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出会い編
第三十七回 徐州奪還 二
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さて、徐州奪還を目指す益徳さんのほうに移りますよ。
益徳さんは呂布の本拠地である下邳へと向かいます。こちらには曹操さまの本隊である、曹仁さま、曹洪さまが率いる七万の兵がおります。
そしてそちらに向かうのは益徳さん一万、雲長さん一万、兄者さん五千、曹操さま二万の大軍です。
この大軍で途中にある呂布側の拠点、彭城を攻めることとなりました。
彭城には、小沛から退却した高順ら各将が守っております。張遼はいないようです。
ここの主将は曹操さまですから、勝手に戦を仕掛けるわけにはいきません。どうするのか三人まとまって指示を待っていると、曹操さまの使者がやって参りました。
「劉備どの、関羽どの、張飛どの。閣下がお待ちです」
あらあらあら? いつもなら兄者さんだけ呼ばれるのに、今回は三人まとめてです。それだけ曹操さまは雲長さんと益徳さんの力を認めたというわけですわね。
三人で曹操さまの陣にやって来て平伏します。
「我ら三人義兄弟が閣下に拝謁いたします」
「うむ。三人とも面を上げよ。そして近うよれ」
「「「はは!!」」」
三人とも膝を使って曹操さまの前に進み出ます。
「三人とも。彭城は見ての通り、城壁高く堀は深い。こんなところを陥落させるには、相当の兵力が必要だ。無理に攻めていたずらに兵力を損なってはいかん」
「誠にその通りです。いかが致しましょう」
兄者さんが聞くと、曹操さまは待ってましたとばかりニヤリと微笑みました。
「高順を野戦に誘い込む。張飛よ、そなたは野戦が得意であろう」
「は、はい。恐れながら……」
「余と劉備は曹仁の待つ、下邳の陣へ向かう。関羽は後陣として輜重を任す。張飛はさらに後ろの殿である。しかも千兵でな」
この輜重とは食糧や物資を運ぶ係です。曹操さまは前に戦闘部隊、後ろに支援部隊を置いて、彭城は相手にしないと言っているのです。これは大変危険です。物資を狙われたら、すぐにこの大軍は飢えてしまいますから。
さすがに兄者さんも指摘しました。
「閣下……、それは危険ではありませんか?」
それを聞いて曹操さまの隣にいた郭嘉さんがクスリと笑います。曹操さまも微笑み、さらに作戦の詳細を伝えました。
◇
さて次の朝、高順が城壁に登ると曹操さまの陣が空で人っ子一人おりません。
高順とて名のある将です。ピンと来て仲間の将校を呼びました。
「成廉、曹性。見よ」
「こ、これは……?」
「曹操はなぜ陣払いを?」
「曹操の腹は分かる。呂将軍のいる下邳に向かったのよ。あちらを落とせば我らは帰る城を失う。籠城などしているマヌケな奴らと笑いながら去ったのよ」
「くぬぅ……!」
しかし高順はニヤリと笑います。
「これは我らをおびき寄せる作戦だ」
「と言うと?」
「見よ」
高順が指さしたのは地面です。そこには兵の足跡と、荷車の車輪の後がありました。
「おそらく大軍を先に行かせ、輜重隊を後から行かせている。殿の数もごく僅か」
「なるほどのぅ」
成廉、曹性は納得して頷きました。
「つまり我々のすることは、僅かな殿を蹴散らし、輜重隊を襲い、物資は全て彭城へ運んでしまう。そうすれば曹操は飢えて国に帰らざるを得なくなる」
「おお! それはよい!」
しかし高順は喜ぶ二人を片手を上げて制します。
「それが曹操の作戦だ。アイツは策士だからな。我々を知無しと侮って、分かりやすい作戦を立てたのよ。そのように追撃すれば我らは一網打尽となる」
「ああ! なるほど……!」
高順は、逆に後方を指差しました。
「アイツの作戦に乗った振りをする。ここにいる一万の兵のうち、三千を率いて儂が輜重隊を狙う振りをする。それにアイツらは応戦するだろう。負けた振りをしてさっさと彭城に入ってしまうのさ」
「うむ」
「そして曹性!」
「おう!」
「そなたはその間に五千の兵を率いて、もぬけの殻になった小沛を再度落とすのだ!」
「おお! それはいい!」
「曹操もまさか城を取られるとは思ってないだろう。そのまさかをやってやる。それに小沛を取れば許の都は近い。そうすれば戦どころではなくなるぞ!」
