85 / 117
第6章 甘い計略
7
しおりを挟む
芹澤さんは二日酔い、わたしは寝不足でふたりとも食欲がなく、朝食は買い置きの鮭フレークのお茶漬けにして、簡単に済ませた。
「あの、お話ししたいことがあるのですが」
「うん?」
「パーティーまでの残りの期間、ここを出て、家からレッスンに通うことにしたいのですが」
芹澤さんは困惑気味に目を見開いた。
「もしかして……昨夜、酔いに任せて、ぼくはエリカに、何か無体なことをしてしまったのか? それで嫌気が差したとか」
実は、ほとんど記憶がなくて、と彼は不安そうに瞳を揺らめかせて言った。
「違います。そんなこと、まったくなかったです」
「じゃあ、なんで? 家から通うんじゃ不便だろう?」
そして、いつものように、芹澤さんは正面からわたしの目を捉えた。
彼のまっすぐな眼差しは、わたしの心の奥底まで入り込んできた。
ごまかしてはいけないと思った。
今の気持ちを包み隠さず、正直に伝えなければいけない、と。
わたしは一度大きく息を吸い、それから口を開いた。
「何故って……あなたと、宗太さんと一緒にいるのがとても辛いから。だって……」
わたしも彼の目をまっすぐに捉えた。
「平気な顔をして過ごすことができないほど、宗太さんを……好きになってしまったから」
その言葉を聞いた瞬間。
芹澤さんはふっと笑みをもらした。
つい笑ってしまった、そんな顔だった。
そんなこと、わかりきっていたことだ。
彼はこう思ってるにちがいない。
身のほど知らずな女だな。
少し優しくしたら付け上がって、と。
そう思われても仕方がない。
自分でも、同じように思っているぐらいだから。
でも、せめて一言ぐらいは、言ってほしかった。
「あ、あの、だから、付き合いたいとか、そんなおこがましいことを言いたいんじゃなくて……そんなこと言われても、芹澤さん、困りますよね」
「あの、お話ししたいことがあるのですが」
「うん?」
「パーティーまでの残りの期間、ここを出て、家からレッスンに通うことにしたいのですが」
芹澤さんは困惑気味に目を見開いた。
「もしかして……昨夜、酔いに任せて、ぼくはエリカに、何か無体なことをしてしまったのか? それで嫌気が差したとか」
実は、ほとんど記憶がなくて、と彼は不安そうに瞳を揺らめかせて言った。
「違います。そんなこと、まったくなかったです」
「じゃあ、なんで? 家から通うんじゃ不便だろう?」
そして、いつものように、芹澤さんは正面からわたしの目を捉えた。
彼のまっすぐな眼差しは、わたしの心の奥底まで入り込んできた。
ごまかしてはいけないと思った。
今の気持ちを包み隠さず、正直に伝えなければいけない、と。
わたしは一度大きく息を吸い、それから口を開いた。
「何故って……あなたと、宗太さんと一緒にいるのがとても辛いから。だって……」
わたしも彼の目をまっすぐに捉えた。
「平気な顔をして過ごすことができないほど、宗太さんを……好きになってしまったから」
その言葉を聞いた瞬間。
芹澤さんはふっと笑みをもらした。
つい笑ってしまった、そんな顔だった。
そんなこと、わかりきっていたことだ。
彼はこう思ってるにちがいない。
身のほど知らずな女だな。
少し優しくしたら付け上がって、と。
そう思われても仕方がない。
自分でも、同じように思っているぐらいだから。
でも、せめて一言ぐらいは、言ってほしかった。
「あ、あの、だから、付き合いたいとか、そんなおこがましいことを言いたいんじゃなくて……そんなこと言われても、芹澤さん、困りますよね」
2
あなたにおすすめの小説
先生、わがまま聞いて
香桐れん
恋愛
[11/6完結済。たくさんお読みいただきありがとうございます!]
高校三年生の瑛斗は、若い女性教師「しゅーちゃん」こと三田先生が、妻子持ちのベテラン教師とホテルに入るところを目撃する。
翌日、三田先生を訪ねた瑛斗は、先生が涙するところを目の当たりにしてしまい……。
「不倫が許されるのに、どうして俺は許されないんですか?」
――教師×高校生の「禁断」と呼ばれる純愛の行く末。
※※※
この作品は公序良俗に反する行為に同意・推奨するものではけっしてありません。
ご理解いただける方に楽しんでいただけると嬉しいです。
便宜上レーティング設定していますが、描写は控えめです。
(性描写を目的とした作品ではございません)
該当部分には各ページ上部の節タイトルに「※」をつけています。
苦手な方は避けてお読みください。
過去に非営利目的の同人誌で発表した作品を全面改訂・大幅加筆したものです。
エブリスタにて先行公開済み作品。
---
写真素材:Joanna Kosinska
家政婦の代理派遣をしたら花嫁になっちゃいました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
このご時世、いつ仕事がクビになるか分からない。社内の派遣社員が一斉にクビを告げられた。天音もそんな1人だった。同じ派遣社員として働くマリナが土日だけの派遣を掛け持ちしていたが、次の派遣先が土日出勤の為、代わりに働いてくれる子を探していると言う。次の仕事が決まっていなかったから天音はその派遣を引き受ける事にした。あの、家政婦って聞いたんですけど?それって、家政婦のお仕事ですか!?
強面の雇い主(京極 樹)に溺愛されていくお話しです。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編11が完結しました!(2025.6.20)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
愛想笑いの課長は甘い俺様
吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる
坂井 菜緒
×
愛想笑いが得意の俺様課長
堤 将暉
**********
「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」
「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」
あることがきっかけで社畜と罵られる日々。
私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。
そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?
溺愛モードな警察官彼氏はチョコレートより甘い!?
すずなり。
恋愛
一人でチョコレート専門店を切り盛りする主人公『凜華』。ある日、仕事場に向かう途中にある交番に電気がついていて。人が立っていた。
「あれ?いつも誰もいないのに・・・」
そんなことを思いながら交番の前を通過しようとしたとき、腕を掴まれてしまったのだ。
「未成年だろう?こんな朝早くにどこへ?」
「!?ちがっ・・・!成人してますっ・・・!」
幼い顔立ちから未成年だと間違われた凜華は証明書を提示し、難を逃れる。・・・が、今度は仕事でトラブルが発生!?その相談をする相手がおらず、交番に持ち込んでしまう。
そして徐々にプライベートで仲良くなっていくが・・・
「俺の家は家族が複雑だから・・・寄って来る女はみんな俺の家族目当てだったんだ。」
彼にも秘密が、彼女にもナイショにしたいことが・・・。
※お話は全て想像の世界です。
※メンタル薄氷の為、コメントは受け付けることができません。
※ただただすずなり。の世界を楽しんでいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる