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第5章 最高に幸せで切ない休日

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「どこですか? この近くなら千鳥ヶ淵とか?」

「それはついてからのお楽しみということで。そうだ、エリカは高所恐怖症じゃない?」
「いえ、高いところなら大好きです。展望台があったら必ず登りますし。なんか子どもっぽいですけど」

「いや、それなら良かった」

 うーん? 高いところでお花見ってどういうことだろう?

 車で向かった先は、なぜか湾岸地区にあるヘリポートだった。

 「この辺にお花見の穴場があるんですか?」

 芹澤さんは得意げにニヤリと笑った。
「空の上からの花見と洒落こもうと思って」

「っていうことは? ヘリに乗るんですか」
「うん。ぼくのヘリ、ちょっと窮屈だけどね」

 今、ぼくの、って言った?
 オーナーってことかな?


 滑走路にはかなり強い風が吹きつけていた。
 風にあおられて、髪が乱れまくる。

 髪の毛、まとめてくればよかったとちょっと後悔。

 10メートルほど歩いていくと、すでにエンジンがかかっている小型の赤いヘリコプターが見えてきた。

「あれが〝ミス・フラーゴラ〟。フラーゴラって、イタリア語で『イチゴ』のことなんだ。赤くてイチゴみたいだろ? ぼくの愛機なんだ」

「どうぞ、いつでも飛べますよ」
 ヘリポートの係員が芹澤さんに声をかけた。
「ありがとう」

 そして、なんと芹澤さんは外部点検をした後、自ら操縦席に乗り込んだ。

 えっ? ヘリの操縦までできるの、この人!

 もう大概のことでは驚かなくなっていたけれど、これにはやはり度肝を抜かれた。

「はい。これ、つけて」
 シートベルトを締めていると、ヘッドセットを渡された。
 芹澤さんのほうに視線を向ける。

 隣でヘッドセットをつけて、サングラスをかけて、操縦桿を握る彼は、映画の主人公そのもの。

 言葉じゃ表せないほど、カッコいい。
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