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第三章 亡国の系譜
第百五十五話 進展なし
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シェリーが部屋に戻ると、ジャンとニコラはソファに座って難しい顔をしていた。ジャンは彼女の顔を見て安堵の表情を浮かべた。
「シェリー……よかった、無事で」
「うん、ありがとう。助けに来てくれたんだよね?」
「……んー、まあな……」
彼は目をそらして頭をかいた。
「そういえば、ソフィさんはどうしたんだ?」
ニコラがシェリーに尋ねた。
「あの殺気のことで、情報を集めに行ってる」
「そうか」
「「……」」
会話が途切れた。高級ホテル内で突如発生した不気味で不可解な殺気。その正体がわからない気持ち悪さ、不安、焦燥。特に殺気を感じ取れるジャンとシェリーはいつになく緊張していた。そこで置き去り状態のニコラが提案をする。
「二人とも、とりあえずソフィさんが戻ってくるまでは、深く考えないでじっとしていたほうがいいんじゃないか? 僕はその殺気を感じ取れないからわからないけど、対処のしようがないぐらいの相手なんだろ? それなら下手に動くより、ここで三人一緒に待機しておいたほうがいいと思う」
彼の冷静な意見を聞いて、ジャンとシェリーは長い息を吐き肩の力を抜いた。
「それもそうだな。どうにかしようったって、どうにもならねぇもんな」
「そうね。あたしたち三人が動いて、どうにかなる話じゃないし」
シェリーはそう言って余しているソファに腰かけた。
「にしてもよー、もどかしいよな」
「なによ、ジャン。珍しいじゃない、あんたが弱音吐くなんて」
「だってよ、俺、ここんとこいいとこねーっつーか……。アレックスにはまったく歯が立たなかったし、さっきだって、正直どうにもならねぇって思ったし……」
普段見せないジャンの弱気を目の当たりにして、シェリーの母性がほんの少しうずいた。
「しかたないわよ。あたしだってさっきはなにもできなかったもん。それにあんた、ベルナールには勝ったじゃない。森でもあたしのこと助けてくれたし」
「……」
また沈黙が流れた。二人の様子を見て、ニコラは空気を読んで立ち上がった。
「二人とも、紅茶でも飲まないか?」
「え? うん」
「……そうだな。なんか喉乾いてきたし」
「じゃあ、ちょっとお湯沸かしてくるよ」
そう言ってニコラはキッチンのほうへ歩いて行った。
(まったく、早くどっちか告白すればいいのに)
世話の焼ける幼馴染に、相も変わらず配慮しきりのニコラだった。
二人きりになったジャンとシェリーは、お互いなにを話そうか迷っていた。
「……その……なんの話だったっけ?」
「森ででっけークモに追い掛け回されたときの話だろ?」
「ちょ、ちょっと! その言葉は口にしないでって言ったでしょ!?」
「おまえが話振ったんだろ」
「それはそうだけど……」
シェリーもいつもとは違い大人しい。
「「……」」
話が続かない。シェリーは意味もなく髪をいじり、ジャンも指をぐるぐる回して気をまぎらわせる。
「……ねぇ」
「……なに?」
「その、いざというときは……頼りにしてるから……あんたのこと」
「……当たり前だろ? 一緒に旅してるんだから」
「う、うん。そうだよね」
お世辞にも、うまく意思の疎通が図れているとは言い難い。不器用な二人の気持ちはいつひとつになるのか。
そこへティーポットとティーカップをトレーに乗せて、ニコラが戻ってきた。彼は二人の様子を見てだいたいのところを察した。
(進展は……なしだな。相変わらず)
彼は無言でテーブルにトレーを置き、ティーカップに紅茶を注いだ。
「冷めないうちにどうぞ」
「ああ、悪ぃな。いただくぜ」
「ありがとう、ニコラ」
三人は紅茶をすすりながらソファにもたれかかり、リラックスした。
そのうちソフィが戻ってきた。彼女が言うには、けっきょくなんの手がかりも得られなかったという。明日以降は衛兵を増員するようホテル側に要請するとともに、彼女の魔法でホテル内に結界を張り、怪しい殺気を放つ人物が現れてもすぐに対処できるようにするらしい。ソフィはすでに結界を張り終えていた。
「シェリー……よかった、無事で」
「うん、ありがとう。助けに来てくれたんだよね?」
「……んー、まあな……」
彼は目をそらして頭をかいた。
「そういえば、ソフィさんはどうしたんだ?」
ニコラがシェリーに尋ねた。
「あの殺気のことで、情報を集めに行ってる」
「そうか」
「「……」」
会話が途切れた。高級ホテル内で突如発生した不気味で不可解な殺気。その正体がわからない気持ち悪さ、不安、焦燥。特に殺気を感じ取れるジャンとシェリーはいつになく緊張していた。そこで置き去り状態のニコラが提案をする。
「二人とも、とりあえずソフィさんが戻ってくるまでは、深く考えないでじっとしていたほうがいいんじゃないか? 僕はその殺気を感じ取れないからわからないけど、対処のしようがないぐらいの相手なんだろ? それなら下手に動くより、ここで三人一緒に待機しておいたほうがいいと思う」
彼の冷静な意見を聞いて、ジャンとシェリーは長い息を吐き肩の力を抜いた。
「それもそうだな。どうにかしようったって、どうにもならねぇもんな」
「そうね。あたしたち三人が動いて、どうにかなる話じゃないし」
シェリーはそう言って余しているソファに腰かけた。
「にしてもよー、もどかしいよな」
「なによ、ジャン。珍しいじゃない、あんたが弱音吐くなんて」
「だってよ、俺、ここんとこいいとこねーっつーか……。アレックスにはまったく歯が立たなかったし、さっきだって、正直どうにもならねぇって思ったし……」
普段見せないジャンの弱気を目の当たりにして、シェリーの母性がほんの少しうずいた。
「しかたないわよ。あたしだってさっきはなにもできなかったもん。それにあんた、ベルナールには勝ったじゃない。森でもあたしのこと助けてくれたし」
「……」
また沈黙が流れた。二人の様子を見て、ニコラは空気を読んで立ち上がった。
「二人とも、紅茶でも飲まないか?」
「え? うん」
「……そうだな。なんか喉乾いてきたし」
「じゃあ、ちょっとお湯沸かしてくるよ」
そう言ってニコラはキッチンのほうへ歩いて行った。
(まったく、早くどっちか告白すればいいのに)
世話の焼ける幼馴染に、相も変わらず配慮しきりのニコラだった。
二人きりになったジャンとシェリーは、お互いなにを話そうか迷っていた。
「……その……なんの話だったっけ?」
「森ででっけークモに追い掛け回されたときの話だろ?」
「ちょ、ちょっと! その言葉は口にしないでって言ったでしょ!?」
「おまえが話振ったんだろ」
「それはそうだけど……」
シェリーもいつもとは違い大人しい。
「「……」」
話が続かない。シェリーは意味もなく髪をいじり、ジャンも指をぐるぐる回して気をまぎらわせる。
「……ねぇ」
「……なに?」
「その、いざというときは……頼りにしてるから……あんたのこと」
「……当たり前だろ? 一緒に旅してるんだから」
「う、うん。そうだよね」
お世辞にも、うまく意思の疎通が図れているとは言い難い。不器用な二人の気持ちはいつひとつになるのか。
そこへティーポットとティーカップをトレーに乗せて、ニコラが戻ってきた。彼は二人の様子を見てだいたいのところを察した。
(進展は……なしだな。相変わらず)
彼は無言でテーブルにトレーを置き、ティーカップに紅茶を注いだ。
「冷めないうちにどうぞ」
「ああ、悪ぃな。いただくぜ」
「ありがとう、ニコラ」
三人は紅茶をすすりながらソファにもたれかかり、リラックスした。
そのうちソフィが戻ってきた。彼女が言うには、けっきょくなんの手がかりも得られなかったという。明日以降は衛兵を増員するようホテル側に要請するとともに、彼女の魔法でホテル内に結界を張り、怪しい殺気を放つ人物が現れてもすぐに対処できるようにするらしい。ソフィはすでに結界を張り終えていた。
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