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第12話 その後10
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朝早く起きて、アドンのお屋敷へ。そして家に帰るとシモンに泣き付かれる日々。
私と公爵は、主人と使用人なだけだと何度言っても、彼の嫉妬は止まらず、駄々っ子のようにがなりたて、最後には欲望を吐き出して終わり。
毎日がその調子。
だがひと月過ぎて、給金が入るとそれはようやく変わった。
私は執事一人と使用人二人、コックを一人雇った。そして借金をしてシモンの好きそうな馬車を一両。二頭だてだが、シモンは気に入ったらしい。すぐにジュラルードの旗を立てていた。
前のマクエガーの屋敷より今の屋敷は小さいので、使用人に馬の世話をしてもらえるし、なにより私は少し寝ていられる。
それくらい破格の給金だから出来たわけだ。
お金に余裕が出来たからだろう、シモンはニコニコだった。数日間、私が出勤する時間には、シモンも同乗して公爵の屋敷に送っていってくれるたのだ。二頭だてのこの馬車には御者含めて三人は少し過積載気味なのだが、シモンの機嫌がよいなら、べつにいいかと思った。
ようやく生活も落ち着いて、シモンも前のように嫉妬の炎を燃やすことはなくなったように感じた。
アドンも、私を厳しく叱ることはなくなり、少しの失敗は苦笑する程度になった。
だが、そんな状況には別な問題が起きてきたのだ。
私の6時から22時の仕事の間には四度の休憩が許される。それはほとんどアドンのタイミングで「休め」と言われて別室で休憩してもよいのだが、その際に侍女10人と業務を交代する。
アドンは、私に
「そろそろジュラルード伯夫人は休憩した方がよいな。ベッツィ、入ってきたまえ」
というと、ベッツィという私たちと年の近い侍女は、ドアを開けて顔を出す。
「閣下、お呼びですか?」
「うむ。ジュラルード伯夫人は休憩だ。その間、君たちが仕事を代行するように」
「かしこまりました」
ベッツィは一度首を引っ込めて、他の侍女たちを呼ぶ、その侍女たちがお上品にしずしずと入ってくるところで、私は部屋を去るのだが、その時最後尾のベッツィとすれ違う。
彼女は小声で呟くのだ。
「醜聞のジュラルード夫人」
私はそれを聞こえない振りをして部屋を出ていく。
そんな言葉や噂、分かりきっている。ただ聞き流してしていただけ。
アドンは「ジュラルード伯夫人」ともはや伯爵ではない我々に「伯」や「卿」と付けてくれる。それは名誉を重んじる貴族社会での気遣いだろう。
しかしベッツィは……、いやベッツィに限らず市井の民たちだって、私たちのことは「ジュラルード」なのだ。
しかも、あの妻を奪った事件のことは国中に知れ渡っている。だからこその「醜聞の夫人」。
夫がありながら、うぶな貴族に股を開いて誘った女。それにヘコヘコついていった伯爵。子供に追い出された男。働かない夫。
それが我々夫婦なのだ。
私たちが何をしてもよい評価など得られるわけがない。
ベッツィは忠義の人なのだろう。だから私が煙たい。公爵はそんな「醜聞の夫人」を側に置いている。
あの「醜聞の夫人」はまた男をたらしているに違いない。
公爵はそれを知らずに「醜聞の夫人」を使っているのだ。
いやひょっとしたら、その美貌に取り込まれてしまっているのかもしれない。
だからこそ二人で部屋にいて世話をさせるのだ。
そう思っているのだろう。そう思われているのだろう。
だからこそ、私を辞めさせたい。だからこそ、嫌味な言葉をすれ違いざまに言うのだ。
私は休憩室で、まんじりともしないで時間が通りすぎるのを待つ。アドンの元に戻れば、仕事をして嫌なことを忘れられる。
ただ、ただ、アドンの元へ──。
