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第7章 パーティー、そして

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「おふたりの熱心なご指導のおかげですよ」

 宗太さんの言葉にわたしも頷いた。
「そうね、たしかに立ち居振る舞いは見違えるようになったけれど、それだけじゃなくて、内側から光輝いているというか、しっとりとした色気が加わって、女のわたしでも、ついドキッとしてしまいそう。宗太さんに愛されている証拠ね。きっと」

 顔が赤らんでくるのがわかった。
「そんなこと、おっしゃらないでください。恥ずかしいです」

 そのとき、今まで黙っていた神谷先生が話しはじめた。
「わたくしも彼女には太鼓判を押しますよ」


「まあ、あなたが人をお褒めになるなんて、珍しいこと」
 宗太さんのお母さんが驚いて声を立てた。

 わたしもびっくりして神谷先生のほうへ視線を向けた。

「期間も短かったのでね。ずいぶん無理難題を吹っかけたけれど、この人はいつでも食らいついてきてくれましてね。今どき珍しい、性根の坐ったお嬢さんですよ」


 この2カ月、一度も褒めてくれなかった先生が。
 いつも、厳しい顔をして、にこりともしてくれなかった先生が。

 これまでの苦労が、一気に報われた瞬間だった。

 そして、ぴんと張りつめていた心の糸が緩むと同時に、涙がこぼれてきてしまい、わたしは急いでバッグからハンカチを取り出した。

「まあ、エリカさん、泣いていらっしゃるの?」
「おふたりに……そんなふうに褒めていただけて……とても嬉しくて」

 宗太さんがわたしの肩をぽんぽんと叩いた。
「ぼくがどんな言葉をかけても涙なんか見せたことないのに」
 ちょっとすねた表情を作って、文句をつける。

「だって……」
 わたしたちのやり取りをにこやかに見ていた篠崎先生が、急に真面目な顔になって宗太さんのお母さんに話しかけた。

「あなたの弟さんにはもうお話をされたの? 家柄がどうとかって、反対されるんじゃない?」

「そうなのよ。だから、事前に政喜には言わずに、パーティーでいきなり発表しちゃう作戦なの」
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