わたしのヤンデレ吸引力が強すぎる件

こいなだ陽日

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後日談

後日談その1「新妻の悩み」(2)

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 アルフレッドの命令により大至急客間が用意された。いつ、誰が来てもいいように手入れされていたので、そう時間はかかっていない。
 水とお湯、そして清潔な布が部屋に用意された。部屋続きの浴場もきちんと使えるようになっている。

(なんだか、大事になってる気がする……)

 体に異常があるのは確かだけれど、体調の変化はない。ここまで騒がれると申し訳ない気持ちがこみ上げてくる。
 とはいえ、メーシャは王族の妻なのだから、この大げさな扱いも当然なのだろう。

「診察が終わるまで茶は出せない。悪いが、これを飲んで落ち着いてくれ」

 そう言ってユスターは白湯を出してきた。たかがお茶でも、症状によっては飲むと体調に支障をきたす場合があるのだと、彼は以前教えてくれたのだ。
 客間のソファに腰掛けて、メーシャは白湯に口をつける。味はないけれど、その温かさでほんのりと気持ちが落ち着いていく気がした。

 口を布で覆い、清潔な白手袋をつけたままのユスターが問いかけてくる。

「話しにくいことなんだろう? ゆっくりでいい。言えることから教えてくれ」

 穏やかで、諭すような口調だった。口元を布で覆っているから目元しか見えないけれど、その眼差しも心なしか優しい。
 いつもは口の悪い彼だが、メーシャを萎縮させないように気を遣ってくれているのだ。さすが医官である。

(恥ずかしいけど、ちゃんと言わなくちゃ……)

 風呂場で体を洗い、ようやく気付くような変化である。普段は服で隠れる部分であるが故に、伝えることに抵抗はあるが、変な恥じらいは医官である彼に対しても失礼だ。
 メーシャはおずおずと口を開く。

「体の一部が腫れているみたいで……」
「腫れか。場所はどこだ?」
「その、……足の付け根のところなんだけど……」
「足の付け根か。言いにくい部位となると、陰部か?」
「……っ」

 ずばり言われて、メーシャは顔を赤くしながら頷く。

「内側か? それとも外側か?」
「外よ……」
「わかった。患部を見せてもらえるか? 下着を脱いで、ベッドに上がってくれ」

 メーシャに恥じらいを感じさせないためか、淡々とした口調でユスターが言った。メーシャは大人しく彼の言う通りにする。

 裸なんて三人の夫にいつも見られている。それでも、恥じらいは消えない。
 下着を脱いでベッドの上に腰掛けると、ユスターもベッドの上に登ってきた。

「見るぞ。いいか?」
「うん」

 メーシャはぎゅっと目を閉じる。
 羞恥心はあるけれど、それよりも「悪い腫瘍ができていたらどうしよう」という不安のほうが勝った。冷たい汗が背筋を流れていく。

 ユスターはナイトドレスの裾をまくり上げて、メーシャの秘処を覗きこんできた。
 しかし、彼はすぐに疑問符を浮かべる。

「すまない。見当たらない。小さい湿疹でもできているのか? 大きさはどのくらいだ?」
「小指の先くらい……」
「なに? そんなに大きいのか? 陰唇の内側か?」
「……っ!」

 ユスターが花弁をめくりあげる。診察だとわかっているのに、ぴくりと腰が浮いてしまった。
 これがいつもの夫婦の時間なら、艶やかな雰囲気になるだろう。
 だが、今のユスターは診察に集中している。いやらしい雰囲気など微塵も感じさせなかった。

「ここにもないな……。メーシャ、場所はどこだ? 教えてくれ」

 ユスターに訊ねられて、メーシャはとある部分を指さした。

「こ、ここなの……」
「……ここ?」

 ユスターが眉をひそめる。
 メーシャが示したのは、いわゆる陰核と呼ばれる部分だった。そう、女性の体に必ずついている小突起である。

「メーシャ。これがあるのは正常だ」

 指先で花芽につんと触れて、ユスターが言った。

「そのくらい知ってるわ。でも、そこが腫れてしまっているみたいなの」
「腫れてる……?」
「ええ。さっき、一人で体を洗っている時に気付いたの。昔はこんなに大きくなんてなかったわ……」

 ――そう。

 今夜もいつも通り夫三人と交わるのだと、メーシャは湯浴みの際、体を念入りに洗おうと思った。
 その時に気付いたのだ。敏感な部分の形状が、いささか大きくなっていることに。

 そこは情事の際によく責められる部分だ。弄られすぎて細菌が入ってしまったのかもしれないし、場所が場所だけに性病かもしれない。
 性病に対しての知識が乏しいメーシャは、それはもう心配になってしまったのである。

「こんなに腫れてしまったのよ。もしかしたら、悪い菌が入ってしまったのかもしれないと思って」
「……なるほどな」

 ユスターは大きく頷いた。

「メーシャ。ギグフラムはどういう手をしている?」
「え? 大きくて、ごつごつしていて、騎士だから剣だこができているわ」

 突拍子もないことを聞かれるが、ユスターは無駄なことは言わない。だからメーシャも素直に答えた。

「そう、あいつの手には剣だこがある。でも、生まれつきあったわけではない。剣を振るううちにできてしまったものだ」
「ええ、そうでしょうね」
「物理的な刺激を与え、体の一部が変化したものが剣だこだ。そして、お前が気にしていた部位だが……毎日のように俺たちの指で弄られ、口で吸われ、さまざまな刺激を与えられているだろう?」
「……! まさか……!」

 メーシャは目を瞠る。

「そうだ。これは俺たちのせいだ。病気のせいなんかじゃない。弄られすぎて、大きくなってしまっただけだ」
「そ、そうだったの……」

 病気ではないとわかり、メーシャはほっとする。
 しかし、安堵してしまえば大きな羞恥心が襲いかかってきた。

(こんな恥ずかしい勘違いをしてしまうなんて……!)

 メーシャは耳まで赤くなる。
 そんなメーシャをユスターは笑ったり、からかったりはしなかった。

「些細な体の変化でも、こうして伝えてくれるのは医官として助かる。ありがとう、メーシャ」

 彼はぽんぽんと、メーシャの頭を優しく撫でてくれる。
 勘違いのせいで大事になってしまったのに、ユスターはメーシャを責めることはなかった。それどころか、異常を伝えたことを褒めてくれる。
 恥ずかしくて消えてしまいたいほどだったけれど、彼の対応のおかげで気分が落ち着いてきた。

「処女だった頃に比べたら大きくはなったと思うが、それでも異常なほどではないし、気にするな。俺たちが沢山愛してしまった証拠だ」

 まさか、こんな部分の形を変えられるまで愛されているとは――

(みんな、どこか病んでいる人たちだもの。普通ではないのよね)

 メーシャは頭の中で納得する。すると、ユスターが気をとりなおしたように声をかけてきた。

「ところで、食事は済ませたか?」
「いいえ、食べてないわ。落ち着いたら、お腹が空いたかも……」
「わかった。お前はそこで休んでいろ」

 ユスターはベッドから離れると、テーブルの上にあった呼び鈴を鳴らす。
 しばらく後にノックの音が響くと、扉越しに廊下にいる女官に告げた。

「メーシャは疲労のせいで湿疹がでている。命に別状はなく、後遺症が残る類いのものではない。とはいえ、新種の感染症の可能性も捨てきれないから、今夜はここで経過観察をするとアルフレッドたちに伝えてくれ。引き続き、この部屋の周囲には誰も近づかないように」

(え? 湿疹? 疲労?)

 たった今下された診察と全く違う内容に、メーシャは戸惑う。

「それと、消化にいい食事と果物を用意してくれ。俺のぶんもだ。食事は中に運ぶ必要はないから、扉の前にワゴンを置いておくように。部屋の中には俺が運ぶ。以上だ」
「かしこまりました」

 ユスターが指示を出すと、女官は返事をして扉の前から去って行ったようだ。足音が遠のいていく。

「ふう……」

 大きく息をついて、ユスターは口元を覆っていた布を外した。手袋も外し、シャツの胸元をゆるめる。彼はいつも首元までしっかりと釦を止めているので、覗き見えた鎖骨に妙に色気を感じてしまった。

「ユスター。今のって……」
「アルフレッドもギグフラムも心配しているだろうから、大した症状ではないことを早く知らせてやらないと可哀想だろう?」
「それはそうだけど、疲労って言わなかった?」
「ああ。毎晩三人を相手にしてるんだ、疲れも溜まっているだろう。いい機会だから、少し休んでもいいんじゃないか?」

 ユスターはにこりと口角を上げる。

「それに、たまには俺もお前と二人きりになりたかった」

 熱を帯びた眼差しがメーシャを射貫く。

「さて、食事がくるまで時間がかかるだろうし、俺は汗を流してくる。メーシャは少し休んでいるといい。不安で気疲れしただろう?」
「う、うん……」

 確かに、どっと疲れた気がする。
 病気ではなくてよかったけれど、ユスターに診察してもらうまでは気を揉んでいたのだ。

「じゃあ、湯浴みしてくる。いい子に待ってろよ」

 ユスターはメーシャの唇にちゅっと軽い口づけを落として、部屋続きになっている浴室に向かう。触れた唇が、じんと熱くうずいた。
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