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第5章 最高に幸せで切ない休日

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「先に買い物を済ませて、それから昼食を取ろう」
「はい」

 レジデンスの駐車場で芹澤さんの愛車、シルバーのベントレー・コンチネンタルに乗りこみ、銀座方面に向かった。

 有楽町の家電量販店でビデオカメラを買い、銀座のイタリア料理店で昼食をとることに。

「芹澤様、いらっしゃいませ」
 個室に案内され、すぐにオーナーが挨拶に来られた。

「急に来たのに、『個室で』なんて無理を言ってすみませんね」
「何をおっしゃいますやら。芹澤様にご来店いただけて光栄です」

 うーん、さすが、芹澤さん。
 たぶん、東京中のどこの店に行っても特別扱いなんだろうな。

 春の食材をふんだんに使ったパスタランチコースをいただく。
 春キャベツと桜エビのパスタも、もちろん美味しかったけれど、前菜に出された季節野菜のバーニャカウダが絶品だった。

 盛り付けがとても凝っていて、味だけでなく目も存分に楽しませてくれた。

 食後のコーヒーをいただいていると、芹澤さんに「だいぶテーブルマナーが身に着いてきたみたいだね」とほめられた。

「うわ、その言葉、今、一番嬉しいです!」
「ほら、ぼくが言ったとおりだっただろ? エリカならできるって」
「でも、まだまだですよ。昨日も神谷先生にしぼられました」
「あの人は厳しいことで有名だから。皇族の方の先生もされたことがあるそうだよ」

「神谷先生に一言でもほめていただくことが、今の目標になっています」

 芹澤さんが目を見張る。
「きみは前向きな努力家だよ、ほんとに。じゃあご褒美ってことで、これからどう? 桜が綺麗なところに行こうか」

「うわぁ、ぜひ」

 今年の2月、3月は記録的な寒さで、桜の開花が例年よりも遅かった。
 温かくなってきた先週、ようやく開花して、今はほぼ満開。

 まさに見頃だった。
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