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第5章 女装男子と永遠に
9 新月side梓暮
しおりを挟む自分でも、阿保だなと思う。
それでも、ダメ元みたいに電話をかける。
「……出るわけ、ないのにな…。」
『…はい。』
「っ、朔…弥、か?」
出ると思っていなかった為に、反応が遅れる。
『そ、うだけど……。』
朔弥は、遠慮がちに言った。
「あ、えー、暇か?」
『まぁ……。』
「あ、会えないか。俺は、その……お前に会いたいんだ。」
『……どこに行けばいいの。』
「え、い、いいのか?」
『うん。』
俺は、朔弥に集合場所を伝え電話を切った。
(……朔弥が、電話に出た。朔弥が、俺を拒まなかった……。)
戸惑いと嬉しさが絡み合う。
俺は、全速力で朔弥の元へ走った。
「…………早かったな…。」
朔弥が、ぶっきらぼうに言葉を投げる。
俺は、それが嬉しくてもう泣きたい気分だった。
「…早く、会いたかったから。」
「っ!…ば、馬鹿じゃねぇの!」
朔弥は、顔を赤くして手の甲を口に当てた。
(……それは、俺、期待してもいいのか?)
俺が言葉を言う前に朔弥が口を開いた。
「俺ね、思い出したんだ。」
「え、何を?」
「俺ね、本当は…満月が大嫌いだったんだ。」
朔弥はそう言って俺に笑った。
俺は、意外だった。
朔弥はいつも、切なそうに満月を見ていたから。
俺は、朔弥が満月に特別な思いがあると思っていた。
「満月はさ、そこに居るだけで綺麗で…みんなから好かれててさ…。俺と真逆の満月が大嫌いだったんだ。」
「ただでさえ、俺は新月で……綺麗な月を隠す邪魔な存在なのにさ……月が綺麗になればなるほど、満ちれば満ちるほど…新月がいらないって言われてるみたいで……。」
馬鹿だよな、って、朔弥は寂しそうに笑ってから、でも、と続けた。
「お前にあって、変わったんだよ。俺の全部が…俺が、俺だけが嫌ってたもんが、たった一人その中に加わっただけでだよ?」
「こんなの、なんの気持ちも持たずに居られるわけないだろ?」
「なぁ……俺は、お前のせいで酷い目に遭った。それに、お前が居ると、俺はいつも弱くなる。……ろくなこと無いんだよ。」
朔弥は、俺を真っ直ぐ見た。
「でもさ、お前が居なくても…それは、変わらなかった。だからさ、梓暮。俺を変えた責任を取れ。」
夢でも、見ている気分だった。
朔弥にどんな心境の変化があったかなんて、俺にはわからない。
だけど、俺は…例えばこれが夢でも、お前の手を取らずには居られないんだ。
「朔弥、俺も…言いたいことあるんだけど…聞いてくれる?」
ずっと、言えなかった。心に溜まった言葉。
「朔弥、誰よりもお前だけを愛してる。だから、お前を変えた責任、取らせてくれ。」
朔弥は、泣きそうに笑って仕方ねぇなって俺の肩を組んだ。
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