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第7話 力士
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シーンが大力を得たことは誰も知らなかったし、シーンやエイミーもそれを見せつけようとなぞしなかった。普段のようにはしゃいで遊ぶだけ。
伯爵家に住む人々は、シーンとエイミーのことをただ子どものように遊ぶ、無害なものとしか思わなかったのだ。
明くる日、夜半に大雨が降ってシーンとエイミーが起きると、池の水が溢れそうである。小川の流れも激しいので二人は楽しくなってまた大はしゃぎである。
釣りざおを持ち網を抱えるシーンの後ろに、エイミーはバケツを持って駆けずり回った。
するとその遊びの途中、屋敷内の農夫たちが畑に向かうのに大きく迂回しているのが見えたので、シーンとエイミーははしゃぎながらそれに近づいて行った。
「うお、うお、うお」
声をかけられた農夫たちは振り返ると、そこには大男のシーンがにこやかに立っているので笑顔で帽子を取って一礼した。
「ああ、これはご領主のシーンさま。それにお友達のエイミーさま」
「ねぇ、どうして家から近い畑にいくのに遠回りするのかしら」
エイミーが訪ねると、農夫たちは困った顔をした。
「それが小山の土砂が崩れ、大きな岩が畑に行く道を塞いでしまったのです」
「あれでは荷車も通れませんし。かといって仕事もあるのでと放置しているところです」
そういうと、シーンは大きく自分の胸を叩いた。そしてエイミーも微笑む。その意味が分からず農夫はたずねた。
「どうなすったんで?」
「シーンさまは、みんなの窮状を理解して解決して下さるという志しなのよ」
「まさか。あの岩を? 大人二十人でも動かせませんぜ」
「うお、うお、うお」
シーンはにこやかに落ちている棒を拾うと、それを楽しそうに振り回しながら農夫たちの案内する岩の方へと向かった。それはそれは大きな岩。
農夫たちの言う通りだった。シーンの二倍程もあり、一抱えなどできるわけもない。農夫たちはそれをみてため息をついた。
「休日にでも縄でくくってみんなでひっぱって道の端にでも置こうと思ってたんでさぁ」
それにまたもやエイミーは微笑んで答えた。
「ふふ。大丈夫よ。シーンさまにまかせておきなさい」
「うお、うお、うお」
シーンは諸手を上げて岩に向かう。農夫たちはこんな子どもの遊びに付き合ってはいられないと言う顔をしてはいたが、領主なのでなにもいえずにいると、シーンは大きな岩をひょいと掴んだと思うと、持ち上げて道の端に置いてしまった。
農夫たちは目を丸くしたが、二人はお礼も聞かずにさっさと次の遊びをしようと走り出してしまった。
「な、なーんだべ。うすのろだとばかり思っていたら」
「なんとも、人並み外れた力の持ち主じゃ!」
「それに、お優しい心を持ってらっしゃる!」
農夫たちは仕事を忘れて、遊ぶ二人の姿を目で追いかけていた。
数日が経つとその話は当然のようにアルベルトとジュノンの耳にも入った。しかし二人は幼い頃からシーンのことをよく知っていたので、話とは尾鰭が付いて大きくなるものだと初めのうちは信じなかった。
指すら満足に動かすことの出来ないシーンにできるはずがないと思ったからである。
しかし何気なく裏庭にある大岩を見つけて驚いた。道の端にあるそれは使用人たちがいっていた大岩ではないかと、ジュノンを呼んでそれを見せた。
ジュノンも驚いて、すぐさま二人はシーンとエイミーを呼んだ。二人はいつものように遊んでいたが二人のお召しとなると嬉しそうに飛んできた。
「グラムーン司令。お呼びですかぁ?」
「うほうほ」
なんとも能天気な二人だが、アルベルトは息を飲んで訪ねる。
「シーン。君はあの岩が動かせるのかね?」
するとシーンは笑顔で大きく頷いた。そして、足を踏ん張って力こぶを作る。
「まあシーンさま。頼もしいわー!」
「うほうほ」
そう言って岩に組付いたかと思うと、軽々と持ち上げてしまう。アルベルトは腰が抜けそうなほど驚いたがそれだけではなかった。
両手で持ち上げた大岩を片手に持ち替えて、空中に二度ほど放ったのだ。これにはアルベルトもジュノンも口を開けたまま。
そうしているとシーンは岩を下におろして笑顔で近づいてきた。
「うほー!」
「すごい、すごい。さすがシーンさま!」
はしゃいでいる二人に、口を開けたまま話すこともままならない二人。アルベルトはようやく落ち着いてシーンとエイミーを下がらせ、自分たちは部屋へと戻った。
そしてアルベルトとジュノンはようやく喜んだ。生まれてから話すことも読み書きも出来なかった我が子が、あんなに人並み外れた力を持っていたとは。
これならば、自分の後を継いで城塞の司令官となったときでも部下に見くびられることもあるまいと嬉しくなったのだ。
しかし自分たちはシーンの力を知らなかったのに、エイミーはまるで最初から知っていたようだったと思った。
