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9. 王宮での毎日
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家族との話し合いで、私が安心してエハス家に帰れる用意が整うまで、このまま王宮に滞在する事になった。
エハス家。
そう。私には苗字があった。
カトミィナ・ウ・エハス
これが私のヤノー国での正式なフルネームだ。
エハスの前の『ウ』。
これは家門の身分の高さを表すらしい。
「ウはヤノー国で3番目に高い身分を持つんだよ。
カルロットのケトナー家は、イの身分で国で2番目に身分が高い。1番高い身分は、王族のアになるんだよ」
兄クライドが丁寧に教えてくれた。
ア→イ→ウの順?
「もしかして、アイウエオの身分の順があるとか?」
私の安易な発想の言葉に、家族とロットが驚いた顔をする。
ヤバい。馬鹿みたいな事を言ってしまった。家門の話だったのに失礼過ぎた。
調子に乗った私自身を殴りたい。
「あ、あの今のは―」
焦って訂正の言葉を言いかけたところでみんなの声が被さる。
「1を聞いて10を知る、とはこの事か。教える前に理解してしまうとは」
「カトミィナは本当に賢明ね。自慢の娘よ」
「私達の娘だからな」
「私の恋人は美しい上に聡いんだな」
マジか。本当にアイウエオの順なのか。
…適当感がすごい。
いや。分かりやすくて良かったと思っておこう。
皆の賞賛の言葉を聞き流し、侍女が用意してくれた花の紅茶を一口飲んだ。
私の家門のエハス家は、世間にそれなりに注目されているそうだ。
国で3番目に高いという身分の高さは勿論だが、私が幼い頃に地球に拉致された事も大きい。拉致された私が黒銀髪を持っていたということも、皆の感心を集めていたそうだ。
そんな私が今、ヤノー国へ還ってきたということは、時期に大きなニュースになるだろう。そのニュースを抑え終わるまで王宮に留まることに決まった。
「ミィナが王宮で暮らす間、私も同じく王宮で過ごすつもりです」
「えっ」
ロットの言葉に驚く。
「あの。ロットは王宮の外で仕事をしているって侍女さんが話してましたが」
私の言葉にロットが何でもない事のように話す。
「あぁ、今までは外で活動する諜報部員でしたからね。恋人のために勤務部署を内勤に願い出ました」
「ええっ!」
それダメなやつ。恋に浮かれるダメ男の行動だ。
いやその前に、私たちは昨日会ったばかりだ。しかも会ったのは夕方近くの話で、24時間さえ経っていない。色々おかし過ぎないか。
困惑する私の前で、母が嬉しげな声をあげる。
「まあ!なんて頼りになる恋人なのかしら。カトミィナは幸せ者ね」
「娘さんの事は、お任せくださいお義母様」
「義母と呼ぶには早するぞ、ケトナー卿」
――またホームドラマが始まったようだ。
そうして私の王宮生活が始まった。
私の毎日は、
1. 朝、目覚めて部屋で朝食を取り、散歩をする
2. ロットとの昼食後、午後は自由時間。
3. ロットとの夕食後、入浴して就寝。
――この繰り返しだ。子供の頃の夏休みより自由時間が長い。
とはいえ日々の全てが珍しく、侍女やロットの話を聞くだけでもなかなか楽しく日々を送っている。兄のクライドも頻繁に顔を見せてくれる。
今日も、日課の朝食後の散歩に出る。
巨大なUFOのような銀色の王城の中には、広い庭園がある。地球では見たことのない、パステル調の淡い花々が咲き乱れている。夢のない私でさえも見惚れてしまう乙女な世界だ。
「カトミィナ穣、おはよう。偶然だね。一緒に歩こう」
今日も偶然王子に出会う。これは毎日続く偶然だ。
――毎日少しずつ散歩時間をずらしているにも関わらず続く偶然。
偶然ってそんな続かないですよね。
偶然じゃないですよね。私の予定に被せてますよね。
そう思うが言えない。
『そうだよ。合わせてるんだよ』とか返されても、どう言ったらいいか分からない。
それはストーカーですよ、なんて言おうものなら処刑の未来しか考えられない。ここは偶然を信じきる、その一択だ。
「おはようございます、レイトン王子様」
「レイトンって呼んでよ。『王子』なんて付けなくていいよ」
「レイトン王子様を『王子』抜きで呼べる女性は、婚約者候補くらいだってロットが話してましたよ」
「アイツは本当に余計なことを教えるよね。アイツの言うことなんて気にしなくていいよ。レイトンで大丈夫だよ。なんならレイって読んでくれてもいいし」
いやいやいや。『王子』抜きが婚約者候補だって事を否定しないのは、事実だからじゃないか。更に愛称呼びを勧めてくるなんて、おかしいにも程がある。
止めてほしい。トラブルの未来しか見えない。私を巻き込まないでほしい。
「そんな恐れ多いことは出来ません、ファガド王子様」
名前どころか苗字呼び―より心の距離を取った呼び方―で、その会話を無理矢理閉じる。
そうやって偶然に出会う王子と共に散歩をする日々を送っている。
「今日の散策も王子と一緒でしたか」
これが昼食時、ロットから必ず聞く言葉だ。
昼食は私の部屋で、ロットと2人で取っている。
王子の話題になるとロットの顔が曇るので、あまり出したい話題ではない。私も別に王子に会いたいと思っているわけでもないし、特に話す内容もないので、『あ、はい』と軽く流して、他の話題に移るようにしている。本当にロットが気にするような事でもないのだ。
「ミィナの優しさが心配です。王子の誘いには絶対に受けないでくださいね」
「あ、はい」
この会話も毎日の流れだ。
エハス家。
そう。私には苗字があった。
カトミィナ・ウ・エハス
これが私のヤノー国での正式なフルネームだ。
エハスの前の『ウ』。
これは家門の身分の高さを表すらしい。
「ウはヤノー国で3番目に高い身分を持つんだよ。
カルロットのケトナー家は、イの身分で国で2番目に身分が高い。1番高い身分は、王族のアになるんだよ」
兄クライドが丁寧に教えてくれた。
ア→イ→ウの順?
「もしかして、アイウエオの身分の順があるとか?」
私の安易な発想の言葉に、家族とロットが驚いた顔をする。
ヤバい。馬鹿みたいな事を言ってしまった。家門の話だったのに失礼過ぎた。
調子に乗った私自身を殴りたい。
「あ、あの今のは―」
焦って訂正の言葉を言いかけたところでみんなの声が被さる。
「1を聞いて10を知る、とはこの事か。教える前に理解してしまうとは」
「カトミィナは本当に賢明ね。自慢の娘よ」
「私達の娘だからな」
「私の恋人は美しい上に聡いんだな」
マジか。本当にアイウエオの順なのか。
…適当感がすごい。
いや。分かりやすくて良かったと思っておこう。
皆の賞賛の言葉を聞き流し、侍女が用意してくれた花の紅茶を一口飲んだ。
私の家門のエハス家は、世間にそれなりに注目されているそうだ。
国で3番目に高いという身分の高さは勿論だが、私が幼い頃に地球に拉致された事も大きい。拉致された私が黒銀髪を持っていたということも、皆の感心を集めていたそうだ。
そんな私が今、ヤノー国へ還ってきたということは、時期に大きなニュースになるだろう。そのニュースを抑え終わるまで王宮に留まることに決まった。
「ミィナが王宮で暮らす間、私も同じく王宮で過ごすつもりです」
「えっ」
ロットの言葉に驚く。
「あの。ロットは王宮の外で仕事をしているって侍女さんが話してましたが」
私の言葉にロットが何でもない事のように話す。
「あぁ、今までは外で活動する諜報部員でしたからね。恋人のために勤務部署を内勤に願い出ました」
「ええっ!」
それダメなやつ。恋に浮かれるダメ男の行動だ。
いやその前に、私たちは昨日会ったばかりだ。しかも会ったのは夕方近くの話で、24時間さえ経っていない。色々おかし過ぎないか。
困惑する私の前で、母が嬉しげな声をあげる。
「まあ!なんて頼りになる恋人なのかしら。カトミィナは幸せ者ね」
「娘さんの事は、お任せくださいお義母様」
「義母と呼ぶには早するぞ、ケトナー卿」
――またホームドラマが始まったようだ。
そうして私の王宮生活が始まった。
私の毎日は、
1. 朝、目覚めて部屋で朝食を取り、散歩をする
2. ロットとの昼食後、午後は自由時間。
3. ロットとの夕食後、入浴して就寝。
――この繰り返しだ。子供の頃の夏休みより自由時間が長い。
とはいえ日々の全てが珍しく、侍女やロットの話を聞くだけでもなかなか楽しく日々を送っている。兄のクライドも頻繁に顔を見せてくれる。
今日も、日課の朝食後の散歩に出る。
巨大なUFOのような銀色の王城の中には、広い庭園がある。地球では見たことのない、パステル調の淡い花々が咲き乱れている。夢のない私でさえも見惚れてしまう乙女な世界だ。
「カトミィナ穣、おはよう。偶然だね。一緒に歩こう」
今日も偶然王子に出会う。これは毎日続く偶然だ。
――毎日少しずつ散歩時間をずらしているにも関わらず続く偶然。
偶然ってそんな続かないですよね。
偶然じゃないですよね。私の予定に被せてますよね。
そう思うが言えない。
『そうだよ。合わせてるんだよ』とか返されても、どう言ったらいいか分からない。
それはストーカーですよ、なんて言おうものなら処刑の未来しか考えられない。ここは偶然を信じきる、その一択だ。
「おはようございます、レイトン王子様」
「レイトンって呼んでよ。『王子』なんて付けなくていいよ」
「レイトン王子様を『王子』抜きで呼べる女性は、婚約者候補くらいだってロットが話してましたよ」
「アイツは本当に余計なことを教えるよね。アイツの言うことなんて気にしなくていいよ。レイトンで大丈夫だよ。なんならレイって読んでくれてもいいし」
いやいやいや。『王子』抜きが婚約者候補だって事を否定しないのは、事実だからじゃないか。更に愛称呼びを勧めてくるなんて、おかしいにも程がある。
止めてほしい。トラブルの未来しか見えない。私を巻き込まないでほしい。
「そんな恐れ多いことは出来ません、ファガド王子様」
名前どころか苗字呼び―より心の距離を取った呼び方―で、その会話を無理矢理閉じる。
そうやって偶然に出会う王子と共に散歩をする日々を送っている。
「今日の散策も王子と一緒でしたか」
これが昼食時、ロットから必ず聞く言葉だ。
昼食は私の部屋で、ロットと2人で取っている。
王子の話題になるとロットの顔が曇るので、あまり出したい話題ではない。私も別に王子に会いたいと思っているわけでもないし、特に話す内容もないので、『あ、はい』と軽く流して、他の話題に移るようにしている。本当にロットが気にするような事でもないのだ。
「ミィナの優しさが心配です。王子の誘いには絶対に受けないでくださいね」
「あ、はい」
この会話も毎日の流れだ。
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