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本編1 『幼少期』
第7話 3歳。攻略対象者とストロベリー ※ウルの挿絵有り
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期待を胸に、「訓練参加」をお願いし、ドキドキとウルウルと団長を見詰めていたのだが、結果は「NO」だった。
侯爵令嬢としてなら否応なく訓練に参加出来るが、一般人としてはダメらしい。
騎士の訓練を受けられるのは、養成所を卒業した生徒のみで、見習いとして入団するには現役騎士との模擬戦が必要らしい。
だから、「申し訳ない」と謝られた。「規律を乱すわけにはいかない」と。
どうしても訓練参加したいなら、本物のストロベリー様だと明かす必要があると。
それは御免こうむるので、「いえ、それは結構です!」と、訓練参加は諦めた。
さてどうするか?と「ふむ」と悩んでいたら、エルフのルカリス様(やはり攻略対象だった)と、サイラスが名乗りをあげてくれた。
ルカリスは通常任務があるので、任務終了後と休みの日に教官になってくれるとのこと。
「申し訳ないです……」と言ったのだが、交換条件はクッキーだった。
「1回の指導で菓子を所望する」と目をランランとさせていたので、「あ、はい。お願いします」と咄嗟に答えてしまった。
「甘い物が好きなのです」と拳を握っていたので、(疲れてるのかな?ご苦労様)と、机に積み上がった書類と、ムキムキ脳筋団長を見遣り、心の中で労わっておいた。
サイラスは、「自分も剣術スキルが有りますし、刀剣神様の加護がどの程度なのか気になります!ベリー様を護るために鍛えねばなりません。自分の為、貴方様の為に、一緒に訓練致しましょう」と、拳を握ってた。
あまりの熱血っぷりに押され、「お、おす!頑張ろう!おー!」と、咄嗟に拳を掲げ叫んでしまっていた。
だって圧が凄いんだもん。ワンコ顔なのに……。
団長は、「良いなぁクッキー……狡いぞルカ。俺も参加する!」と駄々をこねたが、「黙れ脳筋、却下だ」と、容赦なくピシャっと却下されていた。
ショボーンとしてしまった。哀れ団長……差し入れはしますから、書類仕事頑張って下さい。
話し合いが終わったので、お暇する事にした。帰り際にルカリス様へ大量の菓子を渡し、
「団員の皆さんに差し入れです。今日は突然来てしまいすみませんでした。ルカリス様、これから宜しくお願いします」ペコリ。
そう言って手を振って兵舎から出たら、訓練所から鋭い視線を感じた。
ゾワッと全身を巡る悪寒に身震いし視線の元を辿ると、隣国の王子に似た子がこちらを凝視していた。
「怖っ!なんなのあの子。ニヤニヤして気持ち悪いわね。サイラス、早く別邸に帰りたいわ。傍を通りたくないし転移するわね……《転移!》」
「「「ぇぇええ!天使が消えた!」」」
目の前から消えた2人に騎士達が騒然となった。
少年騎士も呆気にとられ、先程まで2人が居た場所を暫し見詰めていた。
訓練所にいた面々は、兵舎から出てきたらとっ捕まえて話しを聞こうと、今か今かと待ち構えていた。
ニヤニヤしていた少年騎士も、『悪役令嬢ストロベリー』と話しをしたくて、ウズウズしながら出てくるのを待っていた。
少年騎士は、『本物のストロベリー』が想像以上に可愛いかったから、仲良くなりたくて待っていただけで、ニヤニヤしていたんじゃなく、ニコニコしていたつもりなのだ。
ただ、表情筋が動かず、ニコニコがニヤニヤに見えるだけ、『絶対零度の視線』とか言われるけど、本人はただ見てるだけ、ニヤニヤも絶対零度も不本意なのだ。
実母も兄も使用人も「怖い」と言って近寄ってこない。父である国王も、「城にいたら空気が悪くなる」と、シュガーズ王国に放っぽり出した。
「冒険者でも騎士でも良いから強くなって、勇者の称号を得よ。それまで帰ってくるな」と言って。
そう。彼はスウィーティオ王国の王子。ベリーの予想通り、乙女ゲームに出てくる隣国の王子、攻略対象なのだ。
ただ、ゲームとは違い母親は健在だし、塔にも幽閉されていない。不遇なのはユージーンだけだった。
そんな彼は国を放り出されても、冷遇されても、堪えていなかった。むしろ、「放逐してくれてありがとう」と感謝していた。
しかも、放逐先が『シュガーズ王国』なんて、最高だよ!ますますありがとう!とルンルンと国を出てきたのだ。
「なぜか?」それは……『生ストロベリー』に会ってみたかったから。もし、劣悪な環境にいたら救ってあげたいと思ってもいた。
大学生の時に、一緒のサークルにいた好きな子が嵌ってたゲーム、『誰が私のヒーロー?』に登場する『悪役令嬢ストロベリー』が俺の推しだった。
だってもの凄く可愛いんだ。線は細いのに巨乳で、頭が良くて婚約者に一途。あの冷たい眼差しも笑うと「ふにゃっ」となって甘くなる。
そんなストロベリーが大好きで、ゲームの世界に転生してると気付いてからは、「本物に会いたい」「俺が救ってあげたい」と、常々思っていた。
だから、シュガーズ王国に放逐されて万々歳だったのだ。
ただ、放逐されても隣国の王子だし、国賓扱いで城滞在を余儀なくされ、ストロベリーに会うことは叶わなかった。
だが諦められず、シュタイザー領の騎士養成所に入り、10歳になってすぐ入団試験を受け、この度、騎士見習いになった。
城には影武者を置いてきた。祖国にバレるのはイヤだし、シュガーズ王に迷惑掛けるわけにはいかないから。俺はストロベリーに会いたいんだ!許せ影武者よ!
そんな不遇王子ユージーンは、訓練所の奥の奥、生い茂る木々の方をジッと見詰め憂いていた。
ユージーン 「あの林の中にある旧侯爵邸にストロベリーが居るんだ。本邸にいたのは『キャロル』だったし、林の中から魔力反応がするし…あの魔力は絶対ストロベリーだ」
可哀想に…お腹空いてないかな?ちゃんと寝れてる?傍に面倒見てくれる人はいるの?
ユージーン 「ああ……早く救ってあげたい。今3歳だよな?凄く可愛いんだろうな……会いたいなぁ」
そんな事を思いながら鍛錬していたら、2級騎士のサイラスが腕に何かを抱えて訓練所に現れた。
子供だ。ミルキーピンクの髪の毛……まさか……
逸る気持ちを抑えて、動揺を悟らせないように慎重に慎重に近寄って行った。
(あ!邪魔だ!モキイ先輩!またサイラスさんにセクハラしてるし!そういうのは見えないところでやってよ!)
そして初対面……(わぁ…幼少期のストロベリーちゃんだ…髪の毛短いのも似合う…可愛い…天使みたい…)
やっと会えた感動で震えながらマジマジ見詰めていたら、俺の事を見て「似てるけど、別人かな?」と呟いたのが聞こえた。
(待って、何かセリフに違和感が…まさかストロベリーも転生者なのか!?いや、そうだ。あのなんか悟ったような表情と有り得ない魔力量。普通の3歳じゃない!)
もし転生者なら余計に話してみたい!と、そう思って「くくく。本物だよ」と小声で話し掛けた。
ちょっと悪役っぽい言い方になっちゃった!と後悔していたら、胡乱な目をしてさっさと兵舎に行っちゃった。
「あれが悪役令嬢、ストロベリー・ディ・シュタイザーか」可愛かった。出てきたら普通に話し掛けよう。あわよくば友達になりたい……ゆくゆくは恋人に……
そんな事を思いながら訓練再開したんだけど、何の話しをしているのか気になって集中できず、モキイ先輩に怒られた。お前には怒られたくない!!
あれから2時間程過ぎて、魔力が動いたのがわかった。「やっと出てくる!」と、入り口を注視していたら、出てきた瞬間何か呟いて「シュン」と消えてしまった。呆気にとられてしまった。
歴代勇者しか使えない『転移魔法』で消えてしまった。まさか自分以外に勇者がいるのか!?
サイラスか?ストロベリーか?今世の勇者は俺だと思ってたが違うのか?
どういうことか教えて神様!!
ユージーン 「はっ!もしかしたら転生者特典として歴代勇者は転移を使えたのか!?だから俺も使えるしストロベリーも使えるのかな?」
『勇者』の称号は俺だけで、ストロベリーはただ単にチートキャラなだけかな?
あ゙あ゙あ゙知りたい!話したい!傍にいたい!
それよりサイラスがずっと一緒にいるのが気に食わない!ポジションを変われ!羨ましい!
ユージーン 「ああ……戻ってきてくれマイエンジェル……」
ガクッと地面に膝をつき項垂れたユージーンに、周りは恐慄いた。普段から雰囲気が怖いのに、奇行に走ったユージーンは更に怖い。
だれもが「触らぬ神に祟りなし」と、我関せずとしていたのだが、モキイ先輩だけは違った。
モキイ 「振られたな。俺もお前も!ま、気にすんな!男も女もアイツらだけじゃねぇさ!がははは」
話し掛けた。強者だ。いや、KYというのか。要らん一言を呟いてユージーンにぶっ叩かれて吹っ飛び、白目を向いて地面に伸びた。自業自得だモキイよ。
ところ変わって、別邸に『転移』してきたストロベリーとサイラスだが、一瞬で景色が変わったことに驚いてた。
術を使ったストロベリー本人までも驚いてた。そして感動していた。(魔法すげぇ)と。
それはサイラスも同じだ。初転移。歴代勇者しか使えない魔法だからだ。
まさか勇者以外に使える人がいるとは……と感動で震えていた。(俺の主人すげぇ)と。
いつまでも惚けてるわけにもいかない。このあとどうするか考えないと。ウルはまだ帰ってきてない。
さて、茜空になってきたし、お腹が空いた。そういえばサイラスは宿舎からここまで通うのだろうか?ご飯は?
「ねぇ、サイラスは宿舎から通うの?専属護衛だから別邸に部屋用意してそこで生活する?ご飯は?」
サイラス 「本日は、ウル様が戻られたら一度兵舎へと戻ります。明日から此方で正式な護衛の任に就こうと思います。
食事は市井で何か購入するか、宿舎の食堂で頂きますので大丈夫ですよ。
ただ……交代要員にもう一人護衛が必要だと思いますので、あとで向こうに戻ったら副師団長と話し合ってきますね」
「あ、そうよね。交代要員は必要よね。……わかったわ、その辺は任せるわね。食事は私が用意してあげるからこっちで食べなさい」
護衛って寝てる時も扉前にいるイメージがあるから、交代要員がいないと寝る時間無いものね。
サイラス 「ええ!ベリー様が作られるのですか!?料理人を雇ったりは……出来ませんね。
えっと、大丈夫ですか?私、料理は全く作れないので、サポートくらいしか出来ませんよ?」
料理人を雇えるわけはないだろう。別邸は侯爵家の物だし、伝手もないもの。
「大丈夫よ作れるわ。元々24歳なのよ私。前世では自炊してたのよ?料理は趣味の一つだったの。
ただ、今は3歳でしょ?手と身体が小さくて思うように動かないからサポートしてくれたら嬉しいな。あはは」
苺花は前世、五十嵐家に引き取られてから自炊していたのだ。自分の分だけ用意されていなかったから、自分で作って食べるしかなかった。
コンビニで買って食べた事もあるけど、油っぽくて胃が受け付けなかった。
だから、自分で買い物してレシピ本見ながら作ってた。それが楽しくて社会人になってからも暇があれば作ってたのだ。ゲーム、漫画の次に嵌った趣味だった。
この旧侯爵邸で生活するようになって、歩けるようになってからウルに手伝ってもらって結構色々作った。
クッキーもその一つだ。混ぜる、捏ねるの作業は魔法で頑張ったよ!魔力操作の練習にもなるから一石二鳥なの。
食材は空間収納に神様達が入れてくれてて、調味料とかもたくさんあるから作るのが楽しいの。
あ!唐揚げもちゃんとした肉で作ったわよ!『怪鳥の唐揚げ』を忘れられる味になったわ~。
『パイソン』の肉だったから『蛇の唐揚げ』だけどね。ははは。
で、暇な時間に色々作って収納に入れてあるのよ。時間経過がないから、何時でも作りたてが食べられるの。
だから、サイラスの食事くらい私が用意するわ!私のせいで騎士の任務に就けなくなったのも申し訳ないし、お詫びも兼ねてね。
サイラス 「ベリー様はお姉さんなんですね。24歳……きっとお綺麗だったんでしょうね……
わかりました、サポートは任せて下さい!洗ったり切ったりは出来ると思います!」
「そうね…サイラスより歳上だからお姉さんだね。見た目幼女で中身オバサンってチグハグすぎて微妙だよねぇ」
サイラス 「まぁ、なんかこう違和感は有りますね。3歳児が流暢に話してますし。あと、24歳はオバサンじゃないです!レディですよ!」
「そう?お姉さんか。あはは。ありがと」
前庭の花畑の中に置いてある椅子に座って、他愛もない話をしていたら、爆笑しながらウルが戻ってきた。
異常だ……何があったのだろうか?笑いすぎて涙出てるよ。
《はぁ、はぁ、あぁ面白かったぁ!ベリーちゃん、『偽ストロベリー』ヤバいよ!あれは無いわぁ。
あ、サイラスの事を気に入ったみたいで専属にしてって侯爵に直談判してたよ!「私のペットにするわ!」ってね!あはは!》
サイラス 「ウソだろ……絶対イヤですよ!ペットってなんですか!私はベリー様の専属護衛です!断固拒否します!」
ペット発言はさすがに無いわぁ。サイラスの顔が真っ青だわ。大丈夫かしら?
《ふぅ、ふぅ。ふぅぅ……んとね、専属護衛の件は食い気味に却下されてたから問題無いよ!大丈夫、安心して!
地団駄踏んで抗議してたけど、他のセリフも全部ヤバヤバ!あれは異常だよぉ。うんうん。》
想像してみたけど、……うん。凄そう。地団駄もポンポンと可愛らしい感じじゃなくて、ドスンドスンと象のような感じなんだろうな……凄い巨漢だって言ってたし。
「ははは……本邸で偵察してきたのね?ご苦労様。
まぁ、『偽ストロベリー』の事は置いといて、サイラスの専属護衛の件と、任務は明日からって事を話してたのよ。
あと、交代要員が必要ってことと部屋とか食事の事ね。」
《あ、それがさぁ。実はもう一人の護衛も魔法神様が既に決めてるみたいでぇ、近々その子に神託おろすってぇ。で、別邸をこのまま使ってたら侯爵家の人達にいずれバレて面倒な事になりそうだから、敷地外に屋敷用意したってさぁ。商業の神様がプレゼントだってぇ。
明日はそこに引越しね!サイラスが来たらみんなで移動だよ~!》
確かに、このまま別邸で過ごしてたら侯爵家の人達に会う確率はあるな。それは避けたい。ので、商業の神様のお言葉に甘えてプレゼントは有難く頂くことにしよう。
サイラス 「なんと!神の采配で護衛が決まったのですか!では交代要員の件は大丈夫そうですね。(誰になるんだ?)
