手繋ぎ蝶

楠丸

文字の大きさ
41 / 54
40章

~新芽~

しおりを挟む
 中学生以上の一般部は、月曜の十七時半から十九時、土曜日の午前十時から十一時半、未就園児から小学生の少年部が日曜の十時から十一時半、とある。

「よくぞいらっしゃいました」海老川近くに建つ船橋本町文化会館の講堂で、「玄道塾船橋支部」師範代の櫂端は、村瀬に腰を折った。

 今日の村瀬は、ジャージ上下に、タオル、ドリンクの入った袋を持ち、ボディバッグという姿をしている。体験という形で稽古に参加するためだった。

「いい打ち筋をされていることは拝見して存じていますが、ブランクがかなりおありだと思いますので、今日は、健康体操程度に汗を流してお帰りになるのがいいと思います。まあ、稽古前は、いつもこんな感じでやってます」櫂端が手で指す講堂の空間では、下は十代から上は六十代の道場生達が、談笑する者の他、一人で移動稽古をしていたり、型を切っていたり、組んで約束組手の練習をしたりしている。

「ところで、村瀬さんが昔におやりになっていた会派の教室というのは、船橋とお聞きしていますが」「本当の昔なので、忘れてしまってることも多いんですけど、場所が、南口の、呉服屋などが入っているビルの一階を借りきってやってた、ちば生きがいづくりサークルというカルチャーセンターの、ふなばしファミリー空手教室という所で、練習は楽でした」「そこ、私の親父がやってたとこです」櫂端の表情が神妙なものになった。

「そうだったんですか。大変お世話になったのですが、就活などが忙しくなって、退会したもので。道理でお名前に聞き覚えがあると思ったのですが。先日、津田沼の飲み屋さんで縁を持たせていただいた時も、何と言いますか、先生のお顔に既視感のようなものを感じたもので」村瀬が言うと、櫂端は遠い目をして、講堂の天井近くを見た。

「私がこの教室を立ち上げたのは十一年前なんですが、それが親父の最晩年でした。逝く一週間前まで、練習を監督してましたよ。末期の癌だったんですけどね」櫂端が遠い目のまま述べ、村瀬が頷いた。

 稽古は予定通り、十七時半きっかりに始まった。ストレッチから始まり、中若の男女十五人あまりが三列に並んで、正拳、裏拳、手刀打ち、内と外の受け、払い受け、前蹴り、回し蹴り、後ろ蹴りの反復を十分ほど行い、それから移動に入った。
「正拳突きは、針の穴に糸を通すイメージで。蹴りは、大地からの力を体に通すように」櫂端の、厳しくも包容力ある声の指導が飛んだ。

「受けは崩し! 腰の力を伝えなきゃ、相手を崩せません!」櫂端が指導員格の道場生に右正拳を顔面に打ってもらい、体重を移動させながら、体を沈めて、後頭部に手刀を打ち込むようにして、相手の水月に膝を入れ、腕で制する動きを再現した。

「崩しながら、打ちます。打ってから崩すという考え方は、当教室にはありません」道場生は、先日の村瀬のように、木目床にずるりと崩れた。

 櫂端は、手首を掴んだ道場生の肘に掌を添えた。「このまま、こうして腕を折るのもあり、こうして‥」言って、なす術なく体を極められている道場生の後頭部に、踵を下ろして寸止めした。「後頭部もありです。ちなみにこれは余談だと思って下さい。ただ、これがストリート・ファイトというものですので。いや、ほんの余談ですよ。精神修養上、あまり参考にはしませんように」櫂端が微笑して言うと、道場生の列からも笑いが沸いた。

 移動ののちは、型稽古になった。

 ―玄道塾では、松濤館流をベースに、他三つの伝統流派の長所を取り入れている。型稽古は松濤館系のものを中心に行うが、沖縄古流のものも併せて練習するー
 
 当教室では、基本を重んじて、これを中心に練習します、と櫂端が説明し、村瀬が昔に親しんだ平安の初段から四段までが、集中的に稽古された。

 櫂端の父親が師範代を務めていたファミリー空手教室では、言ってみれば漫然と型を舞うだけで、分解などは特に行わなかったが、この教室では、二人一組になって、約束組手のように、師範の指導の下、挙動の一つ一つにどんな意味があるか、これはこういう反撃の動作であるかが教えられる。

 平安の第一挙動である山突きのような構えは、敵を自分の攻撃圏内へ誘い込むためのもの。敵の中段を受け、首元へ手刀。相手の前蹴りを十字受けし、中段を外受けし、敵の手を落としながら、裏拳で反撃。 

