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4話【侯爵Side】ガルアラムとリリ
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またしても縁談を断るために、俺が直接謝罪しに行った帰り道のことだった。
俺自身の問題だから、御者には頼らず自らで馬車の操縦をし、行動していた。
この先も縁談を断る日々が続くと思うと、相手方への申しわけなさがいっぱいで居た堪れない気持ちにもなる。
運転にも集中していたつもりではいたが、やはりどこか注意散漫だったのだろう。
そのとき急に路地から一人の女性が馬車の前に出てきたのだ。
「きゃーーーーーーーーーーーっ!!」
タイミングも最悪で、スピードもそれなりに出ていたため、馬も急に止まることができなかった。
俺は、彼女を跳ねてしまったのだ。
急いで馬車に乗せ、侯爵邸の医師による治療をしてもらった。
技術も医療道具も優れているため、こちらを頼ったほうが効率が良い。
それになによりも、俺には責任がある。
幸い無事に目覚めてくれたのだが、俺は彼女になんと詫びれば良いだろうか。
責任はすべてとるつもりだったし、なにを言われても全て受け入れる覚悟だった。
だが、彼女は全く俺を責めてこない。
むしろ、どういうわけか事故にあって喜んでいるようにも見えてしまった。
過去の人間と比べたくはないが、仮に彼女が縁談目的でわざとぶつかってきたのならば、今回はそれも受け入れるしかないだろうと覚悟はしていた。
それほど重大な事故だったのだから。
だが、全くそのような気配もなく何日も過ぎた。
ついに会話をする機会もあったのだが、やはり縁談目的ではないことも理解できる。
むしろ、少しでも疑ってしまったことを悔やむ。
欲も無ければ要求もない。
治療生活だというのに、どこか安堵の表情を浮かべているレイラ。
いったい、彼女はなにを考えているのだろうか。
彼女と会話をした日の夜。
一緒に介護を手伝ってくれている、俺の専属メイドのリリを呼び出した。
「リリはレイラ殿のことをどう思う?」
「金髪なうえにサラサラしていて、胸もご立派だと思います」
「違う! そういうことではない! リリは、俺をからかい過ぎだ」
概ね予想はしていたが、リリはこのような返答を当然のようにしてくる。
リリとは腐れ縁の幼馴染とはいえ、どうしようもないやつだ。
だが、俺の唯一まともに会話ができる同世代だということも歪めない。
「口調も丁寧、しっかりとしていますし欲もなさそうです。噂で聞いていた悪役令嬢だとは思えませんでしたが」
「やはりリリもそう思ったか。今回の事故は俺の責任だから相手が誰であろうとも責任は取るつもりだったが、まさかミリシャス伯爵のご令嬢だとは思わなかった」
「世の男性ならレイラ様を見たら一発でケーオーでしょう。私もレイラ様の着替えをさせている最中、もうドキドキし過ぎて……」
「そこは言わなくとも良い」
「色々な処理なんて……いたたたたたたたたた」
それ以上は絶対に言わせたくない。
リリの頬を軽くツネって黙らせた。
考えたくはないことだが、俺も顔を真っ赤にしてしまったことだろう。
リリは満足したように笑みを浮かべる。
「変態侯爵」
「おまえが元凶だがな!」
「まぁ冗談はこのくらいにしておきましょう。先ほどの会話は部屋の外から聞こえてしまいましたが……、レイラ様はガルア様と同じように縁談関係でウンザリしているのでは?」
「そう思うか?」
「彼女もまた、良からぬ目的の縁談を断ってきたのでしょう。ただ、それだけで噂に聞くような悪評になるとも思えませんが」
「レイラ殿の両親も全く来ない。見舞いなど必要であれば馬車の手配などもすると書いたはずだが」
これはもしかして……などと考える必要もなく、明らかにレイラと両親の関係が良くない状況だということは理解できた。
「いつか聞かれると思っていたので少しレイラ様のことを調べましたよ」
「さすがリリだ」
「私の見立てでは八十六センチ」
「おい!!」
「おっと、褒めるなら私の胸の大きさを褒めてください。レイラ様にも勝っていますから」
