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本編1 『幼少期』

第19話 最後の9歳。生誕祭の前日と……

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今日の目覚めも、ユージの寝顔ドアップ&腕の中。護衛のない日は何時もこう。何回も経験すると慣れるもので、起き抜けのご尊顔も見飽きた。
偶にはヨダレとか、イビキとか、鼻ちょうちんとか、見てみたいものだ。面白味が無い。

私など、寝相悪いわ、偶に白目剥いてるわで、アホ面晒しまくりなのに。解せぬ。


本日は、生誕祭一日前という事で、アルヴィン兄様が帰って来るのだ。嬉しい。

エドも、今日と明日は新人教育係は休みで、うちに来る事になってる。久々に会えるからやっぱり嬉しい。

ルカは、エルフ族の代表として来たお兄さんの護衛をする為、昨日から城に滞在している。

デイビッドは、今日だけ遊びに来る。明日は第二王子の護衛で参加するみたい。なんと側近候補なんだと。
まぁ、魔法師団長子息だし、同学年だからね。「そりゃそっか」と納得したよ。

あ、そうそう。第二王子が5歳の洗礼式に出てたのは、王妃様のせいらしい。よくある「側妃の子だから」ってヤツだ。まともな貴族婦人は居ないのか?と思う。

私からしたら、「側妃だからなんやねん!」だ。王が浮気して出来た子でも無いだろうに。
国王ってのは、一夫多妻が多いもんでしょ。王太子のスペア作らんとならんからさ。

まぁ、王妃とだけしとけよ!とは思うけど。仕来りやらがあるんでしょ。
それを分かってるはずなのに、側妃を、その子供をいびる王妃。ファックユーである。ふんす。

あ、実はユージとは生誕祭を一緒に過ごせないんだよね。ルカが抜けた穴を埋める為に、騎士団の団長室で執務のお手伝いをするんだと。

「俺まだ見習いの立場ですけど」と、言ったらしいが、『勇者』だし、『転生者』だしで、「ユージなら優秀だから大丈夫」ってルカに太鼓判を押されたんだって。

それと、「訓練受けないでベリー様とイチャイチャしてる暇あるなら仕事しろ」って言われたと。

「ベリーの専属護衛として働いてますが!」と言い返したら、「ベリー様に隙あらば口付けしてるって聞いてるぞ」と、更に言い返されたみたい。

それには「グッ」と喉を詰まらせて、「その通りです。少し浮かれてました。やめませんけどね!団長補佐、謹んでお受け致します」と、了承したってさ。

いやもう、本当に隙あらばキスしてくんの!偶にその場面をサイラスに見られ、懇々と説教されてる。
表情筋が動かないから、「説教してても反省してるか分かんない」んだって。サイラスが愚痴ってた。

そんなんだから、私が代わりに怒ったのよ。目を見詰めてしっかりと!
だけどユージったら、「怒った顔も可愛い」「声も可愛い」って、全然効いてないわけよ!
仕舞いには、「良いじゃん、俺のだし。舌入れてないし」ってさぁ!開き直りすぎるんだって!

「こんのエロ魔人が!」って怒鳴って走り去ったのに、ウルと一緒に笑ってんのよ?もうベリーは怒だよ。プンプンだよ。

サイラスには、「ごめんね、ユージに言ったのにダメだった…もう見て見ぬフリするしかないわ…」と、伝えといた。


サイラスは、「くくくっ。まぁ、ベリー様が怒っても喜ぶだけでしょうね。私は見ぬフリはしませんよ。見掛ける度にお説教です」と、苦笑いしてたわ。


あと、「あのやり取り、実は少し楽しんでやってるので良いんです。ユージの顔が全然変わらないのも面白いですしね」とも言っていたわ。


それならもう私は何も言わないわよ。てか言えないわよね。「勝手にしてちょうだい」ってヤレヤレと首を振っといたわ。

そんな、ユージとの攻防を楽しんでたサイラスは、今日と明日は家族サービスをするんだって。
プレストン男爵家はパーティに出れないから、祝辞を述べたら街に繰り出すらしい。

