5 / 5
エピローグ
イカ
しおりを挟む
滑稽なまでにずらりと揃った前髪。それでいて、刈り上げられたサイド。どこをどう注文すればこの髪型になるのかが、全く皆目分からない。
服装は、白のスクールシャツに黒ズボンの夏服制服だった。しかし、何故か、彼は登山などに用いるナップザックを背負っている。
筋肉の存在しない骨皮の体をし、それでいて頭部が大きい。顔は、その面積の三分の一を占める巨大な鼻を擁し、まるで頭と鼻で舵を取っているように見える。
表情は、目尻、口の端が垂れ下がった、何かに怯えているような面持ちで、しかもその顔は服装に反して、中年の面差しを持つ老け顔だった。
制服Yシャツの胸には、「3年C組 イカ」という名札がついている。
同じ顔、髪型、服、同じナップザックを背負い、表情までも寸分も変わらない「イカ」が、まるでクローン増殖のように、数十人、赤色舗装に白線の引かれたコートを、同じがに股歩きで行進している。
その数十人のイカは、みんな同じ白、同じ長さをした、つららのような一本鼻水を垂らしている。
ざっざっ、と進み、一斉にぴたりと止まり、その首をウインウインと回転させる。
また数メーター進み、止まっては首を回転させる。
また進み、ぞろりと一斉に左方向を向き、白い鼻水を、びろ~ん、ずずっ、びろ~ん、ずずっと啜って、腹部辺りまで伸び縮みさせる。
また進み、首回転と鼻水伸び縮みを繰り返す。
夕焼けの空には三羽の鴉が西へ向かって、あほー、あほー、と啼きながら飛び去っていく。
ある地点で、ぴたりと前進を止めたと思いきや、今度は、右腕を伸ばし、左手を胸に着けた恰好をしながら、全員一斉に前を向いたまま後ろ歩きで後進し、そのポーズのまま、首回転と鼻水垂らしを繰り返し、来た方向へとバックアウトして消え去った。
イカの増殖集団が消えたコートには、虚しい風の音と、ばかー、ばかー、という鴉の啼き声だけが響き渡っていた。
完。
注。この小説は作者の人生経験をベースとしたフィクションであり、実在の人物、団体とは関係ありません。
服装は、白のスクールシャツに黒ズボンの夏服制服だった。しかし、何故か、彼は登山などに用いるナップザックを背負っている。
筋肉の存在しない骨皮の体をし、それでいて頭部が大きい。顔は、その面積の三分の一を占める巨大な鼻を擁し、まるで頭と鼻で舵を取っているように見える。
表情は、目尻、口の端が垂れ下がった、何かに怯えているような面持ちで、しかもその顔は服装に反して、中年の面差しを持つ老け顔だった。
制服Yシャツの胸には、「3年C組 イカ」という名札がついている。
同じ顔、髪型、服、同じナップザックを背負い、表情までも寸分も変わらない「イカ」が、まるでクローン増殖のように、数十人、赤色舗装に白線の引かれたコートを、同じがに股歩きで行進している。
その数十人のイカは、みんな同じ白、同じ長さをした、つららのような一本鼻水を垂らしている。
ざっざっ、と進み、一斉にぴたりと止まり、その首をウインウインと回転させる。
また数メーター進み、止まっては首を回転させる。
また進み、ぞろりと一斉に左方向を向き、白い鼻水を、びろ~ん、ずずっ、びろ~ん、ずずっと啜って、腹部辺りまで伸び縮みさせる。
また進み、首回転と鼻水伸び縮みを繰り返す。
夕焼けの空には三羽の鴉が西へ向かって、あほー、あほー、と啼きながら飛び去っていく。
ある地点で、ぴたりと前進を止めたと思いきや、今度は、右腕を伸ばし、左手を胸に着けた恰好をしながら、全員一斉に前を向いたまま後ろ歩きで後進し、そのポーズのまま、首回転と鼻水垂らしを繰り返し、来た方向へとバックアウトして消え去った。
イカの増殖集団が消えたコートには、虚しい風の音と、ばかー、ばかー、という鴉の啼き声だけが響き渡っていた。
完。
注。この小説は作者の人生経験をベースとしたフィクションであり、実在の人物、団体とは関係ありません。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる