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5.謁見のためのお支度

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「ではカトミィナ様のご準備がありますから」
そう1人の侍女が告げ、ロットは部屋の外へ出される。

「さぁご準備いたしましょう。こちらですよ」
侍女の1人が部屋の横の壁に手をかざして新しい扉を出し、スウッと開いたそこは浴室だった。

そこから徹底的に磨きあげられる。
髪のトリートメントとをされながら、きゃあきゃあ侍女達が声をかけてくる。
「お美しい髪色ですね」「見事な黒銀髪ですわ」「初めて拝見しますが、見惚れてしまいますわね」「本当に素敵な黒銀髪ですわ」

黒銀髪って何だ。
「え?私、黒髪ですよ。銀色じゃないです」

私の否定に、侍女が嬉しげに語りかける。
「いいえ。黒に限りなく近い銀髪ですよ。一見黒に見えますが、光が当たると輝く銀が見えますわ」

銀?いや確かに私は昔から髪だけは褒められた。艶があってキラキラしてるね、と言われてきた。
艶で光っていたのではなくて、銀色が入っていたのか。

「ケトナー様の銀髪も、黒が濃い目でお美しいと讃えられていますが、ミィナさまはそれ以上ですね。王族の方々よりも深く濃い黒銀髪です」
その言葉に、ダメよ不敬よと他の侍女達がワイワイと焦って注意する。

え?ロットの燻したような銀髪って、ヘアカラーじゃなかったの?えええ?そうなの?
――もしかしてあの、より深い燻銀色の目もカラコンじゃなかったのかな。

悶々と考え込む私を、侍女達は忙しそうに磨きあげる。
黒砂糖パックです、ハチミツパックですと、色々全身を何重にもパックされていく。

ここでも私は考える。

あぁ私はこうしてまた宇宙人に捕まってしまった。
もう逃げる事は出来ない。何重にも薬を塗り込まれ、実験体として研究されていくのだ。
私はもうダメだ。また遠く地球を離れていくのだ――もう離れてるようだが。

磨かれる時間が長過ぎて、また意識が遠くなっていく。

「用意が整いましたよ。どうぞこちらの鏡でお姿をご確認ください」
という声で我に変えると、鏡の中には美しい女性がいた。

ヤノー国の衣装だという、白地に銀の刺繍の入ったドレスは、銀の差し色が入ったウエディングドレスのようだ。今日の主役の登場です、というような気合いの入った格好は、なかなか私に似合っていた。
化粧によって、目は普段の1.8倍くらい大きくパッチリして見えるし、鼻筋はスッと通ったように見える。
王宮侍女のメイクの腕は流石としか言いようがない。

「本当にお美しいです」「黒銀髪も艶々です」「ヤノー国民全ての者が見惚れてしまうでしょう」「女神のようですわ」
きゃあきゃあと侍女達に褒め讃えられる。

それはない。確かにいつもよりは綺麗だけど、いつもよりというだけだ。見惚れるほどではない。
過ぎた賛美は胃に響く。
胃がキリキリと痛みだしたところで、横手の壁がノックされる。
1人の侍女が手をかざし、扉を開くとロットが部屋に入ってきた。

ロットも着替えたようだ。スラリとしたスーツ姿だ。イケメンが増して眩しい。
やっぱり矢納歯科医院の制服での謁見は問題があったのだろう。


部屋に入ったロットは、私を見てハッと息を飲み、私を見つめたまま動かない。

…動かない。

……動かない。

え?何?ダメなの?何かおかしい?
ヤバい?私ヤバいの?マシだと思ったけど、勘違いなの?お願い。なんでもいいから言葉を…!!

絶望で胃が更にキリキリと痛みだす。血の気も引いてきた。もうダメだと倒れそうになった時、ロットが口を開いた。
「…綺麗だ。言葉も出ない美しさとはこういう事を言うのですね」
ほうとため息をもらす。

それを見た侍女達がまた、きゃあきゃあと騒ぎ出す。


大丈夫だったらしい。助かった。もうお終いかと思った。もう少し早くコメントしてくれたら、私の胃は助かったのに。
疲れた。疲れ切った…
ぐったりとしながら、ロットの差し出した手をソッと取った。


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