型録通販から始まる、追放令嬢のスローライフ

呑兵衛和尚

文字の大きさ
114 / 282
第4章・北方諸国漫遊と、契約の精霊と

第192話・動く貴族と魔族の進軍

しおりを挟む
 ダマスカスの剣。

 初代勇者たちが使用していてたという、【魔を滅する武具】として伝えられているその剣は、勇者とその仲間たちのためにタイタン族の鍛冶師が作り出したという。
 その大半は失われてしまい、今となっては伝説として各地に伝えられているものが多いのだが、魔王国の一振りは今もなお残されており、厳重に封印されているという。

 だが、北方諸国の一つ、ヤージマ連邦ロシマカープ王国で行われる大武道会の優勝賞品として、未確認のダマスカスの剣が優勝者の褒賞として与えられるという噂が流れ、東方諸国のつわものたちがロシマカープ王国に集まりつつあった。

――王都・マツダズーム
「……陛下。先ほど届いた報告では、大武道の参加選手が全てそろったようです。また、腕に自信のあるものたちはこの王都に留まり、貴族たちに召し抱えられるために懸命なアピールを行っているとききましたが」

 王城執務室で、宰相のルーツ・ローリングが長く伸びた髭を撫でながら、楽しそうに報告を行っている。
 だが、窓辺に立ち外を眺めている国王【マーティ・ライオネル】はいぶかしそうな顔で、宰相に振り向くと。

「呪術師からの報告では、あと数日でこの王都は災禍に包まれるという話しではなかったか? その詳細については、いまだわからないままなのか?」
「それにつきましては、予見の術を使う魔導師たちが懸命に儀式を行っています。ですが、いまだに詳細は不明でして……」
「災禍か……まさかとは思うが、魔族の進軍が行われるのではないだろうな?」
「まさか。それはありえません。このヤージマ連邦は幾重もの対魔族結界によって厳重に監視されています。ゆえに、そのような大軍が接近してきたならば、大外の結界であるキヌガッサ王国に報告が届きます故……」

 そう告げられて安堵の顔をしそうになるマーティ。
 だが、すぐに引き締めると空を見上げる。

「内部からの手引きがあるやもしれん。騎士団には都市警備を厳重にし、各門については監視の目を強めるように伝えておけ……」
「かしこまりました」

――ドンドン
 恭しく頭を下げるルーツ宰相。
 だが、その瞬間に、扉が大きな音を立てて叩かれた。

「ここは陛下の執務室だぞ、どこの誰だ、声もかけずに扉をたたくなど」

 宰相の不機嫌そうな声に、室内で待機していた執務官が扉に近寄る。

「なにようですか」
『失礼します……宮廷魔導士のマクガイヤ卿が亡くなりました!!』
「なんだと」

 急ぎ扉に近寄ると、扉が開かれて二人の騎士が立っている。
 一人は王宮騎士団の副騎士団長、そしてもう一人は宮廷魔術師団の護衛騎士。
 よほど急いできたらしく、汗を流しながら敬礼の構えを取っていた。
 
「サロモン副騎士団長か。マクガイヤ卿が亡くなったというのは本当なのか?」
「はい。予見の儀式の最中に、祭壇の間に突然黒い霧が発生し、アンデットが姿を現しました。おそらくはレイスの上位かと思われますが、そのものがマクガイヤ卿を指さして呪詛を……」

 こぶしを握りしめて、護衛騎士が告げる。

「そ、それでアンデットはどうなった?」
「七日後、この王都が災禍に包まれるであろうと……我がアンデットの軍団が、この地を不死なるものの楽園とするであろうと……」
「そのレイスは恐らくだが、魔族の四天王の一人【不死王シェーン】であろう。黒い霧と共に現れ、死を告げる存在。レイスではなくノーライフキング・リッチ……書庫の伝記にかろうじて残されていた存在であり、勇者により封印されていたと言い伝えられていたのだが……まさか封印から解放されていたとは」

 マーティ国王がそう告げると、ルーツ宰相が騎士たちに指示を飛ばす。

「七日後ということは、すでにキヌガッサ王国は越えられているのではないか? 各地に魔導伝信器に連絡、魔族の痕跡を探せと。騎士団長と軍務卿にも急ぎ通達し、王城へ来るように伝えるように」
「はっ!!」

 騎士及び書記官が走り出し、部屋から飛び出していく。
 魔族の侵攻が事実ならば、ここから先は時間との勝負。
 
「ルーツ、各地に点在する勇者たちを集められるか?」
「わかりません。彼らの中には、一瞬で大陸を超える転移の術が使えるものもいると聞き及んでいます。彼らの助力が間に合えば、あるいは」
「急ぎ、召集を。この地を戦火に包むようなことはあってはいけない……」
「かしこまりました。では、失礼します」

 丁寧に頭を下げ、ルーツ宰相も部屋から出ていく。
 そしてマーティは机に戻ると、すぐに地図を開いてにらむように眺め始めた。

〇 〇 〇 〇 〇

 大バザールが始まってから3日目。
 本日は闘技場で大武術大会のセレモニーが行われているそうです。
 クリムゾンさんも参加選手として闘技場に向かいまして、本日の営業は私と柚月さん、ノワールさんの三人で回しています。
 やはり異国のアクセサリーなどは貴族のご婦人子女たちに好評でして、すぐに追加注文を行ったりと大忙しです。
 それに、ココアと蜂蜜レモンティーの試飲も好評でして、毎日飛ぶように売れていますよ。

「あの……この蜂蜜レモンというのは、保存がきくのでしょうか?」

 ちょうど試飲していただいたご婦人が、蜂蜜レモンティーを飲んで目を丸くしています。
 その横の男の子も、ぐいぐいと飲んでうれしそうです。

「ええ、できれば早めにお飲みいただけると助かります。できるだけ冷たくて暗い場所、もしくは保存の魔導具か時間停止のアイテムボックスでしたら、ある程度は大丈夫ですよ。こちらの紅茶も、できるだけ早めにお飲みください」

 そう説明しますと、ご婦人もほっとした顔です。
 ええ、寒い地域での暖かい飲み物、特に甘いものは心も穏やかにしてくれますね。
 すると、男の子が母親の服の裾を掴んで、軽く引っ張っています。

「これなら、お父さんも喜んでもらえるよ……」
「そうね。それじゃあ、今日は奮発して買いましょうね。この粉末紅茶の壺を一つと、蜂蜜レモン付けの瓶を一つ、いただけるかしら?」
「今日は、おとうさんのお疲れ様会だからね。ようやくお父さんの仕事が終わるんだよ」
「へぇ。仕事が終わるのですか」

 遠征に出かけていた騎士か、もしくはベテラン冒険者というところでしょうか。
 いえ、遠地へと旅をする商人なのかもしれませんね。
 跡目を譲って引退?
 私にはまだまだ先の話のようです。

「うん。お父さんは剣闘士で、今日のセレモニーで王様の前で引退試合をするんだよ」
「剣闘士とは。それで引退とは、すごく強かったのでしょうね」
「え、ノワールさん、そうなのですか?」

 剣闘士が引退するって、そんなにすごいことなのでしょうか。

「ええ。闘技場に所属する剣闘士は、強くなるほどに対戦相手も凶悪になっていくことが多いのですよ。それを勝ち抜いて、引退まで五体満足に生きながらえるなんて、すごく強かったのでしょうね」
「うん。今まで負けたことは一度だけ、それも大武術会の予選の相手をした時だけだって」
「へぇ……それじゃあ、特別におまけをつけてあげるね。はい、これをどうぞ」

 アイテムボッスから小さなチョコレートを取り出して、3っつ手渡します。
 これは『疲労回復効果』の付与されてるチョコレートでして、一つ銅貨2枚で買えるお得なチョコレートなのです。
 チロリアンというメーカーだそうで異世界では有名だそうですけれど、私にはさっぱりわかりません。

「わぁ、ありがとう!!」
「おまけまでいただいて、本当に申し訳ありません」
「いえいえ、私からのおめでとうの気持ちですから、はい、お待たせしました」

 商品を手渡すと、親子は嬉しそうに帰っていきました。
 さて、今のやり取りを見て、おまけのチョコレートを欲しそうに見ている子供たちがいますけれど。

「ふぅ、一つずつですよ、今日だけですからね」
「「「「「はーい!!」」」」

 元気そうで何よりです。
 そして柚月さんとノワールさん、あきれたような目で、私を見るのはやめてください。
 子供は可愛いから、仕方ないじゃないですか。
 ちゃんと商売とは切り替えていますからね。
しおりを挟む
感想 762

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました

山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」 確かに私達の結婚は政略結婚。 2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。 ならば私も好きにさせて貰おう!!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。