3 / 10
本編+挿話
第三話
しおりを挟む
季節は、冬。
雪がちらちらと降る庭園が見える縁側でずっと膝を抱えていると、寒さに強いぼくでも、手足が凍えてくる。
はぁー、と真っ赤になった指先を息であたためて、からだをきゅうっ、と丸めた。
眉をはの字にして、ここからは少し離れたところにあるシロ様のお部屋を見つめる。
いつもは、ずっとふたりでいられるお部屋。でも、今日は『だめ』なんだ。
今晩は、『満月』だから。
✿✿✿✿✿
シロ様は王子様だからか、もののけのちから――妖力――がすごく強い。
妖力って、お月様の力にものすごく影響を受けやすい。
普通なら、満月だととっても体調がよくなるのだけれど、シロ様の妖力は、あまりに『強すぎ』て。
満月の日は、他のもののけの妖力や『穢れ』を敏感に感じとりすぎてしまって、よく熱を出してしまう。
今、寝込んでしまっているシロ様のお部屋には、お医者様と、特別に認められたひとしか入れない。
あと、ぼくにはもうひとつ、入っちゃ『だめ』な『理由』があるんだ。
『よそもの』のぼくは、「けがらわしい」んだって。鬼の国の偉いひとたちが言っていた。……だから、「だめ」。
でも、クレナイ様だけは、「むしろあの犬っころを部屋へぶち込んだほうが、シロは元気になるんじゃないか? ああでも、いろいろトんでるだろうから、犬っころのが危険かな……」って言ってくれていたって、コガネ様が教えてくれた。なにが危険なのかぼくにはよく理解できないけれど、やっぱりクレナイ様はきっと、優しいひと、なんだと思う。シロ様が恋をするのもわかってしまう。
あっ、えと、コガネ様っていうのは――……。
✿✿✿✿✿
「じゃあ、お大事になさいよ~」
噂をすれば、独特な甘やかさのある渋い声とともに、大きくてたくましいからだのオスの鬼が、シロ様のお部屋から出てきた。
「コガネ様!」
このひとが、コガネ様。鬼の国一番のお医者様で、いつもたくさんの鬼たちを、けがや病気から助けている。
金色の髪をおかっぱに切りそろえていて、口には真っ赤な紅。つややかな紫のドレスの上に白衣を着こなす、とってもおしゃれなお兄さんだ。
「あら、クロちゃん! あったかいお部屋にいなさいって言ったでしょぉ、もう~。こんなに冷たくなって~……」
手に持っていたお医者様の道具がいっぱいつまった革のかばんを、さっと横へ置いて、ぼくの両手を、そのとても大きな手でがしがしとさすってくれる。お仕事柄、お水をいっぱい使うからだろう、その手のひらはすごくがさがさしていたけれど、心までぽかぽかするくらい、あたたかかった。
「ありがと、です。……ちょっとでも、シロ様の近くがよくて。あの、シロ様のお加減、どうですか?」
「そうねぇ、やっぱり少し熱はあるけど、今回は大分楽だって仰ってたわ」
「よかった……、いや、えと、シロ様がほんの少しでも苦しいのは全然よくない、ですけれど!」
「――本当に、シロ様は幸せ者ね」
「え、そんな……」
「あーあ、アタシもこんな風に心配してもらいたーい! セクボのイケメンだったら尚よし♡♡」
たくましいからだをぎゅうう、とその腕で包みこみ、くねくねするコガネ様。
オスの鬼もメスの鬼もみんな、コガネ様のいないところで、そんなコガネ様のことを「みっともない」って『わらう』。ぼくはそれが耳に飛びこんでくると、いつもしゅん、としてしまうんだ。だってぼくは、コガネ様はだれよりも――……。
✿✿✿✿✿
そのまま5分くらい『アタシの理想のイケメン論』っていうのを『熱弁』してくれていただろうか、コガネ様は、はたと我に返る。
「あらやだ、アタシったらまたやっちゃったわ。ごめんねぇ、クロちゃん。こーんなムキムキしたおっさんの癖トークなんて、気持ち悪いだけよねぇ……」
「そんな……!!」
ぼくは、とっさに反論していた。
「むきむきとか、関係ない、です! コガネ様はいつもとってもきれいでおしゃれにしてるし、優しくて、『たおやか』で……だれよりも『おとめ』です!!」
「……!」
