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第25話
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縛ってやることまではせず放置、二人はキッチンに戻った。コーヒーのマグカップを手にリビングのソファに二人は座ったが、食事を終えたデカい鳥が天井近くを旋回していて落ち着かないことこの上ない。
「ナイト損保に早々に引き取り願った方がいいんじゃねぇか?」
「勿論、連絡するよ。別室任務も背負ってるんだしね」
「くそう、そいつもあったか」
リモータ発振をしてから思いついてハイファはホロTVを点ける。ニュースに合わせると、丁度アルケー星系の資源枯渇問題を報じていた。
それで分かったことはアルケー星系では同時に三つの惑星をテラフォーミングするという、かなり大掛かりな事業が展開され、その三つの惑星には五年前に他星系から募った人々が入植したものの、半年前になってさっぱり資源が採取できなくなったということだった。
「第二惑星サラマドでは原油、第三惑星ディーネではプラチナとトリアナチウム、第四惑星ノームでは金と銅にパラジウムが一斉に枯渇ねえ」
トリアナチウムは反重力装置などに欠かせないレアメタルだ。反重力装置が主流となった現在でも原油は需要がある。反重力装置は水上ではパワーロスするため、船舶は内燃機関駆動が多いのだ。その他、稀少金属はいわずもがなの価値があった。
「一斉に枯渇なんて、あるのか?」
「さあ、ないとは言い切れないけど……あ、レックス。コーヒー飲んでいいよ」
何にでも興味があるらしいので好きにさせておく手だと、ハイファは既に三千年前からきた男を客扱いするのはやめていた。そのレックスは普通に食器棚からカップを出し、コーヒーを注いで持ってくると、ボルサリーノを脱いでハイファの隣、二人掛けソファに着地する。
「じゃあ、別室資料に移ろっか」
と、ハイファはリモータを操作してアプリの十四インチホロスクリーンを立ち上げ、命令とともに流れてきた資料のファイルを開いた。
「テラフォーミングっつーと、相当なクレジットが動くんだろ?」
「そうだね。それなりの惑星を見つけたら、調査を始めとして人間が住めるようになるまでのシークエンスに応じて、テラ連邦議会の植民地委員会がノウハウを持った専門会社に対して入札をする。これに支払われる財源は当然ながら税金だよ」
「でも支出だけじゃ、テラは当然破産しちまうよな?」
「そりゃあそうだけど、テラフォーミングから入植までに掛かったお金は、いわばその星系政府に対して貸し付けたようなモノなんだよ。誰も旨味のない星を開発しようとは思わないし、開発してそこが発展すれば、長じてクレジットを生む金のタマゴって訳」
「ふうん、気の長い話だな」
「気の長い話でも資金回収できればテラはそれでいいんだよ」
「今回はそいつができなかったから問題なんだな?」
「できないっていうか、将来的にできそうにないと判断されたって訳だね。この資料に依れば【不透明な資金の流れ】っていうよりも単に『資源枯渇問題に関する第三者委員会』の中に不審な動きをした人たちがいるってことらしいよ」
資料には有識者からなる第三者委員会の有識者が、いきなり他星に別荘を買っただの豪遊をしているだの、とにかく金回りがよくなったということらしかった。
「何だ、それだけかよ」
「第三者委員会の有識者たちは『困窮した入植者』から裏金を貰って、今回の『保険金支払え』判定を出した。それで羽振りがよくなったってことだよね」
「それならそいつらを叩けば済む話じゃねぇか、何で俺たちが……」
呆れてシドは新たに煙草を咥え火を点けた。それをじっとレックスが眺める。
「あんたも吸うか?」
「そんな高級品を次々に灰にするとは、現代の刑事はそんなに羽振りがいいのか?」
「……高級品?」
「わたしの世界では税が八百パーセント、一箱三千クレジットは下らなかった」
笑って二人はそこまでの金額ではないことと、無害化されていることを説明した。
「そうか、それなら一本所望する!」
「分かったから大声を出すなって。ほら」
火を点けてやると、レックスは案外堂に入った吸い方をして旨そうに煙を吐いた。
「ところであんた、何だってナイト損保を出てきちまったんだよ?」
「そうだよ。それにレックスはおカネも持ってないのに、ネオニューヨークからこのセントラルエリアまでどうやってきたのサ?」
にこにこと煙草を吸いながらレックスは応える。
「ここまでくるための『足』は賭けで調達したのだ」
「賭けって、いきなり博打かよ?」
「まあ、そうだ。『本物のレックス=ナイトが見つかるかどうか』の賭けだ」
「ちょっとレックス、それは賭けって言わないんじゃ?」
「あのBELとかいう飛行機を持ったご婦人は、笑って乗せてくれたぞ?」
「……タラしたんだね」
「無一文なのだ。労働をするのを厭うてはなるまい、わたしが妊娠する訳でなし」
まさかそこまでとは思っていなかった二人は嘆息する。
「で、何で出奔したってか?」
「あんなに会社が巨大化しているとは思わなかったのだ。コーヒーショップの片隅を借りて細々とブックメーカーをやっていた頃が懐かしくなった。いきなりホテルに押し込まれて、外が見たいと言えばTVを視ろという。せっかくの世界をこの目で見たいではないか!」
