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第8話
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「しかしこれ、相棒を殺してまで奪うモンなのか?」
「そりゃあ異星系に兵器が流れたら大変だし、テラ連邦議会加盟星系ではあれどテラ連邦の意向を無視してマフィアが戦争やってるリスピア星系とか、年中バトルロイヤル状態でテロリストの温床になってるヴィクトル星系なんかが手に入れたらことでしょうが」
「まあ、確かにな。で、命令書にあったロニアは人口よりも銃が多い、林立したマフィアが牛耳る星か」
「マフィア自身は使わなくてもクレジットに変える裏ルートを沢山持ってるよ」
「そんなにダグラス=カーターはカネが欲しかったのか?」
ここで初めてハイファは俯き思案顔をする。
ハイファが黙っている間、シドはダグラス=カーターのポラを見つめた。
顔立ちは結構整っている。シドにも似た黒髪をやや伸ばしてオールバックにしていた。瞳は緑だ。身長はシドやハイファよりも高い。だがひょろ長い印象はなく、しっかりとした体つきはハイファよりも余程軍人らしかった。
迷いながらハイファは口を開き呟くように言った。
「ダグは……クレジットが欲しくてナノマシンを持ち出したんじゃないと思う」
「クレジット目当てでなく、何だってこんなモンを盗んだんだよ。脅されたのか?」
「脅された可能性も否定できないけど、たぶん違うと思う」
「ダグラス=カーター本人の意志ってことか」
「うん。そうだね、愉快犯って言えばいいかな」
「ああ? 愉快犯ってお前、そんなイカれた奴が別室員で相棒まで殺したってのか?」
ハイファは何処か遠い目をマグカップに落とす。
「彼はね、快楽主義者。『面白ければ何でもいい』っていうのが口癖だった。僕とは気が合ったよ」
「似た者同士だったってことか」
自分と今のような仲になる前のハイファをシドは思い出していた。全てを知っている訳ではないが、あの頃のハイファはひたすら明るく軽く、愉しんで陰惨な別室任務をこなしてはシドに面白おかしく語っていた。
だからといって何も感じていないのではないことをシドは理解していたが、表面では躁的なまでに様々な事象に愉しみを見出して、蝶のようにヒラヒラと飛び回る……落ち着いたのはシドという着地点を得てからだ。
「ダグは僕がバディを降りるって言った時に引き留めはしなかった。代わりにこう言ったよ、『また面白い何かを探さなくちゃならない』ってね」
「じゃあ何か、お前はダグとやらの『面白い』オモチャだったってのか?」
「それはお互い様だったから……ずっと貴方を待ってる七年は長かったよ」
仕事上のバディだった、それだけでないことを別室長ユアン=ガードナーは知っていてこの任務をハイファに振ったのだろうか。そんなことを胸の片隅で思いながらシドは突き上がってくる感情を表情に出さぬよう抑えるのに苦労する。
それでも顔色を読まれたか、ハイファが自嘲的に笑いながら小さく呟いた。
「シド、ごめんね?」
「何で謝るんだ、それこそお互い様だろ」
ハイファとこうなる前はワーカホリック故にどれも長続きこそしなかったが、シドにも殆ど途切れなく彼女がいた。七年間ずっと公然とシドにアタックし続けていたとはいえ、応えなかったシドにハイファ一人を責める権利などない。
「それでも……ごめん」
二度目でシドの中で何かが弾けた。
「チクショウ、お前ハイファ、恥じなきゃならねぇような奴と寝たのかよっ! 俺はそんな奴に嫉妬しなきゃならねぇのか!?」
とっくに消えていた吸い殻を自動消火の灰皿に叩き捨てて立ち上がったシドの剣幕に、ハイファは呆然とした顔で黒い目を見上げる。
「……嫉妬、してくれるの?」
「ふざけんな、当たり前だろうが! 任務で寝た奴を皆殺しにしてやりたいくらいだぜ」
「僕も、貴方の彼女が羨ましくて……憎かった」
「そうか。約束だ、来い!」
ロウテーブルを回り込んだシドがハイファの腕を掴んだ。指の痕がつくほどに強く握られ、引きずられるように寝室に連れて行かれる。
