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第3章 恋人には尽くすタイプだなんて、絶対誰にも知られたくない!
第10話 年下男子を夢中にさせる年上女子のテクニック(※)
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そして現在。
「それじゃあ、今日は定時で帰ってくださいね」
「でも」
「先月号の『en・en』、読んだでしょ?」
「う……」
彼女が貸してくれた雑誌『en・en』には、『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡』という特集が組まれていた。
「あれを実践する時です。エミリーさんもそう思ったから、さっきからそんな表情してるんですよね?」
「そんな表情?」
「ええ。決戦を前にした、戦士の表情です」
これには、思わず苦笑いを浮かべた。自覚があったからだ。
「くぅ……! かわいい……!」
「やめて」
「はい。落ち着きます! すーはー。落ち着きました!」
クレアちゃんがニコニコと私の顔を覗き込んだ。
「この1ヶ月、いろいろ勉強して、準備してきたじゃないですか。その成果を見せる時が来たんですよ! 頑張って下さい!」
「……うん」
小さく頷いた私に、クレアちゃんの表情が一瞬ゆるんで、すぐに引き締められた。
「仕事しましょう! 目指せ定時退庁!」
「そうだね」
「彼氏のために仕事を頑張るエミリーさんも、健気でグーです!」
「ははは」
乾いた笑みを浮かべながらも、心の中で彼女に感謝した。
クレアちゃんがいなければ、この1ヶ月は不安で正気を保てなかったかもしれないのだから。
* * *
──ピーンポーン。
チャイムの音に、私は慌てて玄関に向かった。ドアを開けると、そこには少し息を切らしたサイラスくんがいて。
「会いたかった……!」
言うと同時に抱きしめられた。そのまま玄関の中になだれ込む。
抱きしめられたまま優しく唇を啄まれると、身体が熱くなってくるものだからまいってしまう。慌てて彼の胸を押し返した。
「エミリーさん?」
顔を覗き込まれて、思わず目を逸らす。真っ赤になっているのを見られてしまったのだ。彼のほうは嬉しそうに微笑んでいる。
「……私も、会いたかった」
『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡ その1:気持ちは素直に言いましょう!』だ。
「……っ!」
これは、どうやらクリティカルヒットだったらしい。サイラスくんの顔が、真っ赤に染まっている。彼を相手に、初めて『してやった』という気持ちになった。
(これは、悪くないわね)
心の中でひとりごちて、彼の手を握った。
「ごはん、作ったの。食べるでしょ?」
「……」
「サイラスくん?」
サイラスくんは無言のままで私を見た。
「エプロン……」
ぼそっとつぶやかれた言葉に、ああと頷いた。今の今まで調理をしていたので、エプロンを着けていたのだ。淡いピンクの花柄、フリル付きだ。ちなみに、これは『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡ その5:お料理をするときはエプロンを着けましょう。フリル必須!』を参考にした。
「へん、かな?」
「……最高です」
(おお。これも効いている……!)
私は心の中で感動した。あんな雑誌の特集なんてアテにならないだろうと思っていたのだが。
「その前に、お風呂入っておいでよ」
「あ、やっぱり臭いますか?」
「そんなことはないけど。慌てて来てくれたんでしょ?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
サイラスくんを脱衣所に促す。
「これは?」
籐の籠の上にちょこんと置かれた新品の寝間着を指差して、サイラスくんが言った。
「買っておいたの。あ、趣味じゃなかった?」
(さすがに下着は買えなかったけど。それくらいは自分で準備してきたでしょ)
ちなみにこれは、『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡ その2:気遣いは先回り、そしてさりげなく』だ。
なんて呑気なことを考えていたら、不意にぎゅっと抱きしめられた。
「ちょっ、なに?」
「泊まってもいいってことですか?」
訊かれて初めて、自分がしたことの意味に思い至った。
(これじゃあ、まるで泊まってくれと言わんばかりじゃない! は、ハレンチだと思われた⁉)
「嬉しいです」
「ほんと? 引いてない?」
「そんなわけないじゃないですか」
そのままさらに強く抱きしめられて、ごりっと腿に硬いものを押し付けられた。
「ひゃっ」
「もう、こんなになっちゃいました」
サイラスくんが困ったように言って。
「エミリーさん……」
首筋を撫でられた。
「んっ」
彼の手はそのままさわさわと優しく首筋を撫で上げて、そして耳朶に触れた。優しく触れてから親指と人差指に挟まれてコシコシと擦られると、一気に体温が上がる。
「あっ……」
今度はその耳を舐められた。
舐めながら甘噛されて、また音を立てて舐められると、まるで食べられているようで。
「んんっ! あぁ……っ」
思わず甘い声を漏らすと、いっそう激しく耳を犯された。さらに、私の膝の間に足を挿し込まれた。慌てて内腿に力を入れるが、無駄な抵抗だ。
彼が膝を持ち上げて刺激すると、ソコが湿った音を立てる。
「あぁ、だめぇ……!」
「濡れてる」
「んっ、だってぇ」
そのまま何度も何度も膝で刺激されて、腰から脳天にかけて甘い刺激が駆け抜ける。
「あっ、だめ……」
「エミリーさん、ボク、もう……!」
サイラスくんの切羽詰まった声に、さらに熱が上がる。
(……ダメダメダメ!)