元がブックメーカー、いわゆる賭け屋の面目躍如というところなのかも知れないが、それにしてもたった半日経たないうちに家出を敢行するとは、フロンティアスピリットに満ち溢れているらしい。
「ナイト損保に早々に引き取り願った方がいいんじゃねぇか?」
「勿論、連絡するよ。別室任務も背負ってるんだしね」
「くそう、そいつもあったか」
リモータ発振をしてから思いついてハイファはホロTVを点ける。ニュースに合わせると、丁度アルケー星系の資源枯渇問題を報じていた。
それで分かったことはアルケー星系では同時に三つの惑星をテラフォーミングするという、かなり大掛かりな事業が展開され、その三つの惑星には五年前に他星系から募った人々が入植したものの、半年前になってさっぱり資源が採取できなくなったということだった。
「第二惑星サラマドでは原油、第三惑星ディーネではプラチナとトリアナチウム、第四惑星ノームでは金と銅にパラジウムが一斉に枯渇ねえ」
トリアナチウムは反重力装置などに欠かせないレアメタルだ。反重力装置が主流となった現在でも原油は需要がある。反重力装置は水上ではパワーロスするため、船舶は内燃機関駆動が多いのだ。その他、稀少金属はいわずもがなの価値があった。
「一斉に枯渇なんて、あるのか?」
「さあ、ないとは言い切れないけど……あ、レックス。コーヒー飲んでいいよ」
何にでも興味があるらしいので好きにさせておく手だと、ハイファは既に三千年前からきた男を客扱いするのはやめていた。そのレックスは普通に食器棚からカップを出し、コーヒーを注いで持ってくると、ボルサリーノを脱いでハイファの隣、二人掛けソファに着地する。
「じゃあ、別室資料に移ろっか」
と、ハイファはリモータを操作してアプリの十四インチホロスクリーンを立ち上げ、命令とともに流れてきた資料のファイルを開いた。
「テラフォーミングっつーと、相当なクレジットが動くんだろ?」
「そうだね。それなりの惑星を見つけたら、調査を始めとして人間が住めるようになるまでのシークエンスに応じて、テラ連邦議会の植民地委員会がノウハウを持った専門会社に対して入札をする。これに支払われる財源は当然ながら税金だよ」
「でも支出だけじゃ、テラは当然破産しちまうよな?」
「そりゃあそうだけど、テラフォーミングから入植までに掛かったお金は、いわばその星系政府に対して貸し付けたようなモノなんだよ。誰も旨味のない星を開発しようとは思わないし、開発してそこが発展すれば、長じてクレジットを生む金のタマゴって訳」
「ふうん、気の長い話だな」
「気の長い話でも資金回収できればテラはそれでいいんだよ」
「今回はそいつができなかったから問題なんだな?」
「できないっていうか、将来的にできそうにないと判断されたって訳だね。この資料に依れば【不透明な資金の流れ】っていうよりも単に『資源枯渇問題に関する第三者委員会』の中に不審な動きをした人たちがいるってことらしいよ」
資料には有識者からなる第三者委員会の有識者が、いきなり他星に別荘を買っただの豪遊をしているだの、とにかく金回りがよくなったということらしかった。
「何だ、それだけかよ」
「第三者委員会の有識者たちは『困窮した入植者』から裏金を貰って、今回の『保険金支払え』判定を出した。それで羽振りがよくなったってことだよね」
「それならそいつらを叩けば済む話じゃねぇか、何で俺たちが……」
呆れてシドは新たに煙草を咥え火を点けた。それをじっとレックスが眺める。
「あんたも吸うか?」
「そんな高級品を次々に灰にするとは、現代の刑事はそんなに羽振りがいいのか?」
「……高級品?」
「わたしの世界では税が八百パーセント、一箱三千クレジットは下らなかった」
笑って二人はそこまでの金額ではないことと、無害化されていることを説明した。
「そうか、それなら一本所望する!」
「分かったから大声を出すなって。ほら」
火を点けてやると、レックスは案外堂に入った吸い方をして旨そうに煙を吐いた。
「ところであんた、何だってナイト損保を出てきちまったんだよ?」
「そうだよ。それにレックスはおカネも持ってないのに、ネオニューヨークからこのセントラルエリアまでどうやってきたのサ?」
にこにこと煙草を吸いながらレックスは応える。
「ここまでくるための『足』は賭けで調達したのだ」
「賭けって、いきなり博打かよ?」
「まあ、そうだ。『本物のレックス=ナイトが見つかるかどうか』の賭けだ」
「ちょっとレックス、それは賭けって言わないんじゃ?」
「あのBELとかいう飛行機を持ったご婦人は、笑って乗せてくれたぞ?」
「……タラしたんだね」
「無一文なのだ。労働をするのを厭うてはなるまい、わたしが妊娠する訳でなし」
まさかそこまでとは思っていなかった二人は嘆息する。
「で、何で出奔したってか?」
「あんなに会社が巨大化しているとは思わなかったのだ。コーヒーショップの片隅を借りて細々とブックメーカーをやっていた頃が懐かしくなった。いきなりホテルに押し込まれて、外が見たいと言えばTVを視ろという。せっかくの世界をこの目で見たいではないか!」
元がブックメーカー、いわゆる賭け屋の面目躍如というところなのかも知れないが、それにしてもたった半日経たないうちに家出を敢行するとは、フロンティアスピリットに満ち溢れているらしい。
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