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第5章 女装男子と永遠に
8 嘘嘘本当sideエカテリーナ
しおりを挟む言わないといけない。
でも…戻らないといけない。
時間がもう……私には無いのだから。
私達には、無いのだから。
「エカテリーナ、迎えに来たよ。」
スーツに身を包んだ彼が私に手を差し出す。
この手を、私は掴んでいいのだろうか。
私は、彼に救われるに相応しいのだろうか。
「……アリガトウ。」
複雑な心境のまま、彼の手を掴んだ。
「あ、パスポートちゃんとある?」
「え、あ……う、うん。あ、の…」
「どうしたの?」
「……あ、飛行機…乗らないと、いけない?」
「え、そりゃ…カナダに行くんだから、飛行機でだけど……」
「あ、の…い、一緒の飛行機じゃなきゃだめ?」
「え?そのつもりだったんだけど…チケットもあるし……。」
「あ、の…ワタシ、一人で行きたいの。ダメ?」
(お願い。まだ、まだ私は…。)
「……僕がいると、駄目なんだね?」
彼は、悲しそうに笑って私に聞いた。
「ち、がうの…でも…ゴメンナサイ。」
「…僕はいいけれど…チケットはどうするの?」
「それは、もうあるの。」
「初めから、駄目だったって事か…。」
空気が冷たく流れた。
だけど、私はまだバレるわけにはいかない。
私の為に…
あの子のために。
私は、約束したんだ。
『お兄様。私、一度でいいの…少しでいいの…自由になりたい。お父様は大好きよ…でも、苦しいの。私も、外の世界をこの目で見て、感じたいの。』
『……わかった。なら、僕がなんとかするよ。交代しよう。全部、僕とお前の役割を。』
『でも、そんなこと…』
『大丈夫。僕達はそっくりだよ。髪型を揃えれば、誰も分からない。』
『そう、かな…』
『そうだよ、試しに一回やってみよう。パーティがあるだろう。その時に、入れ替わろう。』
『誰にも、バレなかったわ。お兄様、本当に、誰にも…』
『言った通りだろ?だから、ゆっくり、計画を立てよう。』
『ありがとう。お兄様…。』
『……うん。そうだ、大学生になったら半年間、入れ替わろう。』
『わかったわ。私、そのために頑張る。』
『うん。僕も頑張るよ…じゃぁ、またね…カチューシャ。』
後1ヶ月。1ヶ月しかないんだ。
だから私は、バレるわけにはいかないんだ。
誰にも、バレたら駄目なんだ。
そして、私は誰にも感情を抱いたらいけないんだ。
だって、私はエカテリーナなのだから。
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