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ストーリー02
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「やけ食いかい、ロイ君?」
「ふぉんらことありまひぇん」
「いや食べながら言われてもね、説得力が無いよ」
「気のへいれす」
「っていうか、うち自慢のトンカツ、常連だった君が食べてくれるのは嬉しいけど……いいのかい? せっかくダイエットに成功したっていうのに」
「いいんれす……うっ、ふぅ、はっ……おいしいっ、しあわせぇ~~」
俺は現在、大好物である紅肉亭のトンカツを解禁していた。リゲル伯爵のことが過ぎるたびに、一噛み一噛み、トンカツを味わう。
あれから、殊更に彼を害そうという気が起きなかった。だから……忘れることにした。
人間とはわりと単純な生き物で……日数が立てば直情的な怒りは収まり始めていた。
「しっかし……これがあのロイ君とはねぇ~、まさに変身だよねぇ」
「ん?」
「いやいや、こっちの話」
紅肉亭のおじさんは一人納得している。俺は首を傾げてトンカツというここでしか食べられない料理に手を付けた。
『……どうしてだ?』
一人、心の中で声に出す。五年の歳月が流れた後、職場に戻って来た俺。職場は温かく俺を迎えてくれ――なかった。何故だ。まるで爪弾きものみたいにされている。いや、みたいとかまるでではない。皆がよそよそしい。
久しぶりに会った上司であるガリューさんなど、自分が戻って来たことを直に伝えると、「え、どなたですか?」などと言われ、「ロイ・ナンテです」と言うと、真っ先に疑われた。本人だと証明する為に魔道具製作の腕前を見せ、家族写真を挟んだ懐中時計を見せたことでやっと信じられた。同僚達も驚いた顔のまま固まっていた。
「よ、よお、ロイ。元気だったか?」
「うん。リード、元気だったよ?」
「そ、そうか。そうか。ならいいんだ」
「ん?」
何故かぎこちない親友のリード。それからも会う人会う人の返す反応がおかしい。誰もからかって黒豚とすら呼んでくれない。それがちょっと……いやかなり寂しい。
もっとこう、皆痩せた俺を喜んでくれるかと思ってたのに……ハグもない……。昔は気さくに体を撫で回されたりしたのに。主に腹を。
そういって自分の腹を眺めるが……そこには肉も脂肪もない。ため息を吐いてしまう。
……が、そこで思い出した。いい方法を。
さっそく試すべくトイレへと駆け込み、魔法を唱えた。一言一句間違えないよう、丁寧に言葉にしていく。そして最後の行を唱え終わる。出来栄えを確認すべく、鏡の前へ行けば――、そこには昔のままの俺がいた。
「いや~~やっぱロイはこうじゃなきゃな! あれは……なんつーか、目に悪い」
俺が試したのは、幻影魔法。他者の目に幻の姿を映す特殊な魔法だ。
元通りのロイに戻ってトイレを出ると、俺を追いかけに来たリードとぶつかりそうになった。見かけだけの巨体で吹き飛ばされた俺を、リードが笑って手を掴む。
「おかえり、ロイ!!」
こうして感動の再会となったわけだ。
「よ、黒豚ロイ!」とか「リバウンドかよ!」とか色々な声を掛けてもらった。違うけど、まあいいや。
「悪いか!」
「いいや悪くないぜ? 俺はあっちよりこっちのお前の方が好きだ」
「好き?」
好意を示す言葉に無意識に反応してしまった。
「あ、いや、別に恋愛的な意味じゃねーからな! 俺には花屋のレティさんという心に決めた人が居て……」
「またレティさんかよ! リード、早く告って来いよ!」
どっと沸く周囲と慌てるリードの姿を見ながら、思った。
ああ、いいな。やっぱり俺にはこっちの方が合ってるんだ。
そう、思えた……だったのに。
「また会えましたね……私の妖精」
「ッ!?」