懸念事項が減りましたね。では明日は敷地外へ引越しという事で、なるべく早くこちらに伺います。
ウル様、ベリー様、荷物の整理が有りますので、本日はこの辺で失礼させて頂いてよろしいでしょうか!」
「あ、うん。今日は色々ごめんね?これから宜しくお願いします。ではまた明日ね。気を付けて戻ってね」
「はっ!ベリー様、色々と疲れたでしょう。ゆっくり休んで下さい。では!」
サイラスが爽やかに騎士の礼をとり颯爽と去っていった。その後ろ姿を見送って、完全に気配が無くなってからウルが衝撃発言をしてきた。
《ん゙ん゙ッ。ピンポンパンポーン♪ええ…ベリーちゃん。残念なお知らせです。
……本邸にいる『偽ストロベリー』は、転生者でしたぁ!前世日本人で、『五十嵐 美亜』の記憶持ち。
なぜこうなったか?については……遊戯神様と恋愛神様の企画らしいです。パチパチパチ。
『加護のあるベリーちゃんと、加護無し偽ストロベリーはどちらが人々に愛されるのか!?』という企画らしいです。『恋愛にスパイスは必要よ♡頑張って』と応援メッセージも頂いています。以上、残念なお知らせでしたぁ!ピンポンパンポーン♪》
「…………はぁぁああ!?『五十嵐 美亜』って苺花の天敵じゃない!ヒロイン枠がアイツなの!?
なにが『恋愛にスパイスは必要よ♡』だよ!要らないよ!神様って暇なの?暇なのね!所詮ここは神の箱庭なのね!私たちは遊技場の駒なのね!最低!ふぅ、ふぅ。はぁ…血圧が上がったわ」
そういえば、美亜も『誰が私のヒーロー?』をやってたわよね。しかも乙女ゲームのほうを中心に。
まずいわ……絶対「私はヒロインよ!」って言ってるに違いないわ。「この世界は私の世界なの!」とかも言ってるわ絶対に!
だから、サイラスの事を『ペット』とか言ってたのかしら。
……待って本当にまずいわ。攻略対象者がシュタイザー家に既に3人いるわよね?修羅場になるじゃない!
……いや、ならないのかしら?ここは現実世界なのだし。
う~ん……ルカリス様は正直あの子と関わってほしくないわね。良い人だったし。あの女の毒牙に掛かったら可哀想だわ。
お兄様とユージーン様は……うん。人となりを知らないから、今は放置でいいわね。
あら?確か美亜の推しってルカリス様だったような?だったら私、関わらないほうが良いんじゃないかしら?
いや、でも……剣術の先生だし……お菓子一つでウルウルしちゃうあの感じ……ゔっ……ダメね。ルカリス様は護ってあげなくちゃ。
《ベリーちゃん?ベリーちゃぁあん!しっかりして!戻ってこぉい!カモンヌ!》
「は!……いや、しっかりしてるよ。色々考えてたらトリップしてたわ。」
《うんうん。そうだよねぇ、不安だよねぇ。遊戯神様は娯楽の少ないこの世界が退屈なんだと思うんだぁ。
だからって、ベリーちゃんを惑わすような人を寄越しちゃダメだよねぇ。
恋愛神様もねぇ……あの人、修羅場が好きなんだよぉ。たぶん、ベリーちゃんが恋愛で振り回されるのを見たいんじゃないかなぁ?迷惑だよねぇ。うんうん。》
「何それぇ。迷惑過ぎる……。誰を転生させても良いけど、『美亜』だけはやめてほしかった……
早急にこの敷地内から出て行かないとだわ。ゲームの内容知ってるから、ココに私が居るのも知ってるはずだもの。『物語には悪役令嬢は必要よね』とか言って明日にでも突撃してきそうだわ。」
思い立ったが吉日!で、すぐ行動に移すのよね。
猪突猛進。後先考えない。人の不幸大好き。お金大好き。男大好き。女は自分より優れてる人が嫌い。自己中。自意識過剰。被害妄想酷い。『美亜』という人物はこんな感じ。……絶対関わりたくない!!
《えっとぉ。キャロルがここに突撃してくるのかはわかんないけど、兄のアルヴィンは明日ここに来るみたいだよ。護衛連れて……あと、もしかしたら侯爵も来るかも。それに便乗してキャロルも来るかも?》
それは大変だわ!荷物は空間に入ってるから持ってく物はないけど、直してしまった建物と庭はどうしましょう!
「ウル!屋敷は仕方ないからこのままで良いけど、花畑とか野菜畑とか、果樹とかは置いて行けないわ!この子達は私が育てたんだもん!どうしたら良い!?」
《ん~ん~。わかった。花とか木とかは全部空間に入れちゃって!屋敷はリノベ前に戻してあげるから、心配しないで。……《アンドゥ!》》
ウルが詠唱した瞬間、ゴゴゴゴゴ……という派手な音を響かせながら元のボロ屋敷に戻った。
圧巻だった。「凄い」の一言しか出てこない。
実際、ウルは凄いのだ。いつもはケラケラ笑って巫山戯た事ばっかりしてるけど、さすが神族って感じで、やる事のスケールがデカすぎる。
私が想像した家具とか食器とかを記憶を読み取って創造魔法で作ってしまうんだよ。
食べ物とか生き物は作れないけど、家とか家具とか服とかをあっという間に作ってしまうの。
だから3年間、衣食住に困らなかった。
「ありがとうウル!本当に最高な相棒だわ!大好きよ!」
《あはっ!ボクはベリーちゃんの頼れる相棒だからね!ずっと一緒だよベリーちゃん!ボク達ぃは、相思相愛ぃ~》
くっ、可愛い。バニーボーイだけど可愛い!お尻フリフリがツボる!
