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第3章 とまどい? ときめき? ルームシェア

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「やる気になってくれて、本当に嬉しいよ。いくらでも協力するから、困ったことがあればいつでも相談して」
「はい。ありがとうございます……」
 わたしは振りかえって、軽く頭をさげた。

 あれ? 「エリカさん」って呼ばれなかった? 今。
 
 頭を上げると、彼はわたしの目の前まで来ていた。

「それと、これから、名前で呼ばせてもらってもいい? ぼくのことも〝宗太〟でいいから」

 名前呼び? わたしも?

「ねえ、今、ちょっと、呼んでみてよ」
「今ですか?」
「うん」

 力強く頷かれる。
「そ、そ、そう……」

 ぼっとマッチに火がついたように、突然、顔が熱くなった。

「や、やはり……芹澤さんと呼ばせていただいたほうが」

「ダメダメ」
 芹澤さんは、わたしの目の前で、右手のひとさし指を左右に振った。
 こんなきざな動作も、何故か、この人がするとカッコよく見えてしまう。

「さっき、恋人らしさが必要って言ったのは、エリカさん、……これも堅苦しいな。エリカのほうだけど」

 わー、さらに、呼び捨て⁉︎

 「恋人らしく」とか勢いで変なこと言っちゃったな、さっき。

「そ、それは、パーティー当日の話で……」
 顔を真っ赤にして言い訳するわたしを、彼は面白そうな顔で覗きこんでくる。

 若干、からかわれている気がしないでもないけど……

「じゃあ、それは次までの課題ってことで」
「わ、わかりました。では、おやすみなさい」そう言って、わたしはそそくさとリビングを後にした。
 

 部屋に戻ってすぐ、専用のバスルームに直行した。
 バシャバシャと冷たい水で何度も顔を洗う。

 “エリカ”
 芹澤さんの声が、頭のなかをぐるぐる巡る。

 ヤバいって……

 芹澤さん、魅力的すぎる。
 自覚しているのかな。
 自分がどれほど、女心を惑わす存在か。

 引き受けたことは、もう後悔していないけれど、また新たな問題が発覚してしまった。

 ルームシェアしている間中、彼の魅力にずっと抗い続けなければならないと、いまさら気づいた。

 レッスンより何より、これが一番難しいかも。

 でも、わたしみたいな、何のとりえもない人間が、彼みたいな超ハイスペックな男性に片思いなんてしたらそれこそ悲惨だ。
 まったく望みのない恋に身を投じることになるのだから。

 それに彼には、偽装工作までして見合いを断るほど、想いを寄せてる人がいるはずだし……
 わたしの入る余地なんて、まるでないだろう。

「絶対、好きになってはダメ」  

 その言葉を心に刻みつけるために、わたしは繰り返し唱えた。
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