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第四章 ならず者たちの挽歌
第二百六話 ならず者の頭と仲間
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一同、驚きとともにサイクロプスを見上げる。
サイクロプスは目覚めて間もないためか、大きな一つ目であたりをキョロキョロ見回した。その様子、仕草から、少なくとも高い知能を備えているわけでないことだけはわかった。
しかし彼は、自らの使命については、その身にすでに刻み込まれていたようだ。彼はジャンたちのほうを見るとすべてを理解したのか、まるで蟻をいたぶる子どものように無邪気な顔で向かってきた。
サイクロプスは少しずつ近寄りながら、誰を最初に始末するか物色しているようだった。ジャン、ニコラ、シェリーの他に、ハリル一行が三名、アレックスら鋼鉄のならず者の残党が四名の合計十名。誰からおもちゃにするか、よりどりみどりというわけだ。その不気味な無邪気さを見て、真っ先に浮足立ったのはドワイトだった。
「ヤバいッスよ、お頭! 俺はもう、意地でも逃げますよ!」
彼はアレックスにそう言い放つと、攻撃の当たりにくい部屋の隅に向かって走り出した。
しかしそれが裏目に出た。みながどうしたらいいかわからず動けない状況で、ドワイト一人だけが動き出したのだ。標的を誰にするか迷っていたサイクロプスにとって、これほどわかりやすいマトもない。
「ドワイト! 敵の動きを見ろ! やられるぞ!」
アレックスはドワイトに大声で注意を促した。だがサイクロプスはすでに攻撃のモーションに入っていた。彼は右手に持った大きな棍棒で、地面に落ちていたメロンほどの大きさの岩を思い切り叩いた。
岩はドワイトのほうへ、地面すれすれを一直線に飛んで行った。そしてドワイトがアレックスの声に反応し振り返った、まさにその瞬間、岩がドワイトの右足の脛に命中した。
「いぎゃあああ!」
ドワイトの右足はちぎれこそしなかったものの、あらぬ方向に折れ曲がり、脛骨と腓骨がむき出しになっていた。
「ドワイト!」
アレックスは目の色を変えて彼のほうへ走り出す。
「「お頭!」」
それを見たセオドアとロナルドも後に続く。
だが仲間を助けようと走る三人の気持ちを裏切るかのように、ドワイトの右足から夥しい量の血が吹き出す。運悪く動脈が切れたのだ。
それを見て、今度はジャンが無言でドワイトのほうへ走り出した。
「ジャン! なんで!?」
「シェリー! おまえはニコラと一緒に逃げてろ!」
「そんな!」
シェリーはジャンのことが心配でならなかった。しかしニコラが声を上げる。
「シェリー! ジャンを信じるんだ! 反対の壁に逃げるぞ!」
「でも! でも!」
ニコラはうろたえるシェリーの腕を握り、無理やり引っ張った。
それを見たハリルも声を上げる。
「俺たちもだ! 壁際に退避するぞ!」
ハリルが走り出すと、マフムードとサルマーンも急いで近くの壁に向かって走った。
その間、アレックス、セオドア、ロナルドの三人はドワイトの近くまで来ていた。
「お頭ぁ! 痛ぇよぉ!」
「ドワイト! いま助けてやるぞ!」
アレックスは口ではそう言ったものの、内心この状況が絶望的であることを理解していた。
(すぐに止血してもおそらくドワイトは助からない。だが……だが……)
彼はドワイトが助からないことを頭で理解しながら、助けずにはいられなかった。
「お頭! ドワイトはもう助からねぇ! 逃げろ!」
ロナルドが叫んでも、アレックスは耳を貸さない。彼は素早く上着を脱いで引きちぎり、その布でドワイトの右足を止血しようとした。
サイクロプスはそんなことはお構いなしに、のそのそと近付いて来る。そして棍棒を大きく振りかぶり、アレックスたちめがけて勢いよく振り下ろした。
サイクロプスは目覚めて間もないためか、大きな一つ目であたりをキョロキョロ見回した。その様子、仕草から、少なくとも高い知能を備えているわけでないことだけはわかった。
しかし彼は、自らの使命については、その身にすでに刻み込まれていたようだ。彼はジャンたちのほうを見るとすべてを理解したのか、まるで蟻をいたぶる子どものように無邪気な顔で向かってきた。
サイクロプスは少しずつ近寄りながら、誰を最初に始末するか物色しているようだった。ジャン、ニコラ、シェリーの他に、ハリル一行が三名、アレックスら鋼鉄のならず者の残党が四名の合計十名。誰からおもちゃにするか、よりどりみどりというわけだ。その不気味な無邪気さを見て、真っ先に浮足立ったのはドワイトだった。
「ヤバいッスよ、お頭! 俺はもう、意地でも逃げますよ!」
彼はアレックスにそう言い放つと、攻撃の当たりにくい部屋の隅に向かって走り出した。
しかしそれが裏目に出た。みながどうしたらいいかわからず動けない状況で、ドワイト一人だけが動き出したのだ。標的を誰にするか迷っていたサイクロプスにとって、これほどわかりやすいマトもない。
「ドワイト! 敵の動きを見ろ! やられるぞ!」
アレックスはドワイトに大声で注意を促した。だがサイクロプスはすでに攻撃のモーションに入っていた。彼は右手に持った大きな棍棒で、地面に落ちていたメロンほどの大きさの岩を思い切り叩いた。
岩はドワイトのほうへ、地面すれすれを一直線に飛んで行った。そしてドワイトがアレックスの声に反応し振り返った、まさにその瞬間、岩がドワイトの右足の脛に命中した。
「いぎゃあああ!」
ドワイトの右足はちぎれこそしなかったものの、あらぬ方向に折れ曲がり、脛骨と腓骨がむき出しになっていた。
「ドワイト!」
アレックスは目の色を変えて彼のほうへ走り出す。
「「お頭!」」
それを見たセオドアとロナルドも後に続く。
だが仲間を助けようと走る三人の気持ちを裏切るかのように、ドワイトの右足から夥しい量の血が吹き出す。運悪く動脈が切れたのだ。
それを見て、今度はジャンが無言でドワイトのほうへ走り出した。
「ジャン! なんで!?」
「シェリー! おまえはニコラと一緒に逃げてろ!」
「そんな!」
シェリーはジャンのことが心配でならなかった。しかしニコラが声を上げる。
「シェリー! ジャンを信じるんだ! 反対の壁に逃げるぞ!」
「でも! でも!」
ニコラはうろたえるシェリーの腕を握り、無理やり引っ張った。
それを見たハリルも声を上げる。
「俺たちもだ! 壁際に退避するぞ!」
ハリルが走り出すと、マフムードとサルマーンも急いで近くの壁に向かって走った。
その間、アレックス、セオドア、ロナルドの三人はドワイトの近くまで来ていた。
「お頭ぁ! 痛ぇよぉ!」
「ドワイト! いま助けてやるぞ!」
アレックスは口ではそう言ったものの、内心この状況が絶望的であることを理解していた。
(すぐに止血してもおそらくドワイトは助からない。だが……だが……)
彼はドワイトが助からないことを頭で理解しながら、助けずにはいられなかった。
「お頭! ドワイトはもう助からねぇ! 逃げろ!」
ロナルドが叫んでも、アレックスは耳を貸さない。彼は素早く上着を脱いで引きちぎり、その布でドワイトの右足を止血しようとした。
サイクロプスはそんなことはお構いなしに、のそのそと近付いて来る。そして棍棒を大きく振りかぶり、アレックスたちめがけて勢いよく振り下ろした。
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