私が作るお守りは偽物らしいです。なので、他の国に行きます。お守りの効力はなくなりますが、大丈夫ですよね

猿喰 森繁

文字の大きさ
22 / 42

22

しおりを挟む
「いやぁ。この国は儲かるな」
「田舎だと思っておりましたが、来て正解でしたわね」

他の国だと、こうはいくまい。
自身が、信仰している神のもの以外、売り物にするのは、厳しく取り締まられている。
おまけに審査が、義務づけられているので、下手なものは売れない上に値段も国内のものを買う人間しかいなかった。
しかし、世界を旅してきたが、ここほど信仰心がない国は、はじめて訪れた。
商売のしやすいことしやすいこと。
世界神の名前も知らない彼らに、うわべだけのご加護がついた守りを売り付けるのは、いとも容易かった。
噂に聞くお守り屋も、こちらの妨害工作に簡単にはまってくれたおかげで、向こうが「本物」にも関わらず、偽物判定を食らったときは、愉快でたまらなかった。
裁判の時のあの顔は、見ものだった。
異教徒と叫ばれ、石を投げつけられる日々。
それが、どうだ。
神に守られず、自身に石を投げつけられるだけだったのが、今度は、自分が石を投げつけてやった。
今、あの女がどうしているかわからないが、顔も出せないに決まっている。

「ごほ、ごほっ」
「お父様、大丈夫ですか?」
「ああ。少し疲れているだけだ。心配ないよ。医者も喉がはれているだけと、ごほ、言っていたしな」
「ですが、ずっと咳が止まらないじゃありませんか」
「なに、ごほ、ごほっ!大丈夫だ。少し休めば、すぐに回復するさ。それより、お前、恋人ができたといっていたが」
「はい。とてもいい人です。実は、あのお守りやの恋人なんです」
「なに、大丈夫なのか。そいつは」
「はい。あの人もとっくに別れたといっておりました。私のお守りを信じると言ってくれたのです」
「そうか。いい気味だな・・・ごほ、ごほごほごっ!」
「お父様っ!」
「すまんな。少し寝る。お前にうつすのも怖いから、部屋は、開けないように」
「わかりましたわ。お大事に」
「おやすみ」
「お休みなさい。お父様」

娘は、とても心配そうな顔をしていた。それににっこりと笑い返す。
なにも心配はいらないというように。
なにも起こっていないというように。
扉を閉め、薬を飲む。

「ごほっ!ごほっ!ごほごほごほごっ!!!あの、やぶ医者め!なにが、ただの風邪だ!こんなに苦しいというのに!」

少し前から、咳が止まらない。
熱もずっと上がったり、下がったりしている。
熱冷ましをずっと飲んでいるが、一時的に熱が、下がってもまたぶり返してしまう。頭もずっと痛むし、疲れがとれない。

「この国に名医はいないのか!これだから、田舎は・・・」

この国を離れてもいいが、今が売れどき。
この国の民は、とても羽振りがいい。平民も貴族も皆が、お守りを買っていく。
そんなことは、他の国ではありえない。

「金だ・・・こんなに儲かる国は、他にないんだ・・・風邪がなんだ。そんなものは、すぐに治るさ・・・」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花
恋愛
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」 「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」 「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」 「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」  あなたの護衛を見つめていました。だって好きなのだもの。見つめるくらいは許して欲しい。恋人になりたいなんて身分違いのことを考えないから、それだけはどうか。 「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」  うっとりと呟く私に、ライナルト様はぎょっとしたような表情を浮かべて――それから、 「――俺のことが怖くないのか?」  と話し掛けられちゃった! これはライナルト様とお話しするチャンスなのでは?  よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...