心の中で叫んで、ぐいっと彼の身体を押し返した。
「エミリーさん?」
「ごはん! 冷めちゃうから!」
「……」
「はやく、お風呂!」
ぐいぐいと大きな背中を押して、脱衣所に押し込めて。
──バタンッ!
すこしばかり乱暴にドアを閉めた。そのドアに額をあてて、火照った身体を冷ましながら息を整える。
「……待ってるから」
小さな声で言うと、ドアの向こうが一気に慌ただしくなった。ものすごい速さで服を脱いで、ものすごい速さでシャワーを浴び始める。
(これも、効くのか……!)
『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡ その8:エッチに誘われたら、最初は断りましょう! 年下男子は、焦らしてあげた方が嬉しいみたい☆』である。
(でも、これは、私が保たないかも……)
フラフラした足取りでキッチンに向かったのだった。
* * *
──ジャー、カチャ、カチャ。カチャン。
さて。
食事が終わった途端に私に触れようとするサイラスくんをかわして、食器を洗っている。これはテクニック云々ではなく、先に片付けないと落ち着かない性分なのだ。
彼の方は少しばかり膨れっ面になりつつも、大人しくリビングで待っている。その辺りに雑誌やなんかが置いてあるので、適当に時間を潰してくれるだろう。
(ん?)
何か重要な見落としがあるような気がして、私の手が止まった。
(雑誌……?)
いつも購読しているのは、主にファッション誌だ。その他、手芸や園芸なんかの趣味の雑誌や、経済系の情報誌。一つくらい、サイラスくんの興味を引く雑誌があるだろう。
(……! 『あれ』、どこに置いたっけ)
唐突に『あれ』の存在を思い出して、バッと勢いよく振り返った。
(昨夜も読んで、それから……!)
うんうん唸りながら、昨夜も読んだのだ。その、ソファで……!
振り返った先には、ニコニコ笑顔のサイラスくん。その手にはクレアちゃんから借りた雑誌『en・en』、広げられているページは『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡』だ。
「エミリーさん、これ読んで勉強したんですか?」
問われたところで、何も答えられない。まさに蛇に睨まれた蛙状態である。
「エミリーさん?」
そんな私をよそに、サイラスくんがうっとりと微笑んだ。
「それじゃあ、今日は定時で帰ってくださいね」
「でも」
「先月号の『en・en』、読んだでしょ?」
「う……」
彼女が貸してくれた雑誌『en・en』には、『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡』という特集が組まれていた。
「あれを実践する時です。エミリーさんもそう思ったから、さっきからそんな表情してるんですよね?」
「そんな表情?」
「ええ。決戦を前にした、戦士の表情です」
これには、思わず苦笑いを浮かべた。自覚があったからだ。
「くぅ……! かわいい……!」
「やめて」
「はい。落ち着きます! すーはー。落ち着きました!」
クレアちゃんがニコニコと私の顔を覗き込んだ。
「この1ヶ月、いろいろ勉強して、準備してきたじゃないですか。その成果を見せる時が来たんですよ! 頑張って下さい!」
「……うん」
小さく頷いた私に、クレアちゃんの表情が一瞬ゆるんで、すぐに引き締められた。
「仕事しましょう! 目指せ定時退庁!」
「そうだね」
「彼氏のために仕事を頑張るエミリーさんも、健気でグーです!」
「ははは」
乾いた笑みを浮かべながらも、心の中で彼女に感謝した。
クレアちゃんがいなければ、この1ヶ月は不安で正気を保てなかったかもしれないのだから。
* * *
──ピーンポーン。
チャイムの音に、私は慌てて玄関に向かった。ドアを開けると、そこには少し息を切らしたサイラスくんがいて。
「会いたかった……!」
言うと同時に抱きしめられた。そのまま玄関の中になだれ込む。
抱きしめられたまま優しく唇を啄まれると、身体が熱くなってくるものだからまいってしまう。慌てて彼の胸を押し返した。
「エミリーさん?」
顔を覗き込まれて、思わず目を逸らす。真っ赤になっているのを見られてしまったのだ。彼のほうは嬉しそうに微笑んでいる。
「……私も、会いたかった」
『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡ その1:気持ちは素直に言いましょう!』だ。
「……っ!」
これは、どうやらクリティカルヒットだったらしい。サイラスくんの顔が、真っ赤に染まっている。彼を相手に、初めて『してやった』という気持ちになった。
(これは、悪くないわね)
心の中でひとりごちて、彼の手を握った。
「ごはん、作ったの。食べるでしょ?」
「……」
「サイラスくん?」
サイラスくんは無言のままで私を見た。
「エプロン……」
ぼそっとつぶやかれた言葉に、ああと頷いた。今の今まで調理をしていたので、エプロンを着けていたのだ。淡いピンクの花柄、フリル付きだ。ちなみに、これは『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡ その5:お料理をするときはエプロンを着けましょう。フリル必須!』を参考にした。
「へん、かな?」
「……最高です」
(おお。これも効いている……!)