コガネ様は目を見開く。ぼくは、ドレスと同じ色の、そのきれいな紫の瞳を、強く強く見つめかえす。だって本当に思うんだ。コガネ様はだれよりも素敵な『おとめ』だって。
「あーん、なんてカワイイの! 食べちゃいたい♡!!」
「そっ、それは困るですっ」
ぼくをがしっと掴んで、頭をなでまわすコガネ様。やっぱり力はとっても強くて、ちょっと苦しい。
「そんなカワイイ子に、アタシからのプレゼント。はい、どうぞ♡♡」
「……?? これはなに、ですか?」
コガネ様は、すぐ横にあった革のかばんの中から、白いお洋服のようなものを取り出して、ふふん、と得意げにぼくへ渡してくれた。
「白衣よ、アタシたち医療担当の鬼が着てるのと同じ。『穢れ』を祓う術がかけてあるの。ちゃんとクロちゃんに合うサイズだし、尻尾の穴も開けてあるのよ♪お風呂でも入ってこれを着れば、上のオヤジどもも文句なんて完全に言えなくなるでしょ! 全く、クロちゃんの何がけがらわしいのかしら。あいつらこそ、あの真っ黒なお腹を綺麗に洗って、出直してほしいわ!!」
「あ、あはは……?」
ぼくは手渡された、優しい香りのする白衣をぎゅっと握って、つぶやくように訊く。
「本当に本当に、ありがとうです、コガネ様。でも……どうしてこんなに、ぼくに優しくしてくれる、ですか? ぼくは、『じゃまもの』、なのに……」
おずおずしながら尋ねると、コガネ様は、ふふっ、と勝気に笑って、大きなからだをぼくの耳によせ、ささやいた。
「『オトメ』ってね、恋する子の気持ちがなによりも大事な生きものなのよ♡」
「……え」
ぼくは目がまん丸になる。どうしてわかってしまったんだろう、ぼくのシロ様への気持ち。
「ち、違う、です、そういうのじゃなくて、ぼくは、あの」
「アタシは応援してるわよ? 誰かを大切にしたいと思った気持ちはそれごと、大切にしてあげてね♪」
後ろ手に手をひらひらさせて、去ってゆくコガネ様。
ぼくは心がくすぐったくなるくらいうれしくて。コガネ様が見えなくなるまで、深く深く、お辞儀をした。
✿✿✿✿✿
シロ様に病気をうつさないよう、お風呂でからだを隅々まで、きれいに洗う。
ぷるぷると全身の水をほろって、からだを拭くのもそこそこに、新しい着物へ袖を通そうとしたとき。
「……あれ、もしかして……?」
ぼくはその名案に、目を輝かせた。
✿✿✿✿✿
「――ん……」
「ご、ごめんね。シロ様。そっとしたつもりだったんだけれど……」
シロ様のおでこに載せた濡れ手ぬぐいを替えていたら、シロ様が目を覚ましてしまった。
「……クロ……? 別室に、いるはずなのに……これは、夢……?」
シロ様は、まだちょっとぼんやりしているのか、目がとろんとうるんでいて、かわいい。
「本当に、本当のぼくだよ! えと、コガネ様が白衣を作ってくれたの! シロ様が、『穢れ』ない術もかけてくれて……!!」
「『穢れ』、なんて、あなたには……。……ああ、嬉しい。確かにこれは、クロのぬくもり。あとで、コガネにお礼を……」
ぼくの手を握ったシロ様は、ようやく意識がはっきりしてきたみたいで、ぼくをそのお月様色の瞳に、はっきり認める。
「……って、クロ!? びしょ濡れじゃないですか!?」
心底驚いた様子で、お布団から飛び起きたシロ様に、ぼくは、そういえばそうだったなぁ、と、自分のからだを見返しながら答えた。
「あっ、うん。早くからだをきれいにして、シロ様に会いたかったから! 拭いてる時間がもったいなくて……」
「そ、それは嬉しいですが……、っ!?! しかもクロ、そそ、その白衣の下、素肌……、っ!!!?」
「うん! ぼくのばい菌で、シロ様が具合を悪くしちゃわないように! 『穢れ』を祓う白衣だけにしてみました! どやぁ、だよ!」
ぼくは自慢げに、立ちあがってくるっとその場を回ってみせる。
「~~っ!!!?!!?」
シロ様は、口をぱくぱくさせて、震えだしてしまった。その後、急にスっと下を向いたかと思うと……。
「シロ様?」
「……すみません、クロ。ちょっといいですか」
つぅっと涙を流し、ぼくに向かって、『合掌』した。