 顔面への敵のパンチは、関節を取って前蹴り、そのまま腕をひしぎ、折ることも出来る。

 敵の中段を外受け、首根に手を差し込み、首を持って水月、または金的に膝。

 昔は意味不明と思えた動作の一つづつに深い意味があることを改めて知り、目から鱗の思いになった。

 だが、思えば、一見意味不明に見える動作を、昔にみっちりと修練し、体がそれを覚えていたからこそ、文字通り生命のかかった修羅の場を生存し、今、命があることははっきりと言える。あの、殺気のようなものがまるでない、看板が示す家族的雰囲気の中で行っていたスローな練習にも、きちんと意味があったのだ。

 菜実は今、どうしていることだろう。平安三段を切りながら、村瀬は恋人だった女を思った。

 自分が命をかけて守り、助けた女だが、今、物理的距離はさほどではないものの、心は離れてしまった。その裏には、彼女が痛く同情し、支えなければという義務感を抱いた男がいる。その男は、ここ船橋で一度見ている。確かに、何かの支えがなければ死へとそのまま流れていきそうな男だった。

 どうなるかは成り行き次第だが、自分は菜実を忘れるために、この道場の門を叩いたまでだ。

 村瀬は胸に決め、平安を切った。それから二人一組になっての約束組手、そのあとで時間制の自由組手になった。こちらは今日の村瀬は見学に回ったが、道場生達の動き、技の応酬をよく見て、今後に生かそうと思った。

 最後は、正拳と前蹴りを十発づつ打って、正座で「ありがとうございました」と礼をし、終わりになった。

「入門を、前向きに検討します。息子も誘ってみるかもしれないです」「そうですか。それは嬉しいことです」村瀬が言うと、櫂端は笑顔を返し、答えた。

「当塾では、八級からのスタートで、半年毎に昇級審査があります。大人の部は、一回につき、二級飛び越しですので、初段取得まで、平均してだいたい三年ほどです」櫂端は言いながら、移動式デスクに置いた紙にボールペンを走らせた。

「費用は、だいたいこんな感じです。当塾では、入会金はいただきませんので」渡された紙には、月謝が二千円、年会費が四千円、道着が帯代含めて八千円、スポーツ傷害保険が月百円、とあった。

「ありがとうございました」村瀬が櫂端に頭を下げると、道場生達が一斉に「お疲れ様でした」と返してきた。村瀬は一人一人に向き直って、礼をし、文化会館を出た。

「博人、お父さんと一緒に空手、やらないか?」円卓で鯖の塩焼きの夕食を親子二人で囲んだ村瀬は、向かい合う息子に訊いた。

「何? 今日出かけてったの、そういう用事だったの?」「そうだよ。お父さんが、お前と同じくらいの頃に習ってた先生の息子さんがやってる教室に、今日は見学に行ってきたんだ。お前がよかったら、月曜の夕方から一緒に汗流すのはどうかな」村瀬は言って、手元の焼酎ハイボールを啜り、鯖をつまんだ。

「俺、いいよ」茶碗を手にした博人はかぶりを振った。

「何でだ。安全性がちゃんと考えられた練習をしてて、先生もそんなにおっかなくないぞ。月謝だって安いから、お前のと二人分、払えるぞ」「格闘とかって、俺、興味ないんだ」答えた博人は、碗の飯を掻き込んだ。

「お前、冷めてるな。やっぱり今時の若者だよね」苦笑して言った村瀬がハイボールを呷りばな、碗と箸を置いた博人が真面目な目を向けてきた。

「お父さん、分かってよ」博人の声色には、かすかな抗議の調子が含まれている。

「俺も周りと同じように、野球だとかサッカーだとか、フットサルとかやりたかったんだ。でも、出来なかったんだから‥」博人の視線が円卓の上に落ちた。村瀬は、今しがた自分の言ったことに心がなかったように思え、詫びの気持ちを覚えた。

「もしも今から何かやるんだったら、あの頃、出来なかったこと、やりたいんだよ。やっぱり、サッカーか、サルか、そうでなきゃバドミントンがやりたい」博人は吐き出すように述べると、またおかずと飯に箸を伸ばした。

 村瀬は反省した。自分が昔に頓挫したことや、自分のよしと思うものを子供に継がせたがる親は少なくないものだが、博人の述べには、彼が幼くして背負ったものが出ていた。

「分かったよ」村瀬は優しい言葉をかけた。これから自分が邁進すること、息子の希望がはっきりしたことが、心地の良い満ち足りをもたらしていた。「じゃあ、グループホームに入ってから、ゆっくり探すのがいいだろうな」「うん‥」