ベッドに放り出された。
「そりゃあ異星系に兵器が流れたら大変だし、テラ連邦議会加盟星系ではあれどテラ連邦の意向を無視してマフィアが戦争やってるリスピア星系とか、年中バトルロイヤル状態でテロリストの温床になってるヴィクトル星系なんかが手に入れたらことでしょうが」
「まあ、確かにな。で、命令書にあったロニアは人口よりも銃が多い、林立したマフィアが牛耳る星か」
「マフィア自身は使わなくてもクレジットに変える裏ルートを沢山持ってるよ」
「そんなにダグラス=カーターはカネが欲しかったのか?」
ここで初めてハイファは俯き思案顔をする。
ハイファが黙っている間、シドはダグラス=カーターのポラを見つめた。
顔立ちは結構整っている。シドにも似た黒髪をやや伸ばしてオールバックにしていた。瞳は緑だ。身長はシドやハイファよりも高い。だがひょろ長い印象はなく、しっかりとした体つきはハイファよりも余程軍人らしかった。
迷いながらハイファは口を開き呟くように言った。
「ダグは……クレジットが欲しくてナノマシンを持ち出したんじゃないと思う」
「クレジット目当てでなく、何だってこんなモンを盗んだんだよ。脅されたのか?」
「脅された可能性も否定できないけど、たぶん違うと思う」
「ダグラス=カーター本人の意志ってことか」
「うん。そうだね、愉快犯って言えばいいかな」
「ああ? 愉快犯ってお前、そんなイカれた奴が別室員で相棒まで殺したってのか?」
ハイファは何処か遠い目をマグカップに落とす。
「彼はね、快楽主義者。『面白ければ何でもいい』っていうのが口癖だった。僕とは気が合ったよ」
「似た者同士だったってことか」
自分と今のような仲になる前のハイファをシドは思い出していた。全てを知っている訳ではないが、あの頃のハイファはひたすら明るく軽く、愉しんで陰惨な別室任務をこなしてはシドに面白おかしく語っていた。
だからといって何も感じていないのではないことをシドは理解していたが、表面では躁的なまでに様々な事象に愉しみを見出して、蝶のようにヒラヒラと飛び回る……落ち着いたのはシドという着地点を得てからだ。
「ダグは僕がバディを降りるって言った時に引き留めはしなかった。代わりにこう言ったよ、『また面白い何かを探さなくちゃならない』ってね」
「じゃあ何か、お前はダグとやらの『面白い』オモチャだったってのか?」
「それはお互い様だったから……ずっと貴方を待ってる七年は長かったよ」
仕事上のバディだった、それだけでないことを別室長ユアン=ガードナーは知っていてこの任務をハイファに振ったのだろうか。そんなことを胸の片隅で思いながらシドは突き上がってくる感情を表情に出さぬよう抑えるのに苦労する。
それでも顔色を読まれたか、ハイファが自嘲的に笑いながら小さく呟いた。
「シド、ごめんね?」
「何で謝るんだ、それこそお互い様だろ」
ハイファとこうなる前はワーカホリック故にどれも長続きこそしなかったが、シドにも殆ど途切れなく彼女がいた。七年間ずっと公然とシドにアタックし続けていたとはいえ、応えなかったシドにハイファ一人を責める権利などない。
「それでも……ごめん」
二度目でシドの中で何かが弾けた。
「チクショウ、お前ハイファ、恥じなきゃならねぇような奴と寝たのかよっ! 俺はそんな奴に嫉妬しなきゃならねぇのか!?」
とっくに消えていた吸い殻を自動消火の灰皿に叩き捨てて立ち上がったシドの剣幕に、ハイファは呆然とした顔で黒い目を見上げる。
「……嫉妬、してくれるの?」
「ふざけんな、当たり前だろうが! 任務で寝た奴を皆殺しにしてやりたいくらいだぜ」
「僕も、貴方の彼女が羨ましくて……憎かった」
「そうか。約束だ、来い!」
ロウテーブルを回り込んだシドがハイファの腕を掴んだ。指の痕がつくほどに強く握られ、引きずられるように寝室に連れて行かれる。
ベッドに放り出された。
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