ふっ。誰も知らないのでしょうね。「醜聞の夫人」の犠牲者が、そのリックラック公爵閣下だなんて。そんなこと知ったら、きっとみんな卒倒してしまうに違いないわ。
私は時計を眺め、休憩の終わる時間より早くにアドンの元へと向かう。歩いていれば気が紛れるし、ちょうどの時間に部屋に戻れるもの。
扉の前について、ノックをしようとすると、中からアドンとベッツィ、他の侍女たちが仕事をしながら話している声が聞こえたので耳を澄ませた。
「閣下。ジュラルード夫人とのこと、街の噂になっておりますよ」
「またその話しかね」
「ええ、今日は止めませんよ。閣下のためを思えばこそです。ジュラルード夫人は夫がありながら、伯爵の子を宿したかたです。閣下のお側には相応しくありません」
「ベッツィ、君は私の世話をする女性は処女でなくてはならないという論者なのかね? 私は気にしない」
「そうではありません。彼女は夫がありながら、閣下をたらし込むだろうと言っているのです」
「いや、彼女は私に仕えてからそんな素振りは見せない。ましてや私は人妻に手を出すつもりはないよ。そんな鬼畜に見えるかね?」
その言葉は私の胸に突き刺さる。つまりシモンも私も鬼畜なのだ。アドンはそんなことは絶対にしないだろう。
「では夫人が離婚なすったり、死別なすったら、手は出せると?」
私はその言葉にドキリとした。なぜだろう? なぜなのだろう。私の胸の中に、少しだけあった思いが浮上してくる。
シモンと別れたら、私はもう一度アドンと──。
いや、そんなことは出来ないし、アドンもそれを望んでなどいない。
しかし、アドンはベッツィの問いにまだ回答していなかった。それにベッツィは再度問うた。
「閣下、なぜお答えになってくださいません? 私は、私は……」
「いい加減にしたまえ、ベッツィ。君は私に変な感情を抱いてはいかん。君たちもだ」
アドンは侍女たちの前で手を広げる。それにベッツィは泣いていた。アドンに泣きながら声を荒げた。
「なぜです。身分が違うからですか? 私は閣下が、外から来て以来、ずっとずっとお側でお世話をしました。閣下は私が『令嗣さま』とお呼びました時おっしゃいました。『堅苦しいからアドンでよいよ』と。私にファーストネームで呼ぶことをお許しになられましたよね? ですが私は君臣の境を踏み外しませんでした。あの時から、私は……私は──、それなのに、なぜあの人妻に一切の世話をさせるのです! 私には、させなかったのに……」
ベッツィはそこに泣き崩れてしまったようだった。アドンは座ったまま、他の侍女に指示した。
「君たち。ジュラルード伯夫人に良からぬ感情を持ち合わせていることは知っている。しかし、ベッツィを焚き付けたりすることは止めておくれ。ベッツィは私の大事な友人なのだよ。それは君臣を越えてだ。ベッツィには誰か良い人を紹介してやるつもりだ。今日は疲れているようだから、彼女は休ませてやってくれ。ステラ、後任は君に任せる」
「は、はい」
ステラという侍女は返答したが、ベッツィは暴れて手がつけられないようになっていた。
「な、なぜステラなのです。なぜジュラルード夫人……。私は働けます! 閣下の一番側で……!」
アドンが鈴をならすと、屈強な護衛たちが駆けてきて、私の横を通り過ぎて扉を開ける。
その時、アドンや侍女たちと目があった。ベッツィとも──。
私が話を聞いていたことが分かったのだろう。しかしアドンはすぐに護衛に命じた。
「ベッツィが癇癪の発作をおこした。君たちは押さえて部屋に連れて行き、面倒を見てやってくれ」
護衛たちはたちまちベッツィを抱えて部屋から出ていく。ベッツィは私とすれ違いざまに叫んだ。
「あなたのお陰でリックラックの秩序はめちゃくちゃよ!!」
ベッツィの声が廊下に消えて行く。ステラは率いる侍女たちを壁際に行くよう指示した。