 一組の父子は、円卓を挟んで優しい思いを交換した。

 食事を終えた村瀬は、寝室として使う部屋へ行き、登録を残していた「二井原愛美さん」の番号へ電話をかけた。愛美は2コールで出るなり、村瀬の名前を呼んで、ああ‥という声を上げた。

「二井原さん、お久しぶりです。あの時以来ですね」「覚えててくれたのね」「はい」それから通話口からは、言葉になっていない愛美の感嘆が漏れ続けた。

「あれからどうされてるかな、と思って」「私はあのあと、離婚が成立したんです。予備校の講師の仕事も変わらずやってます。それと、自作の絵も、少しづつ売れるようになって、それで娘を養育してます。村瀬さんは、どうお過ごしですか?」「私も変わらずスーパーです。今はレジもやってまして、来月から副店長をやらせていただくことになってます。あの手繋ぎ絡みのことで、これまでいろいろあったんですけど、切り抜けて、元気にやってます」「そうですか」「はい。ところで、あのイベントのあとで、二井原さんの所には、あれの主催者からの連絡などはありましたか」「いろいろあったことをお察しします」

 村瀬は気まずく口をつぐんだ。あれから村瀬の身に起こったことの中には、今はまだとても話すことが出来ない内容もある。いや、愛美の無事と平穏を喜びつつ、これまでのことは伏せるべきだろうと村瀬は思った。

「村瀬さんは私を気遣ってくれてるのよね。だけど、私は、あのフリートークタイムの時に退場したおばさんが言ったことがそのまんまだと思ってるの。その辺りで、村瀬さんと同じ気持ちを共有してるから、大丈夫よ」「二井原さん‥」愛美は優しく笑った。

「実は私もそろそろ村瀬さんに連絡をする頃合だと思ってたんです。私の描く絵のモデルになってくれたら嬉しいなと思ってて」「そうですか。それは全然お安い御用ですよ」村瀬の顔が心からの笑顔にほころんだ。

「私は月曜と木曜が休みですが、二井原さんのお休みの土日に有休を申請することも出来ます」「村瀬さんに合わせます。私が月曜か木曜に休みを採るから」「ありがとう。でも、それもご無理をさせるようで申し訳ないから、また電話かメールで相談して決めましょうか」「そうしましょうか。私は全然負担はないから、大丈夫ですよ」愛美が言った時、後ろから反響した、母を呼ぶ娘の声が聞こえた。

「すみません、ちょっと待ってて。娘がお風呂から上がったので」「そうですか。お忙しい時にすみませんでした。じゃあ、また日を改めて連絡します」「分かりました、いつでも待ってます。私は、心から‥」「おやすみなさい」通話を終了させた村瀬は、胡坐の脚にスマホを載せ、ゆっくりと大きく息を吐いた。幸福感が染みてきた。心から、という愛美の言葉がリフレインしていた。
 
 日曜の午後は、空は晴朗だが、早くに来た一番のような風が吹き荒れ、南船橋の路面に枯葉が舞い転がっていた。背中を丸めて足早に進行方向へ歩み去っていく通行人の肩と顔には、人生と生活の悩みが満ち刻まれている。

 広大なショッピングモールと敷地を同じくするグランドホテル一階のカフェの窓際席に、紅美子、その向かいに菜実が座り、人を待っている様子を見せている。やがて自動ドアを潜って、小さな白い箱を手に提げた青年が、壮年の男と一緒に入ってきた。

 青年と、体格が良く厳めしい顔をし、少し威圧感のある壮年男は、奥の四人掛け席に座る菜実と紅美子に腰を折り、菜実も紅美子に促されて席を立ち、紅美子のお辞儀に合わせて、ぴょんと頭を下げた。

「こちらが、かねてよりお話させていただいておりました英才(ひでとし)です」壮年男の隣から、英才と紹介された青年が改めて菜実に頭を下げた。そこで紅美子が「この子は、池内菜実です」と紹介した。

 清潔に刈ったツーブロックの髪をし、彫深の顔にかけた眼鏡が真面目そうな印象を強くしている、血色の良いクリーム色の肌をした二十代後半の若者だった。服装は、黒の布ハーフコートに白のマフラー、同じく黒の、幅広のスラックスタイプのズボン、黒の革靴というセンスだった。彼は黒縁眼鏡の奥の目を、信じられないほど美しいものを見ているという風に丸く見開いていた。それでいて、真摯な眼差しだった。一方、菜実の表情、姿勢には憚りと遠慮が見える。

