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第24話
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今日も今日とてアーノルドの特訓は続く。
毎回弱音を吐いても翌日きっちり特訓に参加する姿に、ミリアは以前にルッツが言っていた『大化けする』という言葉を信じ始めていた。
本当にこれからどうなっていくのか…ミリアは兄の成長が楽しみになりつつあった。
そんなある日、フィーネがカースタ家の屋敷に遊びに来ていた。
今回はデウスも一緒だ。
「本当になさっているのね…」
中庭にて、優雅にお茶を楽しむ3人。
そんな3人の横を、今にも倒れそうなほどに息を切らせたアーノルドと、汗を一筋流す程度にしかなっていないルッツが駆けていく。
「僕も驚いたよ。あのアーノルドさんが本当に続けているなんて」
二人にはアーノルドの特訓については以前に話したことがある。
しかし、アーノルドについて知っている二人は、それが本当だとは目の前にするまで信じていなかった。
「お兄様も本気のようだわ。よほど家を継げないことに危機感を持ったようだもの」
「ふーん…」
ミリアの言葉に、デウスは今一つな返事を返してきた。
「何か?」
「いや……本当にそれだけなのかなって」
「それだけ?」
デウスの言いたいことがいまいちわからない。
が、デウスは笑みを浮かべて「何でもないよ」とごまかした。
「気になりますわ。ちゃんと仰ってくださらない?」
フィーネも知りたいのか、デウスに催促する。
そんな二人にデウスは苦笑した。
「ちょっと言えないかな。本当かどうか分からないし、もしそうだとすれば猶更彼は知られたくないだろうし」
(お兄様が知られたくない理由?)
家を継げないこと。それ以外の理由など思いつかない。
デウスは語るつもりはないようで、話を変えてきた。
「ところで君たちはいつ婚約するの?」
さらっと爆弾を投げられたことにミリアは苦笑する。
なにせ、目の前のデウスとフィーネは先日めでたく婚約した。
ようやくエンジュルグ公爵が折れ、婚約を認めてくれたのだ。
次は君たちの番だと露骨に目が語っている。
「そんな予定は無いわ」
そっけなく返せば、デウスは苦笑、フィーネは呆れたような目を向けてくる。
「あなたもほんと、素直ではないですわね」
「あら、私ほど素直な人間はいないわ」
「あなたが素直なら、この世に『素直』なんて言葉は存在しなくていいわね」
「どういうことよ?」
「だって『素直』な人間以外存在しないもの。素直じゃない方がいらっしゃるから素直って言われるのよ?」
「むぅ…」
妙な理屈をこねられたが、素直ではない自覚もあるためミリアは黙るしかなかった。
「おいおい、俺の想い人をいじめないでくれるか?」
特訓を終えたルッツが席に着く。
わずかに上気した頬がやたらなまめかしく、ついミリアは見とれてしまった。
「いじめてないさ。素直じゃないねって弄ってただけさ」
「ええ、その通りですわ。何とかしてくださる?」
「何を言ってるんだ、そこが可愛いんじゃないか」
「…真昼間から惚気ないでいただけるかしら?」
「はいはい、ご馳走様」
ルッツも弄るつもりのデウスとフィーネだったが、真顔で惚気られては二の句が継げない。
自らの本心を隠さないルッツ相手に、この手の弄りは通用しない。
「そういう二人こそ、想いが通じ合った感想を聞かせてくれないか?」
それどころかルッツからの逆襲に、二人は顔を見合わせてそして揃って顔を赤くさせた。
ルッツやミリアはタイプこそ違えど弄りが通用しないが、この二人は弄るくせに弄られるのは弱い。
「…まぁ、いいじゃないか。僕たちのことは」
「ええ、そうですわ。私たちはもう…」
「子作りですか?」
「ブフゥ!!」
揃って話を変えようとしたデウスとフィーネに、割り込んだルーミアが爆弾を投下してきた。
爆弾の威力はデウスにらしくもない吹き出しを披露させた。
「げほっ!げほっ!な、何を…!」
「…ルーミア、それはさすがにまだ早いわよ」
「申し訳ありません。愛し合う男女がそろえばあとはもう合体かと」
「露骨すぎるわ」
