スカーレットオーク

はぎわら歓

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風の住処(番外編)

10 告白

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少し車を走らせて、最近オープンしたカフェに着いたが満車だった。
 「うーん。時間帯が悪かったかなあ」

  三時過ぎのティータイムだろうか。
 女性グループの客が多そうだ。

 「あの。無理しなくていいですから」
  早苗が颯介を気遣って言った。
 「せっかくだし。あ、いいところがあった」

  颯介は少し車を走らせて、自動販売機で冷たいお茶を買った。
 「すみません。お茶がこれになってしまったんですが……」
 「あ、いえ。お気遣いなく」
 (どこ行くのかしら)

  少し風に吹かれていると公園に到着した。
 「ここ来たことあります?」
 「初めてです」
  海辺の公園だ。
 人はまばらにいるが広々として、公園というよりも浜辺だった。

 「行きましょう。いい場所があるんです」
  颯介は展望台へ向かった。
ウッドデッキがありそこから海と富士山が見える。
 「へー。すごいいいところですねえ」
 「でしょ。実は僕も初めて来たんですけどね」
  颯介は早苗に飲み物を渡した。

 「一人で来るのもなあと思ってて」
  颯介は悪戯っぽい目を向けて早苗に笑いかけた。
 「気持ちいいところですね」
  しょうがないなあというような表情で早苗は答えた。

  困惑している早苗に颯介は質問をした。
 「先生はどうして保育士になったんですか?」
  早苗は一口飲み物を飲んでから、
 「うーん。家庭環境が大きいですかね。うち母子家庭だったので」
  簡単に答える。

 「そうなんですね。絵里奈、あ葵の母親が早苗先生はすごくいい先生だって言ってましたよ」
 「いえいえ。私なんかまだまだです」
  照れ臭そうに早苗は言った。

 「あの。不躾なことを聞くんですが、恋人は今いないですか?」
 「いません。どうも縁がなくて」
 「よかった」
  (良かった?)
  早苗は不審気な顔をして颯介をみた。

 「僕とお付き合いしてくれませんか?」
  颯介はストレートに告白した。
 昔からこれだと決めた相手には躊躇しなかったし、時間を掛ければいいものではないことを颯介は知っている。

 「え……」
  予想通り、早苗は絶句している。
 颯介は想定内の範囲であり、ここでいい返事をもらおうとは思っていなかった。

 「突然ですみませんでした。一目惚れしたんです」
  早苗はどういったらわからないというような顔をしていた。
 「すぐに返事してくれなくていいです。急いでないですし。これ連絡先です」
  メモ用紙に名前と電話番号を書いて渡した。

 「せっかくなんでもう少しゆっくりしませんか」
 「ええ」
  早苗はぼんやり座ってお茶を飲んだ。
 颯介も黙ってくつろぐ。
 夕日が傾いてきて海の色がオレンジ色に染まってきた。

 「涼しくなってきましたね。遅くなるといけないから帰りましょうか。
 家まで送ります」
 「ええ」
  早苗はすっかり寡黙になっている。

  展望台から降りるときに手を貸そうとしたが、早苗はやんわり断った。(ちょっと持久戦か?)
 颯介は早苗にこれ以上刺激を与えないように慎重に接した。
  車のドアを開け早苗を助手席に座らせ発進した。

  図書館付近に来た時に、
 「どの辺ですか?」
  と聞くと、
 「ここらへんでいいです」
  と答える。
 無理に家まで行かない方がいいだろうと思い、安全なところで早苗を降ろす。

 「ありがとうございます」
  早苗は頭を下げた。颯介は車に乗ったまま、
 「また会ってもらえますか?図書館でいいですけど」
  と言った。

 「そうですね。また」
  早苗はあいまいな態度で返事をする。
 「それじゃ気を付けて」
  颯介は頭をぺこっと下げて車を動かした。

  早苗は少しこっちを見送ってから向きを変え帰って行った。
 (よーし。なかなかいい感じだったな)
  満足して家路についた。


  早苗はスーパーで買い物をしてアパートに帰ってきた。
さっきの告白を頭の中で再生してみる。
 (一目惚れって……)
 男からアプローチされることが初めてではなかったので、そこまで驚かなかったのだが、
 一目惚れはされたことも、したこともなかったのでそこに驚いた。
 (ホントかしら……)

  颯介のことは何も知らないが、感じは悪くないと思う程度で、好きとはまだ言い難い。
 自分のことも何一つ知らないのに、告白してくることが早苗には不可思議だった。
ただ嫌だとも思わなかった。

  何とも返事ができないので、今のところ保留にするしかない。
しかし来週また図書館には行ってみようと思うのだった。
 (本、借りれなかった……)


  颯介は機嫌よく帰宅し直樹の部屋をノックした。
 「どうぞ」
  ため息交じりの直樹の声が聞こえる。

 「おっす。調子はどうだ」
 「悪くないけど」
 「ちょっとラブホ検索してくれよ」
 「え。もうかよ」
 「いや。まだ付き合ってないけどな。時間の問題だ」
 「はあ……」

  直樹はまた、ため息をついて聞いた。
 「市内でいいの?そういや最近、高速の下のラブホが改装してたよ」
 「へー。行ったのか」
 「いかないいかない。通りがかっただけ」
 「そうか。しかし今度の相手は固そうだからなあ」
 「ラブホなんかよした方がいいんじゃないの」
 「うーん。三ヶ月くらいかかりそうだしなあ」
 「へー。珍しく時間かけるじゃん」
 「結構、好みのタイプだしな。いつもより真剣なんだ」
 「好みなんてあったのかよ」
  直樹は鼻で笑った。

  そのうちに下から慶子の声が聞こえてくる。
 「飯か。親父はまたいないのか」
  無関心そうに直樹は、
 「あの二人見てると結婚とか恋愛とかめんどくさくなるよな」
  と言った。

  颯介もそう思わないでもなかったが、本能的なものもあると思っている。
 「まあ気持ちはわかるが、なんか湧き上がるものがあるじゃんよ」
 「俺にはないな」
 「不感症な奴め。じゃ、飯にすっか」
 「ん」
  二人は食卓へ向かった。
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