 紅美子に促された菜実が彼女の隣席に移り、壮年男と英才が二人の向かいに座った時、男のホール係が来て、コーヒーが二つとレモンティー、レモンスカッシュがオーダーされた。

 壮年男は名前を島崎と言い、東船橋でNC旋盤の工場を経営している。元々は島崎の妻が、紅美子が大阪から千葉へ出てきた時にいろいろと助けてくれた恩人の関係で、英才は、夫妻の養子だ。 

「菜実です‥」「僕、英才です」憚りながら名乗った菜実に、英才は明るくはきはきとした名乗りを返した。

「何歳ですか?」「僕、二十九歳です。これ、よかったら‥」青年は箱をテーブルに置いた。

「僕が焼いたマドレーヌケーキです。僕、仕事がベーカリーだから」「べーかり?」「パンとかケーキ、生地から作って焼いて、売るお店で働いてるんです」「私、前、船橋のダブルシービーさん。今、こっちの佐々木さんと一緒に、別なのお仕事、探してるの」「就労継続支援ですか? 僕もB2の手帳持ってて、障害の枠で働いてるから、同じだね」英才が言った時、互いが理解された雰囲気の沈黙が席に落ちた。

 英才の手で、薄紙に載ったマドレーヌケーキが配られ、四人の前に置かれた。

「どうぞ、食べてみて下さい。駿河台のアルカナっていうベーカリーなんですが、糖分をカットして、甘さを抑えたスイーツも大きな売りにしてる店なんですよ。こいつはそこで、特別支援学校を出て、十年ずっと働いてるんです。もう、ベテランの域ですよ」

 島崎がケーキを掌で指して言い、ありがとう、いただきます、という声とともに、四人がマドレーヌを食べ始めた。そこへオーダーした四つのドリンクが来た。

「こいつは苦労してましてね。小学校の時に、私の親友だった父親を自殺で亡くして、それで母親は心のほうを病んじゃって、今も精神科病棟にいるんです。それで、心無い入所施設でぞんざいに扱われてたところを、うちで預かって養子縁組して、ずっとうちの子として育ててきたもんで。そろそろグループホームへっていうのも頃合だったんですが、真面目さから、ただ働き詰めって人生になっちまうのも寂しい話じゃないか、当たり前の人並みってものの縁はないものかって思ってたところだったものでね」島崎はコーヒーをブラックで啜りながらぽつぽつと述べ、紅美子が相槌を打って菜実を見、手で指した。

「この子は、深い事情あって、親、両方とも離れてはりまして、うちのグループホームに来たのは、四年前なんですけど、それまで何の支援も受けんで、一般の枠で働いとったそうなんです。その間に、いろいろ、えらい悲しい思いもしてはったみたいですねん。せやから、年齢的にもちょうどよくて、その悲しみ、汲んでくれはって、お互いを幸せにするような相手の縁があったら思とったんですけどね。それに‥」紅美子の述べに、島崎が軽く身を乗り出した。

「この子にはあらへんのですよ。他の人に対するマイナス感情いうもんが。自分にどんな酷い仕打ちをした相手も、恨むどころか、同情して、共感して包み込む心を持ってるんです」「なるほど、この雰囲気を見る限りでは頷けますね」島崎は感慨を返した。

 島崎と紅美子が交わす脇で、英才から優しい眼を注がれた菜実が、促されて、リスのように両手で持ったマドレーヌを食べている。菜実が食べ始めたのに続き、英才も自分の焼いたマドレーヌをつまんで食べていた。

「合うと思いますよ。若い苦労人同士ですからね」島崎の言葉が、紅美子とともにコーヒーを啜る音と、カップがソーサーに触れ合う音に重なった。

「今日に始まったことじゃないですけど、減らないですね、ネットサイトの情けない書き込みが‥」島崎はコーヒーカップを置いて、心からの嘆きを込めた言葉をぼやいた。

「匿名で面と名前を知られなきゃいいって思って、こういう考えを持ってるってことを晒しものにしてるんだ、大の大人達が。いろいろ溜まってるのと、よほど無知な奴ら、それと、自分よりも劣ってる相手を探してるような連中ですね。池沼がどうだとか、磯子事件の松下が恰好いいとか、仏教の言葉で言う無明でしかないですよ。恥ってものが分からない。だから、人間性ってものも能力の一つだってことも分からない。人の立場、背負っているものを想像出来ないハンデを持ってながら、それを放置されてる人間が、今になってもたくさんいるってことですよ。そして、そういう人間は、自分の抱える生きづらさを一切認めないんです。それで孤立へ向かっていくんです」テーブルに落ちた島崎の目には、悲しみが見えた。