サイラスが「色々と案内してきます」と嬉しそうに言ってたので、「存分にサービスして来なさい」って後で送り出すつもりよ。
そろそろ交代の時間だから呼びにくるわね。さて起きましょうか。


「ユージ、チュッ。おはようユージ。起きて」甘々だと思うでしょ?砂糖吐きそうでしょ?でもね、頬チューはユージに強請られたの。しないと起きないって。だから見逃してね。


ユージ 「ん~もう一回……今度は口に……」


「口はダメよ。まだ細菌滅殺してないんだから。それより起きないとサイラスが来るよ……ゔっぐるじい……」


鼻つまんで「ダメだ」と「起きろ」と言ってたら、思いっきり抱き締められた。胸板に顔が押し潰されて苦しい!

モガモガと藻掻いてたら、パッとバニボーウルが現れた。

《コケコッコー。朝ですよぉ!起きて公園に集合!ラジオ体操の時間だぁ!みんなカードは持った?スタンプ貯めてお菓子をゲットだぜ!》


「…………」朝からテンション高いんだって。なんで『小学生の夏休みの朝』みたいな演出なわけ?


ユージ 「あっはははは!ラジオ体操とか懐かしいな!スタンプ貯めてたわぁ。くくくっ……はぁ……朝から笑ったわ。おはようウル、ベリー」


《おはようユージ、ベリーちゃん!『ラジオ体操』って変な儀式みたいな踊りだよねぇ。「腕を前から上に~」》


「おはようウル。あんた手が短くて上に挙がってないからね。てかもう踊らんといて、ユージが笑い死にしそう」


ユージ 「ひー、ふぅ、はぁーーー。朝から爆笑は疲れるな」


アホウルの動きに笑っていたら、ドアノックが聞こえた。

コンコン。「はーい」


サイラス 「失礼致します。おはようございますベリー様、ウル様。何やら楽しそうなところ申し訳ありませんが、交代の時間なのでユージを連れて行きますね」


「おはようサイラス。うん、連れてっちゃって」


ユージ 「悪ぃ、今行くわ。じゃ、ベリー行ってくるわ」


《あ、ボクも行くぅ。じゃあねベリーちゃん》


サイラス 「では失礼します。朝食は用意してありますので、着替えたら召し上がって下さい」 


「は~い」ウルは何処に行くんよ。全く自由人だな。


みんなが部屋から出て行き、扉が閉まった瞬間、シーンっと静まり返った中、「ふぅ」と、ため息を吐き出しベッドの上で伸びをした。

ふと窓の外に目を向けたら、ギャオコンドルが木の上に止まった。いつも来るヤツだ。

翼を広げ、こっちに目を向けた。めっちゃ見てる。ガン見だ。しかも若干バカにしたような目をしてる。

口を開けた……鳴く……そう感じた瞬間、窓に走り寄り開け放ち、《サイレントーー!》と魔法を放ったが、寸前で躱され、「ギャホーギャホー」と旋回しながら去って行った。


「アレ絶対に「アホーアホー」って言ってる!くそぉ、めっちゃバカにされてる!もう来んなアホ鳥!」


ギャオコンドルとの朝の攻防戦を終え、着替えて朝食を食べに向かった。ハクに「おはようございます」と挨拶され、「おはよう」と返し、いつもの朝が始まった。

ベーグルサンドと芋のポタージュ、ピンクグレープ(ピンクのぶどう)を食べた。美味しかった。

まったりしてたら、小犬神族のポチがトテテっと来て、《本じちゅの護衛はユージ様ワン。11時にサイラちゅが出掛けまちゅワン》と報告をしてくれた。

うん可愛い。癒される。「ありがとう」と頭を撫で、ベーコンジャーキーを渡した。ご褒美ね。
尻尾をブンブン振り回し、《ふぉぉお!》と雄叫び上げて去って行った。

そのあと、小猫神族のミーナが来て《違うにゃ。ユージはクビにゃよ。きょうの護衛はデビにゃ。ミーナはニボシが良いにゃ》

うん猫耳カワユス。「ありがとうミーナ」顎の下をカリカリしながら思った。(クビってなんだ?)
意味不だけど可愛いから良い。ニボシね、どうぞ。小分けにした袋を渡したら、中を覗き《ふにゃぁあ!》と毛を逆立てて、シュン。……あ、消えた。動きが早い。