「シシシ、シロ様!!? どうしたの!?」
「ありがたすぎて……」
「ありがたい?!?」
「いえ、こちらの話です……」
……? よくわからないけれど、シロ様、悲しかったのかな。からだが苦しいのに、ひとりぼっちでいなきゃいけないなんて、きっと、……つらくって、さびしい。
「シロ様……」
お布団でからだを起こしていたシロ様に跪いて、そのすべすべの頬を、優しくなでる。
「もう、『孤独』、じゃないよ」
「――……」
シロ様は、せきを切ったように、ぎゅっとぼくを抱きしめた。そして少しすると、からだを離してぼくの目を見つめる。
その顔はすごく切なそうで、でも、どこまでもあたたかかった。
「……クロ。そうまでして、私の傍にいてくれようとした気持ち、とてもとても嬉しかった。でもね、どうか躰をきちんと乾かして、着物を整えてきてください。このままではあなたが、風邪を引いてしまう」
「でも、その間、シロ様がひとりぼっちになっちゃう」
「大丈夫。私はその隙に、畳にでも頭を打ちつけて、心頭滅却していますから……」
「シロ様、落ち着いて! それは『控えめに言って奇行』だよ?!」
ぼくは、シロ様が頭を打ちつけはじめる前に、あわてて立ちあがる。
「えと、すぐ着替えてくるから! いい子で寝ててね、シロ様!!」
「クロ!」
「?」
「……ありがとう」
シロ様がへにゃっと、柔らかく笑った。
「……うん! これからはもっともっと、ずっと一緒だよ、シロ様!!」
ぼくはシロ様の胸に飛び込み、頬ずりしたい気持ちを抑えて、駆けだした。
✿✿✿✿✿
【おまけ】
後日、執務室には。
全快を果たし、わなわなと震えながら以下のように力説するシロと。
「濡れそぼった躰に白衣だけとか!! 据え膳かと思ったわ!! 迸らせるのを涙だけにとどめた私は偉すぎるよな、クレナイ~!?!」
「はいはい、エラいな。ほんとエラいから仕事しろ」
相変わらず淡々と書類をこなす、クレナイがいたそうな。
【終】
雪がちらちらと降る庭園が見える縁側でずっと膝を抱えていると、寒さに強いぼくでも、手足が凍えてくる。
はぁー、と真っ赤になった指先を息であたためて、からだをきゅうっ、と丸めた。
眉をはの字にして、ここからは少し離れたところにあるシロ様のお部屋を見つめる。
いつもは、ずっとふたりでいられるお部屋。でも、今日は『だめ』なんだ。
今晩は、『満月』だから。
✿✿✿✿✿
シロ様は王子様だからか、もののけのちから――妖力――がすごく強い。
妖力って、お月様の力にものすごく影響を受けやすい。
普通なら、満月だととっても体調がよくなるのだけれど、シロ様の妖力は、あまりに『強すぎ』て。
満月の日は、他のもののけの妖力や『穢れ』を敏感に感じとりすぎてしまって、よく熱を出してしまう。
今、寝込んでしまっているシロ様のお部屋には、お医者様と、特別に認められたひとしか入れない。
あと、ぼくにはもうひとつ、入っちゃ『だめ』な『理由』があるんだ。
『よそもの』のぼくは、「けがらわしい」んだって。鬼の国の偉いひとたちが言っていた。……だから、「だめ」。
でも、クレナイ様だけは、「むしろあの犬っころを部屋へぶち込んだほうが、シロは元気になるんじゃないか? ああでも、いろいろトんでるだろうから、犬っころのが危険かな……」って言ってくれていたって、コガネ様が教えてくれた。なにが危険なのかぼくにはよく理解できないけれど、やっぱりクレナイ様はきっと、優しいひと、なんだと思う。シロ様が恋をするのもわかってしまう。
あっ、えと、コガネ様っていうのは――……。
✿✿✿✿✿
「じゃあ、お大事になさいよ~」
噂をすれば、独特な甘やかさのある渋い声とともに、大きくてたくましいからだのオスの鬼が、シロ様のお部屋から出てきた。
「コガネ様!」
このひとが、コガネ様。鬼の国一番のお医者様で、いつもたくさんの鬼たちを、けがや病気から助けている。
金色の髪をおかっぱに切りそろえていて、口には真っ赤な紅。つややかな紫のドレスの上に白衣を着こなす、とってもおしゃれなお兄さんだ。