「今度は逃がしませんよ?」
俺は再び、リゲル伯爵と合間見えることになる。
「ふぉんらことありまひぇん」
「いや食べながら言われてもね、説得力が無いよ」
「気のへいれす」
「っていうか、うち自慢のトンカツ、常連だった君が食べてくれるのは嬉しいけど……いいのかい? せっかくダイエットに成功したっていうのに」
「いいんれす……うっ、ふぅ、はっ……おいしいっ、しあわせぇ~~」
俺は現在、大好物である紅肉亭のトンカツを解禁していた。リゲル伯爵のことが過ぎるたびに、一噛み一噛み、トンカツを味わう。
あれから、殊更に彼を害そうという気が起きなかった。だから……忘れることにした。
人間とはわりと単純な生き物で……日数が立てば直情的な怒りは収まり始めていた。
「しっかし……これがあのロイ君とはねぇ~、まさに変身だよねぇ」
「ん?」
「いやいや、こっちの話」
紅肉亭のおじさんは一人納得している。俺は首を傾げてトンカツというここでしか食べられない料理に手を付けた。
『……どうしてだ?』
一人、心の中で声に出す。五年の歳月が流れた後、職場に戻って来た俺。職場は温かく俺を迎えてくれ――なかった。何故だ。まるで爪弾きものみたいにされている。いや、みたいとかまるでではない。皆がよそよそしい。
久しぶりに会った上司であるガリューさんなど、自分が戻って来たことを直に伝えると、「え、どなたですか?」などと言われ、「ロイ・ナンテです」と言うと、真っ先に疑われた。本人だと証明する為に魔道具製作の腕前を見せ、家族写真を挟んだ懐中時計を見せたことでやっと信じられた。同僚達も驚いた顔のまま固まっていた。
「よ、よお、ロイ。元気だったか?」
「うん。リード、元気だったよ?」
「そ、そうか。そうか。ならいいんだ」
「ん?」
何故かぎこちない親友のリード。それからも会う人会う人の返す反応がおかしい。誰もからかって黒豚とすら呼んでくれない。それがちょっと……いやかなり寂しい。
もっとこう、皆痩せた俺を喜んでくれるかと思ってたのに……ハグもない……。昔は気さくに体を撫で回されたりしたのに。主に腹を。
そういって自分の腹を眺めるが……そこには肉も脂肪もない。ため息を吐いてしまう。
……が、そこで思い出した。いい方法を。
さっそく試すべくトイレへと駆け込み、魔法を唱えた。一言一句間違えないよう、丁寧に言葉にしていく。そして最後の行を唱え終わる。出来栄えを確認すべく、鏡の前へ行けば――、そこには昔のままの俺がいた。
「いや~~やっぱロイはこうじゃなきゃな! あれは……なんつーか、目に悪い」
俺が試したのは、幻影魔法。他者の目に幻の姿を映す特殊な魔法だ。
元通りのロイに戻ってトイレを出ると、俺を追いかけに来たリードとぶつかりそうになった。見かけだけの巨体で吹き飛ばされた俺を、リードが笑って手を掴む。
「おかえり、ロイ!!」
こうして感動の再会となったわけだ。
「よ、黒豚ロイ!」とか「リバウンドかよ!」とか色々な声を掛けてもらった。違うけど、まあいいや。
「悪いか!」
「いいや悪くないぜ? 俺はあっちよりこっちのお前の方が好きだ」
「好き?」
好意を示す言葉に無意識に反応してしまった。
「あ、いや、別に恋愛的な意味じゃねーからな! 俺には花屋のレティさんという心に決めた人が居て……」
「またレティさんかよ! リード、早く告って来いよ!」
どっと沸く周囲と慌てるリードの姿を見ながら、思った。
ああ、いいな。やっぱり俺にはこっちの方が合ってるんだ。
そう、思えた……だったのに。
「また会えましたね……私の妖精」
「ッ!?」
「今度は逃がしませんよ?」
俺は再び、リゲル伯爵と合間見えることになる。
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