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堅物、花束を買う。
しおりを挟む第二王子殿下が意中のお相手である北の国のガーネット王女に会われたのは、もう十年も前のことだった。
当時はまだ両国間の交友があり、国王陛下の外交について行かれた先でお二人は出会ったらしい。
だが、北の国の当時の国王が崩御されると北の国の状況は一変し、周辺国に敵対的な王子が国王になってしまい北の国は閉鎖的になり周辺国と戦争を始めるようになった。
そして現国王と関わりのない平民の母を持つガーネット王女は身の危険に晒されているという知らせがこちらの国に届いた時、真っ先に動かれたのが第二王子殿下。
つまり殿下は北の国の侵略戦争にかこつけて、ガーネット王女を連れ去り、妻にしようという突拍子もない計画を実行されているのだ。
殿下の話からするとおそらく殿下の片思いの可能性もある上に、周囲にこの事実がふれれば、殿下のお立場が危うくなることは必死。だが、国王陛下は北の国の領地が手に入るならとこのことには目をつぶっていらっしゃる。
まあ、かくいう私もなにも言わない者の一人。
それほどに眩しかった。
一人の女性のために懸命な殿下の姿が。
城からの帰り道、店じまいをした花屋の女性が赤い薔薇を運んでいるのが目に留まり、リビアの髪の色を思い出して思わず女性を引き止めて花を買ってしまった。
この薔薇のように気品高く自らの力で自分を守ろうとするリビアに、今の私は何がしてやれるだろうか。
リビアを大公である私の元におくよりも、バッツドルク卿のような平民出身の者の元にいる方がリビアが求める自由を与えてやれるのかもしれないことは気づいている。
高価なドレスや宝石よりも、些細な日常の幸せを大事にして貴族の暮らしに執着がないところがリビアの魅力だ。
それでもたまに、綺麗なものに目を輝かせるからいいものを与えたくなるんだが…
だからそれをしたとてリビアの心は手に入れられる訳もなく、かと言ってどうすればリビアの心を私に向けさせられるか手段が全く分からない。
イーサン殿下のように無理やり自分のものにする度胸もない。
むしろ、愛が深まるほどに自分には不相応だと感じ手放してしまおうという気持ちが強くなり、リビアの前では強がった発言ばかりしてしまう始末だ。
「…あら殿下?」
「リビア、今帰ったのか。」
「先程まで夫人と庭を見ていたのです。」
「そうか。」
「見事な薔薇の花束ですね。どなたかからプレゼントですか?」
「ああ、屋敷のどこかに飾らせようかと思ってな。」
「では私が飾ってきますわ。ちょうどいい場所があるんです。」
「では任せよう。」
「ええ。」
花束を持つリビアを見て、やはりこれを選んで正解だったと先ほどまで冷めきっていた心が温かくなる。
時折、衝動的に君を抱きしめたいだとか不謹慎なことを思ってしまう私の気持ちを君は知らずにいて欲しい。
好きになってくれとはもう言わない。
だからせめて、私を嫌わないでくれ。
君が他の誰を選ぼうと、私は君の幸せを願おう。
だからずっと輝いた君のままでいれるように、傍で見守らせて欲しい。
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