「まさに! さっそくそれをやろう!」
との算段がまとまりました。高順も戦慣れしている歴戦の猛者ですから、曹操さまの作戦に感づいたのです。
高順は作戦通り出陣太鼓をならし、関羽さん率いる輜重隊を目指して駆けて行きます。とは言え、小競り合いをして彭城に帰る考えです。後方の兵士はいつでも城へ帰れる体勢でした。
高順が輜重隊を見つけると立ちはだかったのは益徳さん率いる千の兵です。
「千か……。蹴散らせんこともないが敵将は張飛だ。油断はできんぞ」
高順はそう呟くと牽制しようと前に出ます。しかし益徳さんの率いる兵は、少し小競り合いをすると早々と逃げ腰になってしまいました。
「退けっ! 退けっ!」
「逃げろ、逃げろ!」
まるで蜘蛛の子を散らすように逃げるので、これは訓練が行き届いていないと高順は思いましたが、策略ではないかと疑っております。ですが、まだ城にすぐ駆け込める距離でしたので、少しだけ追うと、益徳さんの兵士たちは、逃げ腰ながらも反転して抵抗するので、また小競り合いが始まりました。
「やはり敵わん」
「無理だ、逃げろ!」
そう言って、パッと逃げ出してしまいます。最初千ほどいたと思われた兵士たちも、広がりながら逃げるので、五百、三百と寡兵がますます寡兵となるので、高順は策略かもしれないという疑心を忘れて追い始め、目の前には雲長さんの輜重隊まで見えてきましたので、一度兵士たちの直進を止めました。
「いささか深入りしたが、敵に備えはなさそうだ。このまま輜重隊に切り込んで物資を焼いてしまうのも悪くない。さあ攻めよ!」
高順の兵士たちもここが暴れどころと一気に荷車へと近づきましたが、彭城のほうから、ざわめきと黒い煙が上がるのが見えます。
「いかん! 敵に備えがあったぞ!」
と叫んだところに逃げていた兵士が隊列を組んで高順の兵士へと転進してきたので大変です。
「退け! 退け! 彭城に戻れ!」
高順は、さっさと踵を返して城へと戻ります。兵士たちもそれを追って走りました。
もう少しで彭城というところで、前方から部隊がやって参ります。その数は百人に満たないようです。旗はどうやら小沛に向かわせた曹性のようでした。
「やや! 曹性ではないか! 小沛はどうした!?」
「いけません。曹操の罠です。小沛に向かう途中で、于禁と陳到の待ち伏せに合いこの通りです。城は関羽に奪われ成廉は行方知れず。仕方ありません。下邳の呂布どのの元に帰りましょう」
「馬鹿! そんなことをしてみよ。呂布どのの気性だ。我々は許されんぞ!」
「かといってこのままでは敵に討ち取られるばかり。なんとか陳宮どのに取りなして貰うしかありますまい」
「ぬ、ぬぅ……」
この時すでに成廉は雲長さんによって討ち取られていました。何しろ呂布一党は恩を忘れて徐州を奪った憎いやつですからね。
高順は、下邳の方向に馬首を返しますが、すでにそちらには一団が待ち構えております。
「くそ! 下がっても関羽がいる。こうなったら前の兵を破って血路を開くしかない!」
高順は号令をかけると、まさに孫子に曰く『死地は則ち戦う』ですわ。兵士たちは生きるために、必死になって一団に切り込んで行きます。
「よう、威勢がいいな! そうこなくっちゃ!」
「ち、張飛だと!?」
ととと、待ち構えていたのは益徳さんです。呂布の兵は益徳さんの勇猛さを知ってますし、あちらこちらに徐州出身の兵もおります。もちろん徐州の人たちは益徳さんを知っておりますから、武器を捨てて投降してしまいました。
「お、おい! 戦え!」
高順と曹性は叫びますが、兵士の威勢はどこへやら。すでに意気消沈であります。
「だったら、お前らが手本を見せやがれ!」
と益徳さんは、伯父さまからもらった駿馬の腹を蹴って猛スピードで迫るものですから、二人は完全に面食らって体勢を整えるのに時間がかかります。
こればスポーツではなく、戦場ですから『宋襄の仁』な真似はしてられませんからね、益徳さんは素早く矛を横薙ぎにすると、高順は落馬し、曹性は討ち取られてしまいました。
「たった一撃だ……」
「ひいいい、張将軍。我々は降ります」
と高順の兵士たちは降伏したので、益徳さんは兵士たちに命じて高順を捕虜にしました。
「くそっ! 無念!」
「呂布の片棒を担ぐ賊め! お前には縄をくれてやる!」
