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本編

綺麗にしてあげるから

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「ロゼ……!!」

愛称を呼びながら、お兄様が私を強く抱き締めてくれる。少し痛いくらいだけど、今はお兄様の温もりが恋しくて、私達はお互いにぎゅうぎゅう抱き締め合った。

「お兄様……」
「ロゼ、ロゼ、私のロゼ……!大丈夫だ、傍に居る。私が傍に居るから。離したりしない……!」
「ごめん、なさい。まさか、こんな…………でも……」

少し震える私に気付いて、お兄様は安心させるように、優しく私の額にちゅっとキスを落とした。その後お兄様は、私を抱えたまま立ち上がり、くるりとベッドに背を向ける。お兄様の首に腕を回したままだった私は、少し驚いてお兄様にしがみついた。

「お兄様?」
「ロゼ、大丈夫だよ。私が全部、綺麗にしてあげるから」
「……っ」

そう言ってお兄様は、私を抱えたままシャワールームへと向かった。そこでお兄様はブーツだけ脱いで、あとは全て着たままの状態で、シャワールームの扉を開けた。

え?
嘘、まさかお兄様、制服を着たままで?濡れちゃうよ??

「あの、お兄様……?」
「私が洗ってあげると言っただろう?まずは身体を綺麗にして、温めよう。お湯を出したら、私は目を瞑る。本当は布で目隠しをするつもりだったが……」
「でも、お兄様の制服が……」
「制服はどうせ洗濯に出さなければいけないから気にしなくていいよ。……そうだ、ロゼが私に目隠しをしてくれないか?」
「え?」
「私の制服の内側に少し大きめのハンカチが入っているから、それで目隠し出来ると思う。私はロゼを抱えているから取り出せないんだ。すまないが、代わりに取り出して欲しい」
「は、はい!」

お兄様はやっぱり紳士!
でも、私は前世の記憶があるから、足を見られるくらい何とも…………

あれ、ちょっと待って。
お兄様、全部綺麗にするって言ってたような……………………

いやいや、とりあえずハンカチハンカチ。制服の内側……内側?
制服のボタンを私が外すって事?やましい気持ちは無い筈なのに、何故だかめちゃくちゃ緊張するっ。前世最推しであるお兄様の制服のボタンを…………
駄目駄目。よし、外すぞ。大丈夫、私は痴女ではない。スーハースーハー。

「……ロゼ、顔が真っ赤だよ?」
「ひゃっ?!」

お兄様が私の耳元で甘く囁くから、私は思わず変な声を上げてしまった。耳が弱いって知ってるくせに、どうしてそーゆう事をするんですか?!

「お、お兄様!耳元で喋ったらくすぐったいです!」
「ふふ、知ってるよ。……ほら、早くハンカチを出して。私の可愛いお姫様」
「もう、お兄様ったら……」

お兄様が、家に居た時と同じ様に意地悪して笑うから、私も文句を言いつつ笑ってしまった。
私をリラックスさせようと、わざと意地悪してくるのかな?

流石はお兄様と思いながら、私はお兄様の制服のボタンを外し、内側にあるハンカチを取り出した。それを確認したお兄様が、シャワーのお湯を出し、石鹸を手にしてから、目を瞑った。お兄様、睫毛フサフサ。

「ロゼ、そのハンカチで私の目を隠してくれ。ロゼの身体は私がちゃんと支えているから」
「はい、お兄様」

私はハンカチを広げて、目隠ししやすいように折った後。それをお兄様の目に当てて、頭の後ろの方へ手を回した。頭を抱くような姿勢になって、少しドキドキしつつ、ハンカチをキュッと結んだ。

「ありがとう、ロゼ」
「いえ。……お兄様、目を瞑ったままで本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。だけど何も見えないから、私にしがみついたまま、立つ事は出来るかい?」
「はい。馬から降りた時も、ほんの少しの間なら大丈夫でしたし」
「それなら良かった。少し屈むよ」
「はい」

そう言って、お兄様は少し前屈みになり、私の足をゆっくりと床に降ろしてくれた。私が震えなかったので、大丈夫と判断したのだろう。お兄様はゆっくりと床に両膝をつき、手にしていた石鹸を泡立て始めた。

「嫌だったら、すぐに言うんだよ?」
「大丈夫です、お兄様。私がお兄様に対して、嫌だと思う事はありませんから……」
「……それはそれで困ってしまうな」
「お兄様?」
「なんでもないよ。じゃあ、洗うからね」
「はい……」

ドキドキする。
多分私の顔は、今はとても見れたものではないだろう。お兄様が目隠しをしていて良かった。恐らく今の私は、妹なのに、ビックリするくらい真っ赤になっている筈だから。
捕まっている時に聞いてしまった事。お兄様は、知っているのかな?
知っていたら、こんな事、出来ないんじゃない?それか、私がまだお子様だから、何も意識してないだけかもしれないけど。

私は今、お兄様をお兄様として見れてない。あいつらの話が本当なら、私とお兄様は従兄妹同士って事だよね?従兄妹同士なら、結婚…………出来るよね。

ヒロインが、ずっとずっと羨ましかった。だけど、もしかしたら、もしかしたら…………
私、お兄様を好きなままでも、この気持ちを『恋』にしてしまっても、いいんじゃないのかって。

「うひゃっ?!」
「ロゼ?」
「ご、ごめんなさい、くすぐったくて……」
「くすぐったがりなロゼには辛いかもしれないけど、少しの間だけ、我慢して欲しい。頑張れるかい?」
「が、頑張ります!」
「ふふ、ロゼは良い子だね。……変なところには触れないから。嫌なものは、全部全部、私が消してあげるから。ロゼはいつもの、綺麗なロゼになるだけだから」
「……お兄様……」

私にそっと触れて、優しい手付きで洗っていくお兄様は、本当に私を全部綺麗にしてくれているみたいで。私が、『恋』にしてしまおうかと思っていた気持ちも、全部、綺麗に洗い流されてしまいそうで。
私は、お兄様が私を想ってくれる事への嬉しい気持ちと、お兄様へ抱く私の想いの違いに、罪悪感を感じたのだった。


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