ハイテンションな小兎神族ウルは、今日も絶好調に巫山戯てるのであった。
侯爵令嬢としてなら否応なく訓練に参加出来るが、一般人としてはダメらしい。
騎士の訓練を受けられるのは、養成所を卒業した生徒のみで、見習いとして入団するには現役騎士との模擬戦が必要らしい。
だから、「申し訳ない」と謝られた。「規律を乱すわけにはいかない」と。
どうしても訓練参加したいなら、本物のストロベリー様だと明かす必要があると。
それは御免こうむるので、「いえ、それは結構です!」と、訓練参加は諦めた。
さてどうするか?と「ふむ」と悩んでいたら、エルフのルカリス様(やはり攻略対象だった)と、サイラスが名乗りをあげてくれた。
ルカリスは通常任務があるので、任務終了後と休みの日に教官になってくれるとのこと。
「申し訳ないです……」と言ったのだが、交換条件はクッキーだった。
「1回の指導で菓子を所望する」と目をランランとさせていたので、「あ、はい。お願いします」と咄嗟に答えてしまった。
「甘い物が好きなのです」と拳を握っていたので、(疲れてるのかな?ご苦労様)と、机に積み上がった書類と、ムキムキ脳筋団長を見遣り、心の中で労わっておいた。
サイラスは、「自分も剣術スキルが有りますし、刀剣神様の加護がどの程度なのか気になります!ベリー様を護るために鍛えねばなりません。自分の為、貴方様の為に、一緒に訓練致しましょう」と、拳を握ってた。
あまりの熱血っぷりに押され、「お、おす!頑張ろう!おー!」と、咄嗟に拳を掲げ叫んでしまっていた。
だって圧が凄いんだもん。ワンコ顔なのに……。
団長は、「良いなぁクッキー……狡いぞルカ。俺も参加する!」と駄々をこねたが、「黙れ脳筋、却下だ」と、容赦なくピシャっと却下されていた。
ショボーンとしてしまった。哀れ団長……差し入れはしますから、書類仕事頑張って下さい。
話し合いが終わったので、お暇する事にした。帰り際にルカリス様へ大量の菓子を渡し、
「団員の皆さんに差し入れです。今日は突然来てしまいすみませんでした。ルカリス様、これから宜しくお願いします」ペコリ。
そう言って手を振って兵舎から出たら、訓練所から鋭い視線を感じた。
ゾワッと全身を巡る悪寒に身震いし視線の元を辿ると、隣国の王子に似た子がこちらを凝視していた。
「怖っ!なんなのあの子。ニヤニヤして気持ち悪いわね。サイラス、早く別邸に帰りたいわ。傍を通りたくないし転移するわね……《転移!》」
「「「ぇぇええ!天使が消えた!」」」
目の前から消えた2人に騎士達が騒然となった。
少年騎士も呆気にとられ、先程まで2人が居た場所を暫し見詰めていた。
訓練所にいた面々は、兵舎から出てきたらとっ捕まえて話しを聞こうと、今か今かと待ち構えていた。
ニヤニヤしていた少年騎士も、『悪役令嬢ストロベリー』と話しをしたくて、ウズウズしながら出てくるのを待っていた。
少年騎士は、『本物のストロベリー』が想像以上に可愛いかったから、仲良くなりたくて待っていただけで、ニヤニヤしていたんじゃなく、ニコニコしていたつもりなのだ。
ただ、表情筋が動かず、ニコニコがニヤニヤに見えるだけ、『絶対零度の視線』とか言われるけど、本人はただ見てるだけ、ニヤニヤも絶対零度も不本意なのだ。
実母も兄も使用人も「怖い」と言って近寄ってこない。父である国王も、「城にいたら空気が悪くなる」と、シュガーズ王国に放っぽり出した。
「冒険者でも騎士でも良いから強くなって、勇者の称号を得よ。それまで帰ってくるな」と言って。
そう。彼はスウィーティオ王国の王子。ベリーの予想通り、乙女ゲームに出てくる隣国の王子、攻略対象なのだ。
ただ、ゲームとは違い母親は健在だし、塔にも幽閉されていない。不遇なのはユージーンだけだった。
そんな彼は国を放り出されても、冷遇されても、堪えていなかった。むしろ、「放逐してくれてありがとう」と感謝していた。
しかも、放逐先が『シュガーズ王国』なんて、最高だよ!ますますありがとう!とルンルンと国を出てきたのだ。
「なぜか?」それは……『生ストロベリー』に会ってみたかったから。もし、劣悪な環境にいたら救ってあげたいと思ってもいた。
大学生の時に、一緒のサークルにいた好きな子が嵌ってたゲーム、『誰が私のヒーロー?』に登場する『悪役令嬢ストロベリー』が俺の推しだった。
だってもの凄く可愛いんだ。線は細いのに巨乳で、頭が良くて婚約者に一途。あの冷たい眼差しも笑うと「ふにゃっ」となって甘くなる。
そんなストロベリーが大好きで、ゲームの世界に転生してると気付いてからは、「本物に会いたい」「俺が救ってあげたい」と、常々思っていた。
だから、シュガーズ王国に放逐されて万々歳だったのだ。
ただ、放逐されても隣国の王子だし、国賓扱いで城滞在を余儀なくされ、ストロベリーに会うことは叶わなかった。
だが諦められず、シュタイザー領の騎士養成所に入り、10歳になってすぐ入団試験を受け、この度、騎士見習いになった。
城には影武者を置いてきた。祖国にバレるのはイヤだし、シュガーズ王に迷惑掛けるわけにはいかないから。俺はストロベリーに会いたいんだ!許せ影武者よ!