リビングに移動したら、テーブルの下から声がした。

《主、主、水ちょーだい》

キミまで来たのカッパくん。小蛇神族なんだけど、どう見ても河童なんだよね。
ニョロってしてないし、頭に皿あるし、手に水掻き付いてるし。「種族間違ってね?」と思ったよ。

「なんで出て来たの。干からびるよ?はい水」魔法で水を出し、かけてあげた。《きゅーり…ごほーび…》

ああ、はいはい胡瓜ね……「いや、まんま河童じゃん!」


《うん。小蛇神族のカッパくんだよ。主が付けてくれた名前ー。あ、エドちゃんが来たよ。カッパくんのとこに来て干し肉くれたー。主にあげるー、不味いんだってー》


名前じゃないよ。「河童だ」って呟いたのを、キミが気に入っただけじゃん。色々と迷走した存在だよねキミ……


「エドもう来たんだ。……てか不味い干し肉とかいらんから!ポイッてしなさい。そして池に戻っとき」


《ポイッて?んー、ヤダ。ボクが食べる。
ねぇ、ねぇ、主ー。もっとヌメっとジメッとした池ないかなー。ちょっと物足りなくてー。見付けたら教えてー。じゃーねー》


自分で食べるんかーい!

ヌメっとジメッとね……沼かよ!湿地帯を好む……「やっぱり河童だよ!」


ハク 《いえ、小蛇神族のカッパくんです》


「ハク……居たのね。でもさぁ、色々とおかしい。可愛いけど変!誰さアレ生み出したの」


ハク 《ミニマム神様ですね。獣神族、精霊族、妖精族、華精族、これらを総称して『幻神族』と呼ぶのですが、生みの親は『小女神様』でございます》


「小女神のミニマム……」なんだろう。イメージ的に残念系のアホ神っぽい気がする。『女版ウル』みたいな。

ハクの説明を、「へぇ」「ほぉん」と聞いていたら、ワラワラと《ごほーびー!》と、チビッ子達が集まって来た。

ご褒美あげるのは良いんだけど、一斉に喋り出すから何言ってるか分かんないんだよ。

【報告=ご褒美】と思ってて、色々な情報を持って来る。最近、見た事ない子まで混じってるんだよね。
ウル達より少し大きくて、チョンマゲの先が花で黒縁の眠た目なのよ。「何族だよ!」そのうち『ナリー』って言うんじゃなかろうか。

(まさか、あれが華精族?花咲いてるし……種族名とのギャップエグいな!)


エド 「よお、ベリーちゃん久々。なんだか小せぇのがワラワラしてんな。
ユージもサイラスも居ないっつーから早めに来たわ。一応護衛としてな」


「エド!久々だね」護衛って……みんな過保護だよねぇ。

「そういえば、カッパくんに不味い干し肉あげたって?」


エド 「あー、あげたっつーか、《肉の匂いするー》って言われて、出したら取られたんだよ。不味いぞ?って言ったんだがな」


あんのバカッパ!《貰った》とかウソかよ!


エド 「お、デイビッドも来たみたいだな」


ビット 「やっほー。王都すごい人だったわ。生誕祭は明日なのにね。出店とかもいっぱいだったわ」


みんなお祭り好きねぇ。私も好きだけど、ゴミゴミしてるのがちょっと苦手なのよね。ま、明日は街に繰り出す予定だけど。

そういえば、キャロル美亜は今頃なにしてんのかね。ヤミーちゃんが張り付いてるみたいだけど、あの日から音沙汰ないんだよねぇ。


エド 「あー、あのさ。明日なんだけど、ちょっとだけ抜けて良いか?野暮用があってな」


「ん?良いけど。なにな~に?デートかい?」


ビット 「え!まさかあの子?ミット食堂の、エドに最近絡む子?生誕祭に誘われたって言ってたよね?」


あー!『ミットさんのお宿』ってところの看板娘ちゃんか。ん?でも既婚者じゃなかった?宿の跡取りの嫁だったよね?


