俺はヒーローなんかじゃない

ここクマ

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俺は君のヒーローだ。

14 水を捧げようside虎之助

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崩れる音が聞こえる。

開けたらいけない箱。

大事に、大切にしまって誰にも、自分ですら開けられないようにしておいた。

なのに、どうして今?


真木ちゃんに2人っきりでどうしても会いたくて、教えてもらった合鍵の場所にこっそり入って真木ちゃんの部屋で待っていた。

真木ちゃんの部屋は二階にあって、ベランダからはちょうど僕の部屋のベランダが見える。

(カーテンないと結構見えるなぁ…)

そんなこと思いながら、ベランダから外を見る。

真木ちゃんの言った通り帰りは遅くて、すっかり真っ暗になっていた。

(…あれ?真木ちゃんの両親は帰ってこないのかな?)

僕の家に灯りがついてそんな事を思った。


「好きな人なんて、僕が忘れさせてあげる。」


少し静かな夜の道。
ふと気になって、声の主を探した。

(……真木、ちゃん?)

声の主は、真木ちゃんより年上に見えた。
その人は真木ちゃんの名前を呼んだ。

2人は、親しそうに見えた。

真木ちゃんがドアに向かう。

その人は、真木ちゃんに手を振って……僕を見た。

(え……。)

目があって直感が僕に告げる。


この人は、駄目だ。

嫌いだ。

この人は、奪う人だ。

大嫌いだ。


『バイバイ』

その人はニヤリと見下したように笑って僕に口パクして手をふった。



嫌いだ。

この人は、わかってる。

真木ちゃんが多くの人に愛されてる事を。

真木ちゃんを取られて嫌な人がいる事を。

真木ちゃんは駄目だって知ってる人だ。


取られる。


真木ちゃんが、誰かに取られる。


目に見えない真木ちゃんの隣。

僕が、絶対に奪えない場所。



僕は、嫉妬で狂いそうだった。


真木ちゃんに触れる全てが嫌いだ。


真木ちゃんを見る全ての瞳が許せない。


何より、真っ白な真木ちゃんを汚す存在が許せなかった。

真木ちゃんは、誰にも汚させない。

真木ちゃんは、真っ白で居てくれないと駄目だ。

下の部屋から、僕の名前を呼ぶ声がした。

僕は、呆然としながら部屋に入った。

真木ちゃんが部屋に来て僕を見つけた。

「虎……?…どうかしたのか?」

『好きな人なんて、僕が忘れさせてあげる。』

あの人の声が頭を走った。

(……好きな…人?)

真木ちゃんが僕の目を心配そうに覗く。

キラキラして見える真木ちゃんの綺麗な目。

(この瞳に、僕の知らない人が…真木ちゃんの特別な人が映るの?)


僕じゃない特別な人。


僕の中でショックなことは沢山あった。沢山あって、でも、1番は真木ちゃんが僕にそれを教えてくれなかったことだ。

真木ちゃんとは、いつも一緒でなんでも知ってると思っていた。なのに、僕と目があったあの人の事や、真木ちゃんの好きな人の事なんて僕は少しも知らなかった。


せっかく、1番近くに来たと思ったのに真木ちゃんは僕より先に進んでしまう。僕を、置いていってしまう。

僕は、真木ちゃんの隣にいたいだけなのに。

(…行かないで……真木ちゃん。まだ、行かないで…まだ、置いていったら嫌だよ…。)

「虎、大丈夫か?何か、あったのか?虎…。俺が、虎を守るから。」

真木ちゃんは、僕の頭をそっと撫でた。

「……俺は…虎のヒーロー、なんだろ。」

真木ちゃんの声は少し震えていた。

震えていたけど、僕はその理由なんて考えないで真木ちゃんに抱きついた。

「うん。うん…真木ちゃん。真木ちゃん。真木ちゃんは、ヒーローだ。」

(だから、僕を置いて行かないで。)

「虎……ごめん…。」

真木ちゃんの思い詰めたような声は僕の耳に届かなかった。


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