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17話 契約
しおりを挟む「どうなってるのこれは!?」
ルヴァイスの相手を選ぶ舞踏会の会場で、デイジアが悔しそうに叫んだ。
誰もが竜王の妃に選ばれるのはデイジアだと思っていたのに、ルヴァイスが舞踏会会場にエスコートをして現れたのはソフィアだったのだ。
「竜王陛下!どうしてその子なのでしょう?」
ダンスホールにソフィアの手を引いて現れたルヴァイスに、グラシアが詰め寄った。
会場にいるほかのリザイア家の血筋の聖女候補たちにデイジアの偉業を見せつけるはずが、これでは単なる道化ではないか。
竜王ルヴァイスが自らを選ぶようにと、デイジアを選ぶと故意に噂を広めてしまったため、この状況はみじめ以外のなにものでもない。
「竜王陛下。その子は確かにリザイア家の一員ではありますが、【聖気】をもっていません!
力がないことに嫉妬して姉を焼き殺そうとするような子なのですよ!!」
グラシアがそう言って、ソフィアを指さした。
ソフィアはびくっと身を震わせたあと、すがるようにルヴァイスに視線をおくると、ルヴァイスはソフィアを安心させるかのように自らに引き寄せる。
そして冷たい視線をグラシアに投げかけた。
「姉を焼き殺す?はて面白い事を言う。
ソフィアを焼き殺そうとしたのはお前たちだろう?」
ルヴァイスの言葉に、会場がざわついた。
「【セスナの炎】でソフィアを焼き、デイジアに【聖気】を譲渡したのであろう?
わが子を火で焼き殺しかけておいて、その罪さえも子どものせいにするとは人間とは恐ろしいものだな」
「なっ!?」
ルヴァイスの言葉に一気に会場がざわついた。
【セスナの炎】は闇魔法の禁呪。
聖属性のリザイア家が使うなどありえない邪術なのだ。
そのような事を使ったと知れ渡れば、デイジアの威厳は一気に失墜するだろう。
「な、何のことをおっしゃっているのか」
「ばれていないと思っているのならおめでたい事だ。
【セスナの炎】で奪った力は必ず痕跡が残る。
そのデイジアという聖女の【聖気】からは魔の力が感じられる。
魔術に詳しいものなら一目でわかる。
周りも気を使って気づかないふりをしているようだが」
そう言ってルヴァイスが高位の神官達に目をむけると、神官達はさっと目を逸らした。
みな薄々気づいてはいたが、リザイア家は現在グラシアに逆らえる者はいない。
誰一人、デイジアの身体に呪われた力が宿っていると忠告できる状態ではないのだ。
「そのような呪われた力で手に入れた【聖気】を私がほしがるとでも?」
ルヴァイスがにやりと笑って言うと、グラシアがぐっと唇をかみしめた。
「いくら竜王陛下とはいえ、それ以上のいわれのない屈辱許しませんっ……」
「それはこちらのセリフだ。禁呪で呪われた乙女を、竜王国に迎え入れろとでも?
女神アルテナに仕える我らにとって禁呪がどういった意味をもつか知らぬわけがあるまい?
我が国に来るのは構わぬが竜王国に入ったが最後竜神官達に裁かれることになるだろう。
それでもいいのか」
「そ、それは」
ルヴァイスが威圧をはなっていうと、放つ殺気にグラシアはたじろいだ。
確かにルヴァイスのいう通りだ。
グラシアにとってソフィアから奪うことが当たり前のことすぎて、忘れていたが本来なら禁呪。
そのような禁呪を使ったとばれた場合リザイア家を邪魔だと思っている竜神官達にこれ幸いと罰せられる可能性もある。
「お母様!?」
唇をかみしめて反論しないグラシアにデイジアがかけよった。
「さて、約束は果たしてもらおう。行こうか、ソフィア」
ルヴァイスはソフィアを抱き上げた。
「あ、あー!!」
ソフィアが顔を真っ赤にしてあわてて落ちないようにルヴァイスに抱き着く。
「と、とにかくその子であろうと、その子と貴方から生まれた女児はちゃんとこちらに渡していただきますっ!!
そのように誓約したのですから!!」
グラシアがルヴァイスと結んだ誓約書を手に取り叫んだ。
たとえソフィアの子であろうとリザイア家の子だ。
その子にまた子を産ませればリザイア家に竜人の血は手に入る。
その言葉にルヴァイスは意地の悪い笑みをうかべる。
「サインをする前に、内容をよく確認する事だな」
「なっ?」
グラシアが言えば、ルヴァイスは笑って
「確かに、リザイア家の『聖女』と婚姻し、結婚した場合、子を渡すと契約はしたが、ソフィアは聖気を持たず聖女たる資格は有していない。
聖女ではないはずだ。よって子を渡すいわれもない」
と、にやりと笑った。
確かに聖女の絶対条件はその体内に【聖気】を宿すこと。
リザイア家の血を引いているとはいえ【聖気】がない状態のソフィアは聖女ではない。
「なっ!? だ、だったらソフィアとの婚姻も無効っ!!」
「嫁によこすように契約したのはリザイア家の血筋の女子。
子を渡すと約束したのは聖女。何も嘘はついておるまい?
こちらは何も違反してはいない。誓約通りだ」
ルヴァイスが勝ち誇った笑みを浮かべれば、グラシアは悔しそうに唇をかむ。
「さぁ、行こうか。ソフィア」
ルヴァイスがほほ笑むとソフィアを抱いたままをすると颯爽と歩きだした。
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