「あら、クロちゃん! あったかいお部屋にいなさいって言ったでしょぉ、もう~。こんなに冷たくなって~……」
手に持っていたお医者様の道具がいっぱいつまった革のかばんを、さっと横へ置いて、ぼくの両手を、そのとても大きな手でがしがしとさすってくれる。お仕事柄、お水をいっぱい使うからだろう、その手のひらはすごくがさがさしていたけれど、心までぽかぽかするくらい、あたたかかった。
「ありがと、です。……ちょっとでも、シロ様の近くがよくて。あの、シロ様のお加減、どうですか?」
「そうねぇ、やっぱり少し熱はあるけど、今回は大分楽だって仰ってたわ」
「よかった……、いや、えと、シロ様がほんの少しでも苦しいのは全然よくない、ですけれど!」
「――本当に、シロ様は幸せ者ね」
「え、そんな……」
「あーあ、アタシもこんな風に心配してもらいたーい! セクボのイケメンだったら尚よし♡♡」
たくましいからだをぎゅうう、とその腕で包みこみ、くねくねするコガネ様。
オスの鬼もメスの鬼もみんな、コガネ様のいないところで、そんなコガネ様のことを「みっともない」って『わらう』。ぼくはそれが耳に飛びこんでくると、いつもしゅん、としてしまうんだ。だってぼくは、コガネ様はだれよりも――……。
✿✿✿✿✿
そのまま5分くらい『アタシの理想のイケメン論』っていうのを『熱弁』してくれていただろうか、コガネ様は、はたと我に返る。
「あらやだ、アタシったらまたやっちゃったわ。ごめんねぇ、クロちゃん。こーんなムキムキしたおっさんの癖トークなんて、気持ち悪いだけよねぇ……」
「そんな……!!」
ぼくは、とっさに反論していた。
「むきむきとか、関係ない、です! コガネ様はいつもとってもきれいでおしゃれにしてるし、優しくて、『たおやか』で……だれよりも『おとめ』です!!」
「……!」
コガネ様は目を見開く。ぼくは、ドレスと同じ色の、そのきれいな紫の瞳を、強く強く見つめかえす。だって本当に思うんだ。コガネ様はだれよりも素敵な『おとめ』だって。
「あーん、なんてカワイイの! 食べちゃいたい♡!!」
「そっ、それは困るですっ」
ぼくをがしっと掴んで、頭をなでまわすコガネ様。やっぱり力はとっても強くて、ちょっと苦しい。
「そんなカワイイ子に、アタシからのプレゼント。はい、どうぞ♡♡」
「……?? これはなに、ですか?」
コガネ様は、すぐ横にあった革のかばんの中から、白いお洋服のようなものを取り出して、ふふん、と得意げにぼくへ渡してくれた。
「白衣よ、アタシたち医療担当の鬼が着てるのと同じ。『穢れ』を祓う術がかけてあるの。ちゃんとクロちゃんに合うサイズだし、尻尾の穴も開けてあるのよ♪お風呂でも入ってこれを着れば、上のオヤジどもも文句なんて完全に言えなくなるでしょ! 全く、クロちゃんの何がけがらわしいのかしら。あいつらこそ、あの真っ黒なお腹を綺麗に洗って、出直してほしいわ!!」
「あ、あはは……?」
ぼくは手渡された、優しい香りのする白衣をぎゅっと握って、つぶやくように訊く。
「本当に本当に、ありがとうです、コガネ様。でも……どうしてこんなに、ぼくに優しくしてくれる、ですか? ぼくは、『じゃまもの』、なのに……」
おずおずしながら尋ねると、コガネ様は、ふふっ、と勝気に笑って、大きなからだをぼくの耳によせ、ささやいた。
「『オトメ』ってね、恋する子の気持ちがなによりも大事な生きものなのよ♡」
「……え」
ぼくは目がまん丸になる。どうしてわかってしまったんだろう、ぼくのシロ様への気持ち。
「ち、違う、です、そういうのじゃなくて、ぼくは、あの」
「アタシは応援してるわよ? 誰かを大切にしたいと思った気持ちはそれごと、大切にしてあげてね♪」
後ろ手に手をひらひらさせて、去ってゆくコガネ様。
ぼくは心がくすぐったくなるくらいうれしくて。コガネ様が見えなくなるまで、深く深く、お辞儀をした。
✿✿✿✿✿
シロ様に病気をうつさないよう、お風呂でからだを隅々まで、きれいに洗う。
