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2.矢納歯科医院の宇宙人
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扉を開けて一歩踏み出すと、そこは白い部屋だった。
白い壁。白い床。置いてある白いソファー。
その白いソファーに座っていた人が立ち上がった。この人物も全て白に覆われている。
白いズボンに白い上着。白い帽子に白いマスク。
立ち上がったのは長身の男だ。深く被った帽子で顔は見えない。
この格好は、さっき治療してくれた先生と同じだ。この男も矢納歯科医院の先生に違いない。
そう納得して先生に挨拶をしようと口を開いた。
――その前に声をかけられた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
どうぞと、先生の向かいのソファーに手のひらで場所を示される。
優しそうな声につられ、素直に指し示られたソファーに座った。先生も再びソファーに腰を落とす。
思った事を聞いてみる。
「あの。矢納歯科医院の先生ですよね?」
「違います」
速攻否定された。
「あ、すみません」
違ったようだ。診察する先生じゃなくて研修員とかなんだろうか。先生を名乗るほとではない、みたいな。
でも、あれ? とふと気づく。
そういえばおかしくない?
確かに私は矢野歯科医院の外へ出た。矢納歯科医院は狭い道路沿いにある歯医者で、出口を出たら確か外は道路だったはず。
この部屋って何?
「あの。この部屋も矢野歯科医院の部屋ですよね?」
「違います」
またも速攻否定された。
何を言ったらいいのか分からなくて黙ってしまう。
すると目の前の男が、深く被っていた帽子を取った。
そこに見えた顔は――
えっ!めっちゃイケメン!!
燻したような銀色に髪を染めた、オシャレなイケメンがでてきた。カラコンを入れた眼の色も、髪の色より少し濃い燻し銀。
こだわりカラーっぽい感じが、オシャレ人レベルの高さを物語り、落ち着かなく居心地が悪いような気分になる。
私の今日の格好は、ご近所スタイルだ。オシャレ上級者の前に立つなんて、そんな無謀な事をしてはいけない日なのだ。今すぐ立ち去りたい。
そわそわし出した私に、オシャレ上級者イケメンが声をかけてくる。
「ここはヤノー王国です。あなたをやっとここへ迎えることが出来ました。先ほどの歯医者の姿をした者は、あなたを迎えに行ったヤノー国の諜報機関の者なんですよ」
「ええっ!!!」
驚く私に追い討ちをかける。
「私達は、あなたが先ほどまでいた世界では、宇宙人と呼ばれる存在になります。私達からすれば、あちらの世界の人々の方が宇宙人という認識ですが」
え?宇宙人?
幼い頃からお世話になっていたご近所の歯医者さんは、まさかの宇宙人だったらしい。
――どおりで治療の度にUFOと宇宙人の事を考える訳だ。
そして私の世界の人も、宇宙人認識されていた。
目の前の男も宇宙人だが、私達もまた宇宙人。
――わけが分からない。
「あなたは幼い頃、ヤノー国から宇宙人に攫われて、先ほどの世界へ拉致されていたのです。ヤノー国があなたの本当の生まれ故郷なんですよ。やっと戻れましたね。お帰りなさい」
今までよく頑張りましたね、大変だったでしょうと慰められる。
「あ、はい。どうも」
素直に返事してしまう。
人は驚きの許容量を越えると、目の前の事を受け入れてしまうらしい。
「大丈夫ですよ。もう先ほどの世界に戻されることは無いですから。
ヤノー国と矢納歯科医院の道は閉ざされました。もう2度と繋がることはないし、繋げようとする事も出来ません。だから安心してくださいね」
優しい声で労われる。
え?それって安心する事?もう帰れないの?
いや確かに私に家族はいないけど。でも不自由なくそれなりに楽しんで生きてきたのだ。
え?この状況ヤバくない?
動揺し始めた私に気づくと、私を落ち着かせるように穏やかに微笑んだ後、彼は言う。
「ヤノー国と矢納歯科医院が繋がる道が、なかなか安定しなかったのです。
道が繋がる時と貴方が治療に来る時。ここが合うタイミングはそうそう無く、その機会を私達はずっと図っていました。
それで今日までお待たせしてしまった、という訳なのです」
申し訳ありませんと男が頭を下げたあと、話を続ける。
「今まで『定期的な検診を』と勧めてきたのは、あの世界の宇宙人達に気付かれないように、自然な形で帰還してもらうためだったのです」
え?毎回の検診を勧めてたのって、虫歯の予防の為じゃなかったの?