「でも、いくら嘆いたところで、私などにはどうにもならないことなんです。聖書の言葉にもあるじゃないですか。愚かな者は、知恵を求めても得られないって。そういう奴らが、この子らよりも自分が優れた人間だって思い込もうとしていることこそ、惨めなことですよ、本当に」「そういうんも、変わっていきはると思いますよ」紅美子がコーヒーに砂糖とミルクを入れながら言うと、島崎は目を大きくした。

「たとえば、発達障害いう概念がようやく世の中に根付き始めたのは、今から二十年とちょっと前ですねんけど、それまでは、そういう子らは、変人ってことにされとったんです。それがたったの二十年で、ここまで啓蒙が進んで、その子らを一人にはさせへんいう考えが浸透しとりますから、十年後にはまただいぶ変わってはるはずですよ。それを願いながら、私達、カンファレンス、アセスメントをやってるものですから」

 ドリンクを飲みながら話を交わしたところ、英才は合気道を習っており、来月に初段の試験を受けるということだった。

 四十分ほど話し、席を立つ頃、英才と菜実は、英才が教えながら、ラインを交換した。それを紅美子と島崎が目を細めて見守った。

「池ちゃんの心次第やで。初めは友達みたいな感じで、それを温めて、池ちゃんの幸せに持ってくんや」紅美子がハンドルを切りながら言った時、菜実は戸惑い半分、嬉しさ半分という顔をしていた。

「紅美子さん」菜実の口が開いた。

「私、お嫁さん行く前に、村瀬さんにご挨拶がしたいの。お礼も言いたいの」紅美子は助手席の菜実にちらりと視線を送ってから、やがて、うん、と低く言って頷いた。

 鬼越ライラック園では、空気の乾燥する冬らしく、火災を想定した避難訓練が行われていた。「調理場から火災が発生しました。ただちに作業をやめ、園庭に避難して下さい」という緊迫した声の放送が流れ、利用者達は職員の促しで口にタオルをあてがい、グループごとに避難行動を行う。放送とともに木工作業の手を止めた恵梨香は、自分がついていた女子に「避難するよ」と声かけし、何人かの女性利用者を引率し、廊下を走り、裏の非常口から園庭に出た。

 園庭には百人あまりの利用者が座り、または職員がグリップを取る車椅子が止まった。恵梨香は作業班の点呼係を任命されていた。園内では、数人の職員が模擬の消火活動を行っている。

 利用者は全員揃っていたが、訓練終了の放送が流れ、避難した職員、利用者が園舎に戻っていく際、今日、恵梨香が担当する一人の女性が、座り込んだきり動かなかった。

 座り込んだままのその利用者の口から、泣き声が漏れている。

 その利用者は名前を加藤早苗と言い、年齢は五十手前だが、精神発達年齢は五歳程度で、支援区分は5だ。彼女には、火災のトラウマがある。幼い頃に、大好きだった祖母を火事で亡くしているのだ。

 恵梨香は、まどかを思い出していた。

「加藤さん、大丈夫だよ。もう終わったからね」髪が普通の男子程度に伸び、ニットを外している恵梨香は、早苗の背中に手を添えた。

「お祖母ちゃん‥」早苗は座り込んだまま、空を仰いで泣き声を激しくした。泣きながら、何度も祖母の名を呼んだ。子供の頃の出来事だが、彼女には忘れようにも忘れることが出来ないことなのだ。

 恵梨香はしゃがんで早苗を抱きしめ、背中をさすり続けた。

「何やってんだよ!」列の尾で立ち止まり、振り返った志賀が怒鳴った。

「早く園舎に戻せよ。作業時間に間に合わねえじゃん。仲良しごっこやってんじゃねえんだからさ」「すみません」恵梨香は詫びると、早苗の両手を取り、「もう終わったからね」と繰り返し、ゆっくりと立たせ、泣き続ける彼女の片手を握り、背中に手を当てて、遅れて列を追った。背中を優しく叩きながら、「怖くないよ」と繰り返した。

「無欠で、もう二週間だよ」木工作業で、恵梨香と向かい合って座る女の職員二人の話が、耳に入っていた。

「戻ってきはしないよ。年数重ねてたって、潰れる人は潰れるものなんだからさ。でも、こんなんじゃ、何のために七万もかけて知専の資格まで取ったんだか分かりはしないよね」一人が言うと、片方が頷いた。

