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「たぶんこの水なら飲んでも大丈夫だよ。そして多分だけど…水が流れ落ちて溜まってる場所のちょうど反対側のこの辺りに…あっ、これかな?」
直径1mぐらい深さ30cmぐらいの水溜りに手を差し込んで砂の奥を手で探ったら少し大きな緑色の石があった。
「あら、きれいな石ね。いらないならちょうだい。久美母さんに渡してアクセサリーにしてもらうわ」
流れ落ちる水を手で受けて飲んでいた朱美がそんな事を言いだした。

「お前これの値段分かって言ってるのか?」
「それぐらいの大きさのパワーストーンなら200円ぐらいで買えるわ」
パワーストーンって…

「あのな。これは未来が俺の為にここにわざわざ置いてくれたものなの。これだけでたぶんだけど売ったら1年ぐらいは普通に生活できるぐらいのお金になるの。分かった?」
「えっ…ここで1年生活とか私イヤよ?」
「そんな事言っても歩いて戻れるとかって話じゃないんだから、未来が迎えに来てくれるまで待つしかないんだぞ?」
「えー…」



俺と朱美が言い合ってると人の足音らしき音が聞こえて来た。
「朱美、俺の後ろに」
「うん」
足音がする辺りの俺を挟んで反対側に朱美が移動したらすぐに男が見えた。

「おや?こんな所に…子供…?君らはどうやってここに?」
俺達が歩いてきた下藪をかき分けながら来たそこそこ背の高い元の世界の俺よりホンのチョットだけかっこいいかもしれない感じの男が誰何してきた。
「小吾君。目の前のげんじつから目をそらすのは良くないわよ?」
朱美はついさっきぐらいから俺の心の葛藤を読み取れる能力が備わったらしい。

「ケッ…ちょっといい男だと思って調子に乗るなよ!」
アナル処女男子ケツの穴の小さい男と言われてしまうかもしれないが、現れたばかりの男の肩を朱美が持ったのが気に入らなかった俺は思わず悪態をついてしまった。

「ん?ちょっと?そんな事は無いよ。ぼくはすごくいい男だから。だからその程度の事で調子にのるなんて必要は無いな」
びっくりした。こんな事を言う奴を俺は佐藤以外に知らない。いや、佐藤はもう少し恥ずかしそうに自分がかっこいい事を認める感じだったのでこいつとは基本的に違うとは思うのだが…あぁなるほど。

ってことは、たぶんこいつは頭のどこかが壊れているって事だな。
よかった♪天は二物を与えずって言葉は本当だったみたいだ♡

朱美もこいつの今の発言で確実に評価を下げただろう。…って事は♪
かっこいい奴が残念な奴だと分かった時ってのは、普通の奴が株を上げるチャンスだ♡

フッ♪言うしかないな。

「朱美。あんな残念な奴はほおっておいて、俺達はそっちでチューでもしよ~ぜ♪」
「はぁ?いきなり何言いだす気なの?まったく。これだから子供って嫌なのよね。フゥー」

おかしい。朱美の視線は未だ男に向きっぱなしだ。なんでだ?…こいつは見ず知らずのおっさん(俺にはそう見える)のはずなのに、なんで俺よりこいつの方が評価が高そうなんだ?
ちっ…朱美がパパ大好きに育つ様に、子供クソガキが魅力的に見えなくなる様、色々画策した事がもしかしてここに来て裏目に?

「それで?君たちはなんでこんな場所に居るんだ?ここはこの神社の氏子の中でも一部の人しか知らない般若姫の生まれ変わる泉と言われてる所で…言い伝えでは姫に認められた者しか来れないって…」
「おいおっさん。今『えっ?この子ってもしかしたら?』とか思ったかもしれんが、勘違いだからな?こいつは朱美。俺の妹…じゃなくて嫁さんになる子なの!」
「誰がお嫁さんになるって言ったのよ!それは小吾君がかってに言っただけでしょ?!私は一回もいいって言ってないし!って言うかはんにゃひめ?って何?」

「ん?あぁ…般若姫って言うのは、その昔時の帝様天皇が欲するほどの美貌を持つ姫が豊後の国にいたそうで、そのお姫様とこの辺りに昔住んで居たとされる金色の竜の伝説があるんだ。そして500年に一回その姫が生まれ変わってこの地に現れるって言われていてね」
こいつ自分の説明を自分で反芻しながら朱美をその姫だって事にしようとしてないか?