私は、ここへ拉致される運命しかなかったって事?マジか。
「ヤノー国へお迎えできる日を、ずっとお待ちしていました」
そう切なそうに語る男。
検診をサボる常習犯の私は、その言葉に決まりが悪くなる。
「すみません」
「いいえ。今はこうして無事帰れたのですから。これからゆっくりヤノー国に慣れていきましょう」
私がこの世界の国で暮らす事を、あまりに当然の事のように話す男。
もしかしたら、この現実を受け入れるのが当たり前なのかも、と思い始める。おかしいと思う私の方がおかしいのか。
「さぁ行きましょう」
「あ、はい」
そうして私のヤノー国での暮らしが始まった。
白い壁。白い床。置いてある白いソファー。
その白いソファーに座っていた人が立ち上がった。この人物も全て白に覆われている。
白いズボンに白い上着。白い帽子に白いマスク。
立ち上がったのは長身の男だ。深く被った帽子で顔は見えない。
この格好は、さっき治療してくれた先生と同じだ。この男も矢納歯科医院の先生に違いない。
そう納得して先生に挨拶をしようと口を開いた。
――その前に声をかけられた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
どうぞと、先生の向かいのソファーに手のひらで場所を示される。
優しそうな声につられ、素直に指し示られたソファーに座った。先生も再びソファーに腰を落とす。
思った事を聞いてみる。
「あの。矢納歯科医院の先生ですよね?」
「違います」
速攻否定された。
「あ、すみません」
違ったようだ。診察する先生じゃなくて研修員とかなんだろうか。先生を名乗るほとではない、みたいな。
でも、あれ? とふと気づく。
そういえばおかしくない?
確かに私は矢野歯科医院の外へ出た。矢納歯科医院は狭い道路沿いにある歯医者で、出口を出たら確か外は道路だったはず。
この部屋って何?
「あの。この部屋も矢野歯科医院の部屋ですよね?」
「違います」
またも速攻否定された。
何を言ったらいいのか分からなくて黙ってしまう。
すると目の前の男が、深く被っていた帽子を取った。
そこに見えた顔は――
えっ!めっちゃイケメン!!
燻したような銀色に髪を染めた、オシャレなイケメンがでてきた。カラコンを入れた眼の色も、髪の色より少し濃い燻し銀。
こだわりカラーっぽい感じが、オシャレ人レベルの高さを物語り、落ち着かなく居心地が悪いような気分になる。
私の今日の格好は、ご近所スタイルだ。オシャレ上級者の前に立つなんて、そんな無謀な事をしてはいけない日なのだ。今すぐ立ち去りたい。
そわそわし出した私に、オシャレ上級者イケメンが声をかけてくる。
「ここはヤノー王国です。あなたをやっとここへ迎えることが出来ました。先ほどの歯医者の姿をした者は、あなたを迎えに行ったヤノー国の諜報機関の者なんですよ」
「ええっ!!!」
驚く私に追い討ちをかける。
「私達は、あなたが先ほどまでいた世界では、宇宙人と呼ばれる存在になります。私達からすれば、あちらの世界の人々の方が宇宙人という認識ですが」
え?宇宙人?
幼い頃からお世話になっていたご近所の歯医者さんは、まさかの宇宙人だったらしい。
――どおりで治療の度にUFOと宇宙人の事を考える訳だ。
そして私の世界の人も、宇宙人認識されていた。
目の前の男も宇宙人だが、私達もまた宇宙人。
――わけが分からない。
「あなたは幼い頃、ヤノー国から宇宙人に攫われて、先ほどの世界へ拉致されていたのです。ヤノー国があなたの本当の生まれ故郷なんですよ。やっと戻れましたね。お帰りなさい」
今までよく頑張りましたね、大変だったでしょうと慰められる。
「あ、はい。どうも」
素直に返事してしまう。
人は驚きの許容量を越えると、目の前の事を受け入れてしまうらしい。
「大丈夫ですよ。もう先ほどの世界に戻されることは無いですから。
ヤノー国と矢納歯科医院の道は閉ざされました。もう2度と繋がることはないし、繋げようとする事も出来ません。だから安心してくださいね」
優しい声で労われる。
え?それって安心する事?もう帰れないの?
いや確かに私に家族はいないけど。でも不自由なくそれなりに楽しんで生きてきたのだ。
え?この状況ヤバくない?
動揺し始めた私に気づくと、私を落ち着かせるように穏やかに微笑んだ後、彼は言う。
「ヤノー国と矢納歯科医院が繋がる道が、なかなか安定しなかったのです。
道が繋がる時と貴方が治療に来る時。ここが合うタイミングはそうそう無く、その機会を私達はずっと図っていました。
それで今日までお待たせしてしまった、という訳なのです」
申し訳ありませんと男が頭を下げたあと、話を続ける。
「今まで『定期的な検診を』と勧めてきたのは、あの世界の宇宙人達に気付かれないように、自然な形で帰還してもらうためだったのです」
え?毎回の検診を勧めてたのって、虫歯の予防の為じゃなかったの?
私は、ここへ拉致される運命しかなかったって事?マジか。
「ヤノー国へお迎えできる日を、ずっとお待ちしていました」
そう切なそうに語る男。
検診をサボる常習犯の私は、その言葉に決まりが悪くなる。
「すみません」
「いいえ。今はこうして無事帰れたのですから。これからゆっくりヤノー国に慣れていきましょう」
私がこの世界の国で暮らす事を、あまりに当然の事のように話す男。
もしかしたら、この現実を受け入れるのが当たり前なのかも、と思い始める。おかしいと思う私の方がおかしいのか。
「さぁ行きましょう」
「あ、はい」
そうして私のヤノー国での暮らしが始まった。
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