こうして名将高順は、囚人車に乗せられて曹操さまの元へと運ばれていきました。
そして曹操さまの軍隊は呂布のいる下邳へと駒を進めたのでした。
益徳さんは呂布の本拠地である下邳へと向かいます。こちらには曹操さまの本隊である、曹仁さま、曹洪さまが率いる七万の兵がおります。
そしてそちらに向かうのは益徳さん一万、雲長さん一万、兄者さん五千、曹操さま二万の大軍です。
この大軍で途中にある呂布側の拠点、彭城を攻めることとなりました。
彭城には、小沛から退却した高順ら各将が守っております。張遼はいないようです。
ここの主将は曹操さまですから、勝手に戦を仕掛けるわけにはいきません。どうするのか三人まとまって指示を待っていると、曹操さまの使者がやって参りました。
「劉備どの、関羽どの、張飛どの。閣下がお待ちです」
あらあらあら? いつもなら兄者さんだけ呼ばれるのに、今回は三人まとめてです。それだけ曹操さまは雲長さんと益徳さんの力を認めたというわけですわね。
三人で曹操さまの陣にやって来て平伏します。
「我ら三人義兄弟が閣下に拝謁いたします」
「うむ。三人とも面を上げよ。そして近うよれ」
「「「はは!!」」」
三人とも膝を使って曹操さまの前に進み出ます。
「三人とも。彭城は見ての通り、城壁高く堀は深い。こんなところを陥落させるには、相当の兵力が必要だ。無理に攻めていたずらに兵力を損なってはいかん」
「誠にその通りです。いかが致しましょう」
兄者さんが聞くと、曹操さまは待ってましたとばかりニヤリと微笑みました。
「高順を野戦に誘い込む。張飛よ、そなたは野戦が得意であろう」
「は、はい。恐れながら……」
「余と劉備は曹仁の待つ、下邳の陣へ向かう。関羽は後陣として輜重を任す。張飛はさらに後ろの殿である。しかも千兵でな」
この輜重とは食糧や物資を運ぶ係です。曹操さまは前に戦闘部隊、後ろに支援部隊を置いて、彭城は相手にしないと言っているのです。これは大変危険です。物資を狙われたら、すぐにこの大軍は飢えてしまいますから。
さすがに兄者さんも指摘しました。
「閣下……、それは危険ではありませんか?」
それを聞いて曹操さまの隣にいた郭嘉さんがクスリと笑います。曹操さまも微笑み、さらに作戦の詳細を伝えました。
◇
さて次の朝、高順が城壁に登ると曹操さまの陣が空で人っ子一人おりません。
高順とて名のある将です。ピンと来て仲間の将校を呼びました。
「成廉、曹性。見よ」
「こ、これは……?」
「曹操はなぜ陣払いを?」
「曹操の腹は分かる。呂将軍のいる下邳に向かったのよ。あちらを落とせば我らは帰る城を失う。籠城などしているマヌケな奴らと笑いながら去ったのよ」
「くぬぅ……!」
しかし高順はニヤリと笑います。
「これは我らをおびき寄せる作戦だ」
「と言うと?」
「見よ」
高順が指さしたのは地面です。そこには兵の足跡と、荷車の車輪の後がありました。
「おそらく大軍を先に行かせ、輜重隊を後から行かせている。殿の数もごく僅か」
「なるほどのぅ」
成廉、曹性は納得して頷きました。
「つまり我々のすることは、僅かな殿を蹴散らし、輜重隊を襲い、物資は全て彭城へ運んでしまう。そうすれば曹操は飢えて国に帰らざるを得なくなる」
「おお! それはよい!」
しかし高順は喜ぶ二人を片手を上げて制します。
「それが曹操の作戦だ。アイツは策士だからな。我々を知無しと侮って、分かりやすい作戦を立てたのよ。そのように追撃すれば我らは一網打尽となる」
「ああ! なるほど……!」
高順は、逆に後方を指差しました。
「アイツの作戦に乗った振りをする。ここにいる一万の兵のうち、三千を率いて儂が輜重隊を狙う振りをする。それにアイツらは応戦するだろう。負けた振りをしてさっさと彭城に入ってしまうのさ」
「うむ」
「そして曹性!」
「おう!」
「そなたはその間に五千の兵を率いて、もぬけの殻になった小沛を再度落とすのだ!」
「おお! それはいい!」
「曹操もまさか城を取られるとは思ってないだろう。そのまさかをやってやる。それに小沛を取れば許の都は近い。そうすれば戦どころではなくなるぞ!」
「まさに! さっそくそれをやろう!」
との算段がまとまりました。高順も戦慣れしている歴戦の猛者ですから、曹操さまの作戦に感づいたのです。