私は心の中で感動した。あんな雑誌の特集なんてアテにならないだろうと思っていたのだが。
「その前に、お風呂入っておいでよ」
「あ、やっぱり臭いますか?」
「そんなことはないけど。慌てて来てくれたんでしょ?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
サイラスくんを脱衣所に促す。
「これは?」
籐の籠の上にちょこんと置かれた新品の寝間着を指差して、サイラスくんが言った。
「買っておいたの。あ、趣味じゃなかった?」
(さすがに下着は買えなかったけど。それくらいは自分で準備してきたでしょ)
ちなみにこれは、『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡ その2:気遣いは先回り、そしてさりげなく』だ。
なんて呑気なことを考えていたら、不意にぎゅっと抱きしめられた。
「ちょっ、なに?」
「泊まってもいいってことですか?」
訊かれて初めて、自分がしたことの意味に思い至った。
(これじゃあ、まるで泊まってくれと言わんばかりじゃない! は、ハレンチだと思われた⁉)
「嬉しいです」
「ほんと? 引いてない?」
「そんなわけないじゃないですか」
そのままさらに強く抱きしめられて、ごりっと腿に硬いものを押し付けられた。
「ひゃっ」
「もう、こんなになっちゃいました」
サイラスくんが困ったように言って。
「エミリーさん……」
首筋を撫でられた。
「んっ」
彼の手はそのままさわさわと優しく首筋を撫で上げて、そして耳朶に触れた。優しく触れてから親指と人差指に挟まれてコシコシと擦られると、一気に体温が上がる。
「あっ……」
今度はその耳を舐められた。
舐めながら甘噛されて、また音を立てて舐められると、まるで食べられているようで。
「んんっ! あぁ……っ」
思わず甘い声を漏らすと、いっそう激しく耳を犯された。さらに、私の膝の間に足を挿し込まれた。慌てて内腿に力を入れるが、無駄な抵抗だ。
彼が膝を持ち上げて刺激すると、ソコが湿った音を立てる。
「あぁ、だめぇ……!」
「濡れてる」
「んっ、だってぇ」
そのまま何度も何度も膝で刺激されて、腰から脳天にかけて甘い刺激が駆け抜ける。
「あっ、だめ……」
「エミリーさん、ボク、もう……!」
サイラスくんの切羽詰まった声に、さらに熱が上がる。
(……ダメダメダメ!)
心の中で叫んで、ぐいっと彼の身体を押し返した。
「エミリーさん?」
「ごはん! 冷めちゃうから!」
「……」
「はやく、お風呂!」
ぐいぐいと大きな背中を押して、脱衣所に押し込めて。
──バタンッ!
すこしばかり乱暴にドアを閉めた。そのドアに額をあてて、火照った身体を冷ましながら息を整える。
「……待ってるから」
小さな声で言うと、ドアの向こうが一気に慌ただしくなった。ものすごい速さで服を脱いで、ものすごい速さでシャワーを浴び始める。
(これも、効くのか……!)
『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡ その8:エッチに誘われたら、最初は断りましょう! 年下男子は、焦らしてあげた方が嬉しいみたい☆』である。
(でも、これは、私が保たないかも……)
フラフラした足取りでキッチンに向かったのだった。
* * *
──ジャー、カチャ、カチャ。カチャン。
さて。
食事が終わった途端に私に触れようとするサイラスくんをかわして、食器を洗っている。これはテクニック云々ではなく、先に片付けないと落ち着かない性分なのだ。
彼の方は少しばかり膨れっ面になりつつも、大人しくリビングで待っている。その辺りに雑誌やなんかが置いてあるので、適当に時間を潰してくれるだろう。
(ん?)
何か重要な見落としがあるような気がして、私の手が止まった。
(雑誌……?)
いつも購読しているのは、主にファッション誌だ。その他、手芸や園芸なんかの趣味の雑誌や、経済系の情報誌。一つくらい、サイラスくんの興味を引く雑誌があるだろう。
(……! 『あれ』、どこに置いたっけ)
唐突に『あれ』の存在を思い出して、バッと勢いよく振り返った。
(昨夜も読んで、それから……!)
うんうん唸りながら、昨夜も読んだのだ。その、ソファで……!
振り返った先には、ニコニコ笑顔のサイラスくん。その手にはクレアちゃんから借りた雑誌『en・en』、広げられているページは『年下男子を夢中にさせる年上女子の15のテクニック♡』だ。
「エミリーさん、これ読んで勉強したんですか?」
問われたところで、何も答えられない。まさに蛇に睨まれた蛙状態である。
「エミリーさん?」
そんな私をよそに、サイラスくんがうっとりと微笑んだ。
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