ぷるぷると全身の水をほろって、からだを拭くのもそこそこに、新しい着物へ袖を通そうとしたとき。
「……あれ、もしかして……?」
ぼくはその名案に、目を輝かせた。
✿✿✿✿✿
「――ん……」
「ご、ごめんね。シロ様。そっとしたつもりだったんだけれど……」
シロ様のおでこに載せた濡れ手ぬぐいを替えていたら、シロ様が目を覚ましてしまった。
「……クロ……? 別室に、いるはずなのに……これは、夢……?」
シロ様は、まだちょっとぼんやりしているのか、目がとろんとうるんでいて、かわいい。
「本当に、本当のぼくだよ! えと、コガネ様が白衣を作ってくれたの! シロ様が、『穢れ』ない術もかけてくれて……!!」
「『穢れ』、なんて、あなたには……。……ああ、嬉しい。確かにこれは、クロのぬくもり。あとで、コガネにお礼を……」
ぼくの手を握ったシロ様は、ようやく意識がはっきりしてきたみたいで、ぼくをそのお月様色の瞳に、はっきり認める。
「……って、クロ!? びしょ濡れじゃないですか!?」
心底驚いた様子で、お布団から飛び起きたシロ様に、ぼくは、そういえばそうだったなぁ、と、自分のからだを見返しながら答えた。
「あっ、うん。早くからだをきれいにして、シロ様に会いたかったから! 拭いてる時間がもったいなくて……」
「そ、それは嬉しいですが……、っ!?! しかもクロ、そそ、その白衣の下、素肌……、っ!!!?」
「うん! ぼくのばい菌で、シロ様が具合を悪くしちゃわないように! 『穢れ』を祓う白衣だけにしてみました! どやぁ、だよ!」
ぼくは自慢げに、立ちあがってくるっとその場を回ってみせる。
「~~っ!!!?!!?」
シロ様は、口をぱくぱくさせて、震えだしてしまった。その後、急にスっと下を向いたかと思うと……。
「シロ様?」
「……すみません、クロ。ちょっといいですか」
つぅっと涙を流し、ぼくに向かって、『合掌』した。
「シシシ、シロ様!!? どうしたの!?」
「ありがたすぎて……」
「ありがたい?!?」
「いえ、こちらの話です……」
……? よくわからないけれど、シロ様、悲しかったのかな。からだが苦しいのに、ひとりぼっちでいなきゃいけないなんて、きっと、……つらくって、さびしい。
「シロ様……」
お布団でからだを起こしていたシロ様に跪いて、そのすべすべの頬を、優しくなでる。
「もう、『孤独』、じゃないよ」
「――……」
シロ様は、せきを切ったように、ぎゅっとぼくを抱きしめた。そして少しすると、からだを離してぼくの目を見つめる。
その顔はすごく切なそうで、でも、どこまでもあたたかかった。
「……クロ。そうまでして、私の傍にいてくれようとした気持ち、とてもとても嬉しかった。でもね、どうか躰をきちんと乾かして、着物を整えてきてください。このままではあなたが、風邪を引いてしまう」
「でも、その間、シロ様がひとりぼっちになっちゃう」
「大丈夫。私はその隙に、畳にでも頭を打ちつけて、心頭滅却していますから……」
「シロ様、落ち着いて! それは『控えめに言って奇行』だよ?!」
ぼくは、シロ様が頭を打ちつけはじめる前に、あわてて立ちあがる。
「えと、すぐ着替えてくるから! いい子で寝ててね、シロ様!!」
「クロ!」
「?」
「……ありがとう」
シロ様がへにゃっと、柔らかく笑った。
「……うん! これからはもっともっと、ずっと一緒だよ、シロ様!!」
ぼくはシロ様の胸に飛び込み、頬ずりしたい気持ちを抑えて、駆けだした。
✿✿✿✿✿
【おまけ】
後日、執務室には。
全快を果たし、わなわなと震えながら以下のように力説するシロと。
「濡れそぼった躰に白衣だけとか!! 据え膳かと思ったわ!! 迸らせるのを涙だけにとどめた私は偉すぎるよな、クレナイ~!?!」
「はいはい、エラいな。ほんとエラいから仕事しろ」
相変わらず淡々と書類をこなす、クレナイがいたそうな。
【終】
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる