隠れて付き合っている完璧な天使様が、実は『経験済み』だなんてきっと誰も思わない。

もろ平野

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回想、天使様との出会い。

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「知佐くん~」

「ん?」

「今日はとてもつかれたので、かたをもんでください」

「幼児退行してるぞ。……やっぱり疲れるよなぁ、そりゃ」

「うん、『天使様』は疲れるんだよほんと~」

昨日の放課後、4—『天使様』こと柊 陽菜の部屋でのこと。「お茶飲んでいかない?」というお誘いにのって、お邪魔したというわけである。

「はいはい、肩ね」

と、制服姿の陽菜の後ろに回る。つややかな髪をポニーテールにして、肩を揉みやすくしてくれたのはいいのだけれど、覗くうなじにドキリとしてしまう。

ん、と違和感。

「もしかして、シャンプー変えた?」

あっ、これキモい質問だったりする?勝手に凹みそう、などと思ったけれど、普通に答えが返ってくる。

「変えましたねぇ~! よく気付きました、褒めてあげます。……どっちの匂いが好き?」

少し考えて答える。

「んー、今のかな。爽やか」

『天使様』が、学校ではお目にかかれない、緩んだ笑顔で「んふふ、ありがと~」と答えるのに合わせて、自分のそれより二回りはちいさな肩に手を置く。

「んっ……んぅ……」

微かに色っぽい声をあげて、気持ち良さそうに揉まれる陽菜(意味深)。

しばらくして満足したのか、陽菜の手が肩に乗せた俺の手に重ねられる。くいくい、と引かれる手のままにすると、陽菜が胸の前で腕を抱き合わせてくる。いわゆる、バックハグというやつである。

「……陽菜さん? 恥ずかしいんですけど、この体勢」

「私もだし。……ダメ?」

「……今日は甘えたさんなんだ」

「うるさいぞ男子―」

そのまましばらく、体温がお互いを移動する。爽やかなはずのシャンプーの香りが、甘やかに感じられて仕方がない。暖かさに誘われて、腕の中の少女と付き合うに至った経緯を思い出し始めていた。







「時任くんですね、よろしくお願いします」

2年生に進級し、クラスも新しくなった半年前、4月。運悪く—いや、今思えば運良く、俺は『天使様』と共にクラス委員になった。ちなみに籤引きである。クラスの大半の男子が「天使様と同じクラス……!」とガッツポーズを決めているのを横目に挨拶されたのが、初めて言葉を交わした瞬間だった。

「こちらこそ宜しく、柊さん」

はい、と頷いて笑う顔に、思わず見惚れてしまいそうになる。凄い美人がいるぞ、と噂伝いに知っていてもこれである。なるほどこれは『天使様』なんて大仰なあだ名がつくわけだ……と1人納得する。それくらい目の前の女子生徒は魅力的だった。

それに加えて、

「学年順位、柊さん抜くのを目指してたんだけど結局去年は抜けなかった」

そう、『天使様』は外見だけでなく成績も優秀なのだ。クラスの違った一年時はどちらかと言うとそっちで名前を覚えていたくらい。

「最後の期末テストは危なかったです、それに教科ごとでは勝ったり負けたりでしたから」

と柊さんは笑って答える。はい、確か9教科総合で6点負けました。

「今年こそは勝つよ、一回くらい」

大人げなくなりすぎないようフラットにそう言うと、『天使様』はなぜだか少し驚いた顔をして、

「はいっ」

と笑った。え、なぜ笑う?という疑問が掻き消えるくらいの、花のような笑顔で。




それから委員会の仕事を通して少しずつ話すようになり、「たまに話す人」から「割と話す人」になった。もちろん教室では常に人に囲まれている『天使様』なので、話すと言っても毎日の委員会の仕事の時くらいだけれど。




不意に、腕の中の体重がこちらに寄ってくる。回想から覚まされて陽菜の方に目を向けて見ると、すぅ、すぅと規則正しい寝息を立てて眠っていた。
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