私は入るなりアドンに向かって跪いた。
「閣下。私はベッツィの言うようなそういう女なのです。私に身の回りの世話は重責ですし、閣下の名前に傷が付きます」
「さようか。だがそれは私が判断する。君はこれまで通り私の世話をするのだ。分かったか?」
「あの、しかし、その。私は……」
「分かったかどうかに答えること以外、私は許していない」
「あの、ですが……分かりました」
「そうか。では庭を見に行く。共をせよ」
「はい、閣下……」
私はアドンの背中について行く。他の侍女たちは、庭木の手入れの道具を取りに行ったり、日傘を用意したりの中、私とアドンは少しの間、二人きりになった。
「まあ気にするな……」
「ですが……、ベッツィの気持ちも考えて上げては……?」
アドンは私の顔を見つめた。そして私の頬に手を添えて、顔を自分の方へと向ける。
「君は私にベッツィの気持ちに答えてやれと? ならば君はどうなのだ。君を思っていれば気持ちに答えてくれるのか? 君は昔からとても残酷で、私のことなどさっぱりだな」
そう言って唇を近付けてくる。私は身を引けなかった。そのまま目を閉じてしまったのだ。
しかしアドンは途中で止めて身を離した。
「私は鬼畜にはなりたくない。このことは忘れてくれたまえ」
「閣下、私は、私の気持ちは──」
上手く言葉がでない。シモン、アドン、くるくると回る。アドンが百姓でも好きでいるの? シモンが伯爵のままだったら? 私は何に恋をしているのだろう。なぜこの人を捨ててしまったのだろう……?
考えていると、アドンは私に背を向けてしまった。そして、自慢の庭木の枝をポキリと折ってしまった。
「ジュラルード伯夫人。私は公爵で、六代前の王弟の家系だ。醜聞は許されん。近いうちにロザリー王女との婚約が打診されるだろう。ベッツィが私に恋い焦がれようと、私には妃が出来るのだ。彼女に妃の世話はさせられん。近いうちに暇を出すつもりだ」
アドンはそう言って庭木のほうを見ていた。
つまり……。それは私とも永遠に交差しないということなのだ。
私と公爵は、主人と使用人なだけだと何度言っても、彼の嫉妬は止まらず、駄々っ子のようにがなりたて、最後には欲望を吐き出して終わり。
毎日がその調子。
だがひと月過ぎて、給金が入るとそれはようやく変わった。
私は執事一人と使用人二人、コックを一人雇った。そして借金をしてシモンの好きそうな馬車を一両。二頭だてだが、シモンは気に入ったらしい。すぐにジュラルードの旗を立てていた。
前のマクエガーの屋敷より今の屋敷は小さいので、使用人に馬の世話をしてもらえるし、なにより私は少し寝ていられる。
それくらい破格の給金だから出来たわけだ。
お金に余裕が出来たからだろう、シモンはニコニコだった。数日間、私が出勤する時間には、シモンも同乗して公爵の屋敷に送っていってくれるたのだ。二頭だてのこの馬車には御者含めて三人は少し過積載気味なのだが、シモンの機嫌がよいなら、べつにいいかと思った。
ようやく生活も落ち着いて、シモンも前のように嫉妬の炎を燃やすことはなくなったように感じた。
アドンも、私を厳しく叱ることはなくなり、少しの失敗は苦笑する程度になった。
だが、そんな状況には別な問題が起きてきたのだ。
私の6時から22時の仕事の間には四度の休憩が許される。それはほとんどアドンのタイミングで「休め」と言われて別室で休憩してもよいのだが、その際に侍女10人と業務を交代する。
アドンは、私に
「そろそろジュラルード伯夫人は休憩した方がよいな。ベッツィ、入ってきたまえ」
というと、ベッツィという私たちと年の近い侍女は、ドアを開けて顔を出す。
「閣下、お呼びですか?」
「うむ。ジュラルード伯夫人は休憩だ。その間、君たちが仕事を代行するように」
「かしこまりました」