「朱美。こいつのいう事に耳を傾けるな。こいつは確実にロリコンだ。おまえちんこ突っ込まれるぞ」
「サイテー…」

おっと。言葉の選択を間違った様だ。最低の烙印をもらってしまった。
とりあえず『ちんこ突っ込まれる』は、あまりにも直接的に言い表しすぎた様だ。ならば、もう少しソフトな表現に変えて、あとはそれで減る危険度を他の場所に盛る感じにするとすれば…よっし。

「さすがに今の説明はちょっと下品な言い方だったな。言い直そう。朱美、こいつはペドコンだからお前の処女とアナル処女一気に散らしにかかってくるはずだ。マジで気を付けろ」
「オマエマジサイテー…」

おっとさらに評価を下げてしまった。おかしい、本心からの忠告なのになんで?…まずいな、このままでは俺が捨てられてしまいそうだ。

「コホン…まぁあれだ。その般若姫様に関してはどこのお嬢様か知らんが、俺達には黒田さんちの先の辺りに住んで居るらしい三田さんの家に行くって使命があるんだ。だから邪魔しないでくれないかな?」
「何?今から三田さんの家に行くのか?…目的は?」
なぜか急に真剣な感じに質問してくる男。

「見ず知らずの奴にそんな事を言う訳が無いだろ?いいからどけって」
朱美の腕を取って男を押しのけて神社の境内に戻ろうとすると、強い力で肩をつかまれた。
「僕は黒田くろだ家の隼人はやとだ。この名前に何か聞き覚えは無いか?」

なんとなくだが、何か騙そうとかって感じではなく、とても重要な案件に気付いた感じの物言いをしてくる隼人君だった。

「?」
首を傾げながら見ると朱美が首を振って知らない事を伝えて来た。
「俺も朱美も知らないみたいだけど…隼人って名前が三田さんの家に何か関係してるのか?」
「勘違いか?…でも…君の名前だが、確かさっき小吾って言ってたよな?」
質問に答える気が無いのか答えられないのか…

「俺は小吾って呼ばれてるけど本当の名前は大吾だからな?小吾はこの姿の仮の名だ」
なんとなくこの言い方…カッコよくね?…♪
「大吾?!本当にその名は…ちなみに名字は…横手か?」

もしかしたら、俺達は未来のメッセージにたどり着いたのかもしれない。


その後お互いの自己紹介をしつつ、俺が横手大吾で女の子が飯田朱美と分かった所で家に招待したいなんて事を言い出した隼人君(19歳)の言う所の、牛車?と言う名の牛が引く荷車に乗って移動する事になった。

「そうかぁ、あの般若姫は君の奥さんだったのかぁ…胸が熱くなるなぁ~♡僕はね、家に代々伝わっていた女神様…じゃなくて般若姫の生まれ変わりの女性の絵を見てずっと恋焦がれていたんだよ~♪そっかぁ~君があの般若姫の旦那さんだったとはなぁ~♡」
隼人君(19歳)はどうも未来に泉の管理を任された、この地域の管理人一族の末裔の1人だったらしい。
そして未来はどうも般若姫の伝承をちょっと弄った感じで、話の中に出て来る竜宮城(たぶんあのおとぎ話に出て来る城ではないが、名称が同じだったためにそれを使ったのかも?)からイメージを取って羽衣を纏い浮いて降臨みたいな演出で現れたらしい。
そしてその姿を掛け軸か何かの形で残していた黒田家で隼人君は育ったらしい。