「すみません」
さすがにミリアが咎めれば素直に謝る。
しかしそこに思わぬツッコミが入る。
「合体……って何ですの?」
きょとんとした表情を浮かべてフィーネが呟いた。
フィーネに場の全員の視線が集まる。
「な、なんですの…」
視線を集めてしまったことにフィーネが戸惑う。
「…そうね、普通は知らないのよね」
普通じゃないミリアは当然合体の意味を知っている。
もちろん男勢も。
投下したルーミアもだ。
知らないのは純真培養で育てられた生粋のお嬢様であるフィーネだけ。
「君が知ってるのも驚きだけどね」
「好奇心旺盛でして」
「…そう」
もちろん今世で知ったのではない。前世からの知識だ。
さすがにそれ以上踏み込む気は無いようで、デウスは引き下がった。
普通のお嬢様はその手の知識を教えられることはない。
そういうことは伴侶となった男性側の役割だからだ。
「ところで、合体って…」
「デウス様、後で教えて差し上げて?」
「いや、それはまだ早い…かな」
「むうぅぅ…」
一人だけ知らない扱いのフィーネは不満そうに唇を尖らせる。
この話題を続けるのはまずいとデウスが強引に話を変える。
「ところでアーノルドさんって、好きな人はいるのかな?」
「…お兄様に好きな人?」
デウスの疑問にミリアは首を傾げた。
あの兄に想い人がいる……全く想像がつかず、首を横に振った。
「いないと思うわ。聞いたことないもの。それに仮にいたとしたら、手当たり次第に求婚
なんてしてないわ」
「…まぁそれもそうだね」
「いや、そうでもなさそうだぞ?」
否定したミリアに対し、ルッツがそれをさらに否定するような返答をした。
それにミリアが驚きの表情を浮かべる。
「あのお兄様に?想い人が?いるとでもいうの?」
「そこまで不思議がらなくてもいいと思うぞ?」
「あのお兄様が、よ?一体どんな相手よ?」
「…………」
ミリアが聞き出そうとすれば、ルッツはじっとミリアを見つめた。
見つめられたミリアは最初その意図を把握できず、しかしその意図を察すると顔を青くした。
「ま、まさかお兄様…」
「おい待てミリア。多分それは…」
「わ、私を好きになっていたなんて!」
まさかの相手にミリアは驚愕する。
しかし考えればミリアは、数少ないアーノルドと会話をする女性。
ついでに言えばアーノルドに物おじもしない。
兄妹ではあるが、だからこそ離れられない関係だ。
思いつめた兄が、誰でもいいから…そう考えたとき、一番の標的になりうるのは誰か……そう、ミリアだ。
「いや違うからな?そういう意味で君を見ていたんじゃないからな?」
「ほ、本当に?」
否定するルッツ。
それが事実であってほしいとミリアはルッツを見上げる。
その表情はあの兄ならやりかねないと恐怖すら浮かべている。
「間違いない。いくら彼でも、そこまで分別付かないほど愚かじゃない。それに…」
そんなことはないと否定するルッツは、さらにミリアの耳元に顔を寄せ…
「もしそんなことがあるなら俺が今すぐ君をさらっていくさ」
そのようなことを耳元で囁かれては、ミリアの顔が赤くなるのは当然だった。
青い顔が一転赤に変わったことに、また始まったとデウスとフィーネは呆れた。
***
3人が帰り、自室に戻ったミリアは、さっきの会話を思い出していた。
「…本当にお兄様に想い人なんているのかしら?」
ありえないとミリアは思っていた。
しかしルッツはそれをやんわりと否定している。
だが、思い起こしてもアーノルドが女性に対し、それを匂わせるような行動をとっていたことが思い当たらない。
そもそも、そんな女性がいれば真っ先に求婚しているはずだ。
だが、手当たり次第に求婚している。
本当にそんな女性がいるのだろうか?
「やっぱりミリア様…」
「やめて」
寒気がするとミリアは訴えればルーミアは口を噤んだ。
冗談でも聞きたくないものだ。
しかしここでまさかの候補が浮かぶ。
その目の前にいる候補にミリアの視線が釘付けになる。
「………まさか」
「お嬢様、それ以上先を言えばいくらお嬢様でも容赦いたしません」
ルーミアの顔は心底嫌そうに歪みまくっていた。
この無表情侍女がここまで嫌そうにするところをかつて見たことがあっただろうか?
いや、無い。
「いや、もしかしたら…」
「もしもかかしもございません。もし万が一、いえ億が一でもそのようなことがあれば屋敷を辞させていただきます」
そこまで拒否するか?とも思うが、ルーミアは心底嫌そうだ。
しかしこれはあくまでもルーミアの側の意見だ。
アーノルドの意見ではない。
それに、仮にルーミアが想い人だとすればそこに立ちはだかるのは身分の差。
そう、想い人だとしても身分差から躊躇っていたとすれば?
侯爵家嫡男が、平民から相手を選ぶには相応の覚悟が必要だ。
それに、貴族たるものに恐ろしく厳しいアーノルドが平民から選ぶはずがない。
選べないが……だからといって想いは別だ。
そう、アーノルドは貴族である自分と、それとは別のただの男である自分とで、揺れている…
ゴスッ
「痛ぁ!?」
「お嬢様、それ以上想像の翼を豊かにすることはルーミアが許しません」
頭部への強烈な一撃にミリアは涙目になった。
かなり本気で痛かった。
握りこぶしのままのルーミアは、そんな主を見下していた。
「何も言ってな…」
「言わずとも目が語っております。お嬢様、たとえ思考は自由であろうとも、その思考は許しません」
その握りこぶしを高く掲げ、それ以上続けるなら…と目で語るルーミアに、ミリアはブンブンと首を横に振る。
これ以上想像するのは危険と本能が訴えていた。
(今度は痛いじゃすまされなさそうだわ…)
殴られた部分をさすれば、たんこぶにはなっていない。
だが、もし次があれば確実に作られてしまう。
「でも、じゃあ一体誰なのかしら……」
疑問は疑問のまま。
誰がアーノルドの想い人なのだろうか。
その人物を当人に紹介した本人が気づかないことに、ルーミアは肝心なところで察しの悪い主人を哀れんだ。
毎回弱音を吐いても翌日きっちり特訓に参加する姿に、ミリアは以前にルッツが言っていた『大化けする』という言葉を信じ始めていた。
本当にこれからどうなっていくのか…ミリアは兄の成長が楽しみになりつつあった。
そんなある日、フィーネがカースタ家の屋敷に遊びに来ていた。
今回はデウスも一緒だ。
「本当になさっているのね…」
中庭にて、優雅にお茶を楽しむ3人。
そんな3人の横を、今にも倒れそうなほどに息を切らせたアーノルドと、汗を一筋流す程度にしかなっていないルッツが駆けていく。
「僕も驚いたよ。あのアーノルドさんが本当に続けているなんて」
二人にはアーノルドの特訓については以前に話したことがある。
しかし、アーノルドについて知っている二人は、それが本当だとは目の前にするまで信じていなかった。
「お兄様も本気のようだわ。よほど家を継げないことに危機感を持ったようだもの」
「ふーん…」
ミリアの言葉に、デウスは今一つな返事を返してきた。
「何か?」
「いや……本当にそれだけなのかなって」
「それだけ?」
デウスの言いたいことがいまいちわからない。
が、デウスは笑みを浮かべて「何でもないよ」とごまかした。
「気になりますわ。ちゃんと仰ってくださらない?」
フィーネも知りたいのか、デウスに催促する。
そんな二人にデウスは苦笑した。
「ちょっと言えないかな。本当かどうか分からないし、もしそうだとすれば猶更彼は知られたくないだろうし」
(お兄様が知られたくない理由?)
