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自由貿易国家編

うむ、セーフという奴じゃな。

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 ハイエルフから受け取った割符を使い、玄白たちは幾つもの転移門を越えていく。
 越えるたびに姿を表した街並みがだんだんと大きくなっていき、そして最後の転移門を超えた先は、ヘスティア王国の入り口。
 巨大な転移門と、その正面に見える大街道、そしてその向こう、天まで聳える世界樹の根元に備え付けられた王城が目の前に広がった。
 街道には大勢の人が行き来しており、転移門を越えたり越えてきたりとひっきりなしに人が出入りしている。

 その大半は獣人の、それも見たことがない幻獣種と呼ばれている希少種。
 残りがエルフとハイエルフ、そしてほんのごく僅かな人間。
 このヘスティア王国に出入りできる人間は、そもそも選ばれたものでなくてはならない。
 それ故に、各国の大使であったり商人であったりと、何かしらの目的がはっきりとしている人間しか入ることは許されていない。

「これはまた、すごい光景じゃないか……そしてあれが、世界樹という奴じゃな」
「ええ。錬金術ギルドでもトップクラスのレア素材、その一つがあの『世界樹の葉』と『世界樹の雫』です。それはエリクシールの原料であるだけでなく、人の魂すら再生する『完全蘇生薬』の素材でもあります」
「ミハル殿!! それは本当なのか?」
「はい。ですが世界樹の葉を手に入れることはできません。あれは」
「王国が厳重に管理している、そうじゃな?」

 残念そうに告げる玄白に、ミハル葉頭を左右に振る。

「違いますよ。世界樹の葉程度でしたら、恐らくはこの国の錬金術ギルドでも手に入るとは思いますよ。摘みたての葉は、高級回復薬や万能薬の素材でもありますから。蘇生役に用いられるのは、世界樹の葉の中でも希少な『与えられたもの』なのです」
「与えられた……つまり、世界樹自らが与えたものということか?」

 その問いかけに、ミハルは頷いてみせる。
 世界樹の葉は、積まれてから時間が経つにつれ、その内部に凝縮されている『奇跡の光魔力ソーマ』が蒸散してしまう。
 それを留めたものが、蘇生役の素材となるのだが、それは世界樹が自らの意思で人に分け与えるものであり、落ち葉などでは効果は全くない。

 その説明を聞いて玄白も納得すると、とりあえずは転移門の横で立っていた騎士に話しかける。
 目的は、大渓谷を降りるための手段、その向こうにあるマスカラス領へ行きたいとこを告げると、近くの馬車で渓谷横まで向かい、そこから魔法の渡し屋に頼むと良いことを教えられる。
 
「助かったぞ。では、急ぐのでまた」

 体内にお礼を告げて、玄白たちは近くの停車場まで移動。
 そこから乗合馬車で渓谷口と呼ばれている場所まで向かうことにした。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


──パルフェノン・マスカラス領領都、ドスカラス
 渓谷口から料金を払い、玄白にたち3人は渓谷下の河川まで降りてくる。
 そこから渡し船で対岸に向かうと、やがてゆったりとした上り坂を超えた先に、古い城塞都市の姿が見えてきた。

「あれがマスカラス領都伸びドスカラスですね。小さな城塞都市ですけれど、この地には様々な効果のある温泉が沸いているっていう噂ですね」
「パルフェノンでも有名な場所で、特に温泉の効能がかなりの種類だそうで、お年寄りとかが湯治に訪れる場所らしいです」
「ふぅむ、なるほどなぁ」

 ふと、玄白は解体新書ターヘル・アナトミアを取り出して開いてみる。
 気になったのは、この辺りの大気組成。
 この地にやってきたから玄白は妙に喉の調子が良く、しかも疲れが抜けていくように感じている。
 そして調べてみると案の定、複数の温泉の効能が大気中に溶け込み、簡易的な万能薬のような効能を周囲に溢れさせていた。
 それでも、一度や二度吸った程度では本来の効果を発揮しないため、やはりじっくりと温泉に浸かる必要はある。

 逆に考えるなら、この大気があるからこそカネック王の孫娘の病状は悪化するのを抑えているのかもしれないと、玄白は考え始めていた。
 そのまま正門を通り抜け、真っ直ぐに中央緑地帯の中にある領主の館へと向かうと、門番にカネック王から預かってきた書簡を手渡した。  

「カネック王の依頼で、この地の孫娘さんの病を治しにきたランガクイーノ・ゲンパク・スギタという。乗り継ぎを願いたい」
「かしこまりました、少々お待ちください」

 そう告げてから門番が屋敷の中へと入っていくと、すぐさま恰幅よいい男性が姿を現す。
 綺麗に切り揃えられた髭と種族独特の頑健な体格。
 どこの誰が見てもドワーフであると言わんばかりの姿に、玄白たちも丁寧に頭を下げた。

「お主たちが、我が娘の病を癒してくれるというのか?」  
「うむ。詳細はおそらくカネック王から預かってきた手紙に記されているはずじゃが。早速、その娘さんに合わせてもらえるか? 診察しないことには何も始まらんからな」

 そう話しつつ、パルフェノンで発行してもらった身分証を取り出して提示すると、男性はようやく胸を撫でおろしていた。

「そ、それもそうですね、では宜しくお願いします。私についてきてください」
「うむ」

 そのまま屋敷の奥にある小さな部屋へと案内してもらい、娘さんの部屋へと案内してもらう。
 
「こちらです……カイリ、カネック王に依頼された治癒師の方がきたぞ」

 返事がないままに、父親が部屋の扉を開く。
 そして玄白たちも後ろについて室内に入ると、そのままベッドで横たわっている少女の元へと近寄っていくと、そっと頬に触れてみる。

「眠っている……ふむ、やはり魔族化の呪詛じゃ。あの西方の勇者の仲間たちを襲った呪詛と同じもので……こりゃあかん!!」

 慌てて解体新書ターヘル・アナトミアから霊薬エリクシールと水差しを取り出し、それを使って彼女の口元に数滴垂らしてみる。

──ボウッ
 すると、エリクシールが垂れた場所を中心に波のように光が走り、アスカと呼ばれた少女はゆっくりと目を開いた。

「あ……ら……お父さま……私は何を……」
「うんうん、大したことじゃないから、ひとまずはこの薬を飲んでくれるか? 君の体を蝕んでいる病を取り除く霊薬じゃよ」

 ニイッと笑いながら、エリクシールの入れてある水差しを手渡す。
 すると、アスカは水差しを受け取り、一口、また一口と、ゆっくりと薬を飲み始める。
 そしで飲むたびに彼女の体の中、心臓あたりがほのかに輝く。
 やがてその光が体全体を包み込んだ時、彼女はゴホッゴホッと咽せながら、口から小さな紅色の石を吐き出したのである。

「どれどれ……と、やはり魔人核の出来損ないか。危ないところじゃったな、あと数日でも遅れていたならば、この子は魔族化してしまったじゃろうなぁ」
「あ、あの、それでは娘は、アスカは!」
「また安心じゃ。完治はしたが、数日の間、様子を見させてもらうぞ。それで何事もなければ、完治ということで自由にしても構わん」
「あ……あああ……」

 嗚咽にも似た声をあげながら、彼女の父はアスカを抱きしめながら泣いていた。
 そして明日かもまた、自分に何が起こっていたのかを理解し、父親に抱きついたまま、二人で泣き続けていた。
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