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「ここは… …」

私が、どうしても来たかった場所。
決して、入ることを許されなかった部屋。
我が家の神様がおまつりされている部屋に、私は来ていた。

「うわっ」
「… … …」

部屋に入って早々、驚いた。
この部屋、掃除がまったくされていないのである。
積もりに積もった埃が周囲を飛び、その空気の悪さに私は、思わず咳き込んだ。
床もほこりで、黒くなっている。
家族の誰も、掃除がされていないことに気づいた様子はなかった。
ということは、この部屋に誰も近づいていないということだ。
いつから、この部屋は、掃除がされていなかったのだろうか。ポッドがお供え物がされなくなったと聞いた時くらいだったとしたら、遥かに長い間、掃除がされていないことになる。
それに本来ならば、神域でもあるこの部屋は、神様をおまつりしてある小さな社とお供え物以外は置かないことになっているはずなのに、この部屋は、まるで物置のような扱いで、様々なものが雑多に置いてある。
物置部屋と言われてもおかしくはない。
こんな風にしていたら、罰が当たってしまうのでは…、と考えた。

「なんか、変なこと考えてる?」

私は、顔を横に振る。

「別に。ただ、罰が当たらないかなって、すこし不安に思って」
「当たればいいさ」
「そんな… …」
「エミリアは、そう思わないの?今まで、ずっとエミリアのことを虐めてきた奴が、誰かに虐められればいいって」
「… 分からない」

難しい質問だ。
彼らは、私にとっては、絶対の存在である。
父が、母が、妹が、誰かに虐められる?
そんな姿、想像できない。
ましてや、それを私は望んでいるかどうかなんて。

「ごめん」

答えに困っている私を見て、今度はポッドが困ってしまった。

「私もごめんなさい」
「僕のほうこそ…、」

変な空気になってしまった。
私は、どう答えたら正解だったのだろう。

「それより、なにか伝えたいことがあるんだよね」
「うん」
「じゃあ、それを先にしよう」

私は、社の前で一礼をする。

「本当は、掃除をしてあげたいのですが」
「そんな時間は、さすがにないよ… …(それにどうせ何もしてくれないし)」
「分かってる。だから、お礼だけ」

私は、膝をつき、手を合わせた。

「服が汚れるよ」
「さすがに神様の前で、立てないよ。それにこれが、一般的なお祈りの作法なのよ」
「どうせ、誰も見てないよ」
「少なくとも私とポッドは、見てるじゃない。だったら、礼儀はつくさないと」
「まぁ、いいけどさぁ…」

私は、どうしても最後にお礼を言いたかった。
神様、生まれてきてしまって、申し訳ございません。
でも、ポッドに会わせてくれて、本当に感謝しております。
ありがとうございます。
私は、きっと望まれない子どもだったのでしょう。
それは、今でも変わらないのかもしれません。
それでも、私は、ポッドと一緒にいたいと、思ってしまいました。
どうか、お許しください。
最後に、私は、この家を出ます。
どうか、家族に… …。

幸せが訪れますように、とお祈りしようとして、なんだか悲しくなってしまった。

「エミリア!?どうしたんだ…どこか、痛むのか?やっぱり長時間眠っていたから、その影響で体がおかしいか?」
「え?」

何をポッドは慌てているのだろう。
と、思い、私は頬を流れていく雫に、初めて泣いていることに気づいた。

「あぁ… …なんでもないの。ただ…」
「ただ?」


「ここの人たちは、きっと私がいなくなることが、最大の幸福なんだろうなって思っただけ」
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