「胸の大小で相手を判断する気などない、以上だ」
「あと一センチで九十なのですが」
「少し黙っておけっ!」
俺に対しては冗談まじりでこんなことを言ってくるが、さすがにレイラ相手にはそういうことはしないだろう。
幸い、リリのおかげで俺のメンタルが保たれているのも事実だ。
彼女もわかっていてこのようなことを言ってくるから、それ以上の文句は言わなかった。
だが、レイラをネタにするのはやめてほしい。
それだけはしっかりと伝えておく。
「そうですか。いえ、なんとなくですがレイラ様だったらガルア様とうまくいくんじゃないかと思ってしまいまして」
「ありえないだろう。そもそもレイラ殿も俺と同じように縁談を断り続けているのだろ?」
「そのことで調べましたが、どうやらガルア様にくるような縁談とは違うようです」
「どういうことだ?」
「レイラ様のご両親が選んだ相手のようです。まぁあの伯爵家ですから当然かもしれませんが……。しかし、どの相手もレイラ様のご両親に都合の良い相手ばかりのようですね」
政略結婚か。
貴族界では当然のようにあるかと思われるだろうが、今の時代は恋愛結婚やら身分差などを主軸にした婚約は少なくなってきている。
事実、俺自身も両親からは好きな相手を選んで結婚して良いとすら言われているくらいだ。
「自らの子供を道具扱い……か」
「それだけではないかと思います。あくまで私の予想にすぎませんが」
「まだあるのか?」
「ガルア様は見ていないからわからないかと思いますが、レイラ様の身体に傷がたくさんついていまして」
「俺はなんということを……」
「いえ、どうも事故で負った傷ではないような気がします。取れないようなアザや塞がった傷痕、そのようなものが身体中にいくつもありまして」
「まさか……」
これは調べたほうが良いのかもしれない。
レイラには悪いとは思うが、勝手に調べさせてもらうことにしよう。
あまり考えたくはないが、もしもレイラが外に口出しできないように脅迫されているようならば……。
だが、そうだとしたら、この侯爵邸で完治するまで預かることに反対してくるはずだろう。
いったい、ミリシャス伯爵邸ではなにが起こっていたというのだ。
俺自身の問題だから、御者には頼らず自らで馬車の操縦をし、行動していた。
この先も縁談を断る日々が続くと思うと、相手方への申しわけなさがいっぱいで居た堪れない気持ちにもなる。
運転にも集中していたつもりではいたが、やはりどこか注意散漫だったのだろう。
そのとき急に路地から一人の女性が馬車の前に出てきたのだ。
「きゃーーーーーーーーーーーっ!!」
タイミングも最悪で、スピードもそれなりに出ていたため、馬も急に止まることができなかった。
俺は、彼女を跳ねてしまったのだ。
急いで馬車に乗せ、侯爵邸の医師による治療をしてもらった。
技術も医療道具も優れているため、こちらを頼ったほうが効率が良い。
それになによりも、俺には責任がある。
幸い無事に目覚めてくれたのだが、俺は彼女になんと詫びれば良いだろうか。
責任はすべてとるつもりだったし、なにを言われても全て受け入れる覚悟だった。
だが、彼女は全く俺を責めてこない。
むしろ、どういうわけか事故にあって喜んでいるようにも見えてしまった。
過去の人間と比べたくはないが、仮に彼女が縁談目的でわざとぶつかってきたのならば、今回はそれも受け入れるしかないだろうと覚悟はしていた。
それほど重大な事故だったのだから。
だが、全くそのような気配もなく何日も過ぎた。
ついに会話をする機会もあったのだが、やはり縁談目的ではないことも理解できる。
むしろ、少しでも疑ってしまったことを悔やむ。
欲も無ければ要求もない。
治療生活だというのに、どこか安堵の表情を浮かべているレイラ。
いったい、彼女はなにを考えているのだろうか。
彼女と会話をした日の夜。
一緒に介護を手伝ってくれている、俺の専属メイドのリリを呼び出した。
「リリはレイラ殿のことをどう思う?」
「金髪なうえにサラサラしていて、胸もご立派だと思います」
「違う! そういうことではない! リリは、俺をからかい過ぎだ」
概ね予想はしていたが、リリはこのような返答を当然のようにしてくる。
リリとは腐れ縁の幼馴染とはいえ、どうしようもないやつだ。
だが、俺の唯一まともに会話ができる同世代だということも歪めない。
「口調も丁寧、しっかりとしていますし欲もなさそうです。噂で聞いていた悪役令嬢だとは思えませんでしたが」
「やはりリリもそう思ったか。今回の事故は俺の責任だから相手が誰であろうとも責任は取るつもりだったが、まさかミリシャス伯爵のご令嬢だとは思わなかった」
「世の男性ならレイラ様を見たら一発でケーオーでしょう。私もレイラ様の着替えをさせている最中、もうドキドキし過ぎて……」
「そこは言わなくとも良い」
「色々な処理なんて……いたたたたたたたたた」
それ以上は絶対に言わせたくない。
リリの頬を軽くツネって黙らせた。
考えたくはないことだが、俺も顔を真っ赤にしてしまったことだろう。
リリは満足したように笑みを浮かべる。
「変態侯爵」
「おまえが元凶だがな!」
「まぁ冗談はこのくらいにしておきましょう。先ほどの会話は部屋の外から聞こえてしまいましたが……、レイラ様はガルア様と同じように縁談関係でウンザリしているのでは?」
「そう思うか?」
「彼女もまた、良からぬ目的の縁談を断ってきたのでしょう。ただ、それだけで噂に聞くような悪評になるとも思えませんが」
「レイラ殿の両親も全く来ない。見舞いなど必要であれば馬車の手配などもすると書いたはずだが」
これはもしかして……などと考える必要もなく、明らかにレイラと両親の関係が良くない状況だということは理解できた。
「いつか聞かれると思っていたので少しレイラ様のことを調べましたよ」
「さすがリリだ」
「私の見立てでは八十六センチ」
「おい!!」
「おっと、褒めるなら私の胸の大きさを褒めてください。レイラ様にも勝っていますから」
「胸の大小で相手を判断する気などない、以上だ」
「あと一センチで九十なのですが」
「少し黙っておけっ!」
俺に対しては冗談まじりでこんなことを言ってくるが、さすがにレイラ相手にはそういうことはしないだろう。
幸い、リリのおかげで俺のメンタルが保たれているのも事実だ。
彼女もわかっていてこのようなことを言ってくるから、それ以上の文句は言わなかった。
だが、レイラをネタにするのはやめてほしい。
それだけはしっかりと伝えておく。
「そうですか。いえ、なんとなくですがレイラ様だったらガルア様とうまくいくんじゃないかと思ってしまいまして」
「ありえないだろう。そもそもレイラ殿も俺と同じように縁談を断り続けているのだろ?」
「そのことで調べましたが、どうやらガルア様にくるような縁談とは違うようです」
「どういうことだ?」
「レイラ様のご両親が選んだ相手のようです。まぁあの伯爵家ですから当然かもしれませんが……。しかし、どの相手もレイラ様のご両親に都合の良い相手ばかりのようですね」
政略結婚か。
貴族界では当然のようにあるかと思われるだろうが、今の時代は恋愛結婚やら身分差などを主軸にした婚約は少なくなってきている。
事実、俺自身も両親からは好きな相手を選んで結婚して良いとすら言われているくらいだ。
「自らの子供を道具扱い……か」
「それだけではないかと思います。あくまで私の予想にすぎませんが」
「まだあるのか?」
「ガルア様は見ていないからわからないかと思いますが、レイラ様の身体に傷がたくさんついていまして」
「俺はなんということを……」
「いえ、どうも事故で負った傷ではないような気がします。取れないようなアザや塞がった傷痕、そのようなものが身体中にいくつもありまして」
「まさか……」
これは調べたほうが良いのかもしれない。
レイラには悪いとは思うが、勝手に調べさせてもらうことにしよう。
あまり考えたくはないが、もしもレイラが外に口出しできないように脅迫されているようならば……。
だが、そうだとしたら、この侯爵邸で完治するまで預かることに反対してくるはずだろう。
いったい、ミリシャス伯爵邸ではなにが起こっていたというのだ。
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