そんな不遇王子ユージーンは、訓練所の奥の奥、生い茂る木々の方をジッと見詰め憂いていた。
ユージーン 「あの林の中にある旧侯爵邸にストロベリーが居るんだ。本邸にいたのは『キャロル』だったし、林の中から魔力反応がするし…あの魔力は絶対ストロベリーだ」
可哀想に…お腹空いてないかな?ちゃんと寝れてる?傍に面倒見てくれる人はいるの?
ユージーン 「ああ……早く救ってあげたい。今3歳だよな?凄く可愛いんだろうな……会いたいなぁ」
そんな事を思いながら鍛錬していたら、2級騎士のサイラスが腕に何かを抱えて訓練所に現れた。
子供だ。ミルキーピンクの髪の毛……まさか……
逸る気持ちを抑えて、動揺を悟らせないように慎重に慎重に近寄って行った。
(あ!邪魔だ!モキイ先輩!またサイラスさんにセクハラしてるし!そういうのは見えないところでやってよ!)
そして初対面……(わぁ…幼少期のストロベリーちゃんだ…髪の毛短いのも似合う…可愛い…天使みたい…)
やっと会えた感動で震えながらマジマジ見詰めていたら、俺の事を見て「似てるけど、別人かな?」と呟いたのが聞こえた。
(待って、何かセリフに違和感が…まさかストロベリーも転生者なのか!?いや、そうだ。あのなんか悟ったような表情と有り得ない魔力量。普通の3歳じゃない!)
もし転生者なら余計に話してみたい!と、そう思って「くくく。本物だよ」と小声で話し掛けた。
ちょっと悪役っぽい言い方になっちゃった!と後悔していたら、胡乱な目をしてさっさと兵舎に行っちゃった。
「あれが悪役令嬢、ストロベリー・ディ・シュタイザーか」可愛かった。出てきたら普通に話し掛けよう。あわよくば友達になりたい……ゆくゆくは恋人に……
そんな事を思いながら訓練再開したんだけど、何の話しをしているのか気になって集中できず、モキイ先輩に怒られた。お前には怒られたくない!!
あれから2時間程過ぎて、魔力が動いたのがわかった。「やっと出てくる!」と、入り口を注視していたら、出てきた瞬間何か呟いて「シュン」と消えてしまった。呆気にとられてしまった。
歴代勇者しか使えない『転移魔法』で消えてしまった。まさか自分以外に勇者がいるのか!?
サイラスか?ストロベリーか?今世の勇者は俺だと思ってたが違うのか?
どういうことか教えて神様!!
ユージーン 「はっ!もしかしたら転生者特典として歴代勇者は転移を使えたのか!?だから俺も使えるしストロベリーも使えるのかな?」
『勇者』の称号は俺だけで、ストロベリーはただ単にチートキャラなだけかな?
あ゙あ゙あ゙知りたい!話したい!傍にいたい!
それよりサイラスがずっと一緒にいるのが気に食わない!ポジションを変われ!羨ましい!
ユージーン 「ああ……戻ってきてくれマイエンジェル……」
ガクッと地面に膝をつき項垂れたユージーンに、周りは恐慄いた。普段から雰囲気が怖いのに、奇行に走ったユージーンは更に怖い。
だれもが「触らぬ神に祟りなし」と、我関せずとしていたのだが、モキイ先輩だけは違った。
モキイ 「振られたな。俺もお前も!ま、気にすんな!男も女もアイツらだけじゃねぇさ!がははは」
話し掛けた。強者だ。いや、KYというのか。要らん一言を呟いてユージーンにぶっ叩かれて吹っ飛び、白目を向いて地面に伸びた。自業自得だモキイよ。
ところ変わって、別邸に『転移』してきたストロベリーとサイラスだが、一瞬で景色が変わったことに驚いてた。
術を使ったストロベリー本人までも驚いてた。そして感動していた。(魔法すげぇ)と。
それはサイラスも同じだ。初転移。歴代勇者しか使えない魔法だからだ。
まさか勇者以外に使える人がいるとは……と感動で震えていた。(俺の主人すげぇ)と。
いつまでも惚けてるわけにもいかない。このあとどうするか考えないと。ウルはまだ帰ってきてない。
さて、茜空になってきたし、お腹が空いた。そういえばサイラスは宿舎からここまで通うのだろうか?ご飯は?
「ねぇ、サイラスは宿舎から通うの?専属護衛だから別邸に部屋用意してそこで生活する?ご飯は?」
サイラス 「本日は、ウル様が戻られたら一度兵舎へと戻ります。明日から此方で正式な護衛の任に就こうと思います。
食事は市井で何か購入するか、宿舎の食堂で頂きますので大丈夫ですよ。
ただ……交代要員にもう一人護衛が必要だと思いますので、あとで向こうに戻ったら副師団長と話し合ってきますね」
「あ、そうよね。交代要員は必要よね。……わかったわ、その辺は任せるわね。食事は私が用意してあげるからこっちで食べなさい」
護衛って寝てる時も扉前にいるイメージがあるから、交代要員がいないと寝る時間無いものね。
サイラス 「ええ!ベリー様が作られるのですか!?料理人を雇ったりは……出来ませんね。
えっと、大丈夫ですか?私、料理は全く作れないので、サポートくらいしか出来ませんよ?」
料理人を雇えるわけはないだろう。別邸は侯爵家の物だし、伝手もないもの。
「大丈夫よ作れるわ。元々24歳なのよ私。前世では自炊してたのよ?料理は趣味の一つだったの。
ただ、今は3歳でしょ?手と身体が小さくて思うように動かないからサポートしてくれたら嬉しいな。あはは」
苺花は前世、五十嵐家に引き取られてから自炊していたのだ。自分の分だけ用意されていなかったから、自分で作って食べるしかなかった。
コンビニで買って食べた事もあるけど、油っぽくて胃が受け付けなかった。
だから、自分で買い物してレシピ本見ながら作ってた。それが楽しくて社会人になってからも暇があれば作ってたのだ。ゲーム、漫画の次に嵌った趣味だった。
この旧侯爵邸で生活するようになって、歩けるようになってからウルに手伝ってもらって結構色々作った。
クッキーもその一つだ。混ぜる、捏ねるの作業は魔法で頑張ったよ!魔力操作の練習にもなるから一石二鳥なの。
食材は空間収納に神様達が入れてくれてて、調味料とかもたくさんあるから作るのが楽しいの。
あ!唐揚げもちゃんとした肉で作ったわよ!『怪鳥の唐揚げ』を忘れられる味になったわ~。
『パイソン』の肉だったから『蛇の唐揚げ』だけどね。ははは。
で、暇な時間に色々作って収納に入れてあるのよ。時間経過がないから、何時でも作りたてが食べられるの。
だから、サイラスの食事くらい私が用意するわ!私のせいで騎士の任務に就けなくなったのも申し訳ないし、お詫びも兼ねてね。
サイラス 「ベリー様はお姉さんなんですね。24歳……きっとお綺麗だったんでしょうね……
わかりました、サポートは任せて下さい!洗ったり切ったりは出来ると思います!」
「そうね…サイラスより歳上だからお姉さんだね。見た目幼女で中身オバサンってチグハグすぎて微妙だよねぇ」
サイラス 「まぁ、なんかこう違和感は有りますね。3歳児が流暢に話してますし。あと、24歳はオバサンじゃないです!レディですよ!」
「そう?お姉さんか。あはは。ありがと」
前庭の花畑の中に置いてある椅子に座って、他愛もない話をしていたら、爆笑しながらウルが戻ってきた。
異常だ……何があったのだろうか?笑いすぎて涙出てるよ。
《はぁ、はぁ、あぁ面白かったぁ!ベリーちゃん、『偽ストロベリー』ヤバいよ!あれは無いわぁ。
あ、サイラスの事を気に入ったみたいで専属にしてって侯爵に直談判してたよ!「私のペットにするわ!」ってね!あはは!》
サイラス 「ウソだろ……絶対イヤですよ!ペットってなんですか!私はベリー様の専属護衛です!断固拒否します!」
ペット発言はさすがに無いわぁ。サイラスの顔が真っ青だわ。大丈夫かしら?
《ふぅ、ふぅ。ふぅぅ……んとね、専属護衛の件は食い気味に却下されてたから問題無いよ!大丈夫、安心して!
地団駄踏んで抗議してたけど、他のセリフも全部ヤバヤバ!あれは異常だよぉ。うんうん。》
想像してみたけど、……うん。凄そう。地団駄もポンポンと可愛らしい感じじゃなくて、ドスンドスンと象のような感じなんだろうな……凄い巨漢だって言ってたし。
「ははは……本邸で偵察してきたのね?ご苦労様。
まぁ、『偽ストロベリー』の事は置いといて、サイラスの専属護衛の件と、任務は明日からって事を話してたのよ。
あと、交代要員が必要ってことと部屋とか食事の事ね。」
《あ、それがさぁ。実はもう一人の護衛も魔法神様が既に決めてるみたいでぇ、近々その子に神託おろすってぇ。で、別邸をこのまま使ってたら侯爵家の人達にいずれバレて面倒な事になりそうだから、敷地外に屋敷用意したってさぁ。商業の神様がプレゼントだってぇ。
明日はそこに引越しね!サイラスが来たらみんなで移動だよ~!》
確かに、このまま別邸で過ごしてたら侯爵家の人達に会う確率はあるな。それは避けたい。ので、商業の神様のお言葉に甘えてプレゼントは有難く頂くことにしよう。
サイラス 「なんと!神の采配で護衛が決まったのですか!では交代要員の件は大丈夫そうですね。(誰になるんだ?)