家を継げないこと。それ以外の理由など思いつかない。
デウスは語るつもりはないようで、話を変えてきた。
「ところで君たちはいつ婚約するの?」
さらっと爆弾を投げられたことにミリアは苦笑する。
なにせ、目の前のデウスとフィーネは先日めでたく婚約した。
ようやくエンジュルグ公爵が折れ、婚約を認めてくれたのだ。
次は君たちの番だと露骨に目が語っている。
「そんな予定は無いわ」
そっけなく返せば、デウスは苦笑、フィーネは呆れたような目を向けてくる。
「あなたもほんと、素直ではないですわね」
「あら、私ほど素直な人間はいないわ」
「あなたが素直なら、この世に『素直』なんて言葉は存在しなくていいわね」
「どういうことよ?」
「だって『素直』な人間以外存在しないもの。素直じゃない方がいらっしゃるから素直って言われるのよ?」
「むぅ…」
妙な理屈をこねられたが、素直ではない自覚もあるためミリアは黙るしかなかった。
「おいおい、俺の想い人をいじめないでくれるか?」
特訓を終えたルッツが席に着く。
わずかに上気した頬がやたらなまめかしく、ついミリアは見とれてしまった。
「いじめてないさ。素直じゃないねって弄ってただけさ」
「ええ、その通りですわ。何とかしてくださる?」
「何を言ってるんだ、そこが可愛いんじゃないか」
「…真昼間から惚気ないでいただけるかしら?」
「はいはい、ご馳走様」
ルッツも弄るつもりのデウスとフィーネだったが、真顔で惚気られては二の句が継げない。
自らの本心を隠さないルッツ相手に、この手の弄りは通用しない。
「そういう二人こそ、想いが通じ合った感想を聞かせてくれないか?」
それどころかルッツからの逆襲に、二人は顔を見合わせてそして揃って顔を赤くさせた。
ルッツやミリアはタイプこそ違えど弄りが通用しないが、この二人は弄るくせに弄られるのは弱い。
「…まぁ、いいじゃないか。僕たちのことは」
「ええ、そうですわ。私たちはもう…」
「子作りですか?」
「ブフゥ!!」
揃って話を変えようとしたデウスとフィーネに、割り込んだルーミアが爆弾を投下してきた。
爆弾の威力はデウスにらしくもない吹き出しを披露させた。
「げほっ!げほっ!な、何を…!」
「…ルーミア、それはさすがにまだ早いわよ」
「申し訳ありません。愛し合う男女がそろえばあとはもう合体かと」
「露骨すぎるわ」
「すみません」
さすがにミリアが咎めれば素直に謝る。
しかしそこに思わぬツッコミが入る。
「合体……って何ですの?」
きょとんとした表情を浮かべてフィーネが呟いた。
フィーネに場の全員の視線が集まる。
「な、なんですの…」
視線を集めてしまったことにフィーネが戸惑う。
「…そうね、普通は知らないのよね」
普通じゃないミリアは当然合体の意味を知っている。
もちろん男勢も。
投下したルーミアもだ。
知らないのは純真培養で育てられた生粋のお嬢様であるフィーネだけ。
「君が知ってるのも驚きだけどね」
「好奇心旺盛でして」
「…そう」
もちろん今世で知ったのではない。前世からの知識だ。
さすがにそれ以上踏み込む気は無いようで、デウスは引き下がった。
普通のお嬢様はその手の知識を教えられることはない。
そういうことは伴侶となった男性側の役割だからだ。
「ところで、合体って…」
「デウス様、後で教えて差し上げて?」
「いや、それはまだ早い…かな」
「むうぅぅ…」
一人だけ知らない扱いのフィーネは不満そうに唇を尖らせる。
この話題を続けるのはまずいとデウスが強引に話を変える。
「ところでアーノルドさんって、好きな人はいるのかな?」
「…お兄様に好きな人?」
デウスの疑問にミリアは首を傾げた。
あの兄に想い人がいる……全く想像がつかず、首を横に振った。
「いないと思うわ。聞いたことないもの。それに仮にいたとしたら、手当たり次第に求婚
なんてしてないわ」
「…まぁそれもそうだね」
「いや、そうでもなさそうだぞ?」
否定したミリアに対し、ルッツがそれをさらに否定するような返答をした。
それにミリアが驚きの表情を浮かべる。
「あのお兄様に?想い人が?いるとでもいうの?」
「そこまで不思議がらなくてもいいと思うぞ?」
「あのお兄様が、よ?一体どんな相手よ?」