 この二人が話しているのは、当然恵梨香も知る四十代の女の職員に関することだった。この職員は勤続十三年で、介護福祉士、知的障害者専門援助員の資格も取得していた。それが半月前から出勤しなくなり、電話、メールにも応答しないということだった。

 この業界では珍しくないことらしいことを、恵梨香はこの二ヶ月で学んでいる。慢性的に人手が足りず、しばしば苛烈なことにバットする上、人間関係も難しく、それが長年勤務した人の自信を挫くことがある。今は自分の心は前を向いているが、いつかは何かで、自分も挫かれる時が来るかもしれない。

 だが、今はひたすら汗を流すしかない。仮に未来の時間がどうであっても。

 休憩の声がかかり、恵梨香は園内の自販機でスポーツドリンクを買い、中庭に出た。いつも恵梨香に嫌味を言う川名が電子タバコを吸いながら、恵梨香をじろりと見た。

「お疲れ様です」恵梨香は言って頭を下げた。川名は関心なさげに吸口を唇に挟んで、園庭後ろの森林に目を向けた。

 ベンチに座った恵梨香に、電子タバコ片手の川名が歩を詰めてきた。「ねえ」川名の口が開いた。

「あなた、だいたいどれぐらいの期間、ここにいようって考えてるの?」「自分が学びたいことを、完全に学びきるまでは」恵梨香は答えた。

「その志みたいなものが、せいぜいこの先も続けばいいけどね。あなた、周りの陰口、すごいよ。表立って言われてる以上のこと、裏で言われてるよ。つまり、あなたは施設長からも先輩からも、これから伸びる人材とは見なされていないの。そのわけは、遅いのもそうだけど、利用者との関係構築が、情ばかりに偏ってるから。それが周りの皺寄せになってることは、自分で気がついてる?」「私の仕事が遅いことは、自分でも分かってます。それはこれから気をつけて向上していこうと思います」「そんな向上なんて、あなたにも無駄だし、私達の迷惑なんだよ」川名は抑揚に嘲りを込め、恵梨香は口を結んで、俯いて芝生を見た。

 そこへ施設長の関本が、煙草の箱を片手に来た。彼は横顔に疲労を滲ませて、咥えた煙草に火を点けて吸い始めた。恵梨香がお疲れ様です、と声をかけると、彼女の顔をちらりと見て、愛想なく小さく頷いた。

「あなたは倉庫で、日がな一日ラベルを貼ってるとか、値札を付けてるとか、食品製造のラインでトッピングしてるとかが合ってると思うよ。そっちのほうが、断然楽なはずじゃないの。もっと自分が楽に生きられる方法を探る気はないの?」川名の声に合わせて、早い一番の風の音が鳴った。

「それは全然罪じゃないよ。ここは人が入っては辞め、入っては辞めが繰り返される所だけど、その人達だって、やってみて難しいからって判断して次へ身を振ってったわけだから、あなたにもそれはありだと思うのよ。あなたみたいな人がここにいたって、これからも地獄だよ。誰にも相手にされないから、自己判断で仕事を進めちゃ周りを怒らせて、無視されての繰り返しじゃないの。まだ二十歳そこそこなんだから、自分が生きやすい道を見つけることなんて、いくらでも出来るはずじゃないの。それに何? 噂で聞いたけど、あなた、中卒で、五年もの間、無職だったんだって?」

 恵梨香は口をつぐんだ。

「そんなことが許されちゃうような甘い家に育ってるなら、こんな仕事ぶりでも無理ないね。私は大学が二部だったから、ふらふらしてる怠け者の言い分に耳を貸す気がないのよ。あなただって、さも一生懸命やってるふりをする類いの、怠け者の素養がある人でしょう? だから、怠け者に勤まる仕事を探すのがいいんじゃないの?」「川名さん」恵梨香は言って、芝生から視線を上げて川名の顔を見た。

「私の仕事は確かに遅いです。まだまだ足を引っ張ってる所も多いと自分でも思います。だけど、私はこの職場に拾ってもらった身なんです。だから、ここで私に出来ることは、拾ってもらった以上、一生懸命やるっていうことだけなんです。ここに来るまで、理由があって、私は荒れてました。だけど、荒れた暮らしに意味を見つけ出せなくなったことと、他人の優しさと、本当の愛を知ったから、汗をかいてお金を稼いで、迷惑をかけて心配させた親にも孝行したくて、ここで置いてもらって、自分に出来る限りの仕事をやらせてもらってるんです。酷いことばかりをやってた私を、ここの利用者さん達は認めてくれて、慕ってくれてます。だから、前に犯した罪の分だけ、情を注ぎたいんです。私がもらった情を、その情をかけてくれた人達にも、ここの人達にも返したい。私がここにいる意味は、そこにあるんです」恵梨香の言葉に、川名は鼻から嘲笑を漏らした。

