あちらの悪役令嬢は、前世が猫だったようです。

藤 都斗(旧藤原都斗)

文字の大きさ
34 / 64

それはそうだよね

しおりを挟む
 



 「.........と、いう訳で陛下、アンタの嫁さん大分アカン」
 「...............どうしてこうなった......」

 頭を抱え蹲る国王と、執事服の男の会話である。
 王族直属の影の者を束ねる長である彼は、国王とは長い付き合いであるがゆえに、口調が軽い。
 なお王妃の悪行は全て、逐一報告されていたので、実は国王には筒抜けである。

 「いや、どうしても何も、今までのツケが回って来ただけじゃないの」
 「...もうやだ離婚したい...」

 確かに、今までずっと放置して来たのは国王である。
 だがしかし、処罰するにも王妃は隣国の王族。
 そう簡単には行かなかった。

 「すれば良くない?」
 「簡単に言ってくれるな、隣国との友好の為の結婚だぞ」

 国際問題になってしまう事は、避けたかったのである。
 何より、嫁いで来た当初は本当に清らかで何も知らない・・・・・・可憐な姫だったのだ。
 全ては、幼少期の教育課程が原因だろう事は国王も理解していたが、まさかそれが一切修復不可能であり、更にここまで自尊心が肥大し、どんどん歪んでしまうなど誰が思うだろうか。

 「でも、ここまで来たら無理くない?」
 「そうだけどさ...、一応王妃だし...」

 それなりに長く連れ添った夫婦故に、それなりの情がある。
 故に国王は、どうにも踏み切れずに居た。
 諭していればいつかは、と考えてしまったのは、国王である前に一人の男としての、優しさだったのだろう。
 全て拒絶し、己だけの世界を生きる王妃には何も届かなかったらしいが。

 「このままだと公爵令嬢ちゃん死んじゃうけど」
 「それだけはダメだ......!」

 今まで、王妃の手で様々な女性達が陥れられて来た。
 ある者は二度と光を見る事が出来なくなり、ある者は二度と歩く事が出来なくなった。
 国王の幼馴染の女性でさえも、一度生死の境をさ迷った。

 だからこそ王は、国民を、大事な友人を守る為に己が犠牲になったつもりだったのだ。
 己が王妃だけを大事に、大切にしていれば、犠牲者は最小限に済む。
 故に側室を持たず、愛人すら作らず、ただ王妃を愛し、執務に励んだ。

 これは、岐路だ。

 ここで道を誤れば、また新たな犠牲者が生まれてしまう。

 「どうすんの?」

 執事服の男の問いに、王は少しの逡巡の後、重い口を開いた。

 「薬をすり替えるか、この情報をリクドウインの倅、ギンセンカの坊に」

 それは決意に満ちた、覚悟を決めた者の表情だった。

 「......んー、薬のすり替えは難しいから、解毒剤と一緒に情報渡してくるわ」

 王の決意を軽く流し、影の長は頭の中で段取りを組む。
 そんな彼に、王は疲れたような表情で声を掛けた。

 「世話をかける......」
 「まあ、これで離婚出来そうだし良いんじゃない?」

 「......そうだな、王妃がやったという事が分かるようにさえしておいてくれれば、こちらでも手を打とう」

 きちんとした証拠さえあれば、国際問題として逆に隣国に訴える事も出来るだろう。
 それを見越しての、言葉であった。

 「ほいほい、んじゃ行ってきまーす」

 なんとも軽い声の返答の後、影の長の気配は消えていった。
 残された王は、ただただ深い溜息を吐きながら頭を抱えた。

 「...............はぁー、もうマジなんなの......?」

 自業自得とはいえ、しんどいものはしんどかった。

 
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

【完結】婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

処理中です...