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第0章

目覚め

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「…ぉぃ……きろ……起きろ!宮迫!」
「…ッ……さかがみ、さん…?」

体がグラグラと揺れる感覚で閉じていた瞼を上げる。
目を開けた先にはなぜか坂上さんが椅子に腰掛けており、手を俺の上にのせて体を揺さぶっていた。
あれ?俺さっきまで春希を探しに森林に行って…。
そこまで思考を巡らして、あれは全部夢だということに気づいた。

そうだ、俺は車の中で眠ったんだ。

「お、やっと起きたか!
何度も起こそうとしたんだがお前が全く起きなくて困ってたんだよ」
「え!?す、すみません!」
「謝らなくて良い……起きない原因はお前じゃなかったようだし」

チラッと坂上さんは扉の方に視線を向け、ため息を吐く。
というか、いつの間にか俺は医療室のベッドで横になってるじゃん。
もしかして坂上さんが車からここまで運んでくれたのか。

「運んでくれてありがとうございます…俺重くなかったですか?」
「いいよいいよ、むしろ軽くて普通に心配しちゃったわ」

確かに俺は成人男性の平均体重より軽いが、そんな心配することでもないだろ。カラカラと笑う坂上さんを呆れた目で見る。
あ、そうだ。俺が起きれなかった原因を聞かなければ。

「あの……それで原因とは何ですか」
「あぁ原因ね…それはナカモトとミナミダの2人がお前に能力を使って眠らせていたからだったよ」

あの2人が俺を?
なぜ俺に能力を使ったのか根本的な理由が分からない。
それに能力だってミナミダは人を眠らせる能力と覚えているが、ナカモトがどんな能力を持っているかは知らないな。
あぁでも、そういえば確か。

「夢の中でナカモトがいた気が」
「それがナカモトの能力だ」
「え」

驚く俺を見て、坂上さんは顎に生えた髭をポリポリと引っ掻く。
そしてどこか気まずげに坂上さんは話す。

「ナカモトの能力は人の夢の中に入ることだ」
「あ!じゃあ…あの夢の中のナカモトって本物…」
「そういうことになるな
…それと、ミナミダが人を眠らせる能力を持っていることはお前も知っているだろ」

テロ組織から脱出する際にミナミダの能力で出くわすテロの人間をみんな眠らせてたことを鮮明に覚えている。
ならあの車の中で眠くなったのってミナミダのせいだったのか。

「ミナミダはナカモトの依頼でお前を眠らせたらしい。
で、ナカモトは眠ったお前の夢の中に入ったそうだ」
「あー…なるほど…?」

俺が眠っていたワケは詳しくわかったが、如何せんナカモトが俺の夢に入った理由が思い浮かばない。
夢の中でナカモトに何か言われたような気がするが、すでに曖昧になりかけている記憶では思い出すこともできなかった。

「あの…俺…」
「無理して言わなくていい、何があったかは詮索しない」

まだ何も言っていないのに、俺の話を分かっているかのように坂上さんは頭を抱えながら首を振った。
チラリと俺の下半身を見て坂上さんは何とも言えない表情をする。
その視線につられて俺も自分自身の下半身を見た。

………どうして俺はボトムスに染みを作っているんだ。それに明らかにちんこが勃っているんだが。

「……え…うわっ!!」
「…あとで、その下で勃ってるもんどうにかしとけよ」

坂上さんに言われて思わず下半身を手で隠す。
恥ずかしさから顔が熱い。多分他の人から見たら顔が真っ赤になっているに違いない。

「す、すみません…お見苦しいものを…」
「良いよ別に」

そそくさと上に羽織っていた上着を腰に巻き、再び話を戻す。

「あの、ナカモトになんで俺の夢の中に入ったのかって理由を聞いていないんですか?」
「聞いてない…と言うより答えてくれなかった」
「…そ…ですか」

ナカモトの目的は何だ?俺に関することなのか?
頭をぐるぐると回して考えるが何も思いつかない。やはり夢の内容を思い出さないと話が進まなそうだ。
うーんと夢について思い出そうとする俺を尻目に、坂上さんは上着のポケットからタバコを1本取り出し吸い始める。
そして大量の煙を息と共に俺へ吹きかけた。

「ッゲホッ…なにするんですか!」
「私はこういうことだと思ったけど」
「え!?」

タバコの煙を人の顔へ吹きかけることに何の意味があるんだ。
全く分からないと顔を顰めていたら、坂上さんが「これがジェネレーションギャップなのか…」と呟き、肩を落とした。

「あの…それで坂上さんの考えは何なんですか」
「仮説だが、ナカモトはお前のこと性的に見てたんだろうな」
「は?何をどう考えればそうなるんですか」
「お前の立派な下半身がこんなことになってる時点で夢で何かあったということだろう、ほら何か思い当たることない?」
「ないですけど……
…………………………あ」

思い出した。
あいつ…ナカモトは夢の中で俺を。

「うわぁああぁッぅううううぅ」
「ど、どうした?大丈夫か」

アイツ俺のバージンをよくも散らしたな!いや男だから処女ではないが…まぁでも夢の中ならどちらにせよセーフなのか?そうと信じたいんだが!
突然叫び声をあげながら髪の毛をかき乱した俺を見て、坂上さんは引き気味に心配してくれる。
そんな坂上さんに心配をかけさせないため、深呼吸して自分を落ち着かせた。

「…すみません…夢について思い出しました」
「忘れてたのか……まぁどちらにせよ聞く気はないよ」
「……ありがとうございます」

坂上さんには申し訳ないが、自分も辱めを受けるような内容を誰かに伝えたいなど到底思えなかった。
本来は能力者の能力使用については詳細に報告しなければならないのだが、坂上さんは秘密にしてくれるようだ。
普段じゃありえない坂上さんの優しさが胸に沁みる。

「私も能力者がいる手前寝ることを了承しちゃったし、連帯責任みたいなものだね
しっかり能力者の特性を知ってから警戒を解くべきだったよ」
「……それについては何も言えないです」

テロ組織から脱出する時は俺に協力的だったとはいえ、能力者がこちらを信用しているというわけではない。そんな考えなくても分かるのに見落としていた。本当に何も言えない。
坂上さんはタバコの吸い殻を携帯灰皿に入れたあと、落ち込む俺の頭をガシガシと荒々しく撫でてくれた。
この人のこういうところは本当に尊敬できるな。

「とりあえず今日はご苦労様
報告は明日でいいから今日はもう帰りな」
「そうします」

俺はベッドから立ち上がりドアへ向かった坂上さんについていく。
今回の任務は苦労したわけでもないのにものすごく疲れた。
早く家に帰ってゆっくりと休みたい。

「あーでも」

ドアから出ようとする坂上さんは思い出したかのように振り返る。

「下は替えの服に着替えた方が良いんじゃない?
このままだと警察のお世話になっちゃうよ」

………完全に忘れてた。
下半身を見て唖然とする俺を置いて、坂上さんは一足先に部屋を後にした。


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