エド 「いや、アレ結婚してんじゃん。『Sランクのエドワード』と歩きたいんじゃね?「嫁が友人と自慢できるねと話してたんです」ってよ、旦那に謝られたわ。
って、そういう話じゃなくて、パーティに少しだけでも顔出せって、鬼ギルに言われたんだよ」


いやぁ、凄い女性だね。完全にアクセサリー感覚なのか。エドってモテるのに、変な女ばっかりに好かれるんだな。
というか、そんな女の人しか居ないんかい!って思っちゃうわ。

まだ、キャロル美亜のほうがマシなんじゃなかろうか?スリスリ擦り寄って、好き好き言ってくれるから。

いや、あっちこっちで尻振ってるからダメか。一途じゃないからな。
女性に塩対応なのは一種のツンデレか?と思った時もあったが、デレが一切ないしな。
男性も、気に入った人じゃなきゃ全くデレないし。うん。アレもやっぱりダメだわ。


ビット 「あの子そんな子なんだね……優しそうで客対応良いのに。なのに……ちょっと幻滅……
鬼ギルって、ギルド長?そりゃ出ないとダメだね。あ、でも苺ちゃん一人になっちゃうよ?」


「私は大丈夫だよ?ウルといるし、なんかあったら転移で逃げるから。エドが戻るまでブラブラしてるよ」


エド 「う~ん。ウルが居るなら大丈夫か……いや、やっぱ一人はダメだわ。そんなんしたらユージがキレる」


ゔっ、確かに。ユージがめちゃくちゃキレそう。ちょっと街まで買い物に行く時も「一人はダメ!」って煩いし。


ビット 「あ!じゃあさ、あの冒険者の2人組に頼んでみる?いつも酒場で酒飲んでる、Aランクの厳つい中年」


エド 「あ?ウィリスさんとベリックさんか。良いかもな。あの二人、あの日からベリーちゃんの事ばっか聞いてきて、心配してっからな」


???どの人の事?厳つい中年冒険者は、知ってるだけで4人いるんだけど。


ビット 「あ、苺ちゃん分からない?大剣持ってる赤髪の人と、長剣の茶髪で髭の人。偶にご飯ご馳走してくれる人達だよ」


「あー!あの優しい人ね!頭ポンポンってしてくれる!」


エド 「ウィリスとベリックな。ベテラン冒険者で俺の大先輩。んじゃ、ちょっと行って頼んでこようぜ」


はい。という事で久々に来ましたギルド。相変わらず汗と酒の匂いが凄い。顔を顰めながら酒場をキョロキョロ。

「あ、居た」トトトッと近寄って、「おっちゃんに会いに来てくれたんか?」って頭ポンポンされた。これ好き。

んで、明日エドが居ない間の護衛を頼んだ。「広場で酒飲んでるから探して置いてけ」だって。
ぶっきらぼうな言い方だけど、目とか表情とか優しいんです。ドンッと構えてて格好良いです。

ちょっとだけ話して、「明日お願いします」と手を振ってギルドを出た。
いつも人で溢れてる市井は、明日が生誕祭のため人が王都へ出ていて閑散としている。静か……

いつもの串焼き屋さんで肉串を買って歩きながらパクッと。ミックススパイス美味い。塩だけより好き。

エドとビットと、3人で話しながら歩いてたら、『ミットさんのお宿』の前を通り掛かった。
あの看板娘ちゃんが中から手を振ってた。エドにかな?目がキラキラしてた気がする。
その目は旦那さんに向けてあげて。隣で萎縮しちゃってるじゃん。

一度通り過ぎたけど、テテテっと戻って直撃してみる事にした。


「お姉さん。エドはアクセサリーじゃないよ。旦那さん居るなら一筋でいないとダメよ」

下から見上げてそう言ったらポカーンとしてから、「ふふふ」と笑った。


看板娘 「小さな可愛い騎士さんね。エドワード様をアクセサリーなんて思ってないわよ?そ・れ・に、旦那さん一筋よ?誰かに何か聞いたのかな?」


ん?どゆこと?