「何言ってるの? 定期清掃の段取りもろくに出来ないくせに。利用者が慕ってくれてるなんて、あなたの独りよがりの自己評価でしょう? そんなものは、私達には何の根拠も見えない、あなたの主観だよ。利用者だって、あなたのことを疎ましく思ってるんだよ。あなたはいつも、はい、はいって反射的な返事をして、馬鹿の一つ覚えみたいな、すみませんを繰り返して、他の職員の余計な仕事を増やしてるのよ。それも毎日、毎日。あなたの過去なんかに私は関心ないけど、親云々よりも、一つは自分の仕事ぶりを反省しなさいよ。それが出来なきゃ‥」その時、川名のまくしたてを遮るように、関本が彼女と恵梨香の間に進み出た。

「川名さん、あなた、今日で解雇だ」疲労による不機嫌を顔にありありと浮かせたままの関本が突きつけた宣告に、川名は蒼白の表情になった。

「それは何ですか?」「言った通りの意味ですよ。今すぐ帰っていいです」舌をもつれさせて問い返した川名に、関本は付け足した。

「うちに県からの監査が入って、改善を求められたことは、あなたも知ってるはずだよね。それでもう資金難を言い訳にして、現状だけを維持することは出来なくなったんだ」関本は短くなった煙草を携帯灰皿になすりつけて消した。

「これから会議を重ねて、職員の待遇や、利用者の生活環境の改善を図ると同時に、これまでもっともらしく外向けに放ってたスローガンを、中身の伴うものにしなきゃいけないものでね。俺の任期は、来年で終わりだ。それまでに、やっておきたいことがたくさんあるんだ。その中の一つに、否定する心、というものの排除があるんだよ」川名は驚きに白んだ顔のまま、関本を見ていた。

「確かにあなたは努力したほうの人かもしれない。それでも、その積み重ねた努力が、誰かを見下す道具になった時、その努力人の実績は、三流のものに成り下がるんだよ。さっき、あなたが村瀬さんに言ったことは、差別の心から出てるモラハラだ。村瀬さんは、俺も事務仕事の傍ら、仕事ぶりを見させてもらってるけどね、スピードはないにせよ、心のある、確実な仕事をしているよ。だけど、川名さん、あなたの仕事は、利用者に対する優しさが感じられない。それを自分では能率重視の合理だと思ってるんだろうけどね」

 恵梨香ははらはらと、関本と川名を交互に見た。

「これからは、雇用条件も大幅に改めて、人を増やそうとしてるところだ。うちが生まれ変わることが出来るかを賭けることになる新体制の構築に、相手が利用者だろうが職員だろうが、蔑み、差別の心というものは一切持ち込みたくないんだ。だから、あなたは、うちにはもう要らない。今日限り、いや、今、辞めてもらう。休憩終わったら、帰って。ちなみ言っとくと、あなたのほうこそ、食品製造のラインとか、倉庫が似合ってるよ。人間性の汚い中年達が、絶望の人生を背負ったやけくそで、派閥作って、弱い者いじめと弱い者潰しに明け暮れてる世界だからね」

 関本の顔と、最後の言葉には温かみが挿していた。

 川名は眉尻を下げた顔で唇をわなつかせ、関本を見ていたが、やがて顔と肩を落とし、フェンスの囲まれた園舎への道へ踵を向け、丸めた背中の後ろ姿を小さく遠のかせていった。

「施設長‥」言った恵梨香を制するように、関本は軽く挙手した。

「作山さん、将来的なことの話になるけど、うちの法人で、グループホームを立ち上げる予定もあるんだ」少しの間のあとで、関本は言って恵梨香の目を見た。

「グループホームは、日中部門とはまた違った大変さがあるけど、俺はあなたなら出来ると見込んでるよ。細かい所の目利きが求められるから、あなたにどうかと思ってるんだけどね。もしよければ、考えの中に入れておいてくれたら、と思ってるんだ」「あの、私‥」「もうあなたの中には、自分で気づかない自信が根付いてるはずだよ」関本の声に、吹き下ろされる風の音が重なった。