ベッツィは一度首を引っ込めて、他の侍女たちを呼ぶ、その侍女たちがお上品にしずしずと入ってくるところで、私は部屋を去るのだが、その時最後尾のベッツィとすれ違う。
彼女は小声で呟くのだ。
「醜聞のジュラルード夫人」
私はそれを聞こえない振りをして部屋を出ていく。
そんな言葉や噂、分かりきっている。ただ聞き流してしていただけ。
アドンは「ジュラルード伯夫人」ともはや伯爵ではない我々に「伯」や「卿」と付けてくれる。それは名誉を重んじる貴族社会での気遣いだろう。
しかしベッツィは……、いやベッツィに限らず市井の民たちだって、私たちのことは「ジュラルード」なのだ。
しかも、あの妻を奪った事件のことは国中に知れ渡っている。だからこその「醜聞の夫人」。
夫がありながら、うぶな貴族に股を開いて誘った女。それにヘコヘコついていった伯爵。子供に追い出された男。働かない夫。
それが我々夫婦なのだ。
私たちが何をしてもよい評価など得られるわけがない。
ベッツィは忠義の人なのだろう。だから私が煙たい。公爵はそんな「醜聞の夫人」を側に置いている。
あの「醜聞の夫人」はまた男をたらしているに違いない。
公爵はそれを知らずに「醜聞の夫人」を使っているのだ。
いやひょっとしたら、その美貌に取り込まれてしまっているのかもしれない。
だからこそ二人で部屋にいて世話をさせるのだ。
そう思っているのだろう。そう思われているのだろう。
だからこそ、私を辞めさせたい。だからこそ、嫌味な言葉をすれ違いざまに言うのだ。
私は休憩室で、まんじりともしないで時間が通りすぎるのを待つ。アドンの元に戻れば、仕事をして嫌なことを忘れられる。
ただ、ただ、アドンの元へ──。
ふっ。誰も知らないのでしょうね。「醜聞の夫人」の犠牲者が、そのリックラック公爵閣下だなんて。そんなこと知ったら、きっとみんな卒倒してしまうに違いないわ。
私は時計を眺め、休憩の終わる時間より早くにアドンの元へと向かう。歩いていれば気が紛れるし、ちょうどの時間に部屋に戻れるもの。
扉の前について、ノックをしようとすると、中からアドンとベッツィ、他の侍女たちが仕事をしながら話している声が聞こえたので耳を澄ませた。
「閣下。ジュラルード夫人とのこと、街の噂になっておりますよ」
「またその話しかね」
「ええ、今日は止めませんよ。閣下のためを思えばこそです。ジュラルード夫人は夫がありながら、伯爵の子を宿したかたです。閣下のお側には相応しくありません」
「ベッツィ、君は私の世話をする女性は処女でなくてはならないという論者なのかね? 私は気にしない」
「そうではありません。彼女は夫がありながら、閣下をたらし込むだろうと言っているのです」
「いや、彼女は私に仕えてからそんな素振りは見せない。ましてや私は人妻に手を出すつもりはないよ。そんな鬼畜に見えるかね?」
その言葉は私の胸に突き刺さる。つまりシモンも私も鬼畜なのだ。アドンはそんなことは絶対にしないだろう。
「では夫人が離婚なすったり、死別なすったら、手は出せると?」
私はその言葉にドキリとした。なぜだろう? なぜなのだろう。私の胸の中に、少しだけあった思いが浮上してくる。
シモンと別れたら、私はもう一度アドンと──。
いや、そんなことは出来ないし、アドンもそれを望んでなどいない。
しかし、アドンはベッツィの問いにまだ回答していなかった。それにベッツィは再度問うた。
「閣下、なぜお答えになってくださいません? 私は、私は……」
「いい加減にしたまえ、ベッツィ。君は私に変な感情を抱いてはいかん。君たちもだ」
アドンは侍女たちの前で手を広げる。それにベッツィは泣いていた。アドンに泣きながら声を荒げた。
「なぜです。身分が違うからですか? 私は閣下が、外から来て以来、ずっとずっとお側でお世話をしました。閣下は私が『令嗣さま』とお呼びました時おっしゃいました。『堅苦しいからアドンでよいよ』と。私にファーストネームで呼ぶことをお許しになられましたよね? ですが私は君臣の境を踏み外しませんでした。あの時から、私は……私は──、それなのに、なぜあの人妻に一切の世話をさせるのです! 私には、させなかったのに……」
ベッツィはそこに泣き崩れてしまったようだった。アドンは座ったまま、他の侍女に指示した。
「君たち。ジュラルード伯夫人に良からぬ感情を持ち合わせていることは知っている。しかし、ベッツィを焚き付けたりすることは止めておくれ。ベッツィは私の大事な友人なのだよ。それは君臣を越えてだ。ベッツィには誰か良い人を紹介してやるつもりだ。今日は疲れているようだから、彼女は休ませてやってくれ。ステラ、後任は君に任せる」
「は、はい」
ステラという侍女は返答したが、ベッツィは暴れて手がつけられないようになっていた。
「な、なぜステラなのです。なぜジュラルード夫人……。私は働けます! 閣下の一番側で……!」
アドンが鈴をならすと、屈強な護衛たちが駆けてきて、私の横を通り過ぎて扉を開ける。
その時、アドンや侍女たちと目があった。ベッツィとも──。
私が話を聞いていたことが分かったのだろう。しかしアドンはすぐに護衛に命じた。
「ベッツィが癇癪の発作をおこした。君たちは押さえて部屋に連れて行き、面倒を見てやってくれ」
護衛たちはたちまちベッツィを抱えて部屋から出ていく。ベッツィは私とすれ違いざまに叫んだ。
「あなたのお陰でリックラックの秩序はめちゃくちゃよ!!」
ベッツィの声が廊下に消えて行く。ステラは率いる侍女たちを壁際に行くよう指示した。
私は入るなりアドンに向かって跪いた。
「閣下。私はベッツィの言うようなそういう女なのです。私に身の回りの世話は重責ですし、閣下の名前に傷が付きます」
「さようか。だがそれは私が判断する。君はこれまで通り私の世話をするのだ。分かったか?」
「あの、しかし、その。私は……」
「分かったかどうかに答えること以外、私は許していない」
「あの、ですが……分かりました」
「そうか。では庭を見に行く。共をせよ」
「はい、閣下……」
私はアドンの背中について行く。他の侍女たちは、庭木の手入れの道具を取りに行ったり、日傘を用意したりの中、私とアドンは少しの間、二人きりになった。
「まあ気にするな……」
「ですが……、ベッツィの気持ちも考えて上げては……?」
アドンは私の顔を見つめた。そして私の頬に手を添えて、顔を自分の方へと向ける。
「君は私にベッツィの気持ちに答えてやれと? ならば君はどうなのだ。君を思っていれば気持ちに答えてくれるのか? 君は昔からとても残酷で、私のことなどさっぱりだな」
そう言って唇を近付けてくる。私は身を引けなかった。そのまま目を閉じてしまったのだ。
しかしアドンは途中で止めて身を離した。
「私は鬼畜にはなりたくない。このことは忘れてくれたまえ」
「閣下、私は、私の気持ちは──」
上手く言葉がでない。シモン、アドン、くるくると回る。アドンが百姓でも好きでいるの? シモンが伯爵のままだったら? 私は何に恋をしているのだろう。なぜこの人を捨ててしまったのだろう……?
考えていると、アドンは私に背を向けてしまった。そして、自慢の庭木の枝をポキリと折ってしまった。
「ジュラルード伯夫人。私は公爵で、六代前の王弟の家系だ。醜聞は許されん。近いうちにロザリー王女との婚約が打診されるだろう。ベッツィが私に恋い焦がれようと、私には妃が出来るのだ。彼女に妃の世話はさせられん。近いうちに暇を出すつもりだ」
アドンはそう言って庭木のほうを見ていた。
つまり……。それは私とも永遠に交差しないということなのだ。
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