「お友達と「自慢できるねぇ」って話してたって、生誕祭にも誘ったって聞いたよ?アクセサリー感覚で侍りたいって事じゃないの?」

首を傾げてそう聞いたら、目が点になってた。そして数秒なにか考えた後、困ったように話し出した。


看板娘 「旦那が聞いてたのね…。それを又聞きしたのかな?確かに自慢出来るって話してたけど、アクセサリー感覚とかじゃないわよ?
こういう店で働いてると、バカにしてくる女性冒険者とかが居るのよ。イヤミ言って笑ったりね。
旦那をバカにする人もいるわ。その度に「エドワード様は~」って勝ち誇った顔するのよ。
だから、エドワード様と生誕祭を歩けたら、そういう人達を鼻で笑ってやれるわ!って思ったのよ。
ごめんなさいね。エドワード様の小さな騎士さん。もし本人の気分を害してしまったのなら、謝っといてくれるかしら?」


めっちゃ良い人だった!凄い良い人だった!超やさしいです。目線合わせて話してくれる人ってだけで好印象だよ。


「お姉さん、ごめんなさい。責めるような事を言ってしまったわ。エドには必ず伝えます!この店常連なんだって言ってたから!」


エド 「あー。すまん聞いてた。そういう事だったんだな。早とちりしちまったわ。この店の飯美味いから、来れなくなると困るなって思ってたんだよ。
そういう事なら、これからも食べに来るから宜しくな。旦那さんも。なんなら、明日一緒に歩くか?」


エドがそう言ったら、夫婦2人で揃って「いやいやいや」と、頭をブンブン振ってから、頭下げて謝ってきた。

うんうん、誤解が解けて良かった良かった。

一件落着!っと手を振って外に出たら、ガシッと両側から腕を取られて、連れ去られる宇宙人状態で、屋敷まで連れていかれた。

そしてここはサロン。ソファに座る私を見下ろす2人が目の前に。

いやぁ。背の高さと足の長さが違うのに、阿吽の呼吸みたいに息ピッタリ歩いてたね君達。
そして話し掛けても終始無言……怖かったよ2人とも。漫画みたいにピキって青筋が見えてたよ。


「どどど、どうしたの2人とも。イケメンが台無しよ?」


エド 「はぁ…こりゃ、ユージが心配すんの分かるわ」


ビット 「ホントだね。目を離すと何するか分かんないから困るね。さっきだって急に消えるから焦った」


「そんな大袈裟な。誘拐されたわけじゃあるまいし。「ちょっと行ってくる」って伝えたじゃない」


エド 「アホか!「ちょっと行ってくる」って、何処にだよ!分かるかボケぇ」


「キャー!痛い痛い!」グーでこめかみグリグリは痛い!どこでそんな技を身に付けた!ユージか!ヤツの真似か!

ビット 「こりゃユージ一人じゃ大変だね。サイラスは苺ちゃんのする事に怒ったりしないしね」


いや、サイラスだって普通に怒るよ。淡々と、懇々と。超~長い説教するんだよ。
あれされると眠くなるんだよ。耐えられなくて欠伸なんかしたら更に説教するんだよ?
足痺れてくるのよ。終わったあとなんて子鹿のようにプルップルよ?知らないの?

スっと目が細くなって無表情になったら、ヒヤッとするのよ。ユージの無表情より怖いのよ。

たぶん、怒ったら一番怖いのはサイラスだと思うわ。


エド 「こりゃ、明日預けて行くの心配だわ……あの人達、酒飲むだけ飲んでベリーちゃんを放っときそう」


ビット 「有り得そうだね。あ、侯爵様に頼んで影付けてもらう?その方が安心できそう」


「影ぇ?偶に偵察に来る黒い人?細っこい真っ黒な子?」

黒髪黒目で日本人みたいなんだよね。一週間に一回くらい木の上に現れて、手を振ったらギョッとして逃げちゃうのよ。


ビット 「あー。たぶんそれかも?影って魔法で真っ黒にしてるからね。目立たないようにって事らしいけど、実際目立つよね。黒髪黒目なんていないし」


エド 「黒髪黒目ね…俺の祖先がその色だったって聞いた事あるな。ユージが言うには『日本人の色』なんだとか。自分も前世は黒髪だったって言ってたな」


ビット 「へぇ。じゃあ苺ちゃんもじゃない?黒髪黒目なんて神秘的だね。幻想的っていうか」


ああ。エドの祖先って『転移者』だもんな。日本人なら黒目黒髪だわな。

デイビッド……夢を壊すようで悪いが、幻想的な黒髪の人なんて、そんなに居ないぞ。

パーマ掛けたり、脱色なんて普通にするし、最近の若者はピンクやら青やらに染めてるし、目だってカラコンで緑とか赤とかいるぞ。


「まぁ、日本人は『黒』ってイメージはあるかな。
それより明日だね。影の護衛は要らないからね。ウィリスさんとベリックさんだけでじゅうぶん。傍で大人しくしてるよ」

-----------------------------------------------------

そんな事を言って、「ははは!」と笑ってたのは何時だったか……昨日の夕方だったか……

いま私は生誕祭に来ております。

エドと別れ、ウィリスさんとベリックさんと一緒に大人しくしていたのです。
だけど、有名人な彼らは知り合いが多い事!ワラワラと寄ってきてはその場で飲み出す。

私は絡まれないように気配を消していたら、どんどん遠くに追いやられ、気付いたら路地裏に辿り着いていました。

果てさて、王都の闇の部分に来ちゃいましたよ。虚ろな目をした人が道に座り込んでるよ。ガリガリやないかぁい。

王子様の誕生日に金掛けるなら、こういう所をどうにかしたら?って思うわ!
貴族もさ、金あるんなら贅沢ばっかりしてないで、病んじゃってる系のこういう人達を救えよ!


《ベリーちゃん。ここ危ないよ?奥の方なんて澱んでて臭いよ。腐乱死体とかあるんじゃない?》


「そんなのあったら埋葬してあげないと可哀想じゃない。澱みは私が浄化するわよ。怖いなら大通りにいれば?」


《いや、怖くないけどさぁ。犯罪者の溜まり場とかあるかもよ?》


「もしあったら騎士団に通報すれば良いじゃん。私は大丈夫よ。結界も張ってるし」


なんだか呼ばれてるような気もするんだよねぇ。「こっちこっち」って。ウルは感じないのかな。
あの突き当りを左に曲がったところに何かありそうなんだよねぇ。

ウルが心配して何か言ってるけど、無視無視。なんか良くない事が起こってる予感……

(……!……しろ……るな!)ボソボソ

ほらほら、なんか聞こえる……(ウル、聞こえる?誰かいる。なんか怒鳴ってる)

《……聞こえてる……ちょっと見てくる。結界解かないで、隠密魔法で姿消してて》

(了解。《コバート》)

姿を消して木箱の影で大人しくしてたら、慌てた様子のウルが戻って来た。

《ベリーちゃん!誘拐だと思う!小さい子が2人くらい捕まってた!》

(最低!子供攫って売り飛ばすのかしら!ウル、スリープで眠らせて見張ってて!私ウィリスさん達に伝えてくる!)

《分かったぁ。気を付けて行って来てぇ》


急いで路地裏から抜け出し、ウィリスさんを見付けて事情を話したら、すぐに動いてくれた。
確保に向かう者、見回りの騎士に伝えに走る者、沢山の冒険者と騎士が動き、捕物はものの数分で終了した。

子供達は祭りで親とハグれ、「連れてってあげる」と声を掛けられついて行ったらしい。「知らない人にはついて行くな」と、保護した兵士さんに怒られてたみたい。

私はそれをウルから、ユージの膝の上で聞いていた。

何故かって?

私も一緒に悪者を捕獲しようと思ってたら、ハクが転移で迎えに来て、ユージの元にポイッとされたからです。

《ベリーちゃんが絡むと面倒臭くなりそうだから迎えに来て》って、連絡がきたんだって。酷い。

んで、心配しーのユージに、ギューギューと拘束されてるわけです。締めすぎ痛い。

こうして私は、『誘拐』という事件に遭遇し、生誕祭の日を終えたわけだけど、キャロル美亜は誰かに遭遇したかな?

素敵な王子様に会って、乙女ゲームを始められそうかな?
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