しかもそんなシーンを慕ってくれているようで、時期を見てシーンの嫁にきてくれるよう頼み込んでみようと考えたのだった。
伯爵家に住む人々は、シーンとエイミーのことをただ子どものように遊ぶ、無害なものとしか思わなかったのだ。
明くる日、夜半に大雨が降ってシーンとエイミーが起きると、池の水が溢れそうである。小川の流れも激しいので二人は楽しくなってまた大はしゃぎである。
釣りざおを持ち網を抱えるシーンの後ろに、エイミーはバケツを持って駆けずり回った。
するとその遊びの途中、屋敷内の農夫たちが畑に向かうのに大きく迂回しているのが見えたので、シーンとエイミーははしゃぎながらそれに近づいて行った。
「うお、うお、うお」
声をかけられた農夫たちは振り返ると、そこには大男のシーンがにこやかに立っているので笑顔で帽子を取って一礼した。
「ああ、これはご領主のシーンさま。それにお友達のエイミーさま」
「ねぇ、どうして家から近い畑にいくのに遠回りするのかしら」
エイミーが訪ねると、農夫たちは困った顔をした。
「それが小山の土砂が崩れ、大きな岩が畑に行く道を塞いでしまったのです」
「あれでは荷車も通れませんし。かといって仕事もあるのでと放置しているところです」
そういうと、シーンは大きく自分の胸を叩いた。そしてエイミーも微笑む。その意味が分からず農夫はたずねた。
「どうなすったんで?」
「シーンさまは、みんなの窮状を理解して解決して下さるという志しなのよ」
「まさか。あの岩を? 大人二十人でも動かせませんぜ」
「うお、うお、うお」
シーンはにこやかに落ちている棒を拾うと、それを楽しそうに振り回しながら農夫たちの案内する岩の方へと向かった。それはそれは大きな岩。
農夫たちの言う通りだった。シーンの二倍程もあり、一抱えなどできるわけもない。農夫たちはそれをみてため息をついた。
「休日にでも縄でくくってみんなでひっぱって道の端にでも置こうと思ってたんでさぁ」
それにまたもやエイミーは微笑んで答えた。
「ふふ。大丈夫よ。シーンさまにまかせておきなさい」
「うお、うお、うお」
シーンは諸手を上げて岩に向かう。農夫たちはこんな子どもの遊びに付き合ってはいられないと言う顔をしてはいたが、領主なのでなにもいえずにいると、シーンは大きな岩をひょいと掴んだと思うと、持ち上げて道の端に置いてしまった。
農夫たちは目を丸くしたが、二人はお礼も聞かずにさっさと次の遊びをしようと走り出してしまった。
「な、なーんだべ。うすのろだとばかり思っていたら」
「なんとも、人並み外れた力の持ち主じゃ!」
「それに、お優しい心を持ってらっしゃる!」
農夫たちは仕事を忘れて、遊ぶ二人の姿を目で追いかけていた。
数日が経つとその話は当然のようにアルベルトとジュノンの耳にも入った。しかし二人は幼い頃からシーンのことをよく知っていたので、話とは尾鰭が付いて大きくなるものだと初めのうちは信じなかった。
指すら満足に動かすことの出来ないシーンにできるはずがないと思ったからである。
しかし何気なく裏庭にある大岩を見つけて驚いた。道の端にあるそれは使用人たちがいっていた大岩ではないかと、ジュノンを呼んでそれを見せた。
ジュノンも驚いて、すぐさま二人はシーンとエイミーを呼んだ。二人はいつものように遊んでいたが二人のお召しとなると嬉しそうに飛んできた。
「グラムーン司令。お呼びですかぁ?」
「うほうほ」
なんとも能天気な二人だが、アルベルトは息を飲んで訪ねる。
「シーン。君はあの岩が動かせるのかね?」
するとシーンは笑顔で大きく頷いた。そして、足を踏ん張って力こぶを作る。
「まあシーンさま。頼もしいわー!」
「うほうほ」
そう言って岩に組付いたかと思うと、軽々と持ち上げてしまう。アルベルトは腰が抜けそうなほど驚いたがそれだけではなかった。
両手で持ち上げた大岩を片手に持ち替えて、空中に二度ほど放ったのだ。これにはアルベルトもジュノンも口を開けたまま。
そうしているとシーンは岩を下におろして笑顔で近づいてきた。
「うほー!」
「すごい、すごい。さすがシーンさま!」
はしゃいでいる二人に、口を開けたまま話すこともままならない二人。アルベルトはようやく落ち着いてシーンとエイミーを下がらせ、自分たちは部屋へと戻った。
そしてアルベルトとジュノンはようやく喜んだ。生まれてから話すことも読み書きも出来なかった我が子が、あんなに人並み外れた力を持っていたとは。
これならば、自分の後を継いで城塞の司令官となったときでも部下に見くびられることもあるまいと嬉しくなったのだ。
しかし自分たちはシーンの力を知らなかったのに、エイミーはまるで最初から知っていたようだったと思った。
しかもそんなシーンを慕ってくれているようで、時期を見てシーンの嫁にきてくれるよう頼み込んでみようと考えたのだった。
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