「…………」
ミリアが聞き出そうとすれば、ルッツはじっとミリアを見つめた。
見つめられたミリアは最初その意図を把握できず、しかしその意図を察すると顔を青くした。
「ま、まさかお兄様…」
「おい待てミリア。多分それは…」
「わ、私を好きになっていたなんて!」
まさかの相手にミリアは驚愕する。
しかし考えればミリアは、数少ないアーノルドと会話をする女性。
ついでに言えばアーノルドに物おじもしない。
兄妹ではあるが、だからこそ離れられない関係だ。
思いつめた兄が、誰でもいいから…そう考えたとき、一番の標的になりうるのは誰か……そう、ミリアだ。
「いや違うからな?そういう意味で君を見ていたんじゃないからな?」
「ほ、本当に?」
否定するルッツ。
それが事実であってほしいとミリアはルッツを見上げる。
その表情はあの兄ならやりかねないと恐怖すら浮かべている。
「間違いない。いくら彼でも、そこまで分別付かないほど愚かじゃない。それに…」
そんなことはないと否定するルッツは、さらにミリアの耳元に顔を寄せ…
「もしそんなことがあるなら俺が今すぐ君をさらっていくさ」
そのようなことを耳元で囁かれては、ミリアの顔が赤くなるのは当然だった。
青い顔が一転赤に変わったことに、また始まったとデウスとフィーネは呆れた。
***
3人が帰り、自室に戻ったミリアは、さっきの会話を思い出していた。
「…本当にお兄様に想い人なんているのかしら?」
ありえないとミリアは思っていた。
しかしルッツはそれをやんわりと否定している。
だが、思い起こしてもアーノルドが女性に対し、それを匂わせるような行動をとっていたことが思い当たらない。
そもそも、そんな女性がいれば真っ先に求婚しているはずだ。
だが、手当たり次第に求婚している。
本当にそんな女性がいるのだろうか?
「やっぱりミリア様…」
「やめて」
寒気がするとミリアは訴えればルーミアは口を噤んだ。
冗談でも聞きたくないものだ。
しかしここでまさかの候補が浮かぶ。
その目の前にいる候補にミリアの視線が釘付けになる。
「………まさか」
「お嬢様、それ以上先を言えばいくらお嬢様でも容赦いたしません」
ルーミアの顔は心底嫌そうに歪みまくっていた。
この無表情侍女がここまで嫌そうにするところをかつて見たことがあっただろうか?
いや、無い。
「いや、もしかしたら…」
「もしもかかしもございません。もし万が一、いえ億が一でもそのようなことがあれば屋敷を辞させていただきます」
そこまで拒否するか?とも思うが、ルーミアは心底嫌そうだ。
しかしこれはあくまでもルーミアの側の意見だ。
アーノルドの意見ではない。
それに、仮にルーミアが想い人だとすればそこに立ちはだかるのは身分の差。
そう、想い人だとしても身分差から躊躇っていたとすれば?
侯爵家嫡男が、平民から相手を選ぶには相応の覚悟が必要だ。
それに、貴族たるものに恐ろしく厳しいアーノルドが平民から選ぶはずがない。
選べないが……だからといって想いは別だ。
そう、アーノルドは貴族である自分と、それとは別のただの男である自分とで、揺れている…
ゴスッ
「痛ぁ!?」
「お嬢様、それ以上想像の翼を豊かにすることはルーミアが許しません」
頭部への強烈な一撃にミリアは涙目になった。
かなり本気で痛かった。
握りこぶしのままのルーミアは、そんな主を見下していた。
「何も言ってな…」
「言わずとも目が語っております。お嬢様、たとえ思考は自由であろうとも、その思考は許しません」
その握りこぶしを高く掲げ、それ以上続けるなら…と目で語るルーミアに、ミリアはブンブンと首を横に振る。
これ以上想像するのは危険と本能が訴えていた。
(今度は痛いじゃすまされなさそうだわ…)
殴られた部分をさすれば、たんこぶにはなっていない。
だが、もし次があれば確実に作られてしまう。
「でも、じゃあ一体誰なのかしら……」
疑問は疑問のまま。
誰がアーノルドの想い人なのだろうか。
その人物を当人に紹介した本人が気づかないことに、ルーミアは肝心なところで察しの悪い主人を哀れんだ。
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