「僕はねぇ、未来さんっていうのかい?般若姫が本当に居たらって何度も夢想したものだよ~♡」
「姫の事はそれぐらいにして、他には未来…あーっとその姫さん何か言ってたんだろ?どんな事を言って残したの?」
えっ?それ聞いちゃう?聞きたいのぉ~~♪♪♪なんて心の声が聞こえそうな顔をした隼人君がしゃべりだして、止まらなくなった。

ちなみに、隼人君の教えてくれた内容をかいつまんで説明すると、どうも羽衣を纏って降臨した未来は、『この地にいつの日か大吾とその縁者が来る事があるだろう。皆はその時が来るまでこの地を守り代々子孫を残し繫栄する事を責務とする』という言葉と、『三田家の者は我の縁者なり』なんて事を言い残し、そこらに居た何人かの男とエッチな事をして消えたらしい。
たぶんワクチン的な何かを男達に注入して行ったんだろう。

「なぁ、般若姫とまぐわった男達の1人ってのが黒田家のご先祖様なのは分かったが、そのご先祖さんって何か言い残してなかった?あー…天国で地獄を見たとか桃源郷に鬼が居たとかって」
「はて?そのような言い伝えは特になかったが…あぁ、そうだ。代々黒田家に生まれる長男には隼の字を与える様に願われたって話があってね。その言い伝えのまま僕は隼人だし、父は隼太はやたでじいさんが隼太郎はやたろうで、その前の祖父さんが確か…」
「先代の祖父さん達の名前はもういいよ。それにしても未来はなんで隼の名を付けろとか言ったんだろうな?」
「そう言えば…」
朱美が何かを思い出したらしい。
「確か…私が聞いたのも小さな頃だったから間違ってるかもしれないけど、灯母さんが隼大はやた君の名前を付けた時に『私の生まれた地域ではね、ハヤブサの文字を名前に持つ人って皆がカッコイイって思う様な人が多かったのよ』って言ってた気がする」

「そう言われればうちは代々美形だな。確か言い伝えでは般若姫様の血が流れているから少しばかり地域の人達とは違った感じの容姿になってるって言われているが…他の違う名を願われた家の子達も代々美形なのは…なるほどこれも般若姫様からの恩寵であった訳か」
1人で納得して頷いている隼人君の家の周りでは、どうもそんな言い伝えが残ってるらしい。

ちなみに聞いた所によると、黒田家は隼の名を付ける様に言われていて、他の家では、鷹、鶴、鵜などが伝えられているらしい。なんでわざわざこんな事をしたのか…?

伝承に関しては分からない部分もあるが、これはたぶん俺達が気付けるように、未来がヒントを残してくれてると考えて良さそうだな。
戻ったらあいつがしたいって言ってたツイン真琴丼を叶えさせてやるしかないな♡

「そう言えば俺達って三田家には行っても大丈夫なの?」
「そうだな…とりあえずそこらは一回うちに泊まってからで良いのではないか?一日中歩き回ったのであろう?」
隼人君がアゴで朱美を指しているのでそちらに視線を向けたら朱美がうつらうつらし始めていた。

まだ夕方ぐらいなんだけど…

「分かった。そしたらこの後の事は明日起きてからって事にしよう。今日の宿は頼めるか?」
「もちろんだ。黒田家は君達般若姫様の縁者を手厚くもてなす事を約束しよう」
とってもいい笑顔の隼人君だが、美形の男の爽やかな笑顔が信用できないのは俺の心が狭いからなんだろうか?
…それとも、俺が知らない何かが裏で動いてたりして…って、さすがにそれは無いか。
今のこの状態がそもそも想定外なんだから、更に何か企みとかちょっと勘弁してほしい。

寝落ちそうになって大吾の肩に頭をゴンゴン当てはじめた朱美を見て、ため息が漏れる大吾だった。
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