻を結んだ男女は、閨の前に湯浴みをするとも…そして初夜を迎えるのよね…
タクマさんは、わたくしと閨をしようとしてる?どうしましょう…」
湯船で一人呟きながら、ジュリエッタは悶々としていた。「婚約者ではないのに口付け…」とか、「いま湯浴み中だからこのあと閨…」と、ブツブツと呟いていた。
でもその常識は、自分の世界でのことであって、ニホンは違うのでは?と考えた。
クラウン王国では、貴族の婚約や婚姻、男女の接吻や閨事には決まりがあるが、平民は違うのだと聞いた事がある。
ニホンには貴族制度が無い。全員が一般市民だとタクマは言っていた。ようは、平民しか居ない国。
なら、自分の知る男女の常識は、この国では当てはまらないのでは?と考えた。
だから、タクマが口付けをしたのも、婚約や婚姻の前行為ではないのでは?と。なら何故したのか?
それをグルグルと考えていた。風呂で。暑くなってきた、頭がボーッとする。「のぼせたわね」
まずいと思い、風呂から上がった。一瞬クラっと立ちくらみをしてしまったが、
「また倒れてタクマさんに迷惑を掛けるわけにはいかない!」と叱咤して、ゆっくりと脱衣場に行き、
フワフワのタオルに感動しながらテーシャツに袖を通した。ズボンを履こうとしたが辞めた。冷えてたから。
「喉が渇いたわ。お水を頂いて良いかしら…」
厨房へ行き、グラスを探し、水を一杯だけ飲んで喉を潤し、「使用済のグラス…置いとけないわね」と、使ったグラスを持ち、若干フラフラするので、ゆっくりとタクマの部屋へ向かった。
部屋までの通路でタクマと鉢合わせしてしまった。顔を合わせた瞬間、口付けを思い出してしまい、恥ずかしくなって頬を手で抑えた。
「ははっ、可愛い」と言われてしまったわ。嬉しかったけど、いたたまれなくて、無意識に抱きついてしまったわ。
「は?え?」と戸惑った声が上から聞こえたけど、顔が上げれなかったの。
「はぁぁ。全く、誘ってんのか?」と言いながら横抱きにされ、部屋のベッドに降ろされた。
(や、やっぱり閨を?)と、ドギマギしてたら頭を撫でられ、「怖がらせて悪い。襲わないから大丈夫だ」と言われた。(タクマさんは紳士ね。とても優しいわ)
ちょっぴり残念?に思いながら、『コンビニ』で購入してきた物を一緒に食べた。
パンが柔らかくてとても美味しかった。ミルクも雑味が無くて飲みやすかった。『からあげ』というのは油っこくて口に合わなかったわ。
食べ終わったあと、『ハミガキ』というのをして、口の中がサッパリしたところで、「寝るか」と言われた。
拓磨「この部屋で寝て。俺は父さんの部屋で寝るから」
そう言って出て行こうとしたので引き止めた。だって心細いんだもの。『同衾』はダメだと分かってるけど、一緒に居て欲しかったの。
そのまま伝えたら、(マジか…一緒に寝る…不安、不安だよな…うっ…耐えろ俺。今度こそ無になれ拓磨)ブツブツと顔を上に向け何か呟いてたけど、パンッ!と頬を叩いてから、「分かった」と言ってくれた。
嬉しくて、タクマさんの腕を引き布団の中に潜り込んだ。「ん」と腕を出され、???と思いながら頭を乗せた。『腕まくら』というらしい。
ちょっとゴツゴツした枕だったけど、タクマさんの体温が気持ち良くて、数秒後には深い眠りに落ちていた。
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