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第5章 女装男子と永遠に
10 おかえりside秋桐
しおりを挟む目の前で起きた出来事を脳が処理しきれない。
状況を理解した時には全て終わって居て、また僕は呆然としていることしかできなかった。
(また、僕は……何もできなかったのか。)
走って、真琴に近付くとうめき声が聞こえた。
(きゅ、救急車、呼ばないと!)
真琴に声をかけながら、携帯を取り出す。
タッタッタッー
歩道橋の上から走る音が聞こえた。
(っ、逃げられる!)
カシャ
僕は、咄嗟に携帯のカメラで彼女を写した。
それから、電話のアプリを開く。
「ぅ、っ…」
眉間に皺を寄せながら真琴はうめいた。
「真琴、大丈夫だからね!今救急車呼ぶからね!」
カタン
真琴が弱々しく手を伸ばして僕の携帯を落とした。
それから、細く目を開けて口を動かした。
「だい、じょ…ぶだ……。」
「ぇ、何言って…」
真琴は、意識が朦朧とした様子で僕の肩に手を伸ばし掴んだ。
「びょう、いん…ある、いて…いけ、る…。」
「歩いてって、頭を打ったんだよ!?階段から落ちたんだよ?!」
幸い真琴が落ちたのは歩道橋近くのくさむらの近くで、コンクリートよりは柔らかい場所だったが後頭部をぶつけている。
そして、今の真琴も意識がはっきりしていないように見えた。
「…また…おちた、だけだ…。ま、えと…かわら、ない…」
「……また?……前にも、落ちた事あるって事?」
「お、れは…へい、きだ…。」
僕は、どうしても救急車を呼んで欲しくないという態度の真琴に負けてタクシーを呼び病院へ向かった。
病院へ着くと真琴は早々に意識を手放した。
諸々の検査をするという事で僕はお兄さんに電話をして真琴の検査が終わるのを待った。
その間、僕はお兄さんの口から初めて聞いた。
真琴の体にいくつもの故意に付けられたであろう傷があること…その理由を……。
真琴が、雨を嫌いな理由を……。
夏休みも中盤を迎えた日、真琴の病室を初めて訪ねた。
真琴は、カーテンの開かれた窓の外を体を起こして見ていた。
「…っ、真琴。」
僕が、声をかけると真琴は首を傾げてから僕の方を見てヘラっと笑った。
「秋桐。」
「……真琴、も、もう、平気なの?」
「あぁ、もうすぐ退院だしな!てか、来るの遅いぞ~!俺、ずっと待ってたんだからな。」
「真琴、俺って…」
「それにしても、すっげぇ長い夢見てたような気が済んだよなぁ。その夢に、色んな人が出てきて……でも、1人だけ出てこなかった。
俺は、ずっと探してたんだ。会いたかったんだ。でも、見つからなくて…。」
真琴は自分の手を見つめてからまた僕を見た。
「夢から覚めたと思ったら、病院の天井でさ…。
でも、何日経ってもやっぱり夢で探してた奴がこねぇから……最初っから、そいつがいた事自体が全部夢なのかなとか、馬鹿みたいに考えてたんだぞ!
でも……やっと、会えた。」
真琴は笑ったまま涙を一筋流した。
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