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「あれが噂の…」
「いい気味ね。平民が、私たちと同じ学校に通うということ自体、不快だったのよ」
「… … …」

翌日、噂が広がったのか。
私の家は、すっかり落ちぶれて借金を抱えているという話になっていた。みんな、私がいつ学校を辞めることになるのか、うきうきと待っているらしい。

貴族は、狭いコミュニティを形成している。
おまけに能力主義を持っているせいで、差別意識が高い。
努力できないのも、貧しいのも、すべてその人が悪いなんてことを平気で言う人たちだ。
自分たちが、いかに恵まれているか、考えたことがないらしい。

「おや。まだ在籍していたのか」
「… … …」

その筆頭が、この男。
ルドルフ・アルセウムである。名門貴族の筆頭、アルセウム伯爵家の子息。一人息子のため、甘やかされて育ったその傲慢さが、鼻について仕方ない。
出会いは、入学式。隣の人間であるというだけの関係性の私に対して、ぺらぺらと自分の自慢話を始めたかと思えば、何の因果かクラスは違えど、合同授業は一緒というだけの男である。
この男、私が平民と知るやいなや、すぐさま平民のくせして、こんな学校に通うなんておこがましいと思わないか、と言ってきたのである。もうこの発言だけで、この男とは、縁を切ることを決めている。

「平民は、大変だな。せっせと働かなくては、生活することもできないなど」
「そうですね」
「その点、僕の家は、働かなくともお金が入ってくるんだ。まぁ、平民の君には、分からない話かもしれないが。働かないとお金をもらえないという固定概念が、平民には根強いらしいからね。君もそうだろう」
「そうですね」
「そういえば、婚約破棄をされたらしいな。あの男は、君を捨ててレイン家のご令嬢と一緒になったと聞く。君と苦楽を共にするつもりは、なかったようだな」
「そうですね」

貴族のすばらしさについて、彼は語るが、そもそも私たちの婚約は、私の家のお金が目的の政略的なものだ。私の家にお金がなくなったということは、婚約をする理由もない。だから、早々に切り捨てられるというのは、分かり切ったことである。
…それにしても、私の父親が事業に失敗した話や婚約破棄の話を、彼は自分の親に確認したのだろうか。
まさか、自分の判断だけで、噂を信じて、婚約破棄をしたとか、そんなことはないよね…。
そこまで、馬鹿じゃ…ないはず。

「そこでだ。僕なら、そういう心配はいらない」
「そうですね」
「僕なら、君の抱えることになる借金など、大した痛手にならない」
「そうですね」
「だから…」
「ルドルフ様!」

その黄色いに声に思わず顔をゆがめる。

「うぇ」
「… … …」

婚約者と浮気女が、私たちの後ろから歩いてきた。
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