高順は作戦通り出陣太鼓をならし、関羽さん率いる輜重隊を目指して駆けて行きます。とは言え、小競り合いをして彭城に帰る考えです。後方の兵士はいつでも城へ帰れる体勢でした。
高順が輜重隊を見つけると立ちはだかったのは益徳さん率いる千の兵です。
「千か……。蹴散らせんこともないが敵将は張飛だ。油断はできんぞ」
高順はそう呟くと牽制しようと前に出ます。しかし益徳さんの率いる兵は、少し小競り合いをすると早々と逃げ腰になってしまいました。
「退けっ! 退けっ!」
「逃げろ、逃げろ!」
まるで蜘蛛の子を散らすように逃げるので、これは訓練が行き届いていないと高順は思いましたが、策略ではないかと疑っております。ですが、まだ城にすぐ駆け込める距離でしたので、少しだけ追うと、益徳さんの兵士たちは、逃げ腰ながらも反転して抵抗するので、また小競り合いが始まりました。
「やはり敵わん」
「無理だ、逃げろ!」
そう言って、パッと逃げ出してしまいます。最初千ほどいたと思われた兵士たちも、広がりながら逃げるので、五百、三百と寡兵がますます寡兵となるので、高順は策略かもしれないという疑心を忘れて追い始め、目の前には雲長さんの輜重隊まで見えてきましたので、一度兵士たちの直進を止めました。
「いささか深入りしたが、敵に備えはなさそうだ。このまま輜重隊に切り込んで物資を焼いてしまうのも悪くない。さあ攻めよ!」
高順の兵士たちもここが暴れどころと一気に荷車へと近づきましたが、彭城のほうから、ざわめきと黒い煙が上がるのが見えます。
「いかん! 敵に備えがあったぞ!」
と叫んだところに逃げていた兵士が隊列を組んで高順の兵士へと転進してきたので大変です。
「退け! 退け! 彭城に戻れ!」
高順は、さっさと踵を返して城へと戻ります。兵士たちもそれを追って走りました。
もう少しで彭城というところで、前方から部隊がやって参ります。その数は百人に満たないようです。旗はどうやら小沛に向かわせた曹性のようでした。
「やや! 曹性ではないか! 小沛はどうした!?」
「いけません。曹操の罠です。小沛に向かう途中で、于禁と陳到の待ち伏せに合いこの通りです。城は関羽に奪われ成廉は行方知れず。仕方ありません。下邳の呂布どのの元に帰りましょう」
「馬鹿! そんなことをしてみよ。呂布どのの気性だ。我々は許されんぞ!」
「かといってこのままでは敵に討ち取られるばかり。なんとか陳宮どのに取りなして貰うしかありますまい」
「ぬ、ぬぅ……」
この時すでに成廉は雲長さんによって討ち取られていました。何しろ呂布一党は恩を忘れて徐州を奪った憎いやつですからね。
高順は、下邳の方向に馬首を返しますが、すでにそちらには一団が待ち構えております。
「くそ! 下がっても関羽がいる。こうなったら前の兵を破って血路を開くしかない!」
高順は号令をかけると、まさに孫子に曰く『死地は則ち戦う』ですわ。兵士たちは生きるために、必死になって一団に切り込んで行きます。
「よう、威勢がいいな! そうこなくっちゃ!」
「ち、張飛だと!?」
ととと、待ち構えていたのは益徳さんです。呂布の兵は益徳さんの勇猛さを知ってますし、あちらこちらに徐州出身の兵もおります。もちろん徐州の人たちは益徳さんを知っておりますから、武器を捨てて投降してしまいました。
「お、おい! 戦え!」
高順と曹性は叫びますが、兵士の威勢はどこへやら。すでに意気消沈であります。
「だったら、お前らが手本を見せやがれ!」
と益徳さんは、伯父さまからもらった駿馬の腹を蹴って猛スピードで迫るものですから、二人は完全に面食らって体勢を整えるのに時間がかかります。
こればスポーツではなく、戦場ですから『宋襄の仁』な真似はしてられませんからね、益徳さんは素早く矛を横薙ぎにすると、高順は落馬し、曹性は討ち取られてしまいました。
「たった一撃だ……」
「ひいいい、張将軍。我々は降ります」
と高順の兵士たちは降伏したので、益徳さんは兵士たちに命じて高順を捕虜にしました。
「くそっ! 無念!」
「呂布の片棒を担ぐ賊め! お前には縄をくれてやる!」
こうして名将高順は、囚人車に乗せられて曹操さまの元へと運ばれていきました。
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