 恵梨香は、風に打たれて揺れそよぐ花壇の越冬ライラックを点視していた。

 西習志野の金杉台寄り、斜傾地にある、広さ200㎡ほどの児童公園だった。左手にはアパート、右手には住宅が並んでいる。遊具設備はブランコが二台、鉄棒があり、衝立の向こうには杉の木の人工林がある。

 公園内の杉を背にした白いセーター姿の村瀬が、両拳を胸前に構えた軽いファイティングポーズを取っている。それをスタンドにパレットとキャンパスを固定した愛美が、絵具とテレピンを使い、下描きである「おつゆ描き」を行っている。

「終わった。見て‥」三十分ほどして描き上がった「おつゆ」は、背後の杉と住宅街を含めて、見事に明暗が描き分けられ、締まった表情の村瀬を写実描写していた。

 一級と言っていい仕上がりだった。

「まだ話してなかったね。俺、空手、また始めることになったんだよ」「そうなの?」二人並んでベンチに腰掛け、缶コーヒー片手の村瀬が言うと、愛美は口角の上がった顔で頷いた。

「そこに至るまで、いろいろと考えざるを得なくなるようなことが、あの時から最近まで、たくさん俺の身に起こってきたんだ。すぐに口にするのも憚られるようなことが含まれてるから、ゆくゆくに話すよ。それこそ、命が的にかけられて、自分の手も罪に濡れるような出来事がね。あの手繋ぎ式は、堅気じゃない世界が絡んでるものだったっていうことなんだ。それで俺は、一人の女の子を守るために‥」「お察ししてます」愛美の掌が、村瀬の手の甲に優しく載った。
 
 菜実を守り、助けるためだけに、良心の存在しない人間達と対峙した始終、垣間見た世界のことを話す村瀬の手を、愛美はただ黙して取り続けた。ただ、その中で自分がその手で犯した罪、海老原父子の話だけは、割愛せずにはいられなかった。だが、村瀬が自分の手を汚さずに、その世界へ身を挺したわけではないことを、愛美は察していると見えた。
  
「私もあれが、危険な罠が仕掛けられた催しだってことは、会場に入ってしばらくしてから分かったの。だから、連絡先交換の相手を村瀬さん一人に絞ることで身を守ったのよ。あの時、あそこに来てた人の中で、信用して大丈夫な人は、村瀬さんだけだってことが、はっきりと分かってたから。だけど、村瀬さんがあのあとで守った、あの女の子は、とても純粋な子だったと思うよ。私の娘と同じ匂いがしたのよね、あのなみさんっていう名前の子。一生懸命お洒落して、自分を可愛く飾ってたけれど、それにはすごく悲しい事情がありそうな気がしてたのよ」

 コーヒーの缶を握る村瀬の力が強くなり、彼は枯れた芝を見つめるように上体をうなだれさせた。

 そこへ母親に連れられた幼い女児が来て、立ってブランコを漕ぎ始めた。

「だけど、非力なものだったよ。俺はあの子を、本人の障害がもたらす悲しみからは、結局救えなかったんだ。彼女は、重たい荷物を背負う別の人間を助けるために、俺に別れを告げて去ってったんだ。そこにも悲しみがあったはずなんだ。俺は自分の生活を第一にしなきゃいけない、しがない市民だ。だから、最後まで救いきることは出来なかったんだ」
「でも、その子も幸せだったはずよ」愛美は、村瀬の手を握る力を強くした。

「だって、悲しいことばかりの人生の中で、一時にせよ、本気で愛してもらって、命懸けで守ってもらえる経験をして、自分を独りにはしないっていう気持ちを持つ人がいることが分かったんだもの。いいことをしたのよ、村瀬さんは。それはそれで、一つの素晴らしい恋だったはずなんだから」「二井原さん」村瀬の声に、愛美は小さな頷きを返した。

「あの時、あなたは、仕事の次にこれが好きだって語る俺が見たいって言ったけど、次というか、仕事以上に大切だと思えることが見つかったよ。それは、人を恋して、愛することだよ。俺はあの菜実さんとの関わりで、それが人生の中でかけがえのないものだっていうことを、この齢になって学び直したんだ」「良かった。こういう村瀬さんの言葉を聞きたかったのよ」愛美は言って、ころころと笑った。

 二月の風は、先と比べていくらか吹き加減が優しくなり、黄色く枯れた銀杏の葉が、土の上にふわふわと舞っていた。母親に見守られながらブランコを立ち漕ぎする五歳児と思われる女の子は、「あーぱつ、あぱつ、あーぱつ、あぱつ」という世界的ヒットのダンスチューンを、声高々と唄っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

処理中です...