懸念事項が減りましたね。では明日は敷地外へ引越しという事で、なるべく早くこちらに伺います。
ウル様、ベリー様、荷物の整理が有りますので、本日はこの辺で失礼させて頂いてよろしいでしょうか!」
「あ、うん。今日は色々ごめんね?これから宜しくお願いします。ではまた明日ね。気を付けて戻ってね」
「はっ!ベリー様、色々と疲れたでしょう。ゆっくり休んで下さい。では!」
サイラスが爽やかに騎士の礼をとり颯爽と去っていった。その後ろ姿を見送って、完全に気配が無くなってからウルが衝撃発言をしてきた。
《ん゙ん゙ッ。ピンポンパンポーン♪ええ…ベリーちゃん。残念なお知らせです。
……本邸にいる『偽ストロベリー』は、転生者でしたぁ!前世日本人で、『五十嵐 美亜』の記憶持ち。
なぜこうなったか?については……遊戯神様と恋愛神様の企画らしいです。パチパチパチ。
『加護のあるベリーちゃんと、加護無し偽ストロベリーはどちらが人々に愛されるのか!?』という企画らしいです。『恋愛にスパイスは必要よ♡頑張って』と応援メッセージも頂いています。以上、残念なお知らせでしたぁ!ピンポンパンポーン♪》
「…………はぁぁああ!?『五十嵐 美亜』って苺花の天敵じゃない!ヒロイン枠がアイツなの!?
なにが『恋愛にスパイスは必要よ♡』だよ!要らないよ!神様って暇なの?暇なのね!所詮ここは神の箱庭なのね!私たちは遊技場の駒なのね!最低!ふぅ、ふぅ。はぁ…血圧が上がったわ」
そういえば、美亜も『誰が私のヒーロー?』をやってたわよね。しかも乙女ゲームのほうを中心に。
まずいわ……絶対「私はヒロインよ!」って言ってるに違いないわ。「この世界は私の世界なの!」とかも言ってるわ絶対に!
だから、サイラスの事を『ペット』とか言ってたのかしら。
……待って本当にまずいわ。攻略対象者がシュタイザー家に既に3人いるわよね?修羅場になるじゃない!
……いや、ならないのかしら?ここは現実世界なのだし。
う~ん……ルカリス様は正直あの子と関わってほしくないわね。良い人だったし。あの女の毒牙に掛かったら可哀想だわ。
お兄様とユージーン様は……うん。人となりを知らないから、今は放置でいいわね。
あら?確か美亜の推しってルカリス様だったような?だったら私、関わらないほうが良いんじゃないかしら?
いや、でも……剣術の先生だし……お菓子一つでウルウルしちゃうあの感じ……ゔっ……ダメね。ルカリス様は護ってあげなくちゃ。
《ベリーちゃん?ベリーちゃぁあん!しっかりして!戻ってこぉい!カモンヌ!》
「は!……いや、しっかりしてるよ。色々考えてたらトリップしてたわ。」
《うんうん。そうだよねぇ、不安だよねぇ。遊戯神様は娯楽の少ないこの世界が退屈なんだと思うんだぁ。
だからって、ベリーちゃんを惑わすような人を寄越しちゃダメだよねぇ。
恋愛神様もねぇ……あの人、修羅場が好きなんだよぉ。たぶん、ベリーちゃんが恋愛で振り回されるのを見たいんじゃないかなぁ?迷惑だよねぇ。うんうん。》
「何それぇ。迷惑過ぎる……。誰を転生させても良いけど、『美亜』だけはやめてほしかった……
早急にこの敷地内から出て行かないとだわ。ゲームの内容知ってるから、ココに私が居るのも知ってるはずだもの。『物語には悪役令嬢は必要よね』とか言って明日にでも突撃してきそうだわ。」
思い立ったが吉日!で、すぐ行動に移すのよね。
猪突猛進。後先考えない。人の不幸大好き。お金大好き。男大好き。女は自分より優れてる人が嫌い。自己中。自意識過剰。被害妄想酷い。『美亜』という人物はこんな感じ。……絶対関わりたくない!!
《えっとぉ。キャロルがここに突撃してくるのかはわかんないけど、兄のアルヴィンは明日ここに来るみたいだよ。護衛連れて……あと、もしかしたら侯爵も来るかも。それに便乗してキャロルも来るかも?》
それは大変だわ!荷物は空間に入ってるから持ってく物はないけど、直してしまった建物と庭はどうしましょう!
「ウル!屋敷は仕方ないからこのままで良いけど、花畑とか野菜畑とか、果樹とかは置いて行けないわ!この子達は私が育てたんだもん!どうしたら良い!?」
《ん~ん~。わかった。花とか木とかは全部空間に入れちゃって!屋敷はリノベ前に戻してあげるから、心配しないで。……《アンドゥ!》》
ウルが詠唱した瞬間、ゴゴゴゴゴ……という派手な音を響かせながら元のボロ屋敷に戻った。
圧巻だった。「凄い」の一言しか出てこない。
実際、ウルは凄いのだ。いつもはケラケラ笑って巫山戯た事ばっかりしてるけど、さすが神族って感じで、やる事のスケールがデカすぎる。
私が想像した家具とか食器とかを記憶を読み取って創造魔法で作ってしまうんだよ。
食べ物とか生き物は作れないけど、家とか家具とか服とかをあっという間に作ってしまうの。
だから3年間、衣食住に困らなかった。
「ありがとうウル!本当に最高な相棒だわ!大好きよ!」
《あはっ!ボクはベリーちゃんの頼れる相棒だからね!ずっと一緒だよベリーちゃん!ボク達ぃは、相思相愛ぃ~》
くっ、可愛い。バニーボーイだけど可愛い!お尻フリフリがツボる!
ハイテンションな小兎神族ウルは、今日も絶好調に巫山戯